偽りの笑顔の先に   作:黒っぽい猫

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前置きをしておきます。これは作者の完全なる自己満足で書いている作品です

他の作品も自己満足でありますが、これはその中でも特にその毛が強いです

それでも宜しければ、読んでいってください


偽りの笑顔の先に
プロローグ〜偽りの笑顔〜


僕は廊下を歩いている。すると、目の前にハンカチが落ちているのを見つける。

 

視線を持ち上げるとそれを落としたと思われる女子生徒が少し先を歩いている。

 

慌てて拾い上げてその人に声をかける。

 

「あの──!」

 

「…あら?どうかしたの?」

 

「これ…落としませんでしたか?」

 

「!失くしてしまわなくて良かったわ…ありがとう」

 

その時に見た笑顔を、僕は多分忘れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は通学路を歩きながら頭を抱えていた。

 

(よりにもよってなんで今日こんな夢……!)

 

昨日で春休みも終わり、今日から2年生に進級した。

 

(どうやって顔を合わせればいいんだ……)

 

まだ生徒がおらず、静かな校舎内を歩いて目的の教室──生徒会室の前へと辿り着く。

 

「はぁ……」

 

「溜息つくと幸せが逃げてまうよ?勇人君?」

 

いきなり後方から聞こえた声に少なからず驚いてしまう。その声の主は僕のよく知る人だというのに不覚である。

 

「いきなり話しかけないでください東條先輩。おはようございます」

 

「一瞬ビクッとしてから振り返るところが面白いからできない相談やね♪おはよう、勇人君」

 

「相変わらずいい性格してますね」

 

そう文句を垂れるが先輩はいつも通りニコニコと人を食った様な笑みを浮かべている。

 

もう何度目かわからない溜息をついて生徒会室の扉を開く。

 

「あら、保科君、希。おはよう」

 

「……おはようございます会長」

 

「おはよ、えりち♪」

 

金髪碧眼に透き通るような白い肌、そして整った容姿。100人に聞いたら100人が美少女だと言うだろう人が座っている。この人──絢瀬絵里先輩はこの学校、国立音ノ木坂学院の生徒会長だ。

 

「早速で悪いのだけれど、仕事をお願い出来る?新学期なのもあって、結構溜まっているのよ」

 

「了解しました。僕はそこの束を片付けますね」

 

なるべく会長と目を合わせないように自分の席について書類を捌く。それから何分が経過しただろうか。大方仕事が片付いたのでチラリと横目に会長を盗み見るとバッチリ目が合ってしまう。

 

「……」

 

「……」

 

そっと目を逸らすと、会長の居る方向からの視線が冷たくなる。突き刺さるような視線を極力無視していると、唐突に東條先輩が地雷を投下する。

 

「なあ?勇人君はどうしてえりちと頑なに目を合わせようとしないん??気まずそうにしとるみたいだし何かあったん、えりち?」

 

「いえ……別に何があった訳でもないんですけどね」

 

「あ!えりちで変な夢見たとか?」

 

なんてことを言うんだこの女は?!!

 

「断じてそんな夢を見たりしてないんで会長もそんな氷のような視線を向けないでください。東條先輩もそんな変な事を言わないで下さい」

 

睨みつけるも本人はどこ吹く風でクスクス笑っている。

……殴りたい。

 

「ぷっ…くくく……」

 

「……会長はどうして笑ってるんですか」

 

何故か腹を抱えている会長にジト目で確認をとる。なんとなく理由は分かっているが。

 

「希の冗談に必死に弁明してる君が面白くて……あははっ」

 

どうやら、僕に向けてきた冷たい視線はからかう為の演技だったらしい。

 

「……もう知りません」

 

それから僕は一言も喋らずに、朝の仕事を終えた。二人が謝り倒してきたが全て無視した。別に僕も本気で怒っている訳では無い。ただ、やっぱりからかわれるのは気恥しいのだ。

 

去年からずっと続いてきた先輩達とのささやかな日常。僕はそれを気に入っていたし、最後までそれが続くものだと思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「音ノ木坂学院は、来年度より生徒の募集を取りやめ、今の一年生が卒業したら廃校とします」

