『ガンダールヴ』。
そりゃあ『ゼロの使い魔』っていう作品において、主人公である『平賀 才人』がヒロインである『ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール』、通称『ゼロのルイズ』に使い魔召喚された事で、左手の甲に刻まれたルーンの事じゃ。
《――――――――・・・・・ッ》
能力としちゃあ『あらゆる”武器”を手で触れただけで百%使いこなす事が可能』なんて言うシンプルじゃけども、シンプルが故に強い能力じゃ。
この能力で才人は青銅で出来た自動人形を砕き、巨大なゴーレムの身体を斬り裂き、ゲリラ豪雨のように降りしきる鏃の雨を切り払いながら邁進する程じゃ。
《―――――・・・きて・・・きッ》
そねーに凄ぇもんが、何でか知らんが俺の左手の甲にも刻まれとる。
最初はこの大きな戦争もない平和な世界で何とも不必要なモンじゃと思うとった。
・・・じゃけど、このルーンのせいで俺はISを動かしちまうし、このルーンのおかげで今までの危機的状況も乗り越えられた。
有難さと忌々しさが混雑した複雑な気持ちにさせられる能力じゃでよ。
《―――おきて・・・るきッ!》
さて、このガンダールヴ。実はとんでもなく応用性が高い。
さっきも言うたが、ガンダールヴは『この世のありとあらゆる”武器”を十全に使える事が可能』という能力じゃ。
じゃったら、屁理屈染みとるが『他人の使っとる武器も使える』や『相手からぶん盗った武器も使える』って言う事になりゃせんか?
そー言う能力を持っとるキャラクターを俺は少なくとも一人は知っとる。
そのキャラは正義を愛し、女性を敬い、邪悪を憎む清廉にして浪漫に溢れた其の姿は世界で最も有名な王様の一人に『理想の騎士』と評される程じゃ。
じゃけんこの騎士の名前は色々な作品で使われるし、大抵その名前が付いた人物や機体は最強クラスの強さを持っとる。
正に『最強の騎士』ってヤツなんじゃけども・・・この野郎の不貞行為がキッカケで国が滅びる事になったし、晩年の『最期は自らの食を持って生を終えた』とあるように餓死した言う残念な話じゃ。
あと個人的なんじゃけども、コイツの名前が付いてる機体へ乗っとる野郎が気に喰わん。スゲェ個人的じゃけども、なんか気に喰わん。
・・・まぁ、そねーな話は置いといて。
そんな野郎の”宝具”と同じ用途でガンダールヴの能力を実際に使う言うんは、何でか知らんが気が引けた。
別に今まで相手の武器をぶん盗って使う言う程の状況はそうなかったけんな。
・・・・・・・・じゃけどなぁ――――――――
《起きて、春樹ッ!》
―――そねーな事を四の五の言うとる場合じゃないんは確かじゃ。
・・・てか、この声誰ぇ??
◆◆◆◆◆
「・・・ッ、ァあ・・・ッ?」
「ッ、春樹?!」
福音からの猛攻で意識を失った春樹が目を覚ませば、彼はシールドパッケージ『不動岩山』を展開した簪の腕の中へ納まっていた。
そんな意識を取り戻しても尚、未だ血を垂らしながら朧げな眼を浮かべる彼を簪は目に一杯の涙を堪えて「良かったッ・・・生きてた・・・!」と腕の力を強める。
「あ阿”ッ・・・簪さん、俺ッ・・・どれくらい意識を失とった・・・? というか・・・どういう状況じゃ・・・ッ?」
「えッ・・・」
だが、今にもまた意識を手放してしまいそうな危うい状況にも関わらず、春樹は現状説明を簪へ求めた。
彼女はそんな彼に呆気にとられつつも、周囲で繰り広げられている戦闘状況を口にする。
「春樹が倒れる直前・・・旅館で治療中だった織斑くんが来て、福音に攻撃を仕掛けたの。それで、今は皆と連携しながら福音を攻撃してる」
