IS/Drinker   作:rainバレルーk

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第32話

 

 

 

・・・其れは突如として起こった。

 

「『・・・あ・・・あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ッッ!!?、』」

 

「ッ!?」

「な、なにッ?!」

 

シャルロットのラファール・リヴァイヴからシールドエネルギーを受け取り、SEをほぼ完全な状態まで回復した一夏はセシリアと鈴と共に黒いISに対峙した。

 

最初は黒いISの持つ自動修復機能に手を焼かされたが、セシリアと鈴の援護射撃もあってか、アリーナ壁際まで敵を追い詰める事が出来た。

しかも、攻撃を加えれば加える程に修復機能は衰えていき、後は白式の単一能力『零落白夜』で止めを刺すのみ。

 

「『ア”あ”、A”A”A”A”A”ッ阿”阿”あ”ッ!!』」

 

「な、なんですのッ? 一体何が起こってますの?!」

 

「わかる訳ないでしょ! なにがどうなってんのよ?!!」

 

だが、そのボロボロで瀕するISが突然、のたうち回りながら男女の声が混じった様な絶叫をあげて苦しみだしたのである。

 

≪一夏ッ、一体どうなっている? 倒したのかッ?≫

 

「それが解らねぇんだよ、千冬姉! コイツがいきなり苦しみだして・・・」

 

黒いISの断末魔にも似た絶叫にアリーナ場内ならびに管制室にも動揺が走る。

 

「一夏・・・アレ・・・ッ!」

 

「な、なんだよ・・・一体どうなってんだよ?!」

 

黒いISはその断末魔を上げながら、ズルリズルリとその姿形を変えて行く。

一歩歩けば、肩の部位がドロリと融け落ち。もう一歩歩けば、腹部の装甲がズルリと剥がれ落ちた。

その姿は非常に不快極まりなく、「うッ・・・」とセシリアは口元を抑え、一夏はつい道を引き気味に開けてしまう。

 

ボタリッ

 

「え・・・ちょっと皆、アレ!」

 

そんなドロドロと溶ける自らの肉片を落としながら歩む黒いISの背中から、これまた大きな肉片が響く様に落ちた。

その肉塊に鈴が声を上げ、皆の注目が集まる。

 

「あ・・・あぅ、う・・・ッ」

 

「ッ、ボーデヴィッヒ!!」

 

まだ湯気の立つ脂ぎった黒い肉の中から垣間見えたのは銀色の髪と小さな呻き声。

黒いISを顕現させたラウラ・ボーデヴィッヒが横たわっていた。

 

「ボーデヴィッヒさん!」

 

「セシリア!」

 

そんな息も絶え絶えな彼女を救助すべく前へ飛び出すセシリア。されど、ラウラのいる場所はまだ黒いISから手の届く距離にいた。

 

「『あ”ッ・・・A”A”A”A”A”ッ!!』」

 

「セシリア、避けろ!!」

 

近づいた来たセシリアに気づいた黒いISは屑落ちかける片腕を振り上げ、偽・雪片を突き立てんとした。

 

「『阿”ッ、ア”あ”あ”!?』」

 

「えッ・・・?」

 

しかし、黒いUISが腕を振り上げた瞬間に動作が急停止。そのまま腕が偽・雪片諸共腐るように崩れ落ちた。

これには攻撃を覚悟していたセシリアは勿論、何故か彼女へ攻撃をしようとしていた黒いISも驚嘆したのであった。

 

「大丈夫ですか、ボーデヴィッヒさん!!」

 

「う・・・ぅうッ・・・」

 

敵と交差するように倒れたラウラを救い上げるセシリア。

その時、彼女はある事に気づいた。とても重大なある事に。

 

「ッ!(ボーデヴィッヒさんのシュヴァルツェア・レーゲンが”待機状態”になっている?)」

 

其れはラウラの専用機がエネルギー切れで待機状態となっているという事。

この事が理解できたことで、大きな疑問がセシリアの脳内に思い浮かびあがった。

 

「な、なら・・・なら、なんであのISは未だに動いていますの!? 誰が、一体誰が動かしていますの!!?」

 

あの黒いISはラウラの専用機『シュヴァルツェア・レーゲン』に搭載されていたVTSによって顕現した。

その大本の原因が待機状態になっているにも関わらず、何故に未だあのISは活動しているのか?

