なるべく本編には絡まないように書きましたが、読んでくださると幸いです。
番外編①〜星に願いを〜
「七夕パーティーをするわよ!!」
「………はい?」
入学してから約3ヶ月がすぎた頃、絢瀬先輩が唐突に言い出した。
まだ僕は生徒会の成員ではないが、どうせ立候補する予定ならと東條先輩に引っ張られる形でなし崩し的に毎日仕事をしている。
「だから七夕パーティーよ!七夕パーティー!」
そんなアイマスですよ!アイマス!!みたいに言われましても……。
「今日の放課後、私の家でやるわよ!希は来るって言ってるから貴方も来て?」
「いや……僕は遠慮しておきま「よし!決定ね♪」僕の意思はないのか……」
「絵里ち、なんだかんだ言ってこういうイベントできるように仲のいい人が殆どいなかったからはしゃいでるんよ。大目に見てあげてな?」
東條先輩のからかいに一々真面目にリアクションする絢瀬先輩。
「なっ?!希は少し黙っていて!!わ、私にだってパーティーを開ける友達が……友達が………」
「わかりました、僕も行きますよ……どこに行けばいいんですか?」
「パーティーは私の家でやるけど、放課後に買い物をして帰るからその荷物持ちもお願いできる?」
僕が頷くと絢瀬先輩はウインクして仕事に戻っていった……ウインクは心臓に悪い。
買い物をしながらふと気になったことを尋ねることにした。
「七夕パーティーと言っても、具体的には何をするんですか?」
「そうねぇ…ご飯食べて、皆でワイワイ騒いでゲームしたり?」
「それ普通のパーティーじゃダメなんですか?」
絢瀬先輩は一瞬言葉に詰まると僕から顔を逸らして前を見る。
「そうね、本当は…理由なんてなんでもいいの」
その時の絢瀬先輩の横顔は、とても寂しそうな笑顔だった。それでも僕は、素直に綺麗だと思ってしまった。
「私にとって希や保科君は、初めてできた親友なのよ。だから、私は今この時をできるだけ笑って過ごしたいの。ごめんね、自分勝手で」
親友、その言葉は、不思議と僕の中にストンと収まった。収まったはずだった。
(なんでだろう……少しモヤモヤする)
「いいんじゃないですか?」
モヤモヤは喉の奥に押し込めて、僕は咄嗟に取り繕う。
「親友にくらい、遠慮しないで接してもいいんじゃないですか?絢瀬先輩は学校で普段気を張りすぎてますからね。そこが先輩のいい所でもあり弱いところです」
取り繕う為に言葉を絞り出したとはいえ、これも紛れもない本心だ。
「弱いところ……?」
「ええ、そうです。気を張っている分、絢瀬先輩は一人で抱え込んでしまう癖があるように思われます。自分一人で解決出来ると錯覚していることが多々あります」
「うっ……鋭いわね…」
「まあ、それが弱点なら克服する方法として最も手っ取り早いのはその親友に頼ることじゃないですか?僕も東條先輩も、頼ってもらえる方が嬉しいですし」
そんな事を言われると思っていなかったのか、キョトンとした顔になると、その後には花が咲くように笑ってくれた。
「ありがとう……本当にありがとう、保科君」
「いえ、絢瀬先輩はその方がいいですよ」
「?」
ほとんど無意識だった。
「先輩は、笑っている方が魅力的です」
「ふぇ?」
「え……あ………」
うっかり口が滑って余計なことを言ってしまった。絢瀬先輩も顔を真っ赤にして怒ってらっしゃる。
「なんでもありません、早く買い物を済ませて絢瀬先輩の家に向かいましょう」
「魅力的………はぅ……」
……そういう所ですよ先輩。そういう動作が男子を勘違いさせるんです。
「ただ今戻りました」
「おかえりなさい〜、絵里ち、顔赤いけど保科君にセクハラでもされたん?」
「そんなことはしません」
ピシャリと言い切る僕に東條先輩はころころ愉快そうに笑う。
「保科君はヘタレやもんね!」
「もうそれでいいですから荷物を冷蔵庫に入れなきゃいけないんでどいてください」
結局、絢瀬先輩は帰るまで顔が赤かった。相当腹に据えかねているようだ。
「別に怒ってるわけじゃないと思うんやけどね…」
「さり気なく地の文に割り込まないでください東條先輩」
7月だからと言うべきか、突き刺すような日差しに流れた汗を拭う。
「絢瀬先輩、これどこに置きますか?」
「ああ、それは──」
「………ん。夢……?」
夕方の日差しを顔に受けながら僕は重い頭を上げる。
いくらカフェインを摂取して目を覚ましたところで眠い時は寝てしまう。
「そういえば、今日が七夕か……」
オープンキャンパスの集計などをしていたので忙殺されていたが、もうそんな季節か。
「去年は、楽しかったな」
絢瀬先輩に誘われた七夕パーティー。夢で見たところのあとは絢瀬亜里沙ちゃんが突如乱入してきたり、そのお友達の女の子がいて男女比的に肩身の狭い思いをしたことなどがある。
「今年も絢瀬先輩はやるのかな?」
あの先輩がやろうとしなくても今年は東條先輩辺りが画策してやるのかもしれない。
