偽りの笑顔の先に   作:黒っぽい猫

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黒っぽい猫でございます

多少立て込んでおりますが、更新はします

今回も生暖かく見守ってくださると幸いです


第八話〜始まった勝負、笑顔の影〜

「ていやぁぁぁあああ!!!」

 

「ぐっ……!」

 

空いたスペースに向けられた一撃をなんとか飛び込んで持ち上げる。重いっっ!

 

「園田さん!頼んだ!!」

 

「はいっ!!」

 

ヴォン!!

 

彼女の腕が弓のような音を立て、ボールが叩き込まれた。これであと一点だ。

 

僕と先輩の試合は、既に一時間近く続いていた。七点先取、デュースありとルールを設定した結果、僕はリードされながらも見事にデュースに持ち込んだ。そこまでは良かったのだ。

 

今の点数は55-54。どれだけの激戦だか分かるだろうか。

 

長期戦のため、スタミナの比較的少ない小泉さんと南さんがギブアップ。高坂さんと東條先輩もリタイアして勝負は僕&園田さんペアと星空さん&矢澤先輩ペアの勝負となっていた。

 

もはや僕の体力も限界に近く、どうやら矢澤先輩も限界が見えているようだ。僕達よりも園田さんと星空さんの方が元気なことからもそれが良くわかる。

 

「行くわよっ!!」

 

矢澤先輩のサーブだ。デュースなので交互にサーブ権は移動させている。

 

「くっ!後ろか!!園田さん!」

 

「任せてください!!」

 

上手く上に弾かれたボールを僕が空いているスペースに捩じ込む。これで得点できれば──!

 

「それを狙ってたにゃ!!」

 

素早く移動した星空さんが落下を阻み、最短かつ矢澤先輩にとってスパイクを最も打ちやすい座標にボールを運ぶ。

 

「せいやっ!!」

 

正確な一打は吸い込まれるように地面に落ちてしまう。強打を売った直後の僕には反応出来ず、これでまたやり直しだ。

 

55-55

 

「くっ……!粘りますね先輩………!」

 

「ふんっ!まだまだいけるわよね凛!」

 

「もっちろんだにゃ!まだまだ動けるにゃ〜♪」

 

「園田さん、まだやれる?」

 

「ええ、これしきでへこたれたりはしません!」

 

これ、星空さんと園田さんの前に確実に僕と矢澤先輩の体力が尽きるよね……。

 

「仕方ない………取って置きを使おうか」

 

幸いにも今度は僕のサーブだ。ここで奥の手を使って先制をしよう。相手が動揺すればこちらにも勝機がある。

 

僕は目を瞑り、心頭滅却する。

 

「…………フッ!」

 

一息に吐ききると同時に手元にあるボールを打つ。

 

「凛!後ろよ!!」

 

「はいにゃ!!」

 

長めのボールだと思いますよね……!

 

ズガッ!!

 

「「なっ……?!」」

 

審判の二人も目を大きく見開いている。僕の打ったサーブは、ネットのギリギリに着弾していた。

 

「成功率は高くないけど、なんとか上手くいったみたいだね♪さあ、矢澤先輩?サーブをどうぞ」

 

先程のサーブに動揺しているようだ。飛んでくるサーブは、簡単に上に持ち上がる。

 

「園田さん!真ん中に!!」

 

「はいっ!!せいやぁぁあ!!」

 

矢澤先輩と星空さんの丁度中心。どちらが取りにいくのか、咄嗟に反応できるわけがない位置にボールを落とす。案の定誰にも防がれずにボールは突き刺さる。

 

「「ゲームセット!!」」

 

思わず両手でガッツポーズをしてしまう。

 

「やりましたね!勇人!!」

 

「そうだね、園田さん」

 

右手を出されたので僕も右手を出す。いわゆるハイタッチだ。それと、君はいつの間に僕の事を名前で呼ぶようになったのかな?

 

「ぜぇっ……ぜぇっ………」

 

矢澤先輩も気力が切れて限界が来たようだ。玉のような汗を流して肩で息をしている。

 

「矢澤先輩」

 

「な、何よ……早く次の勝負を……わぷっ?!」

 

タオルを顔に被せる。タオルから顔を出して睨む先輩の手にスポーツドリンクも握らせる。

 

「お疲れ様でした、いい試合でした。残りの二戦も互いに頑張りましょう」

 

「ふん!残りの二つは必ず私が勝つわ!!」

 

そう言いながらも先輩はスポーツドリンクを一息に飲み干した。

 

「っ痛〜!!」

 

「締まりませんね………」

 

冷たいものを飲んで頭を抑える矢澤先輩に、苦笑が隠せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ!次の競技は!!スイカ割りやで!!ルールは簡単!交互に挑戦して先にスイカを叩いた方の勝ちや!」

 

10m程離れた地点にブルーシートが敷かれ、その上にスイカが乗っている。大盤振る舞いな事にかなりの大玉スイカだと思われる。

 

