※ADVゲーム『デート・ア・ライブ 凜緒リンカーネーション』のネタバレを含みます。ご注意ください。
※凜緒リンカーネーションの或守姉妹エンド、及び鞠奈エンドの両方の要素を含みます。
あとアニメ会社が消えたせいでアニメの続きが絶望的になりました()
追記:やったぜありがとうJ.C.スタッフ!!(3期決定)
「さてと……忘れ物は無いな」
冬が近く、紅葉や
「あら
「おう、
士道が靴を履いていると、彼の背後から声が飛んできた。声の主は赤いツインテールの美少女にして、彼の
「あらそう。良いんじゃない、リフレッシュ出来て。……ところで、誰と行く予定?」
「あぁ、鞠亜と鞠奈だよ。デートって事でな」
「ふぅん……鞠亜はともかく鞠奈の誘いでもあるなんて……明日の天気は槍ね」
「まあ、鞠亜が鞠奈を巻き込んだ感じなんだけどな……それより琴里、今日は
士道が指さしたのは、琴里のリボンの事だった。彼女は白のリボンで『甘えん坊で素直な妹』、黒のリボンで『厳しくツンな司令官』を使い分けているのだ。日常の中でそのモードになってる事が、士道には気になることだったのだ。
「……ええ、残念だったわね。今日は口煩い妹の日よ」
「そんな事ねえよ。どっちも大事な可愛い妹だ」
「……あんまり女の子を待たせるのは関心しないわよ。さっさと行きなさい」
「そうだな、行ってくる」
ふん、それでいいのよ。という言葉を背に受けながら玄関を出る。見上げればまさしく晴天。槍や雨どころか雲の気配すらない。
「うん、良いピクニック日和だ」
天気を確認して満足した士道は、待ち合わせ場所に向かう。場所はあの高台公園だ。
◇◆◇◆◇
高台公園。
「さて……二人はどこなんだ?」
「──キミの後ろだよ、五河士道」
「ッ!?」
突然の声にバッと振り向くと、そこには
「なんだ、先に来てたのか
士道の目の前に立つ、髪色とニットワンピースから『黒』、瞳の色とプリーツキャミソールから『黄色』を想起させるこの少女は、今日ここで待ち合わせの約束をしていた一人、『
「鞠亜が忘れ物をしたから先に行ってて、って言われたからね。退屈凌ぎに君で遊ぼうと思ったんだよ」
「いくら暇だからって人で遊ぶなよ……」
ごめんごめん、と悪びれる様子もなく、鞠奈は公園の奥へと歩いていく。
「何ぼさっとしてるの。ほら、レジャーシート持ってきたのは君でしょ?」
「──ッ」
「遅れてしまってすみません。士道、鞠奈」
そんな士道の思考を打ち切るように、蒼色の瞳と黒いリボンのカチューシャを付けた、
「遅いわよ。ったく、何を忘れたかも言わないで戻ったりして……」
「秘密、です」
「……まあ、良いわよ。今日ぐらいは問い詰めないわ。ゆっくりしたいもの」
一度は語気を荒くしかけたが、すぐに引っ込んだ。〈
「ええ、そうしましょう。お弁当も作ってきましたから」
「お、鞠亜が作った弁当か。楽しみだな」
「楽しみにしてください。実は今回、私だけではなく鞠奈も作ったんです」
「え、そうなのか?」
「ちょっ、それは士道が食べてから言おうと思ってたのに!」
顔を赤くしながら、鞠奈は弁当を士道から隠してしまった。まだ心の準備が出来ない内にネタばらしをされて焦ってるせいか、それともそこまで気にしなくなったのか、以前のように『君のために作ったんじゃない』と言ったテンプレートなツンデレ反応は出て来ない。そしてそんな風に顔を赤くする鞠奈を見て、鞠亜は至極満足そうに微笑んでいた。いつもの、悪戯が成功して喜ぶ子どものような笑顔だ。
「ふふ、そうでしたか。ごめんなさい鞠奈。姉の自慢がしたくてつい」
「昨日言ったじゃない!?このバカ妹!?」
「そうでしたか?ごめんなさい。覚えてないんです姉さん」
「なんで途中から棒読みなのよ……!?」
