黒っぽい猫です。いつも通り御礼などをあとがきに書きなぐっております。
ここは短く、本編をどうぞ
µ’sの路上ライブから少し時が流れて夏休みに入った。
暑さは日に日に増していき肌を焦がしていく。日焼けはあまりしたくないので日焼け止めはぬるが、何処まで効果があるのか甚だ疑問だ。
これでまだ七月というのだから、来月の暑さを想像するだけで気が滅入ってしまう。
µ’sのライブを観た感想は感動の一言に尽きた。踊りにも歌にもすっかり魅了されてしまったかもしれない。僕のウォークマンには既にµ’sの歌が全て入っている。
まあ、だからと言って接し方を帰る予定は微塵も無いが。それはともかく、今は夏休み。本来ならクーラーの効いた部屋で炭酸飲料片手にゲームをしたいが、残念ながら仕事が山積みだ。
「夏休みとは言っても、仕事が減るわけでは無いんだよなぁ」
むしろ、学校に人がいない今だからこそ校舎内の見廻りをして直すべきところを学校側に提案するのも大切な仕事だったりするので、休みというのは名ばかりなのかもしれない。
「午後からはヒフミが来る予定だからそれまでに視察を終わらせておこう。今度、先生に頼んで弓道場を使わせてもらおうか」
コンコン
来客らしい。ヒフミは最早ノックすらなく入ってくるから、今は鍵をかけている。一度ここで着替えていた時に乱入されて以来は確実に鍵をかけるようにしている。まあ、今はどうでもいいか。
「はい、今開けますね」
ドアの鍵を開けた──次の瞬間僕は全力で飛び退かなければならなかった。勢いよく、本当に勢いよく扉が開いたのだ。
「危なっ?!」
「あははっ……ごめ〜ん…」
飛び退いてからドアを睨みつけるとその先に立っていたのは高坂さんだった。
「………なにか用?」
「うんっ!合宿の申請書を提出しようと思って」
「屋上での練習はあまりにも暑いという事で、特訓も兼ねて真姫の別荘にみんなで行く事になったのです」
言葉足らずな高坂さんを補う園田さん。彼女も相当な苦労人なのだろうか、僕と似た気配を感じる。
「それで、部活動としての外泊になるから許可を貰いに来たと」
「はい、いただけますか?」
「少し待ってね。今から書類を準備するから」
「なんでダメなの?!……え、いいの!?」
「寧ろなぜダメだと?疚しいものでもあるの?」
「てっきり保科君のことだから、頭ごなしにダメって言われるかと……」
一体彼女は僕の事をどんな鬼だと思っているんだ。いや、今はそんな事よりも……
「高坂さん頭ごなしなんて言葉知ってたんだね」
こっちの方が大切だろう。
「ちょっと!!穂乃果は数学以外そんなに成績悪くないもん!失礼だよ!!」
「穂乃果、もし印象を変えたいなら少しは知的に振舞ってみてはどうですか?」
「メガネかけたらどうかな?」
「「似合わないからやめておいた方がいい(と思いますよ)」」
「即答だ?!」
そんなやり取りをしながらも手を動かして必要な書類を集め切る。
「これが書類の全てかな。全員が保護者のサインを貰って僕に提出してください。東條先輩には電話で許可を貰うように伝えておいてくれると助かります」
「?これだけなのですか?」
「ええ、今回は西木野さんの私有地を使うとのことですし、それだけで構いません」
外泊場所が一般の宿泊施設だと、他にも面倒な手続きもあるが、使用されるのが身内のものならそこまでは必要無い。
「西木野さんの御両親には僕からお礼をしておくから君達は合宿に集中すればいい」
さ、帰った帰ったと二人を締め出す。
「僕は基本的に8時から午後の4時までここに居ますから、明日か明後日までにお願いします」
「わかりました。ありがとうございます。行きますよ穂乃果」
「ねえ、保科君?」
「なんですか?」
「貴方、私達の部活に入らない?」
世界が固まったような気がした。僕が彼女達の部活動に?