 

そんな始業式の日、理事長から告げられた一言が、まるで僕を嘲笑うかのようにその日常を奪い去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休み。僕達は生徒会室で昼食を取っていた。具体的には僕と東條先輩と会長──絢瀬先輩の三人だ。

 

近年共学化までして生徒の募集を行っていた中で僕は家から近いという理由で音ノ木坂学院を選択したのだが、余りにも男子が少なく、やはり教室にいるのは気が引けるのだ。

 

「数少ない男子も、中学から一緒の人達と群れとるもんね、勇人君が孤立するのも無理ない話やん」

 

「サラッと心の中を読まないでください。怖いですよ」

 

心外やなあ、と愉快そうに笑う東條先輩だが、絢瀬先輩の表情を見て少し悲しげな顔になる。

 

「……絢瀬先輩?」

 

「えっ?!あ!ごめんなさい、なんだったかしら?ちょっと考え事をしてたの……」

 

「廃校ですか?」

 

首肯する絢瀬先輩に先を促す僕。

 

「どうにかして廃校を阻止したいのだけれど……」

 

「難しいと思いますけど、僕は不可能なことではないとも思いますよ?ただし、先にご飯を食べませんか?お腹がすいては思いつくものも思いつきませんよ」

 

「そうね……希、保科君、食べ終わったら少し付き合ってくれる?私も、やれる事をやりたいの」

 

「「もちろん!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでどうして中庭に?」

 

「さっきあの辺に……あ、居たわね。理事長の娘さんの南 ことりさんよ」

 

一本の樹をぐるりと取り囲むように設置されたベンチに三人の女子生徒が座っているのが見えた。

 

「あ〜、なるほど。僕と東條先輩は脇に控えてればいい感じですか?」

 

「そうね……行くわよ…」

 

カツカツと歩を進める絢瀬先輩を横目に見ると明らかに緊張しているのがわかる。初対面の人と話すのが苦手な先輩なら無理もないけど、この人の場合……。

 

「少しいいかしら?」

 

ほら、カチコチに緊張してるよ。しかも眼光が鋭いし。面と向かっている三人の顔も若干ひきつっている。

 

そんな人見知りをしている絢瀬先輩は一先ず置いといて、その話し相手を観察する。

 

普段から特に会話はしないが、ベンチに座っている三人はクラスメイトの為、誰かくらいは知っている。

 

高坂穂乃果。底なしに明るく、オレンジ色のサイドテールが特徴的だ。たしか、教室ではよくパンを食べて、授業中に舟を漕いでいる光景を目にする。

 

南ことり。頭に乗っている団子のような塊が印象的で、声が甘ったるい。理事長の娘さんだ。尤も、そこで差別をしようとする先生が居ないのは理事長の人柄が影響しているのだろうが。

 

園田海未。大和撫子。人がそう呼ぶのに相応しいだけの見た目スペックを持ち合わせている文武両道を地で進む家元の愛娘。

 

三人は幼馴染みなのか、常に行動を共にしていることもあり印象に残っていた。

 

「あの……!学校無くなっちゃうんですか?!」

 

何をやり取りしているのかまでは聞いていなかったが、高坂さんが立ち上がり先輩に問いかける。

 

「……貴女達には関係無い事だわ」

 

先輩の返答はあまりにも素っ気なく、言外に「関わるな」と言っているようにしか捉えられなかった。

 

……何をしているんですか。

 

何故か少し満足気に立ち去る絢瀬先輩に続いて東條先輩が「ほなな〜」といって去っていく。よし、ここは巻き込まれる前に僕も──。

 

「待ちなさい、保科君」

 

「どうかしたのか、園田さん?」

 

僕を引き止めたのは同じ部活動に所属している園田さんだった。

 

「生徒会長、何かピリピリしていましたがどうかされたのですか?」

 

「あ〜、まあ……色々あるんだ、色々」

 

言えない……ただの人見知りでつっけんどんな態度をしてしまうのだなんて言えない……。

 

