IS/Drinker   作:rainバレルーk

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第35話

 

 

 

IS学園内で開催された学年別トーナメントの準決勝第一試合。

ドイツ代表候補生の専用機に秘密裏に搭載されたVTシステムが暴走を起こした騒動、通称『VTS事件』から数日経ったある夜。

 

「ふぅ・・・」

 

都内にある高級ホテルの夜景が見えるレストランの個室。

ある顎髭を生やした厳格な風貌の男が如何にも高そうなワインと共にディナーの余韻に浸っていた。

 

彼の名は『アルベール・デュノア』

IS関連産業において、様々な分野で世界シェア三位を誇る大企業デュノア社社長であり、男装の麗人シャルロット・デュノアの”父親”である。

 

今回、彼が来日した目的は主に二つ。

一つ目は、IS先進国であるこの日本の技術視察。

二つ目は、貴重な男性IS適正者の情報を探る為にスパイとして送り込んだシャルロットの様子を伺う事であった。

だがしかし、以下の二つの目的がまるで霞むような出来事が起きたのである

 

「『ハルキ・キヨセ』・・・まさか彼があれ程の人物だったとは・・・」

 

世界初の男性適正者である『織斑 一夏』の次に発見された”二番目”の男性適正者『清瀬 春樹』の活躍だ。

 

当初の春樹は、あの世界最強のブリュンヒルデ『織斑 千冬』の弟である一夏ばかりが注目され、各国のみならず自国からも『付属品』『オマケ』『代用品』と認識されていた。

しかし、そんな認識を彼はたったの十分にも満たない時間で覆したのである。

 

第二世代型、それも従来の機体よりもスペックの低い訓練機で各国が総力を注いだであろう三機の専用機を屠った操縦技術に加え、ドイツ軍上層部が奥の手とばかりに詳細をひた隠しにしていた『越界の瞳』にも完全適応する身体。

 

ついこの間まで眼中の端にも入っていなかった『ISが使える”だけ”の一般男子学生』が、今や世界各国が喉から手が出る程の存在になったのである。

 

「彼があの試合に使っていた機体・・・アレが手に入りさえすれば・・・」

 

しかも、そんな一躍有名人となった春樹がその時使っていた機体は、デュノア社の主力商品としていた『ラファール・リヴァイヴ』の訓練用だった。

 

『世界シェア三位』と名高いデュノア社であるが、第三世代機を制作する国策『イグニッション・プラン』においては大きな遅れをとっていた。

IS関連企業とは言え、やはり国からの援助がなければ成り立つ事が出来ないこのご時世。このままだと国からの援助も受けられなくなる・・・という矢先に起こったのが、今回のVTS事件なのである。

 

VTSに飲み込まれながらも生還し、複数の専用機を一度に倒した性能と一対一でしか使えなかったAICを世界で初めて複数相手に使用成功した能力。

そんなISを手に入れられれば、第三世代機の開発どころかの騒ぎではない。政治的にも、軍事的にも優位な立場になることが出来る代物なのだ。

 

「(だが・・・あの学園長がおいそれと渡してくれるかどうかが問題だな)」

 

アルベールの頭に思い浮んだ人物、IS学園学園長『轡木 十蔵』。

修理という名目で申請したものに対し、彼は未だ承認の意志を現していなかったのである。

 

「(ここが踏ん張りどころだ。私にとっても、会社にとっても)」

 

そう思いながら、グラスのワインを飲み干すアルベール。

そのカラになったグラスへ隣から来たウェイターがワインを注ぎ直した。

 

「お客様、当店のお食事は如何だったでしょうか?」

 

「あぁ、堪能させてもらった。実に美味しい食事だったよ。今度は妻も連れて来よう」

 

酔いが回っているのか、いつもの厳格な表情が少し緩む。

アルベールは明日、帰国する前のほんのちょっぴりの寛いだ時間を過ごしていた。

 

「それは良かった。でしたら・・・この後に頂く”ご息女様”は、今の料理よりも実に”美味”でありましょうな」

 

「ッ!?」

 

・・・ワインを注いだウェイターがこんな事を言う前までは。

 

「何者だ・・・ッ?」

 

「ありゃあ? さっきまで俺の事を言っていたのでは?」

 

アルベールが振り返った先にいた若いウェイターはそう言いながら、不自然にかけていたサングラスを外す。

 

「グラサンかけとったけん、バレるかー思うたが・・・案外、大丈夫じゃったのぉ」

 

「!? き、君は・・・ッ!!」

 