・・・考えられる要因は一つしかない。

 

「ぅ、あっ・・・せ、セシリア・オルコット・・・」

 

「ッ、ボーデヴィッヒさん!」

 

様々な思考がセシリアの頭で渦巻く中、焦点の合っていない目で彼女を見ながら、ラウラが口を開けた。

 

「あいつを・・・は、春樹を・・・助け・・・・・」

 

「ボーデヴィッヒさんッ? ボーデヴィッヒさん?!」

 

ガクリとセシリアの腕の中で意識を手放したラウラ。

 

「一体・・・一体何がどうなっていますの?!!」

 

セシリアの叫びにも似た疑問に答える者は居らず、皆はぐずぐずに崩れてゆく黒いISを異様な眼で見るばかりだった。

 

「『あ”ぁ・・・ア”ッ・・・阿あ”・・・!』」

 

アリーナ場内中央まで進んだ黒いISは遂にその身体をズシンッと地面に横たわらせた。

普通なら、漸くこれで終わったかと皆が胸を撫でおろすシーンなのだろう。

・・・だが、そうは問屋が卸さないのが世の常だ。

 

ブチリッ

 

『『『ッ!?』』』

 

倒れ伏した残骸から、人の形をした何かが黒いISの背中を引き裂いて起き上がる。

まるでそれは、蛹の中から羽根を広げる蝶のようだった。

 

「・・・・・」

 

「春樹!」

 

蛹から起き上がったのは、黒い液体を全身から滴らせるラファール・リヴァイヴを身に纏う春樹の姿だった。

無事なような彼の姿にシャルロットは思わず声を弾ませ、近づこうとする。

 

「お待ちになってください、デュノアさん!!」

 

「えッ?」

 

けれども・・・そんな彼女を止めたのは、救出したラウラを自らの後ろに寝かせたセシリア。

それに加え、彼女の手の中にある専用ライフルの銃口は春樹に向けられていた。

 

「えッ・・・何してるの、オルコットさん? なんで春樹に銃口を向けてるのッ?」

 

「デュノアさん、退がってください! あの春樹さんは・・・春樹さんであって春樹さんじゃありません!!」

 

「な・・・何を言って・・・ッ」

 

「えぇ。セシリアの言う通り、なんだか嫌な予感・・・!」

 

セシリアの言葉に鈴も改めて武装を構え直した。

それぐらいに何か得体の知れない雰囲気が彼から放たれていたのである。

 

「・・・・・ッ」

 

黒いISから羽化し、ゆっくりと立ち上がった春樹は目を開くと辺りを見回す。

そして、一夏を視界に確認すると身体を彼の方に向けた。

・・・”琥珀色に輝く両眼”を向けながら。

 

「ッ!? そんな、あれは・・・ま、まさか・・・!!」

 

「どうしましたか、織斑先生ッ?」

 

管制室にいた千冬は、見開いた春樹の眼に驚きを隠せないでいた。

何故なら、その眼を彼女は以前見た事があったからだ。

 

「『ヴォーダン・オージェ』・・・だとッ?!!」

 

「う”ぉーだん・・・え?」

 

『ヴォーダン・オージェ』、日本語名『越界の瞳』。

ISの適合性向上のために行われる処置であり、擬似ハイパーセンサーとも呼ぶべきそれは、脳への視覚信号伝達の爆発的速度向上と超高速戦闘状況下における動体反射の強化を目的とした肉眼へのナノマシン移植処理のことを指す施術だ。

 

だが、春樹はついこの間まで普通のごくごく一般の人間であり、そのような極秘施術を受ける事も、ましてや知る事も出来ない筈だ。

 

「(それが何故、清瀬の目に・・・それも”両目”にッ? あの施術は”片目だけ”しか適応しない筈ッ。現に強化素体であるラウラも片目しか適応できなかった。それが何故・・・ッ?!!)」

 

けれども、千冬は確信した。あれは見紛う事なき、『越界の瞳』なる代物であると確信したのだ。

そして、こうも直感した。『あれは危険だ』と。『近づいてはならぬモノ』だと。

 

≪皆、よく聞け。其処から一刻も早く退避しろ!≫

 

「えッ、でも千冬姉。清瀬が―――≪いいから早くしろ、馬鹿者ッ!≫―――ッ!」

 

つい千冬は声を荒らげてしまう。

されど、それくらいに今の彼は異常なのだ。

・・・しかし。

 

「清瀬!!」

 

「「「一夏(さん)?!」」」

 

一夏はそんな千冬の警告を無視し、春樹に声をかけた。

 

「聞こえてるのか、おい?!」

 

「一夏ッ、アンタは今の千冬さんの話聞いてなかったのッ? 退避しろって言われてんのよ!!」

 

「でも、清瀬をここで放って置けないだろ!」

 

