馬鹿と帝国と血の十字架   作:サルスベリ

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馬鹿は、今日もばかであり。

馬鹿なことして怒られる。

でも、そんな彼の周りがまともだと思う?



朱に交われば赤くなる

 

 夢も破れることもあり。

 

 過去を懐かしむ時もある。

 

 けれど、今の自分はとても小さくて悲しくて。

 

 愚かにも、未来を夢見る。

 

「で?」

 

「ブラックホールって潰せるんだって知った」

 

「・・・・・・・この馬鹿夫ぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

 その日も、政庁をアイリスの怒声が揺らしたのだった。

 

「何してんのよ?! というよりなんでブラックホール?! どういう経緯でそうなったのよ?!」

 

 何時も通りに執務室内を筆記用具が飛ぶ。

 

 もう彼らは、自分達は文字などを書くのではなく、空を飛ぶものであると思っているのかもしれない。

 

 目の前を飛んで行く道具達を見ながら、アセイラムは穏やかにお茶を飲んでいたりする。

 

 『飛びます!』、『私はカモメ!』、『飛翔してやる!』とか言っていないだろうか。

 

 どうやら、自分は疲れているらしい。アセイラムはそっと思いながら、お茶を楽しむ。

 

 話の始まりは、確かユインシエルからの定期報告からだろうか。

 

 『ブラックホールの発生があり、人為的可能性が高い』。

 

 帝国の航路上に発生する可能性は、極めて低い。

 

 常に帝国軍やユインシエル、警察機構、情報部。

 

 他にも奥様方の誰かが見回りなどをしているので、発生前に潰せるはずだ。

 

 

 一般市民に対して、安全な航路を提供するのは帝国としては当たり前。

 

 最低限のことだからとアイリスが力を入れた結果、隕石やスペースデプリでさえ、帝国国民の乗ったシャトルなどに傷一つさえつけさせない体制が出来上がった。

 

 安全・安心、さらに二人乗りなどの小型シャトルにさえ、帝国は軍艦並の防御フィールド発生装置を搭載したため、戦争の中に飛び込まなければ何が起きても損傷しない、常識外の安全が確立された。

 

 あの頃は、アイリスが珍しく暴走していた、とアセイラムは懐かしむ。

 

 『安全と安心が出来なくて何が帝国よ! 今すぐ何とかしなさい!』

 

 無理ですと言ってきた、帝国軍のトップと警察機構のトップ、情報部のトップの前で、皇帝を怒鳴りつけたものだ。

 

 で、今回の話は。

 

「ユイからの話があったから、行ってみた。経緯以上」

 

「短すぎて余計に解らないわよ!!!」

 

 再びのツッコミと筆記用具の嵐を受けた後、テラは何時になく真剣な顔でアイリスを見つめた。

 

「な、何よ? そんな顔したって許さないから」

 

「顔、真っ赤ですよ、アイリス」

 

「セラム! とにかく! 簡潔に正確に話してみなさい」

 

 深々と溜息を吐くように告げて、アイリスはイスに腰掛けた。

 

「うん、ユイからの報告書を流し読みして、『そういえば、ブラックホールって潰したことないな。やってみようかな、怒られるかな、まあいいか。よし、やってみよう』って考えて、やってみたらできた」

 

 あまりにも、あんまりな内容に、アイリスとアセイラムの思考が止まった。 

 

 『ブラックホールって、潰せるの。生身で?』とアイリス目線で送る。

 

 『近づくものを原始レベルで崩壊させるのでは』とアセイラムと目線で答えた。

 

 『え、でもシャルルさんが潰していたよ』とテラは腕組みした。

 

「はぁ?! シャルルさんってあのシャルルさん?!」

 

 身を乗り出して驚くアイリスに、テラは大きく頷いた。

 

「さすが、銀河一の武闘一家の当主。ブリタニア最硬説は健在ですね」

 

「ちょっとセラム! なにを納得しているのよ! 礼節と社交性を兼ね備えた立派な大人だと思っていたのに」

 

 何故か一人、かなりダメージを受けているアイリスは、そのまま机に突っ伏した。

 

「ちなみに、ユフィは拳で山を割ったことがある」

 

「止めて! 解った! 解ったから! テラがやりたくなった気持は解ったから! お願いだから、私の中のユーフェミアの『ポワポワ』イメージを崩さないで!!」

 

 彼女の中の何かが崩れたらしく、泣き出してしまったアイリス。

 

「テラ、言い過ぎでは?」

 

 苦言を告げるセラムに対して、テラは小さく呟いた。

 

「・・・・ナナリーが戦車を粉砕した話は黙っていよう」

 

 嬉しそうに写真付きのメールを送ってきたのだが、内緒にするしかないと知ったテラだった。

 