「そう、か・・・音の感じからして、まだ野郎は元気みたいじゃな・・・ッ」
「ッ・・・春樹、もしかして目が・・・!」
「だい、じょうぶじゃ・・・段々と目が見えて来た。破破ッ・・・なんじゃあ、簪さん。君、花粉症じゃったんか? 目が真っ赤っかじゃで」
「もう、馬鹿・・・ッ!!」
目頭へ溜まった涙をゴシゴシと乱暴に拭う簪に春樹は「通信インカムを貸してくれんか?」とまだ無事な方である左手を出す。
彼の使っていた通信機器は、福音との戦闘で故障して使い物にならなくなっていたからだ。
其の簪から借りたインカムで、春樹はヤキモキしているであろう作戦司令部へ連絡を試みた。
「もしもし、此方サーヴァントリーダ―――≪無事かッ、清瀬少年!!?≫―――ッ五月蠅・・・!」
すると、インカムから春樹の耳をつんざく様に大音量で震える壬生の声が聞こえて来るではないか。
≪大丈夫かッ、無事なのか?! こっちじゃあ衛星カメラで少年が血塗れだという事が確認できるんだけども!!≫
「落ち着いて、下さい・・・俺ぁ大丈夫です。ゴフッ・・・」
「春樹!」
≪清瀬少年ッ!?≫
咳と一緒に血を吐き出した彼に簪と壬生は再び慌てふためく。
そんな二人を「大丈夫、大丈夫ですけん」と抑えながら、春樹は壬生にある事を聞く。「琥珀ちゃんのエネルギー残量はどれくらいですか?」と。
「は、春樹・・・ッ?」
「こっちじゃあ野郎にディスプレイやらなんやかんやぶっ壊されてしもうて、確認できんのんですわ」
≪な・・・なにを言っているんだ、少年ッ? まるで、まだこれから戦うみたいな事を言って・・・冗談でも、おじさん怒るぞ!!≫
声を荒らげる壬生に春樹はぜろぜろ声を掠らせながら、「ところが・・・ギッチョン」とぎこちなく口角を上げながら絞るような声を出した。
≪ッ、ダメだ! だめだ、ダメだッ、駄目だッ! 今の少年の身体では福音との戦闘は不可能だ!! 血圧や心拍数だって下がってきているんだッ、そんな状態で戦えばどうなるかッ!!≫
「じゃあ、野郎に・・・織斑の野郎には伝えてあるんですか? 福音に・・・搭乗者がいる事を。セシリアさんらぁも野郎との戦闘が忙しいけん、伝えられてなかろうけんな」
≪そ、それは・・・ッ≫
壬生は春樹の問いかけに口籠もった。
春樹の一時的な意識消失直前へ、突如として現れた昏睡状態から復活した一夏。その彼が纏うIS、白式は福音と同じ二次形態移行である『雪羅』へ至ってはいた。
だが、そんな彼と春樹の後を追って来た専用機持ち達との戦闘を福音は意外にも長引かせていた。
「織斑は二次移行して直後じゃろうけん、力の使い方が加減できん。そねーな状態で戦ったら、福音の中に居る人が危険じゃ。かと言うて、搭乗者がいる事を伝えたら伝えたで織斑の野郎は手加減する。じゃけど・・・手加減して勝てる相手と違うで、野郎はッ」
≪しかし・・・こうなってしまえば手段は選んでいられない! 今更、瀕死状態の君が福音へ立向った所でどうなる?! それに琥珀のエネルギー残量は長く持っても”三分”しか持たないッ、そんな状態で立向えば犠牲者の最低人数が一人から二人へ増えるだけだぞッ!≫
「・・・”三分”か・・・十分じゃ・・・ッ!」
「おいッ、聞いているのか?!!」とインカムから聞こえて来る壬生の怒声を上の空で、春樹はいつものように「阿破破破ッ」と笑い声を漏らした。
「ッ・・・ダメ・・・駄目だよ、春樹・・・ッ!」
「阿?」
其の良からぬ事を考えているであろう彼の身体を離すまいと簪は腕に力を籠める。
春樹はそんな風に顔を強張らせる彼女へ朗らかな笑みを浮かべ、口元の血を拭いながら口を開いた。