「生徒会長もやはり色々考えていらっしゃるのですか……引き止めてしまってごめんなさい。また部活でお会いしましょう」

 

なんとか誤魔化せたようで引き下がってくれた。と、今度は高坂さんがズイッと前に出てくる。

 

「貴方、同じクラスだよね?私のことわかる?!」

 

「数学の赤点補習常連の高坂さんだよね」

 

「嫌な覚え方だ?!」

 

「そっちの南さんも同じクラスだよね」

 

「そうだよ♪海未ちゃんのお友達だったんだね」

 

「友達というか、部活仲間?まあ、そんな感じ」

 

「こら二人とも、あまり引き止めては迷惑ですよ。お仕事がまだあるのでは?早く行った方がよろしいかと」

 

「ああ、そうさせてもらうよ」

 

どうやって高坂さん、南さんとの話を切り上げるか考えていた所に園田さんの助け舟が流れてきたのでありがたく乗らせてもらおう。

 

「またお話しようね〜!」

 

元気に手を振る高坂さんに元気をもらって僕は先輩たちの所へ急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……絢瀬先輩?」

 

「………なに?」

 

場所は変わって(戻って?)生徒会室。

 

「なんであんなに冷たい言い方したんですか?」

 

「言わないでちょうだい……気にしてるのよ……」

 

若干落ち込んでいる会長を少し呆れつつ見る僕と苦笑している東條先輩。

 

「いくら会長が真面目って認識をされているからといっても、もう少し周りを気にしなくてもいいんじゃないでしょうか?」

 

「でも……人が期待させているのよ?その通りに私は動かないと……」

 

「会長は少し気を張りすぎです。そんなに疲れるように振る舞う必要もありませんよ、僕や東條先輩と過ごすように周りにも接してみるだけで変わると思いますよ?」

 

「そうかしら……?」

 

「せやで。この前福引きで当たった時みたいに定期的に舞ったりすればええんやない?」

 

「ちょっと希?!なんでそれ知ってるのよ?!」

 

「東條先輩。それ詳しく教えてください。よかったら動画見せてください」

 

「ええよ〜」

 

「撮ってたの?!やめなさい希!!!」

 

取り留めのない話から、くだらないいつものやり取りへ。

 

僕は、そんな特別みのない、二人の先輩と笑いながら過ごせる日々が好きだった。

 

そう、好きだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なによ、これ……もう少しまともな案は無かったの?!やり直して!!」

 

「……っ!ごめんなさい会長……」

 

そう肩を落としながら企画係に抜擢された生徒は去っていた。

 

「えりち、少しやりすぎやで」

 

「ダメなのよ……!月並みじゃダメなの!!」

 

あれから既に一ヶ月がたっていた。日に日に焦りを感じ始めた会長を気遣って東條先輩が東奔西走してはいるが結果はこのザマだ。段々と生徒会の構成員も少なくなりつつある。

 

「会長……何処に行くんですか?」

 

「理事長室よ……今日こそ行動の許可を貰うんだから」

 

会長は、毎日理事長の元へ直訴をしに理事長室に行っている。とはいえ、毎日足を運んでいるという事は成果が芳しくない、ということなのだが。

 

言葉少なに去る会長を追いかけるように出ていく東條先輩。

 

「また今日も仕事は僕ですか……まあ、仕方ありませんかね〜」

 

カバンからエナジードリンクを取り出すと一気に飲み干す。決して体に良くはないが、ここ最近は詰まっている仕事僕一人でこなしている。人並みよりは慣れていても、一人で出来る量には限りがある。

 

「まあ、それだけ会長も追い詰められているんだから、やれるだけの事はね」

 

少しでも会長や東條先輩の負担を減らしたい。そう思って仕事をしているのだが、僕が一人の時に限って厄介事はやってくる。

 

コンコン、とドアを叩かれる。

 

「どうぞ、鍵はかかっていません」

 

「ごめんね………保科君」

 

先程ダメ出しをされていた生徒だった。もう二人、生徒会の書記さんもいる。手に握っている用紙を見れば、大体何があったのかも検討がつく。

 

