むしゃくしゃして書いた。反省はしているが公開はしている

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とある商人と少女

草木も眠る丑三つ時。その草木を叩き起こすかのような馬蹄と怒号

 

「くっそやられた、調子にのって夜まで走ったのが悪かったか・・・。」

 

俺が駆け抜けた後には更に多い馬蹄の音、そして品のない罵声。そう、簡単に言うと俺は追われている。ここらでは名の通った山賊共に。

 

「この野郎!有り金全部で許してやろうと思ったがこうなったらぶっ殺してやる!」

 

逃げろ、逃げろ逃げろ!一攫千金を夢見た俺がこんな所で死ぬわけにはいかねえ!幸い馬はまだいける、商品も残ってる。ここを抜けたら関所だ、そこに逃げ込めば追手もこないだろう。それを過ぎたら貧乏商人から脱却だ!夢にまでみた世界一の大金持ちの第一歩じゃねえか!

 

「ってうお!?」

 

夜中故に気づかなかったが小さい子供の影が見えた。轢き殺すわけにもいかず立ち止まる。怒号はもうすぐそこだ。

 

「どけよジャリ!轢き殺されたいのか!」

 

そういって子供を見るとまだ幼さの残った少女であった。何故こんなところに少女がいるのか、いや、そんなことはどうでもいい。とっとと逃げないと本当に殺されてしまう。

 

「おじさん・・・助けて・・・」

「はぁ!?」

 

助けて欲しいのはこっちだよ!なんで追われている俺が子供まで助けなきゃいけねえんだよ!自分のことで精一杯だ!後ろを見ると既に目視できる所に連中がいる。こんな子供とっと無視して逃げるぞ。持ち歩いたところで金にならねえ荷物が増えるだけじゃねえか!

 

「くそが・・・おら、乗れ!」

 

あああああ!何言ってんだ俺の口!何子供の腕を掴んで後ろに乗せてんだ俺!畜生!なんで見殺しにできねえんだ!王族と癒着して一攫千金を夢みてるんじゃなかったのか俺!

 

乗せると同時に馬の腹を再度蹴飛ばす。でかい荷物が増えて馬の速度が落ちたがまだいける。光が見えた。関所か、もう少しだ。

 

「いける!おら走れ!関所を越えたら水だろうがニンジンだろうがなんだろうがくれてやらあ!」

 

俺の檄が効いたのか馬の速度が心なしか早くなった。光はもう目の前だ!必死になっていたから分からなかったが怒号は既に聞こえなくなっている。

 

◇◇◇

 

「む、おいそこの者、止まれ。入国希望か?」

 

寝ずの番をしていただろう衛兵に呼び止められる。勝った、俺は逃げ切ったんだ。安堵感に包まれ馬の速度を落とす。

 

「はい、入国希望の者です。」

「そうか、あの速度で走っていたということはあの山賊か、災難だったな。とりあえず荷物を確認させてもらおう。」

 

特に後ろ暗いものを持っているわけでもないので素直に荷物を開けて確認を終わらせる。

 

「ふむ、珍しいものが多いな。」

「まぁ商人なんでこれが仕事みたいなもんですよ。はい、こちらが通行税です。」

 

そういって銀貨を数枚渡す。この国は比較的治安が良かった筈だ。とりあえず近くの村で休息を取ろう。

 

「おい、一人分しかないぞ。そこの者の分はどこだ。」

「・・・あ。」

 

逃げる事に必死で忘れていた。道中で大きな荷物を拾っていたことを。

 

「おいジャリ、もうこの際運賃はいいから降りろ。助けてやったろ。」

 

そういって降ろそうとするとコイツはとてつもない爆弾発言をしていきやがった。

 

「パパ、私を置いていくの?」

「・・・は?」

 

おい、おいおいおい何言ってやがるんだコイツは!しかも衛兵の前だぞおい!

 

「貴様!実の子を置いていこうとするな!衛兵の俺の前でいい度胸しているな!」

「え!?いやいや違うんですよこれはですね・・・」

「いい加減にしろ!逮捕するぞ!」

 

くっそ、なんでこんな奴拾ってしまったんだ俺!前の俺は一体なにを考えてコイツを拾ったんだ!

 

「・・・はい。」

 

がっくりと項垂れてもう一人分の通行税を支払う。

 

「よし、通っていいぞ。くれぐれもその子を捨てるなよ。」

 

そういって関所を通してもらった。山賊に襲われるわ面倒な子供を拾うわ災難だな。

 

 

◇◇◇

 

「おじさん、ありがとう。やっとこの国に入れたわ。」

「こんのジャリが。金返せよ金、救済代と移動代と通行税と迷惑料と慰謝料だ。」

「でもごめんなさい、私今お金持ってないの。必ず返すから暫く同行させてほしいわ。」

 

冗談じゃねえ!馬の負担は増える!税金は倍になる!生活費も倍!加えて金ももってねえ!とっとと捨てていかなきゃ王都にたどり着く前に飢え死にしちまう!

 

「商売のいろはを叩き込んでやる。それでとっとと返せ。それまでは猶予してやる。」

 

だからさっきから何言ってるんだ俺の口ぃ!意思とは全く別のこと口走ってるじゃねえか!

 

「うん、ありがとう!おじさん!」

「おじさんって言うな、師匠と呼べジャリが」

「分かったわ師匠!私の名はアリア!よろしくお願いします!」

 

ああ、どうしてこうなってしまったのか。それもこれも道中急いで夜中に移動しようとしたからだろうな・・・。

しかし俺は知らなかった。俺を差し置いて世界を股に掛ける大商人になるのは後ろで初対面とは打って変わって楽しそうな少女であるということを。

 

-おわり-



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