偽りの笑顔の先に   作:黒っぽい猫

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前書きです。こちらは2本連続投稿の後半になります。前半を読んでいないという方は1つ前のお話から読んでくださると幸いです。


第十四話〜希望のカケラ(後編)〜

ヒュン、という音と共に矢が真っ直ぐに飛んでいき的に突き刺さる。矢を番えていた人──園田海未さんは詰めていた息を吐くと共にこちらに向き直った。その表情は笑みを浮かべてはいるがどこかぎこちなく、困ったような、寂しいような、様々な感情の入り交じったものだ。

 

「それで、勇人……わざわざここになんの用事ですか?」

 

「いや、僕も一応弓道部員だし。たまには顔を出さないとさ」

 

「ああ、そういえばそうでしたね。貴方が生徒会の仕事を一人で請け負うようになって以来ここでは会う事が無かったのですっかり忘れていました」

 

「おい」

 

「ふふっ、冗談です。さ、どうぞ」

 

海未さんが場所を開けてくれたので有難くそこを使わせてもらうことにしてそっと座る。目を瞑り落ち着けていた心を更に深く沈めていく。ここにいる間は雑念を挟むことは許されない。澄み切った心で一射を的の中心に当てることだけを考える。

 

「いける」

 

そう呟いて矢筒から一本の矢を抜き出し弓に番える。不要な力を入れず、弦を引き絞り放つのに必要なだけ力を使う。

 

 

『どうして──?』

 

 

「っ!!」

 

放つ直前、絵里先輩の影が見えた気がした。だがそれは気の所為で、気がつけば的の中心に矢が突き刺さっていた。

 

周りからぱちぱちとまばらに拍手が響く。練習来てないのにブランクが無いねぇ、などと冷やかすような言葉も飛んでくるが、誰も本気では言っていないので特に気にならない。

 

「流石ですね、勇人。ですがお身体に障りませんか?」

 

心配そうにこちらを見る海未さんに苦笑する。

 

「平気、という訳では無いけどね。少なくとも矢を放つのに必要な力は残っているさ」

 

そう苦笑しながら額の汗をタオルで拭う。真夏はすぎたと言っても残暑が厳しいこんな晴れた日に袴を履こうものなら暑くて堪らない。

 

弓道場の隅の木陰で休みつつ他の生徒が的に向け矢を放つのを何の気なしに見ていると隣に海未さんが腰掛けた。海未さんもじっと弓道場を見ており、その横顔からは表情が読み取れない。

 

「……」

 

「……」

 

「…………」

 

「…………勇人」

 

しばらくの静寂、それを破ったのは海未さんだった。

 

「絵里とにこ、希の三人がμ'sをランキングから削除しました。それが一週間ほど前のことです」

 

「ああ」

 

それはこの目で確認した。その日、僕はμ'sの名前がランキングから消えるまでずっとパソコンの前に張り付いていたから。

 

 

「その翌日に復調して学校に来た穂乃果と、ことりと、三人で廃校が取り消しになったという掲示を目にして肩を抱いて喜び合いました。μ'sの九人で成し遂げられたのだと、そう喜びました。

 

──更に、その翌日のことです」

 

 

彼女の声が震えそうになっている事を知らないフリしながら先を促す。

 

 

 

「その日、ささやかな祝勝会を開くことにしました。私達九人で、この学校を存続させる、その手伝いができたことを喜びたいと」

 

「……うん」

 

膝に置かれた海未さんの手が強く握りこまれる。そこで僕は、小刻みにではあるが彼女が震えていると言うことに初めて気がついた。

 

「そこで……っ……そこで、ことりが、決めたことだと言って、話をしました────服飾の勉強の為、留学をするのだと」

 

全て一度聞いた話だから知ってはいたが、やはりそれを当事者から聞くと酷く、重いものだった。

 

「ことりは……何もっ…………私にも、穂乃果にも言ってくれなかった!どうして?どうしてなんですかっ!!私達は幼馴染で……親友で……なのに!」

 

堰を切ったように溢れた感情は彼女を呑み込んだ。袴をシワになるくらい強く握め彼女は泣きじゃくった。

 

しばらくして落ち着いたのか、多少しゃくりあげながらも震える声で彼女は続けた。

 

「ことりは……私と穂乃果に言いました。一番に相談したかった、と。そんなの当たり前だろう、と。

 

でも、邪魔をしたくなかった……そう、ことりは言ったのです。私と穂乃果が一つの目標に向かうその邪魔をしたくなかったのだ、と。

 

穂乃果は、自分を責めました。自分がやろうなどと言い出さなければよかった、そんな事を言わなければこんな事にはならなかった。もっと周りを見ていれば、もっと自分をわかっていればこんな事には……と」