敵であり、シャルロットの件で仲たがいをしている春樹に対して一夏は良い印象はない。

けれど、相手が傷付いているのならば助けてやるのが彼の長所であり、短所でもある。

そして、今回その性格は・・・・・

 

「聞こえてるんなら返事しろよ、清瀬ッ!!」

 

「・・・・・阿”ッ」

 

・・・裏目に出る事となった。

 

「ウェ阿”阿”阿”ッ!!」

 

「なッ―――バギィイイッン!!―――ッ!!?」

 

『『『ッ!?』』』

 

彼の声に反応したと思った次の瞬間、通常の瞬時加速以上の速度で距離を詰めた春樹はフルパワーの左殴打を一夏の鳩尾へと突き刺す。

 

「ぐブふぇッッ!!?」

 

踏まれた蛙のような声を胃液と共に吐き出す一夏。

なんと春樹の拳は、操縦者を外部の衝撃から守るISの絶対防御を通り抜け、確実に生身へとダメージを与えた。

 

「が阿”阿”阿”うッ!!」

 

ボバギィイッ!

「げバぁああ―――ッ!」

 

すかさずに春樹は、後ろへ降り抜いていた右拳を半円を描きながら突き出す。

そしてメキメキと嫌な音を鳴らしながら、一夏を後方へ吹っ飛ばした。

 

「あァアッ―――ッ!?」

 

「一夏ッ!? 清瀬、アンタなんで―――ッ!!?」

 

地面へ叩きつけられる一夏から、その彼を殴り飛ばした春樹の表情を鈴は見た。見てしまった。

 

「フゥーッ・・・フゥー・・・! グルルァ阿阿”阿ッ・・・!!」

 

「は・・・春樹・・・さん・・・ッ!?」

 

「は、春樹・・・ッ!」

 

其処にいたのは清瀬 春樹と言う人間の姿ではなかった。

全身から湯水のように溢れる闘志、肉眼からも確認できる程の殺気。本能を剥き出しにした”獣”が其処にいたのである。

この姿にセシリアは絶句。シャルロットは腰を抜かしてしまった。

 

「ウ雅ァ阿”阿阿あ”あ”あ”ッ!!」

 

「ッ!? 御免なさい、春樹さん!!」

ズキュゥウウーン!

 

地面へ沈んだ一夏に更なる攻撃を加えんと雄叫びを上げながら飛び出す春樹。そんな彼を止めようと、セシリアはライフルの引き金を絞る。

躊躇しながらも、狙いは正確な彼女の射撃は春樹の胴体部にクリティカルヒット。

彼女は並のIS、ましてや彼の纏っている訓練機用ラファール・リヴァイヴならば衝撃ダメージで静止できると踏んでいたからだ。

 

「阿阿阿阿阿ッ!!」

バシャァアッン!

 

「なッ!?」

 

だが、春樹はそんなビーム射撃を掻き消した。まるで「しゃらくさい!」と言わんばかりに、露でも掃うかのように払いのけたのである。

 

「阿”阿”阿”阿”阿”!!」

 

「いぃいッ!!?」

ガギィイーンッ!

 

ビーム攻撃と言う名の小雨を掻き消した春樹は、サッカーボールかのように一夏の顔面目掛けて蹴りを放つ。

幸い、一夏はこれを雪片で防御する事に成功したのだが―――

 

「駄ッ羅阿阿阿―――ッ!!」

 

「ぅうッ、うわァアアッ!?」

「一夏ッ!!」

 

―――蹴り圧に押され、更に後退。

今度は一夏の方がアリーナの壁際まで吹っ飛ばされてしまった。

 

「清瀬ッ、アンタいい加減にしなさいよぉお!!」

 

ついに鈴が大型ブレードを振り上げ、瞬時加速で春樹に迫る。

 

「阿”!」

ガチィッ

 

「えッ!?」

 

「阿”阿”阿”ッッ!」

「きゃあああああ!!?」

 

しかし、彼はその刃をすんなりと片手で掴むと勢いのままに彼女をアリーナ反対側の壁へと投げ飛ばす。

まさか掴まれた上で投げ飛ばされる等と思ってもみなかった鈴は、ブースターの対応が遅れ、そのままズシャーン!と壁へめり込んだ。

 

「鈴さん!!」

 

「鈴ッ! 清瀬、お前―――ッ!!」

 

鈴がやられた事に激昂した一夏は再び雪片を構え、春樹に向かって瞬時加速で飛び込む。

 

「デェヤァアアアアッ!!」

 

そして、持ち前のセンスが籠った剣技で雪片を振う。

その斬撃のどれもが日々の特訓の成果であり、当たれば申し分ないダメージを与える事は明白だ。

 

「ッ!」

 

だが結局、その斬撃も当たらなければ意味はない。

春樹はまるで来る方向が解っているかのように、必要最小限の動作で攻撃を避けると―――

 

「雅ぁア”ア”ア”う!!」

 

ズドンッ!