いつもの姉妹喧嘩(?)が始まった。しかしこのままでは大体収拾がつかなくなったりするので、士道はひとまず間に入ることにした。
「ま、まあまあ落ち着けよ鞠奈。鞠亜に悪気は……有るどころか全開だけど。俺も、鞠奈の作ったご飯食べたいからさ」
「……キミがそんなに言うなら、食べさせてあげるよ。ほら、まずはこのおにぎり」
鞠亜から奪い返した弁当箱が開かれると、そこには色とりどりのおにぎりが敷き詰められていた。
「おぉ……混ぜこみワカメか……他にも鮭フレークや黒や白のごま塩、スタンダードな塩と海苔まで……すげえ」
「ほら、気になったならさっさと食べなさい」
「士道が持ってきたお茶は、私が淹れておきますから。どうぞ」
「悪いな。いただきまーす……はむっ……うん。美味しい。形も綺麗で味も水分も程々で良い……!」
「そっか……良かった……」
それは、普段から五河家の調理を担当し、味付けに対して非常に敏感な士道の舌を、食感に対して察しの良い士道の歯を、唸らせるには十分足る代物だった。たかがおにぎり、されどおにぎり。更にそれが複数種あるとなれば士道の心も躍るというもの。他はどんな味がするんだろう。そう考えた士道は慌てておにぎりを飲み込もうとする。
「士道、慌てなくても弁当は無くなりません。落ち着いて食べましょう?」
「あたしのだけじゃなく、鞠亜のも食べたら? ほら、この玉子焼き」
「おぉ……良い色してるな……はむっ……これも美味い……!」
出汁が程よく染みた玉子焼きは、あっという間に口内に行き渡り士道のその舌を唸らせた。
「この出汁……昨日みんなで食べた寄せ鍋に使った奴か!何に使うと思えばこれだったのか……!」
「はい、そうです。思い切って貰った甲斐がありました」
「『出汁の水分で崩れやすいから助けてください』って泣き付きながら作った成果は上々のようね」
「さて、何のことでしょう?」
「とぼけスキルは相変わらずね……!」
「ま、まあいいじゃないか。姉妹で支え合うって、いい事だぞ?耶倶矢と夕弦みたいでさ」
相変わらず鞠奈は鞠亜に弄ばれる。上手具合なら、どっちが姉でどっちが妹なのやら、と言うまである。
しかし、見兼ねた士道が宥めようと掛けた言葉に、二人は同時に士道に振り向いた。心做しか、どちらも目が据わってるようにも見える。
「士道……今はデート中、ですよ?」
「そういう事。つまりどうしたらいいと思う?」
「え、あ……わ、悪い。咄嗟に出ちまった」
デート中に他の女性のことなどご法度。士道はこれまでのデート経験でそれを学んではいるが、少し前まで家にいて家族同然だった鞠亜と、その姉たる鞠奈の微笑ましい光景に気が緩み、ついうっかり零してしまった。
「ならお詫びとして、あーんをお願いします」
「じゃああたしは、五河士道にあーんをしようかな」
「おう、それで気が済むならドンと来い。むしろ大歓迎だ」
「むむ、この流れ……これは私が鞠奈にあーんをするべきでしょうか」
「しなくていいわよ……」
はは、と苦笑いしながら、士道は鞠亜から受け取った箸でおかずを物色する。鞠奈もおかずを決めたようだ。
「よし鞠亜。玉子焼きだ。あーん」
「あーん……はい、美味しいです」
小さな口を精一杯開けてるのを微笑ましく思いながら、士道は玉子焼きを彼女の口にそっと入れる。自分で作ったものだが、どうやらご満悦のようだ。
「自信満々に自分の作ったのを美味しいって言ったわね。なら、今度はあたしだね。ほら五河士道、あーん」
「お、唐揚げか。じゃあ……はむ……」
「その唐揚げも鞠奈特製です。どうですか?」
「ちょっ、君はばらすのが好きだね!?」
今度は士道が唐揚げを受け取った。鞠亜の暴露に鞠奈が動揺するのも気に留めず、一心不乱に唐揚げを堪能している。噛み締めるように、焼き付けるように。じっくりと食べていた。
