偽りの笑顔の先に   作:黒っぽい猫

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黒っぽい猫でございます。

今回もよろしくお願いします


第一話〜誰がための〜

絢瀬先輩の件から数日が経った。僕の生活は大して変わらない。授業が終われば一人で生徒会室へ行き、一人で仕事を片付ける。

 

絢瀬先輩は、日に日に元気を取り戻しているそうだ。東條先輩から聞いた。

 

「んー…少し眠いな……」

 

ここ数日の間まとまった睡眠を全くと言っていいほど取れていない。理由は明らかで、辞めていった役員達の仕事も僕一人でこなさなければならない。僕にそんなに高い処理能力があるわけもなく家に持ち帰ってやると、いつの間にか朝になっている。勉強にも時間を回しているのだから当然といえば当然なのだけれど。

 

「仕方ない……少し仮眠を取ろうか」

 

アラームをセットすると腕を組んで目を瞑る。それだけで、あっという間に意識は落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンコン、コンコン

 

「ん………」

 

閉じていた目を開くと、時計の針は一時間進んでいた。アラームはとっくに切れている。

 

コンコン、コンコン

 

「やれやれ……どうぞ。入ってきてください」

 

「はい、失礼します」

 

「失礼します」

 

「……」

 

「なにか御用ですか?」

 

「はい、これを」

 

入ってきたのは三人の生徒。

 

一人は園田海未。μ'sの発起人である高坂穂乃果の幼馴染みであり、文武両道をこなす努力人。

 

一人は西木野真姫。ファーストライブの時からμ'sの作曲を担当している。その才もさる事ながらその歌声も多くのファンを惹き付けている。

 

そしてもう一人は絢瀬先輩だった。

 

「ライブ場所の使用許可……。僕が首を縦に振ると思って来ているんだったら見通しが甘いです。これに関して生徒会は一切の承認をしません」

 

ピクリ、と西木野さんの眉が引き攣った。なるほど、この三人なら自分の強い意志を持ち、だがこちら側の意見を聞くだけの度量はあるというわけだ。

 

「どうしてダメなのか聞いてもいいですか?」

 

園田さんが食い下がる。

 

「別に部活動として活動する分には一向に構いません。ですが、それは部活動の紹介をするに当たってするべき事であって、学校全体の説明に必要があるとは思えません」

 

「それは………っ!」

 

「学校の説明会を、おちゃらけた気持ちでやられてしまってはコチラが迷惑です。わかったら早く帰ってください。そのようなこともわからない人間達に時間を掛ける余裕は今の僕にはありませんので」

 

「……わかりました。失礼します」

 

「………」

 

園田さんは悔しげに、絢瀬先輩は悲しげにそれぞれ部屋を出ていく。

 

「西木野さんも、こんな所にいないで早く練習に行った方が」

「貴方、どのくらい寝てないの?」

「……君が何を言っているのかわからないね」

 

突然投げかけられた質問に虚をつかれ、一瞬言葉に詰まった。

 

「私はパパ……お父さんの病院へ頻繁に顔を出しているから体調不良の患者さんをよく見てきた。貴方の今の雰囲気は、まるで不眠症の患者さんそのものよ。慢性的な寝不足でしょう」

 

「……ハッ、拒絶した相手に心配されるなんて、僕も随分落ちぶれたものだね。これでもたかが三日寝てない程度だよ。支障はないね」

 

正直にいえばこれは強がりだ。だが、コレは僕が請け負った重荷なのだから決して捨てるわけにはいかない。

 

「……気をつけなさいよ。寝不足は心身のコンディションにも影響する。正常な判断ができなくなる前に休むことを進めるわ」

 

「余計なお節介どうも……。ところで、これでも一応先輩だから敬語を使ってくれると嬉しいんだけど」

 

「それは無理。絵里先輩を追い詰めた貴方に対して敬意を抱くことなんて出来ないから」

 

「そうかい」

 

淡々と話す僕に苛立ったのか、西木野さんはキッとこちらを睨み付けてくる。その目にはえも言われぬ迫力があり些か驚いた。

 

「……ねえ。一つだけいいかしら?」

 

「手短にお願いするよ」

 

「どうして?貴方は絵里先輩を慕っていたんじゃないの?何故あの人を突き放したのよ?貴方にならきっと絵里先輩を助けられたはずなのに、どうしてその義務をかなぐり捨てたの?」

 

西木野さんは目に涙を浮かべていた。

 

「あの時見た先輩はボロボロだったわよ。目も光が無かった。私達みんなで部室まで連れて行って、希先輩や穂乃果先輩達が頑張って、今はなんとか笑えるようにまでなったの」

 

「そっか、その報告が聞けただけでも良かった」

 

「よかった………?良いわけないでしょう……!」

 

西木野さんは堪えきれなくなったのか、シャツの胸倉を掴んでくる。

 

「アンタがもっと絵里先輩に目を向けていれば!アンタが裏切らなければあそこまで深く傷つくことも無かったのにどうして──ッ!」

 

「続きは……?それで、終わりかい?」

 

「貴方……泣いているの?」

 

「……まさか」

 

そっと自分の目に手を当てると、確かになにか液体が流れ落ちているようだ。

 

「おかしいな……とっくに感情の整理はつけたのに」

 

そっと西木野さんの手を解くとハンカチで目元を拭う。目を見せないように後ろを向いて、極力声が震えないように抑えながらなんとか言葉を紡ぐ。

 

