明日には続きを投稿しますのでそちらもよろしくお願いします
「そうね、話すならまず彼との出会いかしら?」
興味津々な顔をしている二人に聞くと頷きが返ってくる。
「私と彼が出会ったのは、一年前の春ね」
今でも鮮明に思い出せる。彼との出会いを。
私は語ることにした。今まで隠してきた私の中の大切な思い出、彼との思い出を──。
「さ、今日も仕事頑張らないとね!」
春休みも明けて私も二年生になっていた。当時から生徒会に所属していた私は、その日も仕事のため生徒会室に向かっていた。
「あの──!」
後ろから誰かに声をかけられて振り返る。見たところ新入生のようだ。彼は手に持っているものを差し出してくる。
「…あら?どうかしたの?」
「これ…落としませんでしたか?」
彼が手に持っていたものは、私のお祖母様が買ってくれた花柄のハンカチだった。
「!失くしてしまわなくて良かったわ…ありがとう」
笑いかけると、彼は戸惑うように目を逸らして頬をかく。
「いえ…別に……」
「ふふ、私は絢瀬絵里、二年生よ。貴方、新入生よね?よかったら名前を聞いてもいいかしら?」
「あ、はい。保科勇人です」
単純で、捻りもない。それが私、絢瀬絵里と保科勇人君との出会いだった。
それから数日後。
「絢瀬さん。一年生の子で生徒会入会希望の子が居るんだけど、雑務の振り分けできたりするかな?部活動と違って、やる気があればOKってわけにもいかないからさ……」
「あ、はい、それなら丁度部活動名簿の処理事務がありますから、それをやってもらうのはどうでしょうか?」
処理と言っても、パソコンに打ち込んでいく単純なものだから力を図る上では適当な落とし所だろう。
「いいね!それじゃあ監督役はお願いね?」
「わかりました」
入っていいよー!と言われておずおずと部屋に入ってきたのは、昨日の男子だった。
「えっと、はじめまして、保科勇人で……絢瀬先輩?」
「ええ。数日ぶりね、保科君♪」
「はい。今回はよろしくお願いします」
少し緊張した面持ちの彼を椅子に座らせると、私はやるべき事を指示する。
「貴方に今回やってもらうのは、この名簿をパソコンに移すことよ。できる?」
振り返った彼の表情は、安心したような笑顔だった。キリッとした顔とのギャップが微笑ましいわね。
「ええ、問題ありません。それじゃあ、早速取り掛かりますね」
彼は懐からメガネを取り出した。
「ただのブルーライトカットのメガネです」
すっと一瞬目を細めた彼は、物凄い勢いでキーボードを叩き始めた。
本当に早い……!私なんかよりも全然…。
五分も経てずに、彼は打ち込みを終えてしまった。
「終わりました。チェックをお願いしましゅ」
「ふふっ、噛んだわね?」
「…やめてください。これでも緊張してるんです」
「あら、ごめんなさい」
穏やかな空気が流れる中、チェックをするが特に問題点は無さそうだ。
「私もついていくから会長の所に行きましょう」
「はい」
歩いて生徒会長の所まで行く。
「会長。彼の事なんですけど」
「うん?もう終わったの?ダメだった?」
この短時間で終わってればそう捉えるのも無理はないのかしら…。
「その逆です。処理があまりにも早いです。採用しない手は無いと思います」
「ふぅん……そんなに?」
「はい、即戦力として期待出来るかと」
私の報告を聞いて満足そうに頷くと、会長が今度は保科君の方を向いてイタズラを多分に含む声で言う。
「ベタ褒めされて嬉しそうだね保科君?」
「べ、別に……そういう話じゃ今無いですよね?」
「ぶー、お堅いなぁ。まあ、それじゃあ当分は絢瀬さんの元で仕事に励みなさい。仕事の引き継ぎは夏休み明けに行うから、その時に成員として貴方を迎え入れます」
からかいを混ぜながらも優しい顔で笑う会長。という事は、彼も手伝いとして認められたってことよね?
「おめでとう保科君。これから宜しくね」
私は彼に右手を差し出す。
「はい、これからよろしくお願いします。絢瀬先輩」
彼はその手をそっと握ってくれた。
「まあ、これが彼と私の出会いだけど。何も変わり映えしないわよね?」
話し終えてみると、本当に普通の出会いなのよね、私と彼。私にとっては大切だと思える思い出なのだけど。
「それでも、お話を聞く価値は十分にありますよ絵里」
「でも、今の話は絵里先輩が保科さんに好意を持つ前ですよね?」
うっ……あまり話したくなかったから逸らそうと思って今の話をしたのに。
「目を逸らさないでください。ちゃんと話してもらいますよ?」
真姫が意地悪だわ……。
「なになに?面白そうな話してるやん♪ウチも混ぜて〜。にこっちワシワシするのも飽きちゃったんよ」
げっ?!希まで……私に救いはないのかしら……
それよりも、にこは大丈夫なの?
