IS/Drinker   作:rainバレルーk

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第60話

 

 

 

暁の夜明けと共に作戦完了した第二次福音討伐作戦。

その後、『銀の福音事件』と呼称されるであろう作戦が終了した当日の夜。

 

「ぅ・・・うぅ・・・ッ!!」

 

AICによる攻撃で、福音を機能停止に追い込むキッカケを作った今作戦の功労者であろうラウラは、怪我の為に搬送された医療機関のベッドの中で眠れぬ夜を過ごしていた。

作戦が成功したにも関わらず、何故に彼女はその灼眼と琥珀色の瞳を涙で濡らしているのか。

其れはやはり、今作戦最大の功労者を思っての事だろう。

 

今回、太平洋上の日本領海区域内で発生したアメリカ軍所属の軍用IS『シルバリオ・ゴスペル』(日本呼称名・『銀の福音』)の暴走事故。

その対応と対処を行ったIS学園所属の専用機持ちである生徒の過半数は無傷か軽傷であり、第一次福音討伐作戦内に置いて、銀の福音の拡散攻撃により一時は昏睡状態へ陥った織斑 一夏は、第二次福音討伐作戦遂行中に突如として全快。加えて、自身の専用機である白式を二次形態移行させた。

・・・しかし、何事にも『例外』というものは存在する。

 

作戦参加者生徒の中で、福音からの攻撃でダメージを負った者は二人。

一人は第二次福音討伐作戦において、上半身へ福音からの打撃攻撃による打撲傷を負ったラウラだ。

幸いにも彼女はISによる絶対防御のおかげで大事をとっての入院はしたものの、軽いもので済んだ。

・・・だが、問題なのはもう一人の方だ。

 

「ッ・・・春樹・・・!」

 

暴走した銀の福音の搭乗者の生命を奪うことなく、機体の機能完全停止を成功させた春樹。

しかし、その代償は割に合わないものであった。

 

福音との苛烈な戦闘による戦傷は全身各所に渡り、特に上半身へのダメージは外部内部ともに合わせて酷いものであった。

外傷は上から右側頭部の陥没と左下顎のひび割れに始まり、肋骨や右手と左腕の粉砕複雑骨折。内傷は折れた肋骨が肺に突き刺さっての内出血に胃の圧迫破裂。

他にも例を挙げればキリがないが、目を覆いたくなる凄惨たる状況に彼は陥っていた。

 

「春樹・・・春樹ッ・・・ぅう・・・ッ!!」

 

そんな状況下でも、何とかこと切れずに集中治療室で眠っている春樹を心配そうな表情で見つめていたラウラを院内の看護師達は気遣った。

うら若き顔立ち整った美しい少女が、時間の経過と共にやつれていく姿は見るに堪えないものだったのだろう。

 

看護師達や常駐していた臨床心理士に促され、ラウラは怪我の治療と休息を渋々受けた。

その後、暴走事件を知らない他の生徒達に怪しまれない為に傷を負った二人以外の生徒達は学園へ帰還する事と相成る。

無論、無傷で済んだ作戦参加者たちもだ。

 

勿論、学園へ帰還する簪やシャルロットを始めとした専用機持ち達は治療の為に残ったラウラと春樹を心配したが、皆のその心配を彼女は随分と冷めた面持ちで受け答えた。

特に「貴様が余計な事をしなければ・・・!」と第一次福音討伐作戦でヘマをやらかした一夏に対しては八つ当たりに近い感覚で辛辣な感情を向けた。学園へ転校してきた初日のように。

 

・・・けれど、そんな事をしても意味もないという事をラウラ自身が一番よく解っていた。そんな事を思っても彼が目覚めぬ事など重々承知の上。

だが、この行き場のない憎悪と悲哀の感情はグルグルグルグルと彼女の中を這いずり回り、軽傷で済んだはずの怪我をズキズキと生々しく余計に痛ませた。

やがてその痛みは「もっと自分が強ければ・・・」「自分が弱かったせいで・・・ッ」という自己嫌悪の坩堝へと誘い始める。

 

「・・・・・・・・」

 

そんなドブ川のヘドロのように淀んだ感情を内に溜め込みながら、ラウラはムクリとベッドから身体を起こした。

シクシクとただ静かに泣き腫らした為か、彼女の喉は渇きを訴えたのである。

 

「ッ・・・ッ・・・」

 

まだ喉奥から出て来そうになる嗚咽を堪えながら、ラウラは自販機等が置いてある患者や職員の休憩所へ壁を伝いに向かう。

 

時刻は21時を少し回る頃。

昨夜から今朝にかけて行われた熾烈な戦いが幻想だったと思わされるくらいに夜は静けさにとんでいた。

そんな中、休憩所へ漸う辿り着いたラウラは自販機に一定額の硬貨を入れる。

夜だと言っても、季節は夏を指す頃。院内に冷房が効いていても、自然と彼女は冷たい飲み物を選んだ。

そして、ガコンッと落ちた缶ジュースを取り出し口から拾い上げ、プルタブをプシュリと開けて中身を一気に飲み干す。

 

「んく・・・んく・・・ぷはぁ・・・ッ」

 

缶の中身を半分ほど飲み干したラウラは休憩所の窓から見える月をぼんやりと眺めた。

・・・すると・・・

 

「ありゃあ? ラウラちゃんじゃがな」

 

「・・・?」

 

此処には絶対にいない筈の聞き慣れた声が背後から聞こえて来た。

声のする方を見れば、其処には―――――

 

