IS/Drinker   作:rainバレルーk

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第147話

 

 

 

秋の趣が益々深まる頃。

IS学園を襲ったサイバーテロ。後に『ワールドパージ事件』と呼ばれる事件を解決に導いた男の元へある人物が訪れていた。

 

「病み上がりなのに申し訳ないね。しかし・・・また、君とこの病室でまみえる事になるとはね」

 

そう言って整えられた真っ白な頭髪の威厳ある老紳士、轡木 十蔵は、重傷人でありながら目前で悠々と酒をかっ食らう同じく白髪の若武者に語り掛ける。

其れを白髪金鳶眼の若武者、清瀬 春樹は苦笑いを浮かべて十蔵からの見舞い品であるスコッチウイスキーをぐい吞みで呷った。

 

「破破破ッ、ホントにそうでさぁ。俺っていっつも怪我してますよ。酒でも飲まなきゃやっとられんですわ」

 

「そんな軽く言える程度の怪我じゃないでしょう、君の負った怪我は。常人なら、もう既に”黒袋”に入って安置所に居る程のものですよ?」

 

「えぇ。俺ってホントに運が良い」

 

あの惨劇の中で生き残った事を唯の『運』で片付けてしまう春樹に十蔵は呆れたような溜息を漏らしつつ、彼は漸く本題を切り出す。

其の本題とは、勿論―――――

 

「・・・まぁ、良いでしょう。では、聞きますよ。清瀬 春樹君、これより事情聴取を行います。IS学園が襲撃を受けた時、君は何をしていましたか?」

 

十蔵の問いかけに対して彼はぐい飲みを空っぽした後でニヤリと口端を歪ませると、つらつらつらつら自分の行った所業を述べた。

 

正直に? いや、まさか。

此の男が述べたのは、学園内へ侵入した敵を倒した事とIS学園のシステムネットワーク内で遭遇した敵に関する事だけ。其れも大まかにしか語らなかった。

敵兵の人皮を剥いだとか、鼻を削いだとか、耳を切り落としたとか、そんな物騒な話はしていない。・・・・・と言っても、彼は全然其の事を隠すつもりはない話し方をしたのだ。

其れもそうだろう。逃げる気が失せるまで、あれ程までに痛めつけたのだ。

其れに逃げられない様に手足の骨まで粉々に砕いておいたのだ。いくら星条旗の精鋭兵隊でも捕縛されていると彼は確信していたのだ。

ところが・・・・・

 

「ほう・・・それで君は電脳世界へダイブしたんですね?」

 

「はい(・・・・・ありゃ?)」

 

どうも様子がおかしい。

学園内でも珍しく春樹が一目置いて信頼している十蔵の口から学園内部へ侵入して来たテロリスト達の事が一向に語られないのである。

捕縛しているのなら、彼等の惨状を目にして「清瀬君、テロリストが相手と云えども君はやり過ぎだ!」の一言があっても良い筈なのだ。・・・なのに語られない。

其の代わりに聞かれるのは、「電脳世界はどういう所だった?」とか。「サイバー攻撃はどういったものだった?」とかである。

・・・段々と、徐々にだが・・・ある”最悪の事態”を春樹は予想する。予想してしまう。

 

「あ、あの学園長・・・ちょっといいですか?」

 

「ん? どうしました、清瀬君?」

 

「学園に侵入した・・・俺がブッ飛ばしておいたテロリストの下手人共は・・・其の・・・・・捕まえてくれたん、です・・・よね?」

「ッ、き・・・清瀬君?」

「捕まえたんですよねッ? あの糞ったれ共を?!!」

 

此の時、春樹の表情は酷く凄んでいた。

ヴォーダン・オージェで両眼を金色にギラギラ四白眼で輝かせ・・・乞う様に、願う様に、祈る様に十蔵へ問いかける。

其の恐ろしい形相に幾ら経験豊富な老紳士でも思わず後退りしてしまうが、彼は答えた。

・・・・・春樹が最も聞きたくなかった”答え”を。

 

「清瀬君・・・・・すみません。君が命懸けで倒してくれた敵なんですが・・・我々が捕縛する前に逃走を許してしまいました。申し訳ありません」

 

「へ・・・ッ」

 

気の抜けた声が不意に出てしまう。

尚も十蔵の方は謝罪の言葉を口にしているが、気の抜けてしまった春樹には筒抜けである。

其れもそうだ。

彼は命懸けで戦ったのである。対IS兵器を身に纏い、怒りの余り我を失っていたとは云え、唯の十五の学生が百戦錬磨の特殊部隊と一戦交えたのだ。

それにも関わらず、倒した相手が逃げたとなれば・・・何のために戦ったのか。

 