「がフぅうッ!!?」

 

―――一夏の右脇腹に鋭く、そして重い殴打を叩き込む。

余りの衝撃と激痛に再び彼の口から、今度は血が混じった胃液が飛び出す。

 

「駄阿阿阿ッ羅阿阿ッ!!」

 

バギィイッ!!

「がハァアアアアッ!!」

 

その血反吐を吹き出した顔面にこれまた重い殴打をフルパワーで叩き込む春樹。

一方、そんな右ストレートをもろに叩き込まれた一夏はアリーナ壁面まで吹っ飛ばされ、鈴と同様に壁へめり込んだ。

 

「もう止めてください、春樹さん!!」

 

ライフルの銃口を再び春樹に向けて叫ぶセシリア。

けれど、そんな彼女の足は震えていた。目の前の彼に恐怖していたのだ。

 

「もう敵はいません! ボーデヴィッヒさんも此方で保護しましたッ。だから・・・だから、もう止めて下さいまし!!」

 

「阿”阿”阿”・・・ッ」

 

「―――ッ!!」

 

セシリアの声が届いたか、動きを止める春樹。

その瞬間、「今だ!」と言わんばかりにアリーナ反対側の壁にめり込んでいた鈴が飛び出す。彼の動きを完全に止めんと飛びかかる。

 

「・・・阿ッ・・・阿”阿”阿”阿”阿”阿”阿”―――ッ!!」

 

『『『!!?』』』

 

それに気づいたかどうなのかは不明だが、突然、春樹は雄たけびをアリーナ場内に命一杯轟かせる。

すると―――

 

シンッ・・・

「えッ、そんな! どうして?!!」

 

「う、”動きません”! 動きませんわ!!?」

 

春樹の背後に迫っていた鈴と彼の前方にいたセシリアのISが突如として”沈黙”したのである。

 

「ブルー・ティアーズ機、甲龍機が共に機能停止ッ! 沈黙しました!!」

 

「なんだとッ!?」

 

これには管制室にいた職員達も泡を食う。

何故なら、こんな芸当が出来る機体は今まで一機だけだったのだから。

 

「こ、これは『AIC』!? どうして、ボーデヴィッヒさんの機体に搭載されている機能を彼が使えているんですか?! しかも、複数に?!!」

 

「それを聞きたいのは此方の方だ!」とこの時の千冬は聞き返したかったが、そういう訳にもいかない。

雄叫びを上げた春樹が再び一夏に琥珀色の眼を向けたのだ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ビィーッ、ビィーッ!

 

「(・・・・・あぁ・・・? この音は・・・危険アラームッ?・・・なんじゃあ、俺・・・死にかけとるんか?・・・・・・・・って、ありゃあ??)」

 

散々暴れ、雄叫びで二機のISを機能停止させた春樹の眼に精気が漸く戻って来た。

彼は疑問符を頭に何個も浮かばせながら、辺りを見回す。

 

「(なんじゃッ、どーなっとるんじゃ? なんで、あの駄目バナ野郎が壁にめり込んどるんじゃ? なんで目ぇ回しとるんじゃアイツッ? 俺か、俺がやったんかッ?? 全然覚えとらんぞ、この野郎!!)」

 

そして、目の前で目を回す一夏に春樹は頭の疑問符を更に膨らませた。

しかし、彼は見落としていた。目を回す一夏の近く、其れに自身の背後にセシリアや鈴が動けずにいる事に。

それは今現在の春樹の視野が扇形ではなく、肉食獣のような直線的な視野である事に他ならなかった。

更に奇妙な事は重なるモノで・・・。

 

「(確か、海苔の佃煮の針に全身串刺しのカズィクル・ベイされたんじゃけどなぁ・・・なんか全身をデトックスしたみてぇに軽いし、なんか気分がええ)」

 

彼の心身は絶好調であった。

あの精神世界で受けたダメージなど幻だったかのように絶好調だったのである。

其れは何故なのか。思い当たる節なら、一つしかない。

 

「(ああ、”これ”の御蔭か)」

 

其れは、春樹の左手の甲で恒星のように光り輝く痣『ガンダールヴ』だ。

ガンダールヴはその能力上、武器の運用方法と効率的な操作が出来る。

 