 

「海未さん、それは──」

 

違う、と言おうとして歯を食いしばった。聡明な海未さんの事だ、そんな事にはとっくに気がついている。

 

「ええ、そうですね……わかっています。これは誰も悪くない。

 

でも、それでも私は……やっぱり自分を責めてしまう。自分にはもっと上手く出来たはずなのに、どうしてやろうとしなかったのかと。どうしてこの身体は動かなかったのかと……!!!!」

 

海未さんは懺悔をするかのように声を絞り出す。一度は落ち着いたその声は再び震えていた。今度は悲しみではなく、自らを焼いてしまうかのような激しい感情(後悔と怒り)に。

 

「何度も機会はありました。穂乃果にはなくとも、私には一度話を振ろうとしてくれていたのです。『あの事はどうするのか』と一言聞けば状況は違ったかもしれない……っ!!」

 

だが、その怒りもすっと姿を消してしまう。最後に残ったのは諦観の籠った自嘲だった。

 

「私は、自惚れていました。ことりの親友なのだ、穂乃果の親友なんだ。だから私は二人の支えになれるに決まっているのだ、と。

 

──ですが蓋を開ければどうでしょう。私はことりを止める言葉を持たず、穂乃果を支える手もなかった。私は離れていく二人をただ眺める事しか出来なかったんですよ」

 

海未さんの目は、どこか虚ろでそこにある全てを映していて、何も見ていなかった。そんな彼女にどう声をかけようか、そう思慮していたら口が無意識のうちに言葉を紡いでいた。

 

「──それで、君はここで立ち止まるの?」

 

優しい慰めではない。それは次にどうするのかという先を見る為(未来へ進む為)の言葉だ。

 

「勇人……?」

 

「確かに、海未さんの言う通りだ。君がどうにかすれば現状は変わったのかもしれない。でもね──現実として既にこう(μ'sは活動休止に)なっているんだよ」

 

「──ッ!!!」

 

「自省と自責は違う。前者は前に進む原動力になるが、後者は歩みを止める足枷になる。君がどんなに自分を責めた所で何も変わらない」

 

「そんな事は──っ」

 

「変えられるのは今からだけなんだよ、海未さん」

 

「……っ!!」

 

きっと僕に言われたくないに違いない。そもそも、この混乱を招いた責任の一端は僕にもある。あの日、もし僕が倒れてさえ居なければ。或いはもし、ランキング削除を命じなかったら。様々なもしも(if)が脳裏を過る。

 

でも僕は、そして彼女たちは決断したハズだ。選んで今この場にいる。ならば、もし後悔にまみれているのだとしても、見据えるべきは前だ。

 

どうしようもなく過去から逃れられなかった僕だからこそわかる。ここでこの人の歩みを止めてしまっては駄目なんだと。だから僕は優しい言葉はかけない。

 

僕の言葉がどんなに冷たく心に突き刺さったとしても、後からどれだけ恨まれようとも。

 

「──南さんの中には、少なくとも彼女の中には、迷いがあった」

 

「勇人……」

 

「もし君にその気があるのなら、南さんが飛び立つその日、裏門に。僕が必ず園田さんと高坂さんの二人共を空港まで送り届けるから」

 

僕が知っているのはことりさんが何時飛ぶのかだけだ。だからその日を狙う。立ち上がり弓道場から立ち去ろうとする僕に何かを言おうとしている海未さんの機先を制する形でもう一度だけ口を開く。

 

「僕はね、園田さん。君達のファンなんだ。体育館で君達が踊るのを見たその日から、ずっとね。そんな君達が僕の大好きな先輩の居場所になっていて、感謝しているんだ。だから、君達の作ったμ'sを守る、その手伝いを僕にさせて欲しい」

 

精一杯の笑顔を作りながら踵を返す。

 

「──それにね、園田さん」

 

きっと聞こえないであろう、最早独り言でしかない呟き。キラキラと輝く彼女達を見て想起したのはもっと別の所だった。

 

 

 

──親友との別れ際が喧嘩だなんて、そんなに苦しいこともないんだよ。そんな思い、わざわざする必要は無いんだ──




はい、ここまでお読みいただきありがとうございます。

何度でも、宣言します。
この作品を完結させるまで、絶対に失踪は致しません。

何度モチベーションが潰えても、誰かに笑われようと、どれ程ネタに困ったとしても決して逃げません。

これが私の大好きなラブライブ!を形にしたものなんだって、そう信じています。

ですから、どうか。どうか今しばらく、彼らの物語にお付き合い下さい。

よろしくお願いします。


次回は絵里ちゃん視点のお話です。
次回更新のその時まで、皆様どうぞお元気で
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