「希先輩。絵里先輩が保科さんを好きになるきっかけって何なんですか?」
「ちょっ?!なんで希に聞くのよ!!」
「うーん、色々と思い当たる節はあるけど、多分絵里ちが自覚したのは勇人君が倒れた時やないかな?その時、絵里ちが看病しに行ったんよ」
その後から絵里ちの勇人君に対する態度が少し変わったからなぁ、と希が付け足す。
流石私の親友ね……私の事はお見通しみたいね。
「それじゃ、到着するまでそんなに時間もなさそうだし、その話だけしましょうか」
「え?今日は保科君お休みなの?」
「はい、なんでも熱が出たらしくて……」
昼休みにお昼ご飯を一緒に食べようと思って一年生の教室に行ったら、そう言われてしまった。
「それで?絵里ちは心配なん?」
「そりゃあ……大切な後輩だもの」
彼が休みだったので、仕方なく希と二人で食べる。いつものように生徒会室で食べているけど何か心にポッカリと穴が空いたような感じだ。
「二人で食べるのも久しぶりやね、絵里ち」
「そうね…彼が生徒会の手伝いに入ってから、ずっと三人で食べてたものね」
「そんなに心配なら、放課後に様子を見に行ったら?仕事はウチが中心になってやっておくよ?」
「私は会長なのよ?そんな事……「ええやん。愛しの後輩に気を配るのも、会長の仕事やで?」愛しって……それじゃあまるで私が彼に恋愛感情を持ってるみたいじゃない」
「え?違うん?」
希はキョトンとしていた。
「え?」
私もキョトンとしてしまう。私が彼の事を……?
「……まさかね」
「へ?どうしたん?絵里ち」
「いえ、なんでもないわ」
どうなのかしら…私は彼をどう思っているの…?
「来てしまったわ………」
私は、保科家の前に立っている。会長に話をしたところ、どうやら体調不良の原因は過労もあるのではないかと睨んでいたらしく、謝罪も兼ねて行ってきてくれと頼まれた。
しかもどこから漏れたのか、彼の担任の先生にもプリントを届けるように頼まれてしまった。
先生曰く、誰も彼の家の近くに人がいないとのこと。
「まあ、これも仕事の一環だから……」
ピンポーン!
『はーい……広告ならおことわ…絢瀬先輩?!』
10秒と待たずに彼が出る。たまたま目が覚めていたのか、それももまさか……ね。
「保科君かしら?プリントを届けに来たのと、お見舞いに来たのだけど……」
『あ!わかりました。すぐに出ます』
それから程なくして、ドアが開くとパジャマを着た保科君が出てきた。
「申し訳ありません、御迷惑をおかけして」
「風邪なら仕方ないのだし、気にしないでちょうだい。会長も仕事を増やしすぎたかもって心配してたんだから」
「そういう訳にも行きません。もう少しで休んでいた分の仕事も終わりますし……」
「え?まさか家に仕事を持ち帰って私が来るまでやっていたの?」
あまりの事に耳を疑ってしまう。熱を出しているのに仕事をしているなんて……!
「仕事を持ち出すのは悪いことですか?」
「そこじゃないわよ!どうしてちゃんと寝ていないの?!身体のことを大切にしようとか思わないわけ?!」
「怒鳴らないで下さい……頭に響きます」
「もう!上がらせてもらうわよ!!」
「ちょっと?!」
今から思えば、こんなに強引なことをするなんて自分でも思っていなかった。でも、放っておくわけには行かなかった。私は保科君の肩を担いで布団が敷いてある部屋へと寝かせる。
「……とりあえず寝ていなさい。先ずは貴方の体が先よ」
「ですが仕事が…「そんなの認められないわよ」なんでですか?」
運ばれる事に関しては諦めていたようだけど、そこはまだやる気なのね……。
「身体を休めてからやりなさい。身体を治さないと、パフォーマンスも落ちるわよ?」
「ですが……」
「そこまで不安なら私が代わってあげるわよ、その仕事」
「え……?」
「勿論、タダでとは言わないわ。今度私にチョコレートパフェを奢ってちょうだい?その後に買い物にも付き合ってもらおうかしら」
多分彼は、何も受け取らない手伝いだと拒否してしまうだろう。だから私は、わざとそうおどけることにした。
一瞬目を見開いた後、彼は微笑みながら私が一番聞きたい言葉を言ってくれた。
「……ありがとうございます、絢瀬先輩。その好意に、甘えさせてもらいます。買い物のお供については、また後日教えて下さい」
「ええ、そうしましょうか…………あれ?」
ナチュラルに誘ってしまっているけど、これって……デートなんじゃ……いやいやいや!私は彼に対して好意は持っているけどそれは後輩としてであって…そんなんじゃ……。
「……?どうかしましたか?」
「ひゃっ?!な、にゃんでもないわよ?!」
「………?」
ダメ……!彼の顔がまともに見られない………!落ち着きなさいエリーチカ!ま、先ずはこの場を取り繕わないと!
「いえ、大丈夫よ!それより、ちゃんとご飯食べられてる?」
「………」
そっと目を背ける保科君を私はジト目で睨む。
「た、べ、て、る、の?」
「……食欲無くて、朝から何も食べてないです」
「キッチン借りるけどいいかしら?」
「え、先輩料理出来るんですか……」
「失礼しちゃうわ、それくらいできるわよ?機会があったら振舞ってあげる。」
少し待ってて、そう言って彼が横になる部屋から出る。家の構造は私の家と似ているみたいだから、それほど難しくない。
「………どうしてこんなに胸が苦しくなるのかしら」
私の中で色々な感情が渦巻いているのを感じる。頼ってくれる事への嬉しさ、無理をしたことに対しての怒り。
そして何よりも彼と話をしている時の安心感。
全ての感情が私の中でごちゃ混ぜになって、整理をつけてくれない。
「これが………恋?」
そう感じた瞬間に顔がさらに赤く、鼓動が早くなる。胸が苦しくなる、でもそれ以上に感じる幸福感。
「私は、本当に──痛っ!」
慌てて指を引っ込めると、包丁で指を軽く切ってしまったみたいね…。
「ダメね、私。彼の事を考えると上手くいかないみたい」
先ずは目の前の料理に集中する事にして、私は手早く作り終える。
「早く持っていきましょう。温かい方が美味しいものだし」
「出来たわよー、保科……く、ん……?」
「………ノックくらいして欲しいんですけれども」
扉を開けると、保科君がちょうど上半身が裸だった……じゃなくて!
「ごