いつも通り活動休止詐欺ですね、はい←
今回は短めの回となっております、おそらく次回もそれほど長くはならないと思われます
今回もよろしくお願い致します
「保科さ〜ん、着いてきてくださーい」
名前を呼ばれてゆっくりと立ち上がる。読んでいた雑誌と片耳に入れていたイヤフォンを抜く。スマホの電源を落とすと看護師さんの後についていく。
「最近体の調子はどうなんです?」
「まあ、可もなく不可もなくですね」
ちょっとした雑談をしながら長い廊下を歩く。僕が今いるのは西木野総合病院である。合宿が終わってから既に数日が経過している。その間僕は誰とも会わずに仕事に従事していた。
「ご家族とは会っているの?」
「いえ……知ってからは、少し」
「そう………」
この人は、僕の事をよく知っている人の一人だから、少し踏み込んだことを聞かれる。
「あ、もう付いちゃったね。またお話しましょうね保科君。私はお仕事に戻らなくっちゃ」
「はい、ありがとうございます」
看護師さんは、僕がお礼をいうと手をひらひらさせながら去っていった。
「……失礼します」
「ああ、入って来なさい」
扉を開けると人の良さそうな男性が座っている。スラリとした身長に眼鏡をかけている。その見た目からは、彼が既に50に近いことは全くうかがえない。院長の西木野先生である。
「座ってください、勇人君」
「はい」
席に腰掛けると、早速と言わんばかりに質問を浴びせてくる。
「最近痛みは?」
「あまり無いですが、念の為鎮痛剤は持ち歩いてます。補充ができればお願いします」
「体調自体はどうかな?」
「悪くありませんね。精神的にも落ち着いています」
「そうか………それで、君の気持ちは?」
「変わりません。僕は、死を選びます。たとえ誰になんと言われようと、僕は手術を受けません」
「本当にいいのか?もう少しで君の叔父は見つけられるし、彼が日本に戻ってくれば──」
「もう決めた事です。僕は、自分の意思で自分の死を受け入れると。それにあの人に──僕の親友を見捨てて逃げたあの人に、僕の体を弄られたくありません」
僕は肺動脈、肺静脈が徐々に細くなる病気に侵されている。治療法は、人工的なチューブを血管の代わりに用いることだが、世界にそれを成功させられる人間はたった一人しかいない。
「あの男の手術を受けるくらいなら死んだ方がマシだ」
吐き捨てる。そうとしか表現出来ない語気で断言する。
「そこまで君が彼を嫌う理由もわかる──だが君のご両親の「あの人達は親じゃない!」ッ!!」
思わず怒鳴りつけてしまったことを詫び、座って言葉を繰り返す。
「あの人達は……僕の親ではありません…僕の親はっ……!」
「落ち着きなさい、勇人君。ほら、水だ」
「ありがとうございます………」
渡されたボトルの水を飲み干すと、ため息とともに続ける。
「あの人達の気持ちは、汲めません……どんなに親しくした所で、突き詰めてしまえば血の繋がりのない他人……なのですから…………」
「わかった、手術は行わない方向で薬を継続的に処方する」
「ありがとうございます、西木野先生」
そう言って帰りかけた僕は、言うべき言葉を思い出して振り返る。
「合宿の件、お世話になりました。本当に楽しい思い出が出来ました。あいつの所に行くのに、こんなにいい思い出話は無いと思います」
頭を下げ、今度こそ部屋を後にする。
さて、帰ったらどこから仕事に手をつけようかな。
「全てを知っているが故の辛さ、か……聡すぎるのも困りものだね…」
白衣の男性は、深くため息をつくと少年の座っていた椅子を眺める。
「春馬君、君は彼を一体どうするんだい………?」
その声は、虚しく室内に響いて消えていった。
病院に行ってから数日後。いつも通り生徒会室にいるのだが、今日は気色が違う。具体的には生徒会室には僕を含めて七人の生徒が座っている。
とはいえ、ほぼ全員が顔見知りだ。
座っているのは真姫ちゃん、海未さん、ミカ、希先輩、矢澤先輩、そして三年生のもう一人の先輩。
一応総括である僕から話を切り出す。
「お集まりいただきありがとうございます。本日の集まりは、今年の文化祭の進捗を聞くためのものです。できるだけ細かく現状を伝えていただけると嬉しく思います」
今年、音ノ木坂学院は文化祭を夏休み後半に一週間の準備登校日を設けて行う事にしている。
勿論、振替の休日は各平日にバラけて設定してあるので成績的にも問題ないラインだ。
「一年生は特に問題ありません。予定通りに進んでます」
一年生がやるのは調理の出し物だ。一年生を半分に分け、交互にシフトを組むというので承認したが、三種類の料理を出すのは中々面白いのだ。面白いのだが……
「こ、このお米スムージーなるものは……?」
「ヴェェッ……えっと、花陽がドリンクとしてどうしても販売したいって言うから……」
教室内に『あ〜、なるほどね〜』という空気が流れる。あの子の白米好きは、校内中に知れ渡っている。
一度、それを聞いた男子がにわか知識で気を引きにいったものの、五時間お米について語られたらしい。
くわばらくわばら。
「味の方は?」
「美味しかったから、出す分には問題無いわ。炊飯器に炊いたのを保温しておけば持つし」
衛生面は私が徹底するわ。と付け足す。
「わかった、それで許可しよう。次、二年生」
「はいはーい!私のクラスは問題ありません〜」
先に立ち上がったのはミカだ。やるのは確か、迷路風お化け屋敷だったかな?使われていない階をほぼ丸々使った本格的なものだそうだ。
「準備は間に合いそうですか?」
「うん!心配ありません!」
敬礼するミカを見てれば、本当に大丈夫なのだろうとわかる。
「海未さんの方は?どうですか?」
「そうですね……私達も特に問題は無いかと。ただ」
「ただ?」
「その……少し、男子のやる気が薄いと言いますか、滞りが見られます。今は深刻ではありませんが、このままいくと……」
確か、こちらは簡単な喫茶店を行うのだったっけ。どの教室にも、行事すらまともに取り行おうとしない人間はいる。海未さんが言っているのはそういった所だろう。
「わかりました、それはクラスメートでもありますし僕が直接指揮を取りましょう」
「えっ、ですがお仕事は……」
「残りの仕事と言えば、皆さんの進捗の確認と見回りくらいですから、問題ありませんよ」
実際、僕の仕事は既にほとんど終わっている。引き継ぎまでもういける程度には。
「そうですか……それでは、お願いしてもよろしいですか?」
「はい、構いません」
これでここは一旦幕引きとなり、三年生に聞いてみたが、どのクラスも特に問題は無いようで安心した。
「それでは、この辺りでこの集まりを終了にします」
全員が出ていったのを見計らって溜息をつく。
「ふぅ………これさえ無事に終わってくれれば…ゴホッゴホッ!!」
慌てて手で口を抑えると鉄の味が口いっぱいに広がり、手に何かヌメリのあるものが付着していた。恐る恐る確認すると、手が鮮やかに赤くなっていた。
「………?」
朝から重かった身体が、更に重くなるような錯覚に囚われる。心なしか熱っぽい。
「………また病院かな?」
再び重々しく溜息を吐いて荷物を片づける。とりあえず、今の時点で残っている最大の不安要素は、文化祭当日にやるμ'sのライブだ。
「ヒフミに頼んではあるから準備は大丈夫だろうがな……」
心配なのは当日の天気だ。今の予報では大雨となっている。体育館の使用抽選に落選している彼女達にとっては死活問題だろう。
「恐らくここが踏ん張りどころなんだろうな…」
彼女達の練習を少し観てから帰るか、と重い足を引きずって階段へと向かった。
「それは……本当なんですか?ことり」
何回か転びかけながら屋上に繋がる階段まで登ると話し声が聞こえてきた。声的に海未さんらしい。
「…………うん」
どうやら、ことりさんと話をしているらしい。聞き耳を立てるのは忍びないと思いながら、話を遮るのも悪いので黙ってその場に留まる。
「本当に……留学してしまうのですか?」
「…………うん」
「そう……ですか。穂乃果にはもう話をしたのですか?」
「ううん……穂乃果ちゃんは、今ライブに集中したいと思うから、文化祭が終わってから話すよ」
「………」
まさか、そんな深刻な話だとは思っていなかったので聞いたことを後悔する。
「ここは戻──っ!!ゴホッ!!ゴバッ!!!」
引き返そうとした瞬間、僕は激しい咳とともに喀血してその場に膝をつく。体に力が入らない。