「西木野さん、僕には逆立ちをしたって絢瀬先輩を助けることは出来なかったよ。いや、それは東條先輩一人でも無理だった」

 

「何を言って──」

 

「親しい人が何を言っても、あの時の絢瀬先輩には届かなかったってことだよ。そして、言葉を届かせるためには必要だった。僕か東條先輩のどちらかが汚れ役を買う必要があったんだ」

 

涙も収まり、声の震えもなくなった僕は西木野さんと目を合わせる。

 

「僕はね、絢瀬先輩には笑っていて欲しいんだ」

 

「……」

 

「そのためなら、幾らだって嫌われる。汚れ役だって引き受ける。たとえ誰に恨まれても、誰に笑われても構わない」

 

だから、今はまだ折れるわけにいかないんだ。

 

「ああ、そうだ。ここまで話を聞いたんだ、一つ僕の頼みを聞いてくれるかい?」

 

「……なんですか?」

 

「実は、口が固くて信頼のおける三人にライブの手伝いは依頼してある」

 

「!」

 

「明日、君はμ'sのリーダーを理事長室に誘導してもらいたい。そこで、君達が理事長から直々に許可をもぎ取るんだ」

 

「でも、それじゃあ会長が──」

 

「言ったはずだ。汚れ役も嫌われ役も僕一人だけでいい。君達は僕にそれを押し付ければいい。それだけの単純な話だよ」

 

「……」

 

「わかってくれたか」

「わかるわけないでしょ!!」

 

「貴方はどこまで自分の事を蔑ろにするの?!絵里先輩のことなんて何も考えていないじゃない!!」

 

……何を言ってるんだ?

 

「僕はただ、絢瀬先輩が辛くならないように」

「違うわよ。貴方は、ただ怖いだけ。絵里先輩に拒絶されるんじゃないかって怖いから、絵里先輩から逃げてるだけよ!!」

 

「だから?」

 

僕は、いつも通り自分を偽る。彼女達と馴れ合うつもりは無い。

 

「だからなに?そりゃ怖いさ。絢瀬先輩と面と向かって話すことなんて今の僕にはできない」

 

「……そう。貴方、最低ね」

 

「わざわざ言われなくてもわかっている。先程の件については君が好きに動けばいい。少なくとも、僕としては裏から君達を支援する用意がある」

 

西木野さんは、身を翻して去っていく。

 

「……頼みの件は、それとなく動きます。もっと自分のことも考えてください。もし本当に、絢瀬先輩に笑って欲しいなら」

 

振り返ってそう呟くと、今度こそ部屋から出ていった。

 

「………………なんだよ、それ」

 

西木野さんが去ってからしばらくの間、動くことも出来ず僕はその場に立ち尽くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、理事長室に僕はいた。勿論一人だけじゃない。

 

「あらあら、多数で押しかけてきて、なにか御用かしら?」

 

「やめてください理事長、僕は彼女達と馴れ合いに来た訳ではありません。生徒会の仕事上、次回のオープンキャンパスについて生徒会、詰まるところ僕自身で案を纏めてきました。目を通して総合的に評価をいただければ幸いです」

 

無論、ライブなどで校庭の使用許可などを下ろすつもりはありませんが、そう言って隣に立つ高坂さんを睨みつける。

 

「だから!どうしてダメなの?!ただステージで踊って歌うだけじゃん!!」

 

「だから、それは活動場所の屋上でやればいいだろう?!運動部の説明に最も適してるのは校庭なんだ!わざわざ一つの部活のために他の運動部には諦めろというつもりなのか?君達はいつからそこまで偉くなった!?」

 

「うっ、それは……」

 

「お言葉だけど、生徒会長?確かに運動部の紹介のために校庭を使うのは理解出来るわ?でもだからと言って、別に全ての時間をそれに費やすことは無いでしょう?」

 

「ええ、確かにそうですね」

 

ここまでは計算通りだ。理事長がこういった反応を見せるのもわかりきっている。

 

「まして、彼女達のステージも部活動紹介の一部として組み込めば問題ないんじゃないかしら?」

 

「そうだよそうだよ!!別にいいじゃない!」

 

「穂乃果!貴女は少し黙っていなさい!」

 

理事長に便乗する高坂さんを窘める園田さん、なんとも微笑ましい光景だ。

 

ただ、これで僕もカードを切れる。

 

「そうですか、わかりました。理事長がそう仰るのなら僕からこれ以上言えることはこれだけです。精々、貴女達の活動がこの学園の汚点にならないよう、気をつけてくださいね」

 

「なによ!!あんたに何がわかるの?!ただ偉そうにイスに座ってふんぞり返ってるだけのあんたにあたし達の何がわかるってのよ?!」

 

一言余計だったか、脇にいた矢澤にこ先輩に食ってかかられる。

 

「まあまあにこっち、落ち着いて?な?」

 

「希!アンタは好き勝手言われて腹が立たないわけ?!絵里のことをあんな目に遭わせた奴なのよ?!挙句の果てにこんな事まで言われて!私は我慢の限界よ!!」

 

「小さいのは体格だけじゃなくて器も、なんですね、矢澤先輩」

 

「アンタねぇ……!!」

 

パンッ!

 

にこ先輩が何か言う前に、頬に衝撃が走った。周りのみんなが驚いている。僕自身も、何が起こったのか理解出来ていなかった。

 

痛む頬を抑えて前を見据え──




今回は短いですが、ここで区切ります。

ここまで読んで下さりありがとうございました。
次回もお待ちくださると幸いです



2020年10月19日(月):本文の一部改訂を行いました。
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