偽りの笑顔の先に   作:黒っぽい猫

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お久しぶりです、黒っぽい猫です。

今回は少し長めです。よろしくお願いします


第十話〜距離感と関係〜

気がつけば、合宿の二日目ももう夕暮れになっている。僕も彼女達のサポートをしていたからあまり時間の感覚がなかったけど、日が傾いているのに気がついた。

 

「今日の練習はここまでにしましょう!」

 

その一言で、全員の膝が崩れ落ちる。極限まで行われた練習に、余裕の表情を浮かべているのは満遍なく体力のある園田さんのみだ。

 

「凄い練習だね………毎日こんな風にやってるのかい?」

 

一瞬キョトンとした園田さんは苦笑しながら否定する。

 

「まさか、毎日こんなことをしては、体が壊れてしまいますよ。私はともかく皆が」

 

……園田さんはどうやらまだ余裕があるらしい。

 

「流石だね……弓道部の方も掛け持ちしてるんだっけ?」

 

「普段はそうですが、ラブライブも近いですから余りあちらには顔を出せていません。少なくとも、ラブライブの結果が出るまでは、スクールアイドルの活動に集中します」

 

中途半端にやるつもりはないらしい。その性格が男子よりも女子に人気がある理由なのだろうか。

 

そんなどうでもいいことを考えていたからだろうか。全員にスポーツドリンクの配布をしていた僕は足を砂に取られて転んでしまう。

 

「痛ッ!!」

 

手をついたので体に怪我はないが、どうやら手に貝殻でも刺さってしまったらしい。

 

「勇人、大丈夫?」

 

近くにいた絢瀬先輩が心配そうに顔を覗き込んでくる。咄嗟に痛みの走った左手を後ろに回して取り繕う。

 

「はい、大丈夫です。少しぼーっとしていました。泥が付いてしまったので、新しいのを出しますね」

 

 

慌ててパラソルの方にあるクーラーボックスへと小走りで戻る。ちらりと左手を見ると、やはり貝殻の欠片が左手に突き刺さっていた。かなり深いらしく、中々抜けない。仕方が無いので声がもれないようにパーカーの首の部分を噛みながら力いっぱい引っこ抜く。

 

「……っつ!!」

 

抜いた箇所からの予想より多い出血に、慌ててミネラルウォーターで傷付近の砂ごと洗い流す。

 

「包帯なんかを使うのはバレそうだな。綿で覆っておけばいいか」

 

止血用の綿を患部に押し当てると念入りにテープで止める。

 

そして、スポーツドリンクの予備を箱から出して戻ると、何事も無かったかのように残りのメンバーに渡していく。

 

「これから、夕食のBBQの準備をしますので、皆さんは一度着替えてからこちらに来てください」

 

「やった!勇人君、お肉はあるん?」

 

「ええ、沢山ありますよ。色々と準備もありますので、大体1時間後くらいにここに集合してください」

 

そう告げると、メンバーは高坂さんと、星空さんを筆頭にして走って戻っていく。

 

「絢瀬先輩も早く戻った方が──いてっ?!」

 

僕が何かを言い切る前に、絢瀬先輩に左手を取られていた。いきなり振動が伝わって思わず声が漏れてしまう。

 

僕の傷を見た絢瀬先輩は僕を睨みつける。

 

「勇人、これは一体何かしら?」

 

「………別に、ただのかすり傷ですよ。少し止血しておけば問題ありません」

 

「………」

 

無言の絢瀬先輩は僕を引きずるようにクーラーボックスの方に歩いていく。そして、その近くに零れている僕の血を見ると辛そうな顔をしたあとに僕に座るように指示する。

 

「勇人、そこに座りなさい。ビニールシートの上でいいから」

 

「だから、この程度──「座りなさい!」…はい」

 

今までに見たことないほどの剣幕で怒鳴られて思わず従ってしまう。

 

「手、出しなさい」

 

「………はい」

 

絢瀬先輩は丁寧に僕の仮の処置を外すと、新しい綿に消毒液を染み込ませてゆっくり患部に押し当ててくる。

 

「──っ!!」

 

「染みるけど、少し我慢してちょうだい」

 

そう語りかけるように優しく言われ、どこかで逃げようかとタイミングを見計らっていた僕は完全にその考えを打ち破られてしまう。

 

その後の処置は完璧だった。

 

もう一度綿を変えると包帯を外れないが手の動きを制限しない微妙な力で縛る。

 

「これで………よしっ。どうかしら、手の動きに違和感はある?」

 

「………いえ、ありません」

 

「ふふっ、それは良かったわ」

 

穏やかな空気が流れたのは束の間、絢瀬先輩は目を鋭くして問いかけてくる。

 

「何故、傷を隠したの?」

 

「………ご迷惑を、少しでもおかけするべきではないと判断しただけです」

 

この人を相手にして、隠し事をしても仕方がない。そう判断して僕は正直に話す。

 

「僕は、この合宿において本来招かれていない者です。そんな僕が、迷惑をかけるわけにはいかないでしょう」

 

「……貴方のそれは、筋が通らないわよ」

 

「何故です?なぜそう断言出来るんですか?」

 

「もしも、本当に招かれていないなら、私達の採決の時点で反対が出ているわ。それに、駄目ならわざわざ理事長が貴方を推薦したりしないし、真姫のお父さんも、許可を出さないでしょう?」

 

そう言って頭を撫でられる。それは、まるで心を暖められているような、そんな感覚を僕に芽生えさせた。

 

「貴方はそんなに怖がらなくていいのよ。誰も貴方がいることを責めない。そして、迷惑だなんて思わないわよ、怪我をしたくらいで」

 

「………」

 

黙り込んだ僕を見て満足したのか、先輩は悪戯っぽく笑う。

 

「さ、私は一度シャワーを浴びてこようかしらね?どうせ止めてもBBQの準備は一人でやるんでしょ?」

 

返事を待たずに去っていく先輩を目で追いながら、僕は先程言われた言葉を反芻していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

9人が用意をしている間に僕の方も色々と準備する。

 

事前にセットの在り処は聞いていたので昼の間にホコリを洗っておいたそれを砂浜に運ぶ。やはり、海の近くでやるのも乙なものだろう。

 

「炭に火をつけて…おっと、つき始めはうちわで……」

 

パタパタと静かにあおぎ、徐々に赤くなっていく炭を確認する。

 

今回は鉄板を二つ用意した。まあ、その他にもテーブルを5つ運んだ。昨日の夜から用意したものを置くためだ。

 

「火も安定したね……後は蝋燭と水バケツ…花火はパラソルのそばに置いとこ」

 

よし、これであとは食材が揃えば終わりっと♪

 

「運動という程じゃないけど、少し疲れたね…」

 

やはり身体に負荷をかけるのは極力避けた方がいいのかもしれない、と溜息をつきながらなんの気なしに空を眺めた。

 

「わぁ………これは、中々」

 

思わず子供っぽい声が出るほど、その空は美しかった。

 

まだ日暮れからそう時間が経ってないこともあり微かに赤を残し、紫、濃紺と何層もの色を形成した空に、月を初めとしてまるで宝石を散りばめたかのように無数の星が輝いていた。

 

「綺麗な……ものだな」

 

その後、着替えを終えたらしいμ'sの面々の話し声が聞こえるまで、僕はその景色に魅入っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にーこちゃん、そのお肉取って〜」

 

「全く、仕方ないわねぇ〜、ほら、皿を渡しなさい」

 

「穂乃果!ピーマンをちゃんと食べなさい!!」

 

「ええ〜!!海未ちゃんの意地悪っ!!」

 

昨日よりも騒がしい夕食の中、僕は黙々と焼きそばを焼いていた。まあ、しっかり自分の食べる分は確保しているから大丈夫だが。

 

「あ、勇人君。ウチが代わるから食べてええよ」

 

「いえいえ、まだ大丈夫ですよ」

 

「も!そういう時くらい甘えとき?ほらほらどいたどいた!」

 