「こねーな所でなにしょーるんな? 俺よりも軽い言う話は聞いたんじゃけど、怪我しとるんじゃけん安静にしとかなぁ」

 

「は・・・るき・・・?・・・・・春樹ッ!?」

 

―――休憩所の本棚から取り出したであろう雑誌を読みふける重傷を負った筈の春樹がいたのである。

 

「え・・・えッ・・・え・・・ッ??」

 

ラウラは自分の網膜に映っている事柄に脳がフリーズしてしまう。

何故ならば・・・今朝方、全身を包帯でぐるぐる巻きにされ、人工呼吸器や心電図等の生命維持装置を付けられてベッドに横たわる彼の姿を目の当たりにしていたからだ。

 

そんな瀕死の重傷を負った筈の男が、半日とせぬ内に自分の目の前でケロッとした顔のまま椅子の上で胡坐をかいて週遅れの少年ジャンプを読んでいるのだから、かなり驚く。

 

「は、春樹・・・お前、な・・・なぜ・・・重体だった筈ッ・・・!」

 

カランッと驚きの余り持っていた缶ジュースを床へ落としながら、ラウラは絞るような声で呆然とそう言葉を紡いだ。

そんな声を震わす彼女に対し、この男は「阿? あぁ、治った」と何とも緊張感のないあっけらかんとした言葉を返す。

 

「な、治ッ・・・は? えッ・・・!?」

 

「あぁ・・・そりゃあ、そねーなリアクションになるわなぁ。まぁでも、俺が一番吃驚しとるんじゃけどな。福音ちゃんと戦よーる時から無事じゃ済まんと思っとったんじゃけど、寝て起きたら何でか知らんが五体満足で元気になったでよ」

 

「寝て、起きたら・・・えッ・・・え・・・?!」

 

困惑し、動揺するラウラに春樹は「阿破破ノ破!」といつものようにケラケラ笑う。

 

「でも、一応身体に異常が無いかを調べにゃあおえんけんな。それでこれから緊急検査なん―――「春樹ィイイ!!」―――って、のわ!!?」

 

ケラケラといつものように奇妙な笑い声を陽気に弾ませる春樹に向かってラウラは突然ガバッと飛びかかった。

春樹はそんな彼女を思わず受け止め、両者は傍から見れば抱き合う形となる。

 

「春樹ッ・・・はるきぃ・・・うわあああッ、わぁああ!!」

 

彼の胸へと飛び込んだラウラは、今まで心へ溜め込んで来た全ての感情を吐き出す様に叫んだ。

もう枯れ果てて出ないと思っていた涙が、灼眼と琥珀色の瞳から堰を切ったようにボロボロ溢れ出す。

 

「えッ、ちょ! ラ、ラウラちゃんッ?」

 

一方、抱き着かれた春樹の方はどうしたらいいのか解らずにアタフタ慌てる。さっきまで読んでいた『ONEPEACE』の展開がどうでも良くなるくらいに。

 

「わ、私はッ・・・お前が、あの戦いで・・・ひっぐ、うわあ”あ”あ”ッ!!」

 

「あぁ、あーッ、解った解った。俺は大丈夫じゃけん、そねーに泣かんでくれよ! ほら、五月蠅うしとったら看護師さんらぁに怒られるで?」

 

「そんなことしるか、バカー!! わぁあああああッン!!」

 

「おーおー、よしよし」と童のように泣き喚くラウラを抱きしめながら、春樹は彼女の頭を撫でる。そして、彼女が落ち着くまで背中を一定のリズムで優しくポンポン叩く。

 

「うぅ、ぐス・・・・・春樹・・・!」

 

漸く落ち着いたのかと未だ涙が零れてはいるが、顔を上げるラウラ。

其れに対して春樹は「どうしたんなら?」と優しく声をかけようと”した”。

 

・・・この時、何故に”した”という過去形になるのか。

其れは、言葉を紡ぐ前に―――――

 

「・・・んむッ」

「ッ!!!??」

 

―――――春樹の唇へラウラが自分の淡い紅色の唇を合わせたからである。

所謂、『キス』をラウラは春樹にしたのだ。

 

・・・因みに。

これまでも二人はキスを交わす機会があったのだが・・・なにぶんと邪魔者が入る事が多かったので、今回が『三度目の正直』という結果だろう。

 

「え、あッ、へ、や!? ラウラちゃ・・・!!?」

 

突然の彼女からのキスに顔を真っ赤にし、これ以上ない慌てようを晒す春樹。

其の彼の両眼は、今夜の月夜のように琥珀色を通り越して黄金に輝いていた。

・・・しかし、事は之だけに留まらなかったようで。

 

「・・・けっこんする・・・」

 

「阿・・・ッ?」

 

「私はッ、お前と結婚するぞ、春樹!」

 

「阿”ッ―――――んグッ!!?」

「ちゅうー!」

 

ラウラの衝撃的な発言に素っ頓狂な声も上げられぬまま、春樹は再び彼女に唇を奪われてしまう。

・・・・・漸く彼女が彼の唇から離した頃、ラウラは溜め込んでいた疲労感と共にそのまま寝入ってしまった。

 

「え・・・え―――――ッ???」

 

唯一人。

この状況が未だ飲み込めれない春樹は検査準備完了を告げに来た看護師に呼ばれるまで、唖然とした表情のままに窓から見える月を眺めるばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 





・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆
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