「え・・・えッ・・・え~・・・・・」

 

余りにも衝撃的な事に春樹は其処から小一時間はボケーーーッと茫然自失になってしまい、事情聴取どころではなくなってしまう。

ショックだった。起き抜け直後のラウラとの抱擁からのキスを邪魔された以上にショックだった。

 

折角、全員倒したのに。

全身ボロボロでやっと倒したのに。

心がガタガタの状態で倒したのに。

逃げられた。

逃げられた。

 

「・・・・・でも・・・あいつらどうやって逃げたんじゃ?」

 

何も考えられないぼうっとした状況の中、ふとそんな疑問符が彼の頭の中へ浮かんだ。

テロリスト・・・其の正体は米国の特殊部隊アンネイムド。春樹はそんな彼らと新兵器と云えども試作EOS機で対処し、其の事如くを打ち破った。

問題は其の後。

春樹は高ぶった感情のままに敗残兵の彼等を必要以上に蹂躙したのである。無論、彼等を纏め上げていたIS乗りの隊長も其の覚醒した残虐性を持って甚振ったのだ。

 

「逃げられる訳がないんじゃ・・・」

 

あの当時の春樹は『鬼』であった。

其れ故に彼はアンネイムド達の靭皮を剥ぎ、鼻を削ぎ、耳を切り落とし、骨の事如くを圧し折って肉を潰したのだ。其れも殺さぬ程度に生きた状態で。

正に残虐極まりないが・・・そんな事をされる程、アンネイムドは”オイタ”をしたのである。

自力で逃げる事など出来る訳が―――――

 

「・・・・・・・・ちょっと待て」

 

されども彼等は学園長が指揮する教師部隊の手から逃れる事が出来た。

其れはどういう事なのかは決まっている。『自力』を使えないアンネイムドは『他力』・・・つまりは何処かの誰ぞの手引きで逃げたという事だ。

 

「無事なのがいた・・・? いや、一人も逃した覚えはない。俺ぁちゃあんと全員の皮剥いで、壁へ”吊るした”んじゃ。なら誰が・・・・・ッ?」

 

疑問符はつのるばかり・・・だったのだが。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・あッ」

 

突如として彼の頭の中の『?』は『!』へ変貌する。

居るではないか。あの時、あの惨たらしい状態へ陥った敗残兵達を助ける事が出来る人間が。

・・・されども其の人物は此のIS学園を、さしては学園生徒を守る教職の地位に居る筈だ。其れが何故に?

 

「ッ―――――あぁああああのぉおお女郎ぉおおおおおお!!」

 

だが、そんな事は最早些細な事である。

激昂した春樹は掛布団を蹴っ飛ばして病床から飛び降りるや否や、凄まじい勢いで其の下手人が居るであろう場所へと走って行った。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「織斑ぁあああああッ!!」

 

下手人の名を叫びながらドガッシャぁアアン!!と扉を蹴っ飛ばして現れたるわ赤鬼形相白髪金眼の春樹だ。

しかして何故に彼は同じく電脳世界で戦ったクラスメイトの名を叫ぶのか?

・・・いやいや、織斑は織斑でも一夏の事を指した訳ではない。というか、此処はそもそも―――――

 

『『『!!?』』』

「きッ、清瀬君!?」

「ど、どうしたのよ一体?! まだ安静にしてないとダメなんじゃないのッ?」

 

突然現れた春樹の驚き慄く一年一組副担任の山田教諭に部活塔管理者の榊原教諭並びに他教員達。そう、此処は学園へ勤める教員達が集まる職員室だ。

そんな場所で患者服のまま鋭い視線をギョロギョロ覗かせた後、目的の人間がいない事を確認した春樹は喰らい付きそうな飢えた顔つきで近くに居た山田教諭へ迫る。

 

「山田先生ぇッ!! あの女郎・・・織斑先生はどこ行った?!!」

「ひッ、ひえぇえ!! せ、先輩・・・織斑先生なら、た・・・多分、りょ、寮の方へ居ると思いまひゅ!」

 

「阿”? なして居らんのんなら!!?」

「そ、それは! お、おお、織斑くんが体調を崩してしまったそうなので、看病のためだと!!」

 

其の山田教諭の言葉を聞き、「応ッ、そうか!!」と納得した春樹はくるりと反転して出て行こうとしたのだが―――――

 

「待ちなさい、清瀬!!」

 

「阿ぁん?」

 