「うわっと?!」

 

何か焼くことに拘りがあるのか、東條先輩に追い出されてしまう。

 

少しムッとしながら椅子に腰掛けていると、突然後ろから冷たいものを首に押し当てられる。

 

思わずガタリと椅子から転げ落ちそうになりながら振り返ると、いたずらが成功したからか、ドヤ顔をしている絢瀬先輩がいた。

 

「お疲れ様。はい、冷たいジュースよ」

 

「どうも」

 

「それにしても……よくもまあ一人でこれ準備出来たわね」

 

「…別に、気まぐれですよ」

 

「はいはい、皆知ってるからもうそうやって意地を張る必要も無いのにね」

 

また、心が掻き乱される。

 

「それは僕の勝手でしょう、僕は別に何かの報酬を求めてそれをしたわけじゃありません。勝手に報酬を押し付けられても困ります」

 

「私達も『誰かに報酬を与えるために』やってるわけじゃないわよ?はい、貴方の分。ちゃんと盛ってあるわよ。ほら、あちらに行って食べましょ」

 

紙皿ごと食べ物を渡され、少し強引に腕をひかれる。

 

「あ!勇人君!準備ありがとう!!勇人君もちゃんと食べるんだよ〜?」

 

真っ先に話しかけてきたのは南さんだ。ふわりと笑みを浮かべている。

 

「勇人君〜、言ってくれれば穂乃果も手伝ったのに〜!」

 

「いや、別に……」

 

「あ〜、照れてるのにゃ?」

 

「そ、そうじゃないよ!僕はただ「はいはい、そんなのはいいからさっさと食べなさい!焼いたりするのは私と希でやるわよ!」……」

 

いつの間にか、ペースに完全に飲み込まれていたみたいだ。

 

「一人で意地を張るのもいいけど、たまには肩の重荷を下ろしたらどう?」

 

「………」

 

「自分の目を向けていることが全てじゃない、その外側を見た時、人は成長できる。私にそれを教えてくれた貴方が、どうしていつまでも一人でいようとするの?」

 

僕の何がわかるのか、思わずそう叫びそうになり顔を上げた僕の目を、しっかりと絢瀬先輩は見つめていた。

 

「今すぐ変えろなんて言わないわ。貴方はその事をわかった上で行動してるんでしょう?でも、今この時くらいは普通にしていていいのよ。疲れたなら、そう言っていいのよ。私達は誰もそれを笑わない」

 

周りを見ると、全員が笑って頷いていた。

 

「………どんだけお人好しなんですか、貴方達は」

 

呆れながら、僕は言葉を繋ぐ。

 

「でも、今だけはそれに甘えさせてもらいますね、絵里先輩」

 

「!!」

 

これっきりだ。そう自分に言い聞かせながら僕は決めた。今だけは、彼女達の優しさに触れていたい。

 

決意が鈍っているわけじゃない。僕は、この場所に本当はいるべきじゃない事もわかっている。ただ、今だけは……僕は、僕としてここにいていいのだろう。

 

「皆さんも、ありがとうございます」

 

その言葉は、僕の口から出たとは思えないほどに細々としたものであったけれど、皆は笑顔を向けてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから少し時間は流れて、僕は高坂さん──穂乃果が花火を2本持ちしているのを少し遠くから眺めていた。

 

別に楽しんでいないわけじゃない。僕の手にも花火は握られているし、その色を眺めてもいる。

 

「どうして暗い顔をしてるん?楽しくないん?」

 

「もう驚きませんよ、希先輩」

 

「あら、残念やな〜。それで?何を考えてん?」

 

「別に楽しくないわけでも、考え込んでいるわけでもありません」

 

僕にとって今いる環境は美しすぎるのだ。ありふれた言い方をすれば、幸せすぎるのだろう。

 

「ただ、時々わからなくなるんです。僕にとって本当にこの選択が正しかったのか」

 

「別にえーんやない?後悔したら、やり直せばええんやから」

 