黒いレンズから除いたのは、今夜の月のように輝く琥珀色の瞳。

その眼をアルベールが知らぬはずがなかった。

 

「初めまして。デュノア社社長、アルベール・デュノアさん。知っとられると思うが、自己紹介させてもらいます。”二番目の男”、清瀬 春樹です。どうぞ、良しなに」

 

目の前にいたのは、世界各国が注目する男『清瀬 春樹』が左手を胸に添えて立っていたのだ。

 

「あ~。この蝶タイ、結構きついな。あぁっと、前を失礼」

 

「あ・・・あぁ、どうぞ。かけてくれ」

 

「よっこらしょっと」と、未だ驚嘆するアルベールの前へ襟を緩ませながらドカリと腰を据える。

そして、先程アルベールに注いだワインをテーブルに置かれていた別のグラスへドボドボ注ぐと一気にそれを呷った。

 

「ゴク・・・ゴク・・・ッ、くッはァ―――ッ! 美味ぇえの、これ! 高い分だけはあるわなぁ。ねぇ、社長? つーか、日本語上手いっすね、社長」

 

「あ・・・あぁ、ありがとう」

 

アルベールはこの状況にただ困惑するしかなかった。

先程まで考え込んでいた人物が、今自分の目の前で不作法者の山賊のように酒をガブガブ飲んでいる。

しかも、彼はまだ未成年の筈。それなのに目の前でさも当たり前のように酒をかっ喰らっている事に困惑した。

 

「な・・・何故、君がここにッ? 君は確か、全治一か月の大怪我を負ったと・・・それに外には私の部下がいた筈・・・ッ?!」

 

「全治一か月の怪我~? ほぉん、外じゃあそねーに言われよーるんか。じゃけど、俺はこの通りピンピンしとるで? ほんで、その後の質問じゃけど・・・部下の人達、寝不足みたいじゃったんじゃなぁ。ほんのちょっぴりの睡眠薬で眠りこけとらぁ。阿破ッ破ッ破ッ! ・・・しっかしホント美味いな、このワイン」

 

「す、睡眠薬だと・・・ッ?」

 

二杯目をグラスに注ぐ彼の話に冷静になりかけていた頭が再び惑わされる。

 

「君は・・・一体、なにをしにここへ?」

 

「なにって、え~と・・・・・あ、そうそう。さっきも言いましたが、社長の娘さんの事で話に来たんですよ」

 

庶民には滅多に口に入らない高級ワインの美味しさで本題を忘れかけていた春樹だったが、なんとかそれを思い出した。

 

「・・・娘? 私に娘はいな―――「シャルロット・デュノアの事ですよ、社長。変にとぼけようとせんでええですけん」―――・・・ッ・・・」

 

一気に表情筋が強張ったアルベールに対し、春樹はヘラヘラと二杯目のワインを葡萄ジュースのように呷る。

 

「・・・なにが目的だ?」

 

「目的? 目的ねぇ・・・逆にウザい事、聞いていいですか? 何が目的だと思います?」

 

「阿破破破ッ!」と快活に笑う春樹。

だが、目の前のアルベールにしては堪らない程の不気味な笑い声である。

 

「・・・私が思うに。君の祖国、日本政府の意向か?」

 

「いんえ、違いますよ。これは俺が属する”組織”の意向ってやつでさぁ」

 

「”組織”だと・・・? ま、まさか・・・ッ!!」

 

「そのまさかだとしたら・・・面白いですよねぇ、阿破破破!」

 

春樹の言葉に顔を青ざめるアルベール。そんな彼の反応に春樹はニッコリと口角を三日月に歪めた。

琥珀色の眼と相まって、更に不気味さが増徴される。

 

「社長。普通、考えてみてくださいよ。ISを動かせる人間が、ただの一般人な訳ないでしょう? 組織の上の人らぁが年齢詐称してくれたんはええけど、学園の中に入るのだって楽じゃないんですぜ?」

 

「失念していた」とアルベールは眉をひそめた。

目の前の男の言う通り、ただの一般人がISを動かせる訳がない。何らかの裏がある事はある程度の予想は出来ていたが・・・・・

 

「(まさか、彼があの”組織”の一員だったとは・・・ッ。ぬかった! 私はパンドラの箱を開けてしまったかッ?!)」

 

「・・・阿? どうしたんじゃ、社長? 顔色が悪いですだよ」

 

二杯目のワインを早々に平らげた目の前の春樹は、呆気らかんとそう言葉を紡ぐ。

 

「・・・いや、少し飲み過ぎたようだ。気にしないでくれ」

 