 後日、ナナリーがアイリスの目の前で帝国軍正式採用の戦車を右手一本で粉砕したため、彼女は三日間ほど寝込んだという。

 

 そしてその三日間、珍しく真剣な皇帝とその巫女と、代理が必死に帝国を回したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 話を聞いた時、彼女は思わずテラを振り返って睨みつけた。

 

「まったく、本当にどうしょうもない人ですね」

 

「ごめんなさい」

 

 素直に謝る彼に対して、彼女はため息をついた。

 

 もう何度目だろうかと不安になってしまう。何度も注意したのに、彼は常に危険なところに突っ込んでいく。

 

 スキルのためなのは知ってはいるが、それでも聞かされた身にもなって欲しい。

 

 そう、雪菜・エゼルカイン・エーテルは思う。

 

「ブラックホールの件は解決したのですか?」

 

「そちらは大丈夫よ」

 

 答えるアイリスは、まだ目元が赤い。

 

 精神的なダメージがまだ抜けきっていないらしく、ふとした瞬間に感情が揺さぶられて泣いてしまうらしい。

 

 珍しいこともあるのもだ、と雪菜は感想を脳裏に浮かべる。

 

 冷静沈着で物事に動じない彼女が、こうまで動揺するのを初めて見る。

 

「テラ!」

 

「はい!!」

 

 アイリスを見ていた雪菜は、唐突に手に持っていた銀色の槍を背後に投げつける。

 

 壁に突き刺さった槍の横、そっとドアを開けようとしたテラは固まった。

 

「私が誤魔化されるとでも?」

 

「・・・・雪菜! 愛してる!」

 

「はい?!」

 

 一瞬の動揺、意識が揺さぶられた後には、彼は姿を消していた。

 

「いつか私は夫殺しで捕まりそうな気がします」

 

 壁から引き抜いた槍を握り締めながら、彼女は小さく口にした。

 

「大丈夫よ。あいつは何時もそうだから、殺すなら私たち全員がかりになるでしょうね」

 

 何処か遠い場所を見つめながら、アイリスは苦笑していた。

 

 乾いた笑みとは、あんなものかもしれないとアセイラムは感じていたが、特に口に出すことなく雪菜へ話題を振る。

 

「ドラゴン達の様子はどうでした?」

 

「はい、問題はないようです。ただ、LEDドラゴンが妙なことを話していました」

 

「妙なこと?」

 

「『最近、我が君はご健在か』と」

 

 我が君とは、誰のことだろうか。雪菜は疑問に思いながら、言われたことをそのまま伝える。

 

 一方、アセイラムとアイリスは天井を見上げて、それから深々と溜息をついた。

 

「あいつ、何してんのよ」

 

「能力値が一定以上に達すると、レベルアップするそうなので、それでは?」

 

「え? あいつって、まだ上がるの?」

 

「『世界』を三つほど手に入れた、と言っていました」

 

 アイリス、絶句して言葉が出てこない。

 

 雪菜、意識が一瞬だけ遠のく。

 

 しばらく執務室には静寂のみが存在し、誰も口を開くことなく時間が過ぎていき、馬鹿が戻ってきた。

 

「ただいま~~~」

 

 そして、時は動きだす。

 

「この馬鹿夫!!! 三つって何?! 何時の事?!」

 

「テラ! 三つも世界が増えたってどういうことですか?!」

 

「お、お」

 

 アイリスと雪菜の二人に問い詰められ、追い込まれて、テラは二人を交互に見た後に、親指を立てた。

 

「うん! 今日も我が妻達は可愛い!」

 

「誤魔化されないわよ!」

 

「馬鹿にしていますか?!」

 

 感情を逆なでしただけでした。

 

「え、本気だけど。だから、皆を護れるように強くあろうとしただけ。大丈夫、これで俺の持っている『世界』は四十九個になったから」

 

「・・・・・は?」

 

「え? え? え?」

 

「私も初耳ですよ、テラ?」

 

 困惑するアイリス、思考が追い付かない雪菜、そして自分も知らない情報に立ちあがるアセイラム。

 

「うん、言ってないから」

 

 笑顔で告げる馬鹿に対して、妻三人はまったく同じ言葉を放った。

 

「この馬鹿夫!」

 

 今日も、帝国は何時も通り皇帝が政庁から吊るされるのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夜明けての政庁は、清々しい朝日の中にあった。

 

「うん、綺麗な朝日だねぇ~~」

 

「反省してませんね?」

 

 声に対してテラが顔を向けると、上のほうに雪菜の姿が見える。

 

「お・・・・・ピンクか」

 

「斬り落としていいですか?」

 

「いいよ~~」

 

 気楽に答えるテラに対して、雪菜は深くため息をついてロープを巻き上げていく。

 

 ようやく屋上に戻ったテラは、滑車の機械を止めた雪菜の隣に歩いていく。

 