「これならにこの楽勝にこ♪」

 

「………甘いと思いますよ、矢澤先輩」

 

「その通り!勇人君の言う通りやでにこっち!アシストは勿論ウチらがやるけど……本当のことを言ってるのは誰か一人だけや♪」

 

どうせそんなことだろうと思ってました。他人事だからって楽しそうですね先輩。

 

「本当のことを言う人は毎回変わるんですか?」

 

「流石にそこまで鬼やないよ♪これは声の聞き分けと推理力が試される競技やで!!」

 

 

 

 

 

先攻は僕。目隠しをされてからバットを中心に10回転する。

 

「だいぶ平衡感覚がなくなりますね、これ」

 

とはいえ、なんとなく座標は覚えているから今の僕はスイカを正面に見据えているはずだ。

 

「それ反対側やで勇人君!!」

 

「流石にダウトです東條先輩」

 

「勇人く〜ん。もう少し左〜」

 

「OK、南さんもダウト」

 

少しゆっくり歩くと平衡感覚が戻ってくる。これが三回目とか五回目だったらまともに感覚を掴めるとは思わないが、まだ一回目なら余裕がある。

 

よし…あと3歩前に進めばスイカがある位置だ。

 

「ここかっ!!」

 

そう振りかぶった瞬間

 

「ゆ、勇人!頑張って!!」

 

「っ?!」

 

いきなり絢瀬先輩に名前を呼ばれたことで動揺して懇親の一撃は空を切った。悔しさと恥ずかしさに唇を噛みながら目隠しを乱暴に外すと、やはりほぼ真横に本物のスイカがあった。

 

「やってくれましたね……東條先輩」

 

「名前を呼ばれるだけで取り乱すなんてな〜。本当に勇人君はピュアピュアやなぁ〜」

 

にこにこと笑う東條先輩。やっぱりこの人の策略か。それとは対照的に少しオロオロしながら絢瀬先輩が近付いてくる。

 

「その……嫌だったら戻すけれど…?」

 

指を合わせながらモジモジしているのが普段とのギャップもあって強烈な破壊力だった。

 

感覚としては、普通の斧を湖に落としたらヒートホークを渡された感じだろう。分かりにくいか。

 

「…………別に、好きなように呼んでください」

 

「そ、そう……」

 

東條先輩と絢瀬先輩は離れていき、チラチラとこちらを見て話をしている。

 

「………?あ、次は矢澤先輩ですよね。僕は少し離れてますね、巻き込まれたくないので」

 

「ふっふっふ!見てなさいよ!さっきの雪辱は必ず果たすわ!!」

 

 

 

 

後攻の矢澤先輩。先程の僕と同じように回ってから、これもやはり僕と同じようにゆっくりと前に進む。

 

「にこちゃん……!そのまま真っ直ぐ…!!」

 

「違うにゃ!左側に軌道修正するにゃ!!」

 

小泉さんと星空さんの声が聞こえた瞬間、矢澤先輩の足取りから迷いが消える。

 

そしてそのまま──

 

「チェェエストォォオ!!」

 

なぜその掛け声なのか。ともあれ、矢澤先輩の振り下ろした木の棒は見事にスイカのど真ん中にぶつかる。

 

「やったわっ!!私の勝ちよ!!!」

 

こちらを見て勝ち誇っている矢澤先輩。八人も意外だったのか、唖然としている。勿論僕もだ。

 

「矢澤先輩。小泉さんの声が聞こえた時から足に迷いがなくなりましたが、彼女が?」

 

「多分ね。花陽が話す時だけ、必ず誰かが打ち消していたのよ。そのほかのメンバー同士でそんな現象が起こってないってことは、花陽の言ってることが聞かれたらまずい。つまり当たりね」

 

とはいえ、後攻じゃなかったら厳しかったわ。そう付け足すが、それでも充分凄いことだ。

 

「……少し先輩の評価を変える必要がありそうですね」

 

「そうよ!もっと私の事を敬いなさい!」

 

「高坂さん並にアホの子かと思っていましたが矢澤先輩のアホ度合いはもう少し軽度でしたねすいません」

 

「なんかその言い方は褒められてる気がしないからやり直しなさい!!」

 

「そうだよ勇人君!!それじゃあ穂乃果が救えないアホみたいじゃん!!穂乃果アホじゃないもん!アホって言った方がアホなんだもん勇人君のアホ!!」

 

誰もそこまで言ってないんだけど……。

 

「まあとにかく、あとは夜の料理対決まで各自自由行動でいいんじゃないですか?僕はそろそろシャワーを浴びたいですし。夕方頃に買い物に行きますから、矢澤先輩は欲しいもののリストアップをしておいてください」

 

返事を待たずに体を拭いて別荘に入る。扉を閉めて取り敢えず場所を聞いてあったシャワー室を借りる。なんでも、この別荘には露天風呂もあるらしいのだが、そちらは夜に堪能するとしよう。

 

「うまく誤魔化せたかな……」

 