まあ仮にあっても、今年のパーティーに僕の居場所はあるはずがないのだが。
「今夜は素麺にしようかな」
今日の分の仕事は寝る前に終わらせていたので鞄を持って帰る。
屋上からは絢瀬先輩の掛け声が聞こえてくる辺り、ちゃんと活動しているようだ。
「あ……!お兄ちゃん!!」
正門を出た瞬間に声をかけられる。僕をお兄ちゃんと呼ぶのは記憶にある限り一人──。
「亜里沙ちゃん、久しぶりだね」
「はい!お兄ちゃんは元気でしたか?」
満面の笑みで話しかけてくる亜里沙ちゃんに僕は曖昧に返事をする。
「まあボチボチかな?家では絢瀬先輩は元気かい?」
「元気……じゃないかもしれないです。一人の時に、写真を見て泣いてる所をこの前見てしまって…」
「……」
何も言えない。僕に何かを言う資格はない。それが僕が、絢瀬先輩に残した傷なのだから。
「お兄ちゃん、お姉ちゃんと喧嘩してるの?」
「…どうして?」
「お姉ちゃん、お兄ちゃんの話をしようとしないんです。私が聞いても曖昧に笑うだけで」
「そう……だね。少し喧嘩しちゃってて、今も話せないんだ」
「そっか……私、お兄ちゃんとお姉ちゃんには仲良くして欲しいの……だから、ちゃんと仲直りしてね?」
無理だ、とは言えなかった。僕自身も言いたくなかったのかもしれない。
「……わかった。機会を見つけて、僕も絢瀬先輩に謝るよ」
「約束だよ?」
小指を差し出してくる亜里沙ちゃんに僕も小指を差し出す。
「指切りげんまん、嘘ついたら──亜里沙のお嫁さんになってね?」
「え?なにそれ??」
「はい、指切った♪」
ニコリ、という擬音がつきそうな程綺麗に笑った亜里沙ちゃんに僕は何故か何処と無く恐怖を感じた。
「まあ、結婚云々は置いておいて、僕はもう行くね」
「うん!またね!!」
亜里沙ちゃんの笑顔に癒されながら僕はその足でスーパーへ向かう。
しかし、あの時感じた恐怖は一体……?
スーパーに辿り着くと、大きな笹があった。
毎年何処に行ってもある、願い事を書き込むものだ。
「……下らない」
神に祈っても星に祈っても、結局は叶えるのは自分自身なのだ。ましてや、僕の願いなどを誰かが聞き届けて叶えてくれるなどとは思えない。
そのまま店内に入ってかごを取り野菜コーナーから順に見て回る。
「確かバターと卵が切れてたな……あ、後は魔剤も買っておかないと。素麺は少し多めに買っておこうか」
必要なものを頭の中でリストアップしながら買い物カゴに入れていく。
そのまま特に何事もなく会計を済ませるとスーパーから出る。
「……少し見ていくくらいなら」
人の願い事を見るのはマナー違反なのかもしれないが、ここに書いているということは、見られる覚悟があるのだろうと勝手に解釈して見ることにした。
『○○君のお嫁さんになれますように』
『陸上の選手になれますように』
『今年こそ世界征服できますように』
『世界中のみんなを歌で笑顔にできますように』
『彼女が出来ますように』
願い事は人によって様々だ。明らかにおかしなのもあるような気がするが気にしてはいけないと無視する。
「願い事……か」
昔は父親が買ってきた笹を庭に立てて願い事を書いたものだ。いつからだろう。願いを持つこと自体が下らないと、そう信じ込むようになっていたのは。夢を持つことがかっこ悪いと思い込むようになったのは、いつからだろう。
体の不調がはっきりした時からだろうか。あるいは、つい最近の事なのだろうか。
ふと、魔が差しただけだ。そう言い聞かせながら僕は置いてある短冊とペンを手に持つ。
紐で目立たない所に括り付けると、僕は足早にその場から去ることにした。
少年が立ち去った少し後、二人組の少女がスーパーに立ち寄った。
「願い事かぁ……懐かしいなぁ」
「何よ、書いてくの?」
「そうやね、にこっち、先に入っててくれる?」
「全く、早くしなさいよね?」
一人は真っ直ぐスーパーに、もう一人はペンを持って願いを書き込む。
「よし…これでええかな!あとは目立たないところに〜………ん?」
目立たない所を探すと、既に一枚の短冊がかかっていた。
「…!ふふっ、全く、素直じゃないな〜」
その短冊には、こう綴られていた。
『いつか、また先輩達と笑える日が来ますように』
その少女は、別の場所に短冊をかける。そして誰にも聞こえない声で呟いた。
「そのお願いは、ウチが叶えてあげるからね」
今日は七夕。年に一度、星に願いを託す日だ。
少年、少女達の願いをしかと見届けたと言わんばかりに、夜空には星が瞬いていた。
七夕、というのはなんとも不思議な日だなーと作者は個人的に思ってたりします。
自分の願いを神にではなく星に託すというのは、中々にロマン溢れることだと思います。
私が願いを書こうとすると進路になってしまいそうではありますが(苦笑)
感想や評価、お待ちしております。