「おぉ!すげえ!冷えても美味しいのが唐揚げだけど……ここまで美味しいのは初めてだ!」
「ふふ、どう?あたしが
「いじられたくないからって自爆するなよ……途中から怒ってるし……まあそれはそれとして。ありがとう鞠奈、すげえ美味しい」
士道の感想を聴いて、鞠奈は分かりやすいぐらいに安堵していた。最早隠す気がないと言わんばかりであった。
「そっ……まあ、あたしが作ったんだからそう言ってもらわないとね」
「鞠奈、また自爆ですか?」
「違うわよ!?」
再び起きた、目の前の姉妹のそんなやり取りを、士道は慈しむように眺めていた。あるはずの無かった光景。正しさ以外の道を選んだが故の一つ。士道は彼女達──本来は電脳世界にしかいられないはずの少女達──の存在が確かにそこにあることを噛みしめていた。
「ほら、五河士道。まだまだあるんだから食べて」
「士道、次はサンドイッチでもどうですか?」
「あぁ。順番に食べるよ」
そんな士道の感傷などいざ知らず。二人は作った弁当を士道に差し出し、昼食を続けた。
◇◆◇◆◇
「ふぅ……食った食った」
「そこそこ多めに作っておいたんだけど、全部食べるとはやるね」
「お疲れ様です、士道。お茶は自分で用意しておいて正解でしたね」
昼下がり。或守姉妹が作った弁当を食べ終えた三人は、お茶を飲んでゆっくりしていた。
「さて、これからどうしましょう?」
「ピクニックですること……と言っても、あたし達は元々電脳世界生まれだし、生まれてから一年も経ってな……いや、鞠亜の元の〈フラクシナス〉のコンピュータは何年も前からあるんだっけ。どうする?」
「私……というより〈フラクシナス〉のコンピュータは女性攻略の知識と最低限の良識と一般常識しか持ってないのですが……」
「なら俺しかいないわけか……と言っても俺もそんなにしてた訳じゃないしな……」
これからの予定を考えるが、いずれも経験の薄さ故に、いい案は出てこなかった。どうしたものかと周りを回し見していると、ふと、景色が見える方向──展望台に位置する場所が目に留まった。
「──」
「士道?どうかしました?」
「あっちは展望台……いや、違うことを思い出したね?」
「……察しがいいな」
五河士道にとって、この高台は精霊達と五つの出来事が刻まれた場所だ。
最初は
二度目は、園神凜祢の作り出した〈
三度目は或守鞠亜とのデートの最後のキスを──しようとして電脳世界の崩壊が始まった時の場所。
四度目は、再び現れた〈凶禍楽園〉を生み出した、士道と凜祢、そして鞠奈の娘『
五度目は……凜緒との別れから少しした満月の夜に、鞠奈が士道に告白をした時。
彼の心に引っかかったのはこの内の四度目。今の世界──即ち〈凶禍楽園〉を生み出した園神凜緒との別れを、鞠亜と鞠奈に有り得なかったはずの肉体を与えた少女がふと、思い出に引っかかった。
「……今こうして二人とピクニック出来るのも、凜緒のお陰なんだよな、って思ってさ」
「そうですね。〈凶禍楽園〉無くして今の私達は有り得ない……彼女の誕生と目的、そして私達の生存は、本来世界にとって正しくない事でしたが」
「でも正しさ以外の選択が、この
「そうか。そういう事なら、凜緒はちゃんと『おかあさん』に親孝行出来たのかもな」
「……そうかもね」
みんなが幸せになるように、必死に『いちばんたいせつなもの』を探し続けた少女との
「でさ、あの時も──」
「士道、大変です。もう夕方です」
「えっ、あっ!本当だ……」
「……まさか、本当に日が暮れるまで語り尽くすなんてね」
「そうだな……よし、晩飯の準備もあるし、そろそろ帰るか」
「士道、鞠奈。少しだけ、もう少しだけ、時間をくれますか?」
「鞠亜?」
帰り支度を始めようとしたところで、予想外にも鞠亜がそれを引き止めた。すると、彼女はカバンの中からある物を取り出した。
「……花?」