脂汗を流しながら鏡で自分の顔を見ると、青白くなっている。あの薬で抑えきれなくなれば、後は入院だと先生は言っていた。パーカーに入れていた薬をもう一度飲む。

 

「………気にしてもしょうがない」

 

久々に僕自身が楽しいと思えているのだ、今くらい全ての立場を考える必要も無いだろう。

 

体に僅かに残っていた砂を迷いと共に熱いシャワーで洗い流し、今度はカメラを持って砂浜へと向かう。

 

これも元々頼まれていたことでもあるので、私的利用の為じゃない。

 

「この季節は仕事が多いね、全く……困ったものだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PV作成用の写真や動画の撮影があらかた終わった所で、今日の作業は切りあげることになった…とは言っても、写真撮影以外皆遊んでいただけのような気もするけどね。

 

「さ、矢澤先輩、買い物リストを。買い物に行ってきます」

 

「ウチもお供する♪」

 

「私も行くわ。正確に場所がわかった方が楽でしょ」

 

「好きにしてください。さっさと行きますよ、皆さん疲労しているようですし、早くご飯食べて明日に備えるべきですから」

 

「おおっ!私たちの心配してくれてるんだ!」

 

「生徒会長として仕事を引き受けたんだからそれが当然だよ。体調を壊されては学校の存続に関わる。僕のクーラーボックスの中のスポーツドリンクを最低でも一本ずつ飲んでおいてね。海に入っている間は感じなくても、普段と同じかそれ以上汗をかいているから」

 

財布は持った。西木野先生からは領収書を持って帰ってくれば何を買ってもいいと言われている。どうやら、娘の合宿と聞いて親バカが発揮されているらしい。

 

まあ……仲が悪いよりはいいことかな?

 

「まあ、行くなら早い方がいいでしょう。日が落ちきる前に帰りますから少し急ぎ足で」

 

「「了解やで(ええ、わかったわ)」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん〜、潮の香りはええよなぁ〜」

 

「私はもう慣れてるからなんとも言えないわね」

 

二人が他愛ない話をしてる。あまり自分から喋る気にならないので耳だけを傾ける。

 

「そーいえば、新曲の方はバッチリなん?」

 

「一週間前から海未と歌詞と曲のすり合わせは出来てるから問題ないわよ、文化祭は夏休み中みたいだからそんなに練習出来るわけじゃないけど、何とか形にできれば大きいと思ってるわ」

 

「熱心やね。最初は乗り気じゃなかったのに」

 

「な、何よ………悪い?」

 

髪の毛をクルクルさせながら珍しく照れる西木野さん。厳しい目付きが少し和らいでいるのも印象的だ。

 

「いや〜?あんなに意地っ張りだったのにな〜って思ってただけやん♪」

 

「なっ………!失礼ね!!」

 

「でも、その様子なら心配なさそうやな♪心配してたんよ?貴女にそっくりなタイプの人、よーーく知っとるからね」

 

にこにこ笑いながらその笑顔をこちらに向ける東條先輩。その目の奥には、何か不安を持っているようだ。

 

「……なんでこっち見るんですか?」

 

「絵里ちに名前で呼ばれたの嬉しかったやろ?」

 

「そういえば絵里に名前で呼ばれた時、思いっきり動揺してたわよね」

 

西木野さんまでからかいに乗ってくるとは思っていなかったから少し面食らう。彼女も本当に変わったんだな。

 

「…別に、何も無いですよ」

 

東條先輩は顔から笑みを消す。

 

「いつまで意地を張ってるつもりなん?勇人君」

 

胸に突き刺さった一言。これは、あの時高坂さんに突き立てられたのと同じ痛みだ。

 

「もう皆気づいてる、君の行動が全部ウチらのためだって事に。それなのに、どうしてウチらの手を取ろうとしないん?」

 

優しい声音。彼女は僕を責める気は微塵もないみたいだ。純粋な悲しさと疑問。

 

「………何もかもが遅すぎた。それだけです」

 

もしこの言葉を聞けたのが半年前だったら僕は迷わずその手を取れただろう。

 

「あまり深いところに触れないで下さい、苦しくなるだけですよ」

 

僕も、貴女達も。

 

 

最後の言葉は口に出さず喉の奥に閉まっておく。そして僕は目の前に見える店へとゆっくり歩いていく。重苦しい雰囲気を帯びた周囲の空気は、買い物を終えても消えることは無かった。

 

ふと空を見上げると群れからはぐれたのだろうか、一匹の鳥が所在なさげに飛んでいた。寂しげなその光景は、少年の胸の中に新たな感情を植え付けた。

 




今回はここまでとさせていただきます、そして、悩みに悩んだのですが、やはり言わせていただきます。

新たに評価を下さりました

☆2:ka0320zu様

ありがとうございます。

読んでくださり、また評価をつける段階までこの作品を見て下さったことに御礼申し上げます

今後とも、本作品をよろしくお願い致します
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