「『福音は”倒す”』が『福音に乗っとる搭乗者は”助ける”』。矛盾しとるこの二つをやりゃにゃあおえんのが、この任務の辛い所じゃ。じゃけぇど・・・両方やるんは訳ない事じゃ」
「春樹、一体何を―――――ぅッ!?」
春樹は何のためらいもなく簪の鳩尾へ拳を放つ。
打鉄弐式の防御装置が働き、然程ダメージはない。しかし、自分の身体へ引っ付いていた簪を引きはがすには十分だった。
「うぅるぉあ”あ”あ”あ”あ”――――ッ!!」
雄叫びを上げながら、春樹は最大出力でスラスターを吹かす。
そのまま一直線で福音へ向けて弾丸のように飛んで行く途中、彼は「初陣で、こねーにボロボロにしてしもうてゴメンな」と琥珀に呟く。
すると、《大丈夫、私は貴方の”牙”だから》と何処からともなく幼い少女の声が聞こえて来るではないか。
之に春樹は「あッ・・・もう俺、駄目かもしれん」と腹を括った。
◆◆◆
「くッ、この!!」
≪LA”A”A”ッ!!≫
第一次福音討伐作戦による大ダメージから見事な復活と白式の二次形態移行を遂げた一夏。
左手への多機能武装腕『雪羅』の発現と大型化したウイングスラスターが4機備わっており、『二段階加速』が可能。加えて、加速のためのエネルギー充填速度も三分の二へと短縮されて最大速度も+五十%くらいまで向上した。
だが、前回の戦闘データから一夏の戦闘スタイルを学習している福音は、自機の長所である俊敏さで彼と距離を置きながら攻撃を交わす。
≪A”A”A”A”A”A”A”ッ!!≫
「ッ! コイツ、またッ!!」
「卑怯者めッ!」
他にも白式は一次形態移行よりもエネルギー消費量が格段に増え、単騎では力を発揮しきれず、紅椿の単一能力『絢爛舞踏』による補助を得なければならない。
その補給の隙を狙いながら、福音はのらりくらりと攻撃を仕掛けて行く。
本来ならば、この事件の黒幕である束が一夏の実力にあった福音の出力調整を行うのだが・・・事件発生当初時の束からの過干渉負荷と春樹から繰り出されたAICの影響により、外部からのデータ入力を全く受け付けない本格的な暴走状態に成り果ててしまったのである。
「御免あそばせッ!!」
≪ッ!≫
そんな真のバーサーク状態で二人へ襲い掛かる福音にセシリアのライフルがズギャンッ!と火を噴く。
これを福音は持ち前の反射速度で回避するのだが―――
「うぉおおおおおッ!!」
「うわぁああああッ!!」
「これでも喰らいなさいッ!」
回避した所へ待ってましたとラウラのプラズマ手刀とシャルロットの近接ブレードが待ち構える。
更に背後からは鈴の衝撃砲が唸りを上げた。
≪・・・LA・・・♪≫
「「「なッ!?」」」
だが、またしても福音は之を風に舞う一枚の羽のように躱す。
そして、クルクルと駒のように回転しながら傍迷惑な程にエネルギー光弾を其処ら中にばら撒く。
「アイツ・・・!」
「まるでこっちの動きを全部読んでるみたいに・・・ッ」
ギリリと歯噛みする一夏達を嘲笑うかのように福音は≪LA・・・LA・・・♪≫と無機質な機械音声を弾ませる。
「これじゃ、埒があかない。どうすればヤツを―――「おぉおおおおおッ!」―――ラウラッ!?」
多数の機体で福音の周囲を囲んでいるにも関わらず、ちょこまかと動き回る福音に皆が難儀していると、またしてもラウラが両腕のプラズマ手刀を展開して突撃をかけた。
しかし、福音は之を容易に回避。それでも尚、ラウラは威力の高い近接戦闘武器で攻撃を仕掛ける。
「貴様の、貴様のせいで春樹は!!」
≪・・・LA”ッ≫
「うぐッ!?」
「ラウラ!」
その攻撃がついに鬱陶しくなったか、福音はラウラのワイヤーブレードを避けたと同時に強烈な蹴りの一撃を彼女の脇腹へ叩き込む。
絶対防御の許容範囲を超えた衝撃がメキメキとか細い彼女の身体を襲う。