「……ありえない話だよ、僕と君達は水と油だ」
「そっか。もし気が変わったらいつでも来てね」
待ってるから。そう笑うと高坂さんは去っていった。突発的に行動するのは知っていたが、まさか自分がその憂き目に遭うとは思わなかったので冷静に返せたか不安だ。
「申し訳ありません……後で本人には注意しておきます」
「ううん、気にしなくていいよ」
園田さんも去った後、僕は一人考える。
僕がスクールアイドル研究部に、ね…。
「何を考えているんだ僕は。親しくしても後で辛くなるだけだ。僕も、その人も」
僕にはそこまで時間が残っていない。できるだけ人の記憶からは僕という存在を消しておきたい。
「考える余裕があるなら仕事を進めなきゃ。引き継ぎのことを考えるともう少し仕事を片しておかないと」
二学期になれば直ぐに生徒会長職の引き継ぎがある。それに向けてやらなければならないことは多い。
いくら淡々と仕事をこなしていても、胸に刺さった高坂さんの言葉は、すぐに抜けることは無かった。
「これは……?」
三日後の理事長室。µ’sの全員が出した申請書に僕が印鑑を押して承認した上で理事長の前に差し出す。
「アイドル研究部の夏合宿申請です。生徒会長の僕は承認しましたので、あとは理事長の印鑑をいただければ承認された旨を彼女達に報告しに行きます」
「そう、わかったわ。でも──」
東條先輩に頼んで全員を部室に集めてもらった上で、僕は溜息をつきながら彼女達の部室前に立っていた。
「報告したくないな……でも、仕事だからな…」
覚悟を決めてノックをしようとした瞬間──ドアが凄まじい勢いで近づいてくる。
「なっ──?!」
躱す間もなく目の前に火花が走った。どうやら強かに額をぶつけた──ぶつけられたらしい。
咄嗟のことに体が平衡感覚を保っていられずに廊下に倒れてしまう。
「え?!保科君?!」
「穂乃果さん?騒々しいわよ……!ちょっと!保科君大丈夫?!」
チラリと金髪が目に入った途端、僕の意識は完全に覚醒する。ダメだ、この人にだけは迷惑をかけられない。
「……大丈夫です。少し強くドアに頭をぶつけただけですから、お気になさらず」
未だに戻ってはいない曖昧な平衡感覚に頼りながら体を起こす。
「……報告があります。合宿の件で。中に入りますけど、構いませんね?」
心なし、口調が強くなっていたのだろうか。絢瀬先輩は手を僕に向けるのをやめると曖昧に頷いた。
「それで?報告って何?さっさとして頂戴」
部室に招かれは僕はまず高坂さんと園田さんに(主に園田さんに)謝り倒された。
園田さんからはやはり苦労人のシンパシーを感じる。
そして今話しかけてきたのはこのアイドル研究部の部長である矢澤にこ先輩だ。
「まずは、許可自体は降りました。それを先にお伝えします」
僕の言葉に、西木野さんを除いたメンバーから安堵の声が立つ。
「みんな、安心する前に保科さんの話を最後まで聞きましょう?含みのある言い方をするのだから何かあるのでしょう?」
「ありがとう西木野さん。彼女の言う通り、この話には続きがあります。顧問の先生の同伴ですが、出来そうですか?理事長から聞くところによると顧問の先生は昨日から他の部活の合宿で当分戻られないとか」
「たしかに、その通りです。ですがそれがた私たちの合宿となんの関係が────まさか」
「はい。顧問の先生の同伴がないと部活動としての合宿は認められないと」
「「「「「「えーーーーーー?!!」」」」」」
今度は園田さん、絢瀬先輩、東條先輩以外の6人が大声を出す。仲良しだなぁ。
「それで?貴方もわざわざそれを言う為だけにここに来た訳では無いのでしょう?」
ここまで周りにテンポを握られると、帰ってもう全部知られているのに言わされてる感があるな。
「園田さんは察しが良くて助かる。理事長から教師の確保が難しいならそれ以外で監視役をつけるべきだ、と言われてね。いっその事生徒会から出せと言われてしまったんだよ」
「ですが、生徒会と言いますと……」
9人全員の目が僕を見る。まあそうなるよね…。
「要するに、理事長は合宿するなら僕の同行が必須条件だと言ってきた」
今度こそ、全員からの絶叫が響いた。
僕だって、最初から素直に受け入れたわけじゃない。
『はい?生徒会役員の同伴?』
『ええ、その通りよ。まあ、実質的には今の生徒会の成員は貴方だけだし、決定ね♪』
『しかし……』
『拒否権はないわよ〜?理事長の命令ですからね♪』
『……わざわざ、御息女を得体の知れない男と同じ屋根の下に放り込むんですか?』
せめてもの反撃を試みるが……
『貴方、絢瀬さんの事好きなんでしょ?そんな貴方が彼女が嫌がるようなことをするわけが無いもの。彼女の利益無く、ね?』
この人は、やはり全てお見通しらしい。
『わかりました……その仕事、引き受けます』
『よろしい!楽しんでらっしゃいね♪』
『………ところで、その情報は何処から?』
『ご想像におまかせするわ♪』
「それで、皆さんはどうしますか?」
現実逃避から抜け出して僕は目の前の少女達に投げかける。
「もしも、どうしても足掻くというのなら理事長室へと抗議をしに行ってください」
最も、その程度であの人が折れるとは思えないが。
「うーん、ウチは別にいいと思うけどね?勇人君ならウチらのこと襲ったりしないやろうし♪」
変なフォローの仕方をしないで欲しいものだ。
「まぁ、別にいいんじゃない?悪い人じゃないだろうし」
僕的には拒絶して欲しかったんだけど賛成の方向に進んでるのはどうして?