確かに、普通の人ならそうかもしれない。僕にもっと時間があったなら、それで良かったのかもしれない。でも僕にはもう残っていないのだ。もしかしたら今日が最後の日になるかもしれないのだ。

 

「それでも………後悔はしたくないです」

 

「あははは、そうやね。だから、ゆっくり考えて答えを出さんとね♪でも少なくとも、今回の選択は正解やない?」

 

「どうでしょうね……もし、これが誰かを傷つける結果を生んだ時、僕はどうすればいいんでしょうか……」

 

一瞬黙り込んだ後、希先輩はいつもの笑みを浮かべて背中を叩いてきた。

 

「もう!その時のことはその時に考えればいいんよ!!いつまでも辛気臭い顔をしとると絵里ちに嫌われてまうよ!」

 

「急に背中を叩かないでくださいよ!痛いです」

 

カラカラと笑う希先輩を見ていると、今は選択を焦る必要は無いのかもしれない、と少し気が楽になる。

 

「のーぞみーー!!ゆうとーーー!!穂乃果が線香花火大会やるんですって!!早く来てーー!」

 

「ほら、噂をすればなんとやらやね。ま、ウチからアドバイスがあるとすれば、折角の合宿やし多少は無茶してみるのもいいと思うよ?」

 

「そう……ですね。早く行きましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この夜、みんなで第二回の枕投げ大会をしたり、何故か寝る時になって絵里先輩が隣になって手を繋いできたりと本当に色々(?)あった。

 

ただ、にこ先輩が意識を飛ばされていた辺り、あの人には芸人の才能があると思う。アイドルよりも向いてるんじゃないかって思ったけど、言ったら殴られそうだから黙っておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の早朝。まだ誰も起きていない時間に一人目を覚まして布団を抜け出す。そっと荷物を置いた部屋に戻ってお風呂セットを取り出し、着替えを掴むと僕はある場所に向かった。

 

何を隠そう、露天風呂である。

 

脱衣所で服を脱ぎ、全て畳むと浴場に繋がるドアを開ける。真夏とはいえ、海辺の早朝だ。肌寒さに身震いしながら体と頭を洗う。

 

手早く丁寧に洗うとゆっくり、足から順番に浸かっていく。

 

「はぁ………朝風呂はやっぱり気持ちいいな」

 

思わずそんな感想が口から漏れる。このお湯は掛け流しの温泉から引っ張ってきているらしいので、本当に西木野家の財力には恐れ入ってしまう。僕の……両親の収入でも、きっと足元にも及ばないのだろうな、と無駄に負けた気分になりながらお湯に入っていると──。

 

ガラガラガラッ!!

 

という音が響く。予想外の展開にどうしたものかと慌ててながら必死に解決策を模索するも、これしか浮かばなかった。

 

「誰ですか?!僕が入ってるんですけど!!」

 

まさか朝早くから誰も来ないだろうと思っていたばっかりに、完全に油断していた。

 

「ゆ、勇人?!まま、まさか入ってたの?!」

 

若干裏返り気味の声で帰ってきた返事はどう考えても絵里先輩のものだった。

 

「は、はい。入ってました………ごめんなさい!すぐに出ますから少し僕から姿が見えない方向を向いててください」

 

景色の方を見て、できるだけ振り返らないようにしながら答える。

 

「い、いえ……私も脱衣所で貴方の服に気づかなかったのは失態だったし…それに朝風呂を楽しんでいたところ中断させるのは悪いわ…」

 

「でも、絵里先輩も入るのであれば僕は──」

 

「………」

 

しばらく後ろから慌ただしい水の音が聞こえたが、どうやら僕の発言は聞こえなかったようだ。できることなら今のうちに抜け出したいが先輩がどこにいるのか分からないので不可能だ。

 

水の流れる音がしなくなったかと思うと、今度はチャプンと石が水に落ちるような音とともに僕の方に水紋が届いてくる。

 

ま、まさか………っ?!