其処に居たのは麻酔銃を構えた榊原教諭。

明らかに常軌を逸脱した精神状態の彼を危険視し、いつかの身体測定で渡された鎮圧用ライフルの銃口を差し向けたのだ。

 

「そこのいてくれや、先生!! 俺はあの女に用があるんじゃ!!」

 

「残念だけど、それはできないわ」

 

「なら押し通らぁ!!」

 

ダッと前のめりになった春樹だったが、そんな彼の背後からガッと衝撃が走る。

 

「ッ、畜生め!!」

『『『きゃぁああ!!?』』』

 

其れは不審者撃退用のサスマタであった。明らかに興奮状態の彼を押さえつける為だ。

其の場に居た大人五人がかりで春樹を取り押さえるが、其れで止まる男ではない。ISを纏っていなくても十分強い其の怪力で職員達を蹴散らし、再び正面突破を図る。

 

「ッ、痛!?」

 

此れは止む終えまいと、榊原教諭は其の卓越した射撃で麻酔弾を発射。銃口から放たれた其れらは、突進してくる春樹の額や上腕部に腹部へ直撃した。

 

「こ・・・このぉお!!」

 

「ッ、う、うそでしょ?! しょうがないわね!!」

「ぷげぇッ!?」

 

熊でも一発で倒す麻酔を三発喰らっても動こうとする彼に衝撃を受けつつも、気を取り直した彼女は更に二発の麻酔弾を射出。

其の二発で漸く春樹は急激に襲って来た眠気に降参するのであった。

 

「ち・・・ちき、しょうめ・・・ッ!!」

 

意識の消失の中、彼は「此れだけでは絶対に済まさん!! 必ず落とし前をつけさせてやらぁッ!!」と心に決めたのだと後に語る。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「・・・・・」

 

職員室での騒動と同時刻。

話題となっているブリュンヒルデは学生寮の一室で、彼女には珍しく浮かない顔を晒していた。

何故に其の様な表情をするのか。理由を挙げるのならば、其れは千冬の視線の先にいる人物が原因であろう。

 

「・・・・・一夏・・・」

 

彼女が心配するのは、力なくベッドへ横たわる弟の一夏であった。

いつもは溌溂とした明るいイケメンフェイスを振り撒く彼だが・・・現在、其の顔は酷く具合が悪そうである。

肌は血の気が引いて青く、頬は痩せこけ、呼吸は重病人の様に浅い。まるで死んだように眠っているが、別に現在意識不明と言う訳ではない。

 

「・・・・・千冬さん」

 

「ん、箒に鈴か。なんだ?」

 

「少し、お休みになったらどうですか?」

 

部屋へ入って来た箒と鈴の気遣いの言葉に対して彼女は「大丈夫だ」と返すが、どことなく其の声色はトーンが低かった。

何故なら・・・先程まで錯乱していた一夏を抑えていたからだろう。

 

ワールドパージ・・・電脳世界から帰還した一夏は、酷く怯えていた。

其の状態は尋常ならざるもので、起き抜けに自らの専用機白式を展開し、暴れたのである。

彼は「いやだッ! 助けてくれ!! やつが! やつが!!」と雪片弐型を振るい回り、あわや大惨事を引き起こす所であったが、AICを有するラウラの機転により抑え込む事に成功。

鎮静剤を打つ事で一時的な安静状態を保った。

・・・だが。

 

「・・・ん・・・ッ・・・んん・・・・・ち、千冬姉・・・?」

 

「ッ、大丈夫か一夏?」

「「一夏!」」

 

目を覚ました一夏はハイライトのない視線を三人に向け、ボーっと暫し虚空を見つめていたのだが―――――

 

「・・・ッ、うわぁあああああああ!!?」

「一夏!?」

 

飛び起きるや否や、壁際へと凄まじい勢いで後退りし、「助けッ、助けてくれ!!」と恐れおののいたのである。

 

「だ、大丈夫・・・大丈夫よ、一夏!」

「そうだぞ、一夏! もうここは電脳世界ではないのだ!!」

 

箒と鈴は必死になだめようと距離を詰めるが、「く、来るなッ、くるなよぉおお!!」と身の回りにあるものを投げ付けた。

しかし、其の内投げるモノが無くなると、今度は自分のISである白式を展開しようとしたのだ。

 

「ッ!? な、ない!! 白式がッ、俺のISが!!」

 

けれども、錯乱した状態でISを扱った前科のある為、眠っている間に白式は一時的な没収を受けていたのである。

そんな身を守る術がない事に動揺した一瞬の隙を千冬は見逃す事がなかった。

 