「そこに置いておいてください、僕が受理しておきますから。お仕事お疲れ様でした」

 

そういった僕の前には、生徒会役員の辞表が三枚。その全てに承認の印を押す。その後すぐに書類の処理を再開した僕を見て、書記さんが聞いてくる。

 

「保科君はやめないの……?もう、これで貴方達三人だけなのに……」

 

「今の所辞める予定は無いです。今の生徒会じゃ、仕事の八割は僕がこなしているようなものですし、僕が抜けてしまってはそれこそ笑い話にもなりませんよ」

 

「そっか……強いね。それじゃ……本当にごめんなさいって、会長に伝えておいて?」

 

「ええ、わかりました」

 

彼女達も、最初は頑張っていた。廃校を阻止する為、他の高校にはない強みとしてアルパカを前面に押し出したパンフレットを作成してみたり、最近高坂さん達が始めたスクールアイドル、μ'sと一緒に何かやってみたらどうか、と。

 

だが、会長はそれを一言で片付けた。

 

『彼女達を宛にするのはよしなさい!他に何かないの?!』

 

その頃から生徒会室に来る人の数は減り、空気も重いものになっていった。そして一人、また一人と役員は欠け、丁度今の三人が辞めたことで今期の生徒会役員は僕と会長、東條先輩の三人のみになった。

 

「ここも三人だけで使うには少し広いよな」

 

 

ドカン!!

 

 

書類を捌きながらそんな事を呟いていたらドアが乱暴にこじ開けられた。会長が空いていた席に座るやいなや頭を掻きむしる。

 

「なにが悪いって言うのよ!?私も必死に考えて考えているのに!!なんでよ……どうして……」

 

始めは強かった言葉にもすぐ覇気が無くなっていく。ひと月前の面影はひとつも無かった。

 

……潮時なのかもしれない。

 

「無理に決まっているじゃないですか」

 

「……ぇ」

 

「そんな風にパニックになっていれば誰かから同情してもらえるとでも思ってるんですか?つい先程も、二人から辞めたいと申し出があったので受理しました。あまりにも強く周りに当たりすぎですよ、会長……いえ、先輩」

 

「保科君……?君は……何を言っているの?」

 

「昨日から受け取っていたのですが、今この場で言い渡しますね」

 

仕事の時は会長、それ以外は先輩。そうルールを決めていた僕と先輩。僕がこの部屋で彼女を先輩と呼ぶという事が意味する所を、先輩はもう気がついているはずだ。

 

「絢瀬絵里先輩。貴女は本日付けで生徒会長の解職をします。そして同じく本日付けで生徒会が行う全権を僕、保科勇人に委託します。これは、校長先生と理事長により認可されたことです」

 

「……嘘」

 

「申し訳ありませんね、先輩。何時までも貴女のような仕事をする事を忘れたものに権利を預けておけるほどここには余裕が無いんです」

 

できるだけ傷つける言葉を、それでも再起できるような言葉を選ぶ。

 

あくまで、僕は先輩に自由になって欲しいのだから。

 

「どうして………どう……してよ……」

 

ブツブツと何か言いながらフラフラとした足取りで去っていく先輩。その姿が見えなくなると僕は元いた場所に座り込む。

 

「保科……君」

 

こんな時に声をかけてくる人なんて一人しかいない。扉の前で佇む東條先輩に僕は目を向ける。

 

「……聞いていたんですね、東條先輩。早くかいちょ……絢瀬先輩を追いかけてください。μ'sに引き込んで、あの人の本当の力を……きっと、あの人なら成し遂げてくれるはずですから」

 

「でも……それじゃあ保科君が」

 

「僕は悪役でいいんです。ほら、早く。僕にはもう追いかける資格なんてありませんから」

 

僕は、精一杯笑ってみせる。

 

うまく笑えているのかと不安になるけど、精一杯笑顔を作る。

 

いつの間にか、東條先輩も居なくなっていた。

 

「頑張って下さいね──絢瀬先輩」




ここまで読んでくださりありがとうございます。

次回もよろしくしてくださると個人的には嬉しいです
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