アルベールの返答を聞いて春樹は「あぁ、そうですか」と何故か嬉しそうに答えると、ワインをからになったグラスに注ぐことなく、そのまま直接ボトルの口から中身を飲み始めた。

何とも贅沢で、何とも粗野な飲み方である。

 

「それで君の・・・いや、組織の目的はなんだッ? 私に何をさせようと言うのだ?」

 

「あぁ、目的ですか。・・・それを聞く前に社長。これってどう思います?」

 

そう言って春樹がズボンのポケットからスマートフォンを取り出し、その画面をアルベールに見せた。

 

「ッ!? こ、これは?!!」

 

その画面を見せられたアルベールはガタリッと座っていた椅子から立ち上がる。酷く動揺し、さらに青ざめた表情で。

・・・何故、彼がこんな表情になっているのか。

 

≪むーッ! むー!≫

 

それはテレビ通話になっていたその画面の先に目隠しをされ、口に猿轡を噛まされた自分の娘であるシャルロットが椅子に縛られていたからである。

 

「き・・・貴様ァ・・・ッ!!」

 

ギロリと静かに激昂し、怒りの目を向けるアルベール。

そんな目を向けられた春樹は、少し驚いたように目を見開く。そして、ニヤリと笑った。

 

「おんやぁ? なんでそねーに怒っとるんじゃ、社長? スパイとして送り込んだ時点で、こねーな事になるんは想定内じゃろう? まー、落ち着きんさいや。酔ってるんじゃけん、水でも飲みんさいよ。それに下手な事したら・・・解っとるじゃろう?」

 

「・・・ッ・・・」

 

ワナワナと震える手を抑えながら席へと戻るアルベールにケタケタと春樹は乾いた声を木霊させながら、注いだ水を差しだした。

 

「・・・・・目的はなんだ? 金か、それとも専用機かッ?」

 

「まーまー、そう結論を急がんでも」と両手を見せる春樹。だが、その次に見せたのはニタニタとした表情ではなく、無表情に近い真剣な顔。

その表情から、彼はある質問をアルベールに投げかけた。『あなたは自分の娘、シャルロットの存在を一体いつから知っていたのか』と。

 

この問いかけに「え・・・ッ?」とアルベールは一瞬だけだが呆ける。

立場や職業柄、彼は今まで敵対する人間から恐喝される事は珍しくなかった。

しかし、大抵の輩はアルベールの金や会社の秘匿情報が目的だ。

 

「どうしました?」

 

「い、いや・・・」

 

だが、春樹の問いかけに一体どんな思惑があるのか。その疑問にアルベールの頭は引っ張られる。

 

「ふむ。色んな疑問符に引っ張られている社長の為に、もうちょっと具体的な質問を。・・・社長、あなたはシャルロット・デュノアの存在を彼女が生まれた時から知っていた? それとも・・・あなたの父君である前社長の臨終の床で彼女の”存在を聞かされました”?」

 

「ッ!」

 

春樹の言葉にアルベールは酷く驚いたように目を見開いた。

そんな彼の反応に春樹は再び口角を緩ませ、さらに続ける。

 

「十五、六年前。あなたは父君の会社を継ぐ為、将来必要になるであろう知識や能力を学ぶ為にアメリカに渡った。そこであなたは偶然にも同郷の女性と出会い・・・恋に落ちた。その人こそ・・・」

 

「・・・あぁ、シャルロットの母親だ」

 

アルベールは春樹の言葉に頷いた。

・・・なんとも物憂げで、悲しそうな表情で。

 

「恋の炎を燃え上がらせ、愛し合う二人。・・・じゃけど、そんな二人の交際に反対している無粋な輩が・・・・・あなたの父君じゃ。当時、軍事会社としてデュノア社の利益は右肩上がり。更なる規模拡大を狙っていた強欲な前社長は政略的とも言える結婚を画策。反発したあなたはシャルロットさんの母君と駆け落ちしようとした・・・じゃけど・・・彼女はあなたのもとから去った。あなたの父君から世界的有名な大会社を継ぐ息子の将来の為と聞かされ、身を引いた」

 

「・・・ッ」

 

春樹の言葉に過去を思い出すかのように顔をしかめるアルベール。

春樹は尚も続ける。

 

「そんな事とは露知らず、祖国に帰った傷心のあなたは父君の画策に半ば自棄で乗った。そして、デュノア社の規模拡大は成功。このままいけば、世界一の栄冠が掴める・・・筈だった。十年前、あの『白騎士事件』が起こらなければ」

 