「穂乃果は賛成!もっと私たちのいい所をこの機会に知ってもらおうよ!!」
「そうね。このスーパーアイドルにこにーの素晴らしさを教えてあげましょう!!」
高坂さんも矢澤先輩も頭は残念なようだ。
「本当なら、殿方と同じ屋根の下など破廉恥ですが、そうしなければ許可が降りないというのなら仕方ありませんね……」
ダメだ……最後の砦まで落とされた………。
「というわけで、今から日程を組むから保科君も参加してってね♪」
この後、夕方まで帰らせてもらえなかった。
「はぁ……」
距離を置こうとすればするほど、何故か彼女達との距離が近くなっていくような気がする。
「……本当は、離れるべきなのにな」
高い確率で未来がない僕が彼女達と時間を共有することを、僕自身は未だに許せてはいない。
「それなのに、どうして胸が高鳴るのだろうな」
四月の頃は、もっと上手く距離をおけていたはずだ。
「僕も、変わってきているのだろうか……」
距離を置かなければいけない、という思いと共に居たい、という思いが自分の中でせめぎ合っているのを感じる。
「僕はヒーローでもなんでもない、ただの一般人なんだ」
ヒーローなら、或いは悪役ならば迷わず自分の信じたものを貫けるのだろう。でも、僕は普通の人間だ。
「……弱いなぁ、僕も」
モヤモヤしたものを心中に隠しながら、僕は通学路を歩いて家へ帰った。
「………ただいま」
ポツリと、誰もいない家の中で零す。
「誰も居ないのに、ね」
自嘲気味な笑みを貼り付けて荷物を自室に放り投げ、そのままベッドにダイブする。
「はぁ……どうすればいいんだろう」
丁度その時、僕の携帯が着信を告げてくる。
『姉さん』
「……もしもし?」
『あっ!ユウ君久しぶり〜、元気にやってる?』
「また、ボチボチだよ。用はそれだけ?それなら切るけど」
『何やら合宿に同行っていう面白い展開らしいじゃないですか〜?だから姉さんから迷ってるだろうユウ君の背中を押そうと思って♪』
「……理事長といい姉さんといい、その情報は一体どこから仕入れているんだい?僕にプライバシーはないの?」
『ビジネスパートナーの名前は秘密だよん♪何しろ、秘密裏に動いているユウ君と絵理ちゃんをくっつけ隊の情報網だからね〜』
「それを僕に言ってる時点でアウトだって気づかない?」
『ふっふっふ、ユウ君にはメンバーを教えないから大丈夫だよ♪』
あ、そうそう、話はこれじゃないんだ、と姉さんは声色を少し真面目にする。
『いい報告だよ勇人。叔父さんがもう少しで見つかりそうだって父さんと母さんが言ってた』
「え………?」
……To be continued
如何でしたでしょうか?
変化というのは、何も自分自身を指すものではありません。環境や情報によって変わるものです。
それをこの作品では表現出来たらいいなと思います。
さて、ここからはお礼をさせていただきます。
最新話まで読んでくださった皆さん、ありがとうございます。皆様のお陰でこの作品もUA4100突破や私自身が当初目標としていたお気に入り登録3桁などが突破できました。
また、以下の方に評価を頂きました。
☆10:レベルスティーラー様
☆9:ぺぺっぴ様、Dレイ様、asteion7様、優しい傭兵様、逆立ちバナナテキーラ添え様、星辰様
☆8:蛙先輩様
☆6:純愛鬼様
本当にありがとうございます。作者の励みになっております。また、上記にいらっしゃる「優しい傭兵」様は感想も下さりました。重ね重ねお礼を申し上げます。
今後も不定期な作者となりますが、よろしくお願いします。
それでは、また次回の更新でお会い致しましょう。
(他の作品も完成出来次第投稿致しますので、よろしくお願いします)