「馬鹿なことを言わなければ、こんなことにならないのに。そもそも、抜け出せるのにどうしてですか?」

 

「ん~~アイリスを困らせたのは事実だし、セラムへ報告しなかったのも事実だからね。それに、雪菜を怒らせたのも」

 

 当然のように告げる彼に、ならばしなければいいのにと目線で問いかけるのだが、彼は微笑んでいるだけで答えない。

 

「私達の心配を無視ですか?」

 

 言葉にして伝えると、彼は笑ったまま大きく背伸びした。

 

「心配させているのも知っている。困らせているのも、解ってる」

 

「それなら・・・・・・っと、昔の私なら問い詰めるのでしょうね」

 

 最初に会った時、結婚した当初ならば、雪菜は詰問していただろうが、今では少しだけテラの気持ちが解る。

 

 彼は不安なのだろう。自分がいないところで、妻達に何かあったらと。

 

 傍において、護ることは容易い。けれどそれは、彼女たちを束縛して鳥かごに入れてしまうようなもの。

 

 それぞれにやりたいこと、行きたい場所があるのならば、意思を尊重するのがテラだ。

 

 けれど、同時に何があっても護りたいと渇望するのもテラ。

 

 だからこその騎士団であり、だからこその能力の向上。

 

 例え世界の果てと果てほど離れていても、すべての災いから護れるように、テラ・エーテルは力を増加していく。

 

「詰問しないんだ」

 

「しても無意味なことをよくよく知りましたから。でも、私達は弱くありませんから。テラ、貴方の隣にいるのは、全員が貴方より何かしら優れた者達ですよ?」

 

 解ってますか、と目線で念を押す。

 

「うん、知っているよ。だから、俺は銀河で一番の幸せ者だから」

 

「はいはい。嘘っぽく聞こえるので、そこまでにしてくださいね。朝食が冷めますよ」

 

 雪菜は冷たく答えて、政庁内へと戻っていく。

 

「ありゃ、失敗したかな」

 

 気楽に言うテラは、しっかりと見ていた。

 

 彼女の耳が真っ赤になっていたことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雪菜・エゼルカイン・エーテル。

 

 年齢は二十歳

 

 黒髪に蒼い瞳。

 

 テラ曰く、深海のような穏やかな漆黒に、海中から見上げた海の蒼。

 

 性格は年相応。若干、幼かったり激情家だったりする。一度、のめり込むと後に引かないタイプ。

 

 奥様達の中での近接最強を誇り、テラでさえ迂闊に入りこむと一撃で沈められる技量を誇る。

 

 そして、奥様達の中で『ロリ』系統としても有名だったりする。

 

 普通に私服姿で街を歩くと、『未成年ですか、中学生ですか』と職務質問されるレベル。

 

 ユインシエルが辛うじて成人と見える中、証明書を提示しても『偽造』といわれるレベル。

 

 そんなことを言われたら、槍で百回は突かれるが。

 

 彼女の持つ『コバルト騎士団』も、彼女同様に小型・近接・突破能力過剰が多く、戦闘時には常に最前線に配置され、どんな相手でも一点突破可能。

 

 彼女の騎士団とユインシエルの騎士団が組むと、『サイレント騎士団』でさえも撃破まで時間がかかる。

 

 その反面、遠距離攻撃手段が本人も騎士団も皆無だったりする。

 

 普段は怪獣とか幻獣などの生態調査、縄張りから逃げ出していないかを見回っている。

 

 

 

 

 

 

 ブリタニア家。

 

 銀河最硬。その拳は星を砕き、その蹴りは太陽を割る。

 

 知らない者はいないほどの武闘の一族。

 

 彼らが本気で挑む戦場において、撤退はないとまで言われるほどに。

 

 実際、現当主のシャルルに対して、テラの勝率は七割を切る。

 

 創造神とか破壊神、あるいは魔王といった存在を、拳の一撃で沈めたり。

 

 本来なら物理的攻撃が聞かない幽霊系の存在に対して、『我が拳に砕けぬわけがない』と言って砕くなど、物理法則を超えた理不尽さを持つ。

 

 シャルルには八人の子供がいて、二名を除いた全員が同じような人外。

 

 ちなみに、シャルル、オデュッセウスの二人はブラックホールが潰せる。

 

 ギネヴィア、コーネリア、ユーフェミアは拳で山が割れる。

 

 カリーナとナナリーは戦車が潰せる。

 

 そんな中に生まれてしまった頭脳派のシュナイゼルとルルーシュは、毎日をストレスと戦うことになったという。

 

 

 





馬鹿は、馬鹿なりに考えているようで。

でも、彼の基準は、彼の周りから与えられたものなので。

つまり、彼が馬鹿なのには、それなりの理由があるわけです。
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