『白騎士事件』

ISが『現行兵器全てを凌駕する』ことを世界に認めさせるためにISの生みの親である『篠ノ之 束』が起こした事件である。

日本を攻撃可能な各国のミサイルが一斉にハッキングされ、制御不能に陥った。

だが、突如現れた白銀のISを纏った一人の女性によって無力化。その後、各国が送り出した戦闘機や巡洋艦、空母、監視衛星を一人の人命も奪うことなく破壊。

これによりISは『究極の機動兵器』として一夜にして世界中の人々が知るところになった。

 

「じゃけど、その事件によって現状の兵器類は屑鉄同然と世界は判断した。そんな武器類を扱っていたあなたの会社は業績不振の窮地に直面。さらに会社の存亡に奔走していた父君が心労から急病に倒れた。「もうダメじゃ」と会社を離れて行く者が多くいる中、そんな危機的状況のあなたに寄り添う人物が一人・・・『ロゼンダ・デュノア』、今の社長の奥さんだ。政略結婚とは言え、デュノア夫人はあなたを愛していた。その献身的な愛の御蔭か、IS産業に進出したデュノア社の業績はV字回復。世界有数の大会社に返り咲いた」

 

「そうだ・・・今の私があるのは、妻の・・・ロゼンダの御蔭だ」

 

そう言って、アルベールは安らぎの表情を浮かべるとおもむろに口を開いた。

 

「・・・六年前、父は病床のベッドで私に全てを話してくれた。十五年前、私と彼女との仲を引き裂いたのは自分であると。そして、その時彼女は私の子を身ごもっていたと。父は涙を流しながら私に謝罪し、その一時間と経たぬうちに亡くなった」

 

「その事を聞かされたあなたは、父君の足跡からシャルロットさんの母君を見つけた。彼女はあなたのもとを去った後、生まれ故郷のフランスの田舎に帰っとった。じゃけど・・・」

 

「・・・スキルス性のステージ4、もう手の施しようがない状況だった」

 

ドンッとアルベールはテーブルに拳を打ち付ける。

なんとも悔しそうな表情から悲哀の感情が伝わって来るようであった。

 

「その後・・・あなたは彼女からシャルロットさんを託されて引き取った。じゃけんど、引き取ってはみたものの、初めて顔を合わせた娘に過去の罪悪感からどう接していいか解らず今に至ると。・・・不器用じゃね~」

 

「・・・もういいだろう、私の身の上話はッ。早く目的を言ってくれッ、私に出来る事ならなんだってする! だから、娘には・・・シャルロットには!!」

 

「・・・・・」

 

懇願するアルベールに春樹は少し考え込んだ後、グイッとワインボトルを呷る。

そして、そのままゴクゴクと最後まで中身を飲み干した後に彼はまたしてもこう言った。「そう結論を急ぐな」と。

 

「最後に二つ質問がある。こっちで掴んだ情報だと、あなたはシャルロットさんを暗殺から守る為にIS学園に送り込んだんでしょう?」

 

「ッ・・・そんな所まで掴んでいるのか、君達『亡国企業(ファントム・タスク)』はッ?」

 

「ふぁんとむ・・・・・はッ?」

 

「・・・・・ん?」

 

奇妙な沈黙と間が空いたが、春樹は”勘付かれまい”と捲し立てる。

 

「その暗殺の首謀者って、もしかしてデュノア夫人ですか?」

 

「・・・なんだとッ?」

 

「そう考えるのが自然でしょう。社長夫人は不妊体質。しかもシャルロットさんの存在が分かる一年前に不妊治療を諦めている。愛する人の子供が出来ない故の悔しさかと、昔の女への嫉妬から彼女を暗殺する動機には―――――」

 

「ふざけるな!!」

 

アルベールは激昂し、テーブルに拳を叩きつけた。

 

「確かに妻は一時、シャルロットと仲違いで逆上した事がある・・・だが、彼女はその事について酷く後悔していた。今回の件でもシャルロットを助ける為に私を手助けしてくれたのだ!」

 

「なら、奥様はシロだと?」

 

「そうだ!」

 

「そいつは良かった」

 

「え・・・」

 

呆気らかんと案した様に朗らかな表情でそう答えた春樹にアルベールは再び呆気に取られる。

奇妙で醜悪な表情を見せる一方で、時として無邪気な子供のような笑みを浮かべる彼にアルベールは例えようのない不思議な感覚を味わった。

 

「なら最後の質問です、アルベール・デュノアさん。あなたはご息女を・・・シャルロット・デュノアを愛しておられますか?」

 

「当たり前だッ。たった一人・・・たった一人の私の娘なんだぞ!」

 