「これを、あそこに植えておきたいんです。鞠奈、あそこだけを花壇にしてもらえますか?」
そう言って指差したのは、ちょうど先程、士道が気にかけた展望台の柵近くだった。
「……まあ、〈ルーラー〉の力ならそれぐらいは容易いけども」
鞠亜の真剣な表情にあてられたのか、珍しく鞠奈はあっさり従った。鞠奈はかつて凜祢が〈ルーラー〉だった頃のように、都合良く少し現実を捻じ曲げて花壇を生み出し、そして誰もそれに迂闊に触れないように操作した。
「ありがとうございます。では早速……」
「穴掘りなら手伝うぜ。どれくらいだ?」
「拳一つ分程度で大丈夫です」
「分かった」
「……」
士道は鞠亜からスコップを受け取って土を掘り、鞠奈はそれをレジャーシートから見守っていた。
「ありがとうございます。士道、鞠奈」
「どういたしまして」
「礼は良いわよ。……で、それは何?」
士道にも浮かんでいた疑問を、鞠奈は包み隠さずぶつける。受け取る鞠亜は、黙々と薄紫色のその花を植えてから立ち上がった。
「この花の名は……『
「紫苑?」
「花言葉は……『君を忘れない』。そして、『遠くにいる人を思う』です」
唖然とするように、聴いている二人は止まった。
「──」
「凜緒は遠くに行ってしまいました。そしてそれを知るのは、ここにいる三人と凜祢だけです」
「だから、あたし達だけは絶対に忘れない、って言いたいのね」
「鞠亜……」
「そっか……忘れ物ってそれだったのね」
「はい。どうしても、今日にしておきたくて」
鞠亜の意思を聴いた士道は、無言で紫苑の花を眺める。鞠亜の込めた思い、自分達がどうして行くべきか。答えは決まっていた。
「そうか……なら、俺達でこいつの世話をしていこう。忘れないためにも、凜緒との約束のためにも」
「士道……ありがとうございます。そう言ってくれると、買ってきた甲斐がありました」
「ちょっと、二人だけで纏めないでよ。あたしもやるんだから」
「ふふ、鞠奈ならそう言ってくれると思ってました」
「当然でしょ……バカ娘との約束ぐらい、守ってみせるわよ」
照れながらも、彼女のその目はしっかり紫苑の花を捉えていた。三人の意思は、同じだった。
「よし!そうと決まれば早速水やりだ!」
「その前に片付けるわよ。すぐ帰れないんだから」
「水は私が取ってきますね」
些細でも未来に向けた行動を取る彼らを、紫苑の花は確かに見つめていた。
『──ありがとう、パパ、まりなおかあさん、まりあおねえちゃん』
「「「──え」」」
ふと、三人の耳にそう聴こえたかもしれないということは、ここだけの話である。
◆◇◆◇◆
「んー……ここでのバイトもだいぶ慣れたかな」
商店街を歩きながら伸びをする、明るい色の紫陽花のような髪の少女の名は『
「……鞠亜ちゃん、あの花何に使ったのかな……また聴いてみよう」
今朝、鞠亜が慌ててバイト先の花屋に来た時、その食い気味な鞠亜に若干引いてたのは彼女の中だけの話である。
「そういえば、士道とデートって言ってたっけ……ももも、もしや告白に……!?」
『──大丈夫だよ、ママ』
「え?」
風が吹くと同時に、懐かしくも愛おしい、そんな声が聴こえた気がした。
「……凜緒ちゃん……?」
答える声はなかった。でも凜祢の顔は、聴こえたかのように晴れていた。
「そっか……ありがとう、凜緒ちゃん」
声はなくとも、礼を述べるように風が吹いた。その風は、奇しくも五河家に向かって吹いていた。
「よし、今夜は士道と鞠亜ちゃんと鞠奈さんの好きな物を作ってあげよう!!」
凜祢は安心して、家路を急ぐことなくスーパーマーケットに向かった。
トゥルーエンドの勿忘草、見た時に泣きました。
因みに私の一番好きなシーンは、凜緒リンカーネーション付属のダイジェストで、声の付いた士道の『凜祢との別れを悲しみ泣き叫ぶシーン』です