管制室にいる千冬達は春樹がVTSに乗っ取られた事による暴走と判断しているが、それは違う。

『春樹が乗っ取られている』のではなく、『VTSが乗っ取られている』のである。

一時はVTSも彼の身体を乗っ取る事に成功はした。しかし、彼の一夏に対する憎悪と嫌悪がガンダールヴの能力を飛躍的に増幅させた結果が現在の状況だ。

因みに。無意識状態であそこまで一夏をボコボコに出来たのは、大会前からラウラと共にやっていた訓練の賜物である。

 

・・・と、ここまで来れば、彼の中での第一ラウンドは終了。

 

「阿”阿”阿”ッ!!」

 

『『『ッ!!』』』

 

・・・”第二ラウンド”の幕開けだ。

 

「(冗談じゃねぇぞ、フザけんじゃねぇぞこの野郎ッ。織斑をボコった事、全然覚えてねぇぞ、こん畜生ッ! どーせ試合は少佐殿のアレで無効になっとるんじゃろうけんど、俺はまだアイツに一発も入れた事を実感しとらんのじゃッ! 記憶に残るもんでねーと気が済まんで、俺はよぉ!)立てや、織斑ァア―――ッ!!」

 

「・・・ぅ・・・うう・・・ッ」

 

「うがー!」と唸る春樹に壁にめり込んだ一夏はピクリと息を吹き返す。

幸いにも周囲は未だ彼が暴走状態であると踏んである為、このまま押し切りたいのが春樹の算段である。

 

「教師部隊は何をしている?! 約束の五分はとっくに過ぎているぞ!!」

 

「そ・・・それが、先程の清瀬くんの咆哮でアリーナ発射口が故障して開きませんッ!」

 

加えて、五分後に出撃する筈だった教師部隊は、春樹が無意識の内に何故か出来た停止結界の御蔭でアリーナ場内に入って来れない。

まさか、こんな事が起きるなどと思っていなかった千冬は頭を抱えるしかなかった。

 

「どうしたんじゃ、このボケカス?! ほれ。待っちょっるちゃるけん、さっさと立ち上がれやッ!」

 

「ぅう・・・う・・・ッ!」

 

春樹の声にめり込んだ壁から抜け出した一夏。

しかし、思いの外ダメージは深く。うつ伏せになったまま、呻き声を出すばかり。

 

「そーいやぁ、オメェ・・・デュノアを助けるじゃとか粋まいとったのぉ?! その執念を俺に見せてみんさいや! それとも何か? やっぱりただの口だけの能無しかぁ~?!」

 

「ッ・・・こ、このぉ・・・ッ!!」

 

春樹の言葉が彼の心の琴線に触った。

一夏は漸う立ち上がると雪片に白式の残り全てのエネルギーを注ぎ込む。

 

「さぁ来いよ、俺ぁ此処じゃ! どうしたんじゃッ劣化版バナージ、来てみんさいやッ!!」

 

「お前みたいな・・・お前みたいな卑劣なヤツに、負けるかァアアアアッ!!」

 

バヒュンッと音を置き去りにした一夏は蒼白く光る雪片を振り上げ、一直線上に春樹へ突撃する。

人間の目では、確実に追えない速度。加えて、雪片にエネルギーを集中させた事で零落白夜は今までにない威力を発揮する事は間違いなかった。

 

「ウォオオオオオ―――ッ!!」

 

そして、高性能の専用機に甘んじることのない一夏のセンスが更に威力を増幅させた。

喰らえば、どんな相手も再起不能に出来る真の一撃必殺の剣戟。

 

ガギャアアッッン!!

 

その剣撃がガードした春樹の右腕を直撃する。

これを見ている誰もが、一夏の勝利を確信した。ボロボロの状態から、暴虐の怪物を倒す物語の英雄の姿を皆が見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・だが、『彼』は皆のその想像を凌駕した。

 

「阿”阿”阿”阿”阿”ッ!!」

 

ガキィッン!

「―――・・・へッ?」

 

春樹は右腕で受けた雪片を外側に逸らせた。

標的を失った蒼白き刃は地面に飲み込まれ、土煙を巻き上げる。

 

「阿”羅”羅”羅”羅”羅”イッ!!!」

 

メグシャアア―――ッ!!

「ッ―――――ッ!!」

 

重力によって落ちる一夏の顎目掛けて突き出される左アッパー。

其れは、まるで青い空に浮かぶ太陽を掴むような仕草であった。

 

ビィイ―――――ッ!!

 

そして・・・再び地面にズシンッと沈む一夏を合図に情緒もへったくれもない無機質な試合終了のブザーが鳴り響くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 





・・・・・はい。という訳でリハビリ投稿でした。◆◆◆◆◆
・・・長くなっちゃた。
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