「「!!」」
慌ただしく階段を降りてくる音がして、反射的にそちらを向くと、立っているのはやはり海未さんとことりさん。二人とも驚愕に目を見開いている。
「ことり!!今すぐ屋上に行って電話で救急車を!!私は彼の介抱をします!!」
「う、うん!!」
僕はいきなりの喀血に喉を覆われてしまい上手く呼吸ができない。
「勇人!意識を確かに!!」
「ゴホッ!だいじょ……っ!!」
「無理に喋らずに口を下に向けて下さい!!」
酸素が足りず朦朧とした頭で彼女の指示に従うが、意識は段々と薄れていく。
「勇人!!!」
消えゆく意識の向こうで、金髪を揺らしながら誰かが駆け下りてくるのが見える。
絵里──せんぱ───。
勇人が倒れた翌日、私は病院に来ていた。
「やあ、君は確か絢瀬君だったかな?真姫がお世話になっているね」
柔らかに笑みを浮かべているのは真姫のお父さんだ。
「いえ…真姫さんには、私達の方こそいつも助けられています」
口から出る言葉も社交辞令のような言葉になってしまっている。私の頭は、倒れた勇人の事でいっぱいになっていた。
「ははは、真姫の言った通り、余程勇人君のことが心配なのだね。彼はまだ目覚めては居ないが心配無いよ。あれは急性気管支炎だね。恐らくは免疫機能が弱った時に無理をしていたんじゃないかと思うよ」
意識を失ったのは、疲労と血液の不足によるものらしい。
「……文化祭も近かったですから。目を覚ますのにはどれくらいかかりますか?」
「そうだね……どんなに短く見積もっても目を覚ましてから四日ほどは病室にいてもらうことになるかな」
「そうですか……あの、今勇人に会うことはできますか?」
「構わないよ。着いてきてくれ」
そう言われて、歩き出す先生についていく。二分ほど歩いてから病室の前に着くと、思い出したかのように白衣のポケットから何かを取り出して差し出してくる。
「一応それをかけておいてくれれば、私がいない時でも彼の病室には入れる。真姫が信頼している君に預けておこう」
「ありがとう、ございます」
「さて、私は患者さんが来るといけないから失礼するよ。ゆっくり話をするといい」
「はい、何から何までありがとうございます」
にこやかに頷くと、先生は去っていった。私も彼の病室のドアを開けて中に入る。
一人用の小部屋らしく、目の前には白いベッドに眠っているらしい人の影があった。
ゆっくりとカーテンを捲ると点滴に繋がれた勇人が寝息を立てて眠っていた。
私は思わず安堵の息を漏らしながらそっと用意されている椅子に腰掛ける。
彼の寝顔を見るのは二度目だが、やはり幼さを感じさせる。とても高校二年生には見えない。
「全く……心配かけて呑気に眠ってるなんて…認められないわよ……」
昨日、血を吐いて倒れた時は本当に死んでしまうのではないかと思い気が気でなかった。
その為か、安心して緩んだらしい涙腺から涙が溢れだしてきた。
「でも、本当に何事もなくてよかった……ゆっくり休んで頂戴。文化祭は、必ず成功させてみせる」
今回の文化祭でも、恐らく学校側は入学志望者アンケートを行うはずだ。上手くいけば、今回で廃校が阻止できるかもしれない。
「貴方だけにはもう背負わせたりしない。今度は私も一緒に背負うわ」
そっと手を取ってそう誓う。
「それじゃ、また明日来るわね勇人」
寝ている勇人の頭をゆっくり撫でて、私は病室を後にする。そのまま病院の外に出てすぐに私は親友に電話をかけた。
「もしもし、希?少し協力して欲しいことがあるのだけれど」
各々が思いを抱えた文化祭まであと三日。果たして、その先にあるものは──。
ここまで読んでいただきありがとうございます
今回よりアニメ一期の山場、及びオリジナル章のプロローグとなります
女神達と少年が紡いでいく物語を、今後ともよろしくお願いします。
また評価を下さった
☆10:とあるライバー様、宇宙一バカなラブライバー様、桐ケ谷様、ノブオ様
☆9:Asuha様、岩下航希様、ローニエ様、フィム様、ケ_ン_ト様、吟路様
誤字修正をして下さった、山風様。
そしてここまで読んで下さった皆様
ありがとうございます。皆様の暖かいご声援が作者の糧となっております
それでは次回更新でお会いしましょう