「ぐぅ~~~ッ! あぁああああッ!!」
≪LAッ!?≫
だが、流石は軍属か。ラウラはこの攻撃を逆手に取り、超近距離からAICを福音に向けて放った。
ギョロリと鋭い灼眼と怒気の籠った琥珀色の眼が福音を突き刺す。
「今だッ、やれぇええ!!」
「ッ、おう!!」
ラウラの作ったこの好機にエネルギー補給を終えた一夏は荷電粒子砲の狙いを定める。
勿論、福音を抑えている彼女に当たらない様に慎重にだ。
けれども、ラウラが言ったこの言葉は別に雪羅を構える一夏に対して言い放ったものではない。
「―――――あぁああぁッ!」
「え・・・?」
「この声・・・まさか!?」
前方より迫り来る自らの鮮血で機体を濡らしたバーサーカーに向けて言い放ったのである。
「阿”ぁ”あ”あ”あああッ!!」
「遅いぞ・・・馬鹿者ッ・・・!」
「清瀬、お前無事だったん―――「邪魔じゃ、ボケェッ!!」―――グふぇッ!?」
「「一夏!!?」」
≪ッ!!?≫
突撃射線上に佇んでいた一夏を轢き飛ばしつつも、福音へ迫る春樹。
流石の事件の黒幕もこの展開は予想していなかったらしく、福音のバイザーの向こう側で泡を喰らう。
「ヴぅろぉおお阿”ああぁッ!!」
超音速のまま福音の胸部目掛けてズタボロに引き裂かれた右手をバシィイン!と叩きつける春樹。されど、この攻撃は大した威力でもない平手打ちである。
福音はこれを躱して迎撃態勢をとろうとした。
≪A”A”A”A”A”A”A”ッ!?≫
だが、この男がヤケクソ紛れに唯の平手打ちをする筈がなかった。
なんと彼の右手は福音の胸部装甲へピッタリと張り付いていたのである。しかも、その手の周りは”蒼白い氷”で覆われていた。
「流石は琥珀ちゃんを製作したチーム・・・ええ仕事しとらぁ!」
春樹は平手打ちの直前、右掌へ壬生から渡された十一式氷結炸裂榴弾を撒きつけていた。その氷結弾が平手打ちの衝撃により炸裂。彼の右手と福音の胸部を一時的に接着したのである。
≪LA”A”A”A”A”A”A”ッ!!≫
胸に張り付いた蟲を必死に取ろうとエネルギー光弾を乱射せんと砲口全てを春樹に向ける福音。
そんな事をさせんと春樹は―――――
ズシャリッ!
≪!!?≫
―――残った左腕へ仕込み武器として装備されていた『ウルナ・エッジ』を福音の脇腹へ刺し貫いた。
≪A”A”A”A”A”ッ!!?≫
「覚悟はええか、”福音ちゃん”? 俺ぁ出来とるで・・・!」
痛みに悶えるかのように酷く雑音の入った機械音で喚き散らす福音に対し、春樹はこれまでの御返しとばかりに口角を耳まで裂ける位に三日月へと歪めながら、バイザーの向こう側にいる人物にでも語り掛けるかのように叫んだ。
「お前も”武器”なら、俺のモノになりやがれ!!」・・・と。
≪~~~~~・・・ッ!!≫
脇腹へ左手ごとウルナエッジを刺し込まれた福音は、声にならない声を絶叫しながら果てて停止。
アーマーを失い、スーツだけの状態になった搭乗者を残して待機状態へと戻った。
「ハァ・・・ハァッ・・・破破ッ、阿破破破破破ッ・・・阿ーッ破ッ破ッ破ッ破ッ破ッッ!!」
暴走した銀の福音からようやく解放された搭乗者を抱きかかえながら、春樹はタガが外れたようにゲラゲラゲラゲラと大笑いを周囲に響かせる。
そして―――――
「阿ッ破ッ破ッ破ッ破ッ破ッ破ッ破ッ―――――ぶビぅッ!!?」
「春樹ッ!!?」
目、鼻、口から血と正体不明の液体を吹きだして白目を剥いた。
それでも尚、琥珀を解除しなかったのは彼の”覚悟の表れ”だったのだろう。
・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