 

水をかきわけるような音が断続的に続いてはいるが、やはり振り返ることは出来ない。

 

「こっち、絶対に見ないでね………?」

 

「ひゃいっ?!」

 

背中に、とても柔らかく滑らかなものが当たる感触があった。どうやら、背中合わせに座る形になっているのだと理解した瞬間、僕の心臓は早鐘を打ち始める。

 

落ち着いて考えてみて欲しい、今僕が置かれているのは裸で背中合わせで、それも憧れの先輩と共にいるんだよ?!

 

恥ずかしくて死んじゃうから!!

 

「ふふっ……緊張してる?」

 

「え、絵里先輩こそっ……声がふふふ震えてます」

 

「ええ、そうね……緊張してるし、恥ずかしいわ」

 

でも居心地は悪くないのよ、と不思議そうに口にする。

 

「……嫌では、ないんですか?僕と、その…変な意味はないですけど、こういう事になるの」

 

我ながら何を聞いているんだか分からないが、とにかく場を持たせるために思いついた事だけを言葉にする。

 

「嫌じゃないわよ」

 

数瞬の迷いもなくそう断言された。嬉しいような、気恥ずかしいようなむず痒さに、顔が赤くなる。

 

「むしろ………っ!!」

 

突然バシャバシャと水を立てる先輩に驚いてしまう。慌てて振り返ろうとしてすんでのところで止められる。

 

「大丈夫ですかせんぱ「振り返っちゃ駄目!」…すみません」

 

「わ、忘れないでちょうだい……今………裸なんだから…」

 

「………はい」

 

 

 

 

 

 

少しして落ち着いた絵里先輩と、しばらくの間しょうもない話をしながらお湯に浸かっていた。

 

「私、そろそろ出るわね……着替えが終わったら一旦呼ぶから、そのあいだ私は脱衣所の外にいるわ。君の着替えも終わったら髪の毛をお互いに乾かしてみんなの所に戻るってことでいいかしら?」

 

「はい」

 

「それじゃ、私は出るわね……あ、でも私がお風呂からで終わるまで振り向かないでね?」

 

「し、しませんよっ!!」

 

「ふふっ、冗談よそれじゃあ、後でね」

 

スっと、先程まで触れていた背中の温もりは去っていった。もの寂しさを感じたのは無理のないことだろう。

 

後ろで戸が開閉される音を確認してから、僕は一人呟く。

 

「……暖かかったな。背中」

 

僕はあの短い時間で虜にされてしまったらしい。思い返すだけで、僕に寂しさを覚えさせるほどには。

 

寂しさを、いつも先輩は与えていく。それは縮まぬ距離のもどかしさだけではないような気がした。

 

もしかしたら、あの人も本当は寂しさを感じている人なのかもしれない。僕の持つ自ら作り上げた孤独感からくる寂しさではなく、生まれた時から持つ、人の温もりを求める寂しさ。

 

寂しい人間同士の親和だっただろうか。いつか読んだ小説に書いてあった一節を思い出す。

 

『勇人ー!!!もういいわよー!!』

 

「はーーーい!!」

 

ふと思い浮かんだそんな思考を振り払うと僕はそっと歩く。さて、今日の朝食は何を作ろうかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年は選択した。一時とはいえ、少女達に心を許すことを。その選択が彼を生かすのか、或いは──。

 

その答えを知るものはまだいない。




ここまで読んでいただきありがとうございます。

三回ほど書き直しを行っておりました……。

ギャグパート……というかシリアス少なめで今回もお送りしました。今回にて合宿編が終了、次回より一期最終回へと向けて突っ走っていきます。


ここで評価をくださりました皆様にお礼を申し上げます

☆10:suzuryo1125様

☆9→☆10:銀行型駆逐艦1番艦ゆうちょ様

☆9:キース・シルバー様、四条博也様


いずれも高評価、ありがとうございます!執筆の糧となっております。また、ご感想などありましたらよろしくお願いしますm(_ _)m

次回更新がいつになるのかは不明ですが、質の良いものをお届けしたく思います。

気長に待ってくださると幸いです!
あとがきの最後まで読んでくださった皆様、ありがとうございました。また次回の更新でお会いしましょう

黒っぽい猫でした
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