「一夏・・・!」

「ッ・・・!!」

 

彼女は其の抜群のスタイルで一夏を抱き締めると、赤ん坊をあやす様に背中を一定のリズムで優しく叩く。

そうする事で、錯乱して情緒が落ち着かなかった一夏を大人しくする事に成功したのだが・・・・・

 

「ち・・・千冬姉・・・! お、教えて・・・教えてくれよ・・・! 俺に・・・ッ、俺達に妹なんているのか?」

「・・・ッ・・・」

 

彼の言葉に口籠ってしまう千冬であったが、まるで自分にも言い聞かせる様にこう言い放った。

 

「・・・いない。私の家族は・・・一夏、お前だけだ」

「・・・・・」

 

其の言葉に一夏は無言で返すと、ゆっくりと瞼を閉じて眠りについた。

そんな彼をベッドへ戻すと一つ咳払いをし、「・・・水を飲んで来る」と言って二人に後を任せて部屋を跡にする。

 

「・・・千冬さん、大丈夫かしら?」

 

「今は戸惑っているだけだろう。それよりも今は一夏の回復が優先だ!」

 

何処か強気な箒に「そ、そう?」と鈴は少しの違和感を覚えつつ、彼女の意見に賛同する。

だが、鈴は知らない。

 

〈・・・ねぇ、箒。その鈴って子・・・邪魔じゃない? 一夏にはあなただけでいいじゃない〉

 

箒に耳打ちをする彼女だけにしか見えない栗毛色の翡翠の瞳の少女がすぐそばで佇んで居る事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

一方、所変わって世界の何処かであろう研究施設。

其処では―――――

 

「いッ、いやぁああああああああああ!!」

 

―――――ある一人の少女の断末魔が轟き響いていた。

 

「くーちゃん!」

「た、束様!! 束様ッ、助けて下さい!! わ・・・私のあ、足が! 痛いッ! 痛いぃいいいいいッ!!」

 

身体の至る所に電極や自作の医療装置を付けた白髪金瞳の少女は、ある筈の左足が切り落とされたと叫び、傷一つない肌を斬り刻まれたと泣き喚く。

そんな幻痛に苦しむ少女、クロエ・クロニクルの手を今回のワールドパージ事件の黒幕である篠ノ之 束はただ手を握る事しか出来ずにいた。

 

ワールドパージ事件終結直後。電脳世界でハンニバルにかどわかされたクロエの異変を察知した束は、すぐさま救出に向かったのだが・・・既に時遅し。到着した時には、彼女は泡を吹いて倒れていたのである。

すぐに体のスキャンが行われ、身体への異常は見受けられなかったのだが、問題はクロエの心にあった。

 

意識下しか動くことが出来ない電脳世界であったからこそ、其処で遭遇してしまったおぞましい『踊り食い』と言う行為に彼女の心は耐えられなかったのだ。

電脳世界で切り落とされた左足が現実世界で激痛を引き起こし、抉り取られた臓器の喪失感が未だに残っている。

 

「束様! 束様ぁああああああ!! 痛いッ! 痛いよぉおおおおおッ!!」

「く・・・くーちゃんッ・・・!!」

 

ファントムペインに泣き叫ぶクロエの手を握ってやる事と、痛みを和らげる為の鎮痛剤を打ってやる事しか出来ない束は、今まで味わった事のない『無力感』に苛まされた。

・・・・・しかし其の内、ある方向への感情が昂ぶっていく。

 

「―――――ッ・・・”ハンニバル・レクター”・・・あの男ぉおお!!」

 

自分の計画を台無しにし、自分の娘も同然のクロエを蹂躙した男に束は激情の炎を燃やす。

だが・・・彼女は解っているのであろうか。自分の其の思いが唯の逆恨みである事に。

そして、其の相手が自分が思っている以上に純粋なドス黒さを有している事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かくして・・・様々な思惑が終始入り乱れた『ワールドパージ編』は、不穏な後味を残して終幕とさせていただきます。

 

〈さて・・・”冷蔵庫”の『中身』は、いつまで残るだろうか? ある限りは、私は大人しくしておこう〉

 

 

 

 

 

 

 

 





はい。と言う訳で、長かった章も此れまで。
次回からは、幕内と言う名のオリジナルが開幕。
構想のネタとしては・・・「ブリュンヒルデが彼等を逃がさなければ、あのカップルは割を食う事もなかったのにWWW」みたいな感じを考えてます。
・・・・・どうして逃がしたんでしょうね?
・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆
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