「・・・破破破・・・阿破破破ッ、阿ーッ破ッ破ッ破ッ破ッ破ッ!!」

 

春樹は笑った。なんの躊躇いもなく盛大に笑った。

愉快に愉快に、弾むような声で笑い声を部屋中に響かせた。

 

「ッ・・・!」

 

その笑い声にアルベールの酔いは完全に覚め、目の前で狂喜に悶える一種の恐怖を覚えてしまった。

 

「な・・・なにが可笑しいッ?」

 

「阿破破ッ。いえいえ、お気を悪くされたのなら失礼。そんじゃあ、俺の目的について話しますね」

 

そう言って春樹は席から立ち上がると個室の扉へを大きく開ける。そして、「入って来んさい」と奥にいるある人物の腕を引っ張った。

 

「な・・・ッ!?」

 

春樹が腕を引っ張って来た人物にアルベールは酷く驚嘆した。

何故ならば・・・・・

 

「シャ・・・シャルロット・・・!!」

 

「・・・・・」

 

其処へ立っていたのは、IS学園の制服に身を包んだ自分の娘だったからである。

 

「こ、これは一体どういうことだ!? 何故、ここにシャルロットが?! ならば、あの映像は一体ッ!」

 

慌てて動揺するアルベールに春樹は「落ち着き下さいや」と両手を見せる。

そして、漸く自分の目的を話し始めた。

 

「俺の目的は・・・社長、ここにいる”彼”と話をして頂きたい」

 

「彼? いや、其処に居るのは―――――ッ」

 

「ええ、そうです。あなたの不器用な愛が作り出した、『シャルル・デュノア』という存在しないあなたの御子息です。彼に今まで隠していた全てをお話しください」

 

「は、春樹・・・」

 

真面目な表情でアルベールに対する春樹の腕の裾をとても不安そうな表情で抓むシャルロット。

春樹はそんな彼女の両肩へ手を添えると、彼女の瞳に自らの琥珀色の瞳を合わせる。

 

「デュノア、お前は今まで人に流されて此処まで来たんじゃろう。じゃけどなぁ、これからは自分で自分の道を決めにゃあおえん時が来る。その練習じゃあ思やぁええ」

 

「れ、練習にしてはハードルが高いよ・・・!」

 

「じゃあ本番じゃ。全てを知った上で受け入れるか、それとも切り捨てるか。お前が決めろ、お前が決めるんだよ!」

 

「ッ・・・う、うん・・・!」

 

強引ではあるが、シャルロットの瞳が決意の眼差しへ変化した事を確認した春樹は大きく深呼吸をする。

一仕事終えたような感じで、肺の中の空気を全部吐き出す。そして、通路の奥にいる人物に目配りをした。

 

「それでは、社長。この目的の為に、こんな茶番劇に付き合ってくれた事に感謝と謝罪をさせて頂きます。申し訳ございませんでした」

 

そう言って部屋から立ち去っていく春樹。

 

「すぅ・・・ハァー・・・ッ」

 

部屋の入口に残ったシャルロットは大きく一呼吸を置くとアルベールの方へ視線を向けた。

 

「・・・”お父さん”、ボクと話をしてください」

 

「・・・シャルロット・・・」

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「これで良かったのですか?」

 

そう春樹は通路の奥にいた人物、IS学園学園長『轡木 十蔵』に声をかけられた。

 

「さぁ? 良かったんじゃあないですか?」

 

「「さぁ」って・・・下手をすれば、国際問題になりますよ」

 

「そん時は、そん時です。頼みますよ、学園長先生」

 

「人任せですか、あなた?!」

 

ツッコミを入れる轡木に「阿破破」と軽く流す春樹。

 

「それじゃあ、俺は下の階のバーでウィスキー喰らって来るんで。終わったら、呼んでくだせぇ」

 

そう言って早々に立ち去ろうとする春樹に轡木は聞く。「・・・何故、最後の要望にこれを選んだんですか?」と。

すると彼は少し考え込んだ後、困った様に笑いながらこう返した。

 

「こんな漫画みたいな色の目ん玉になっちまったんでね。”らしくない”事がやってみたくなったんですよ。阿破破破ッ」

 

そう言って春樹はエレベーターホールに向かう。

腹も減ったから、ついでにステーキも食べようと心に決めながら。

 

「・・・フフッ・・・図れない人ですね」

 

轡木は彼の後ろ姿を見ながら、そう呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 





・・・・・はい。という訳でリハビリ投稿でした。◆◆◆◆◆
・・・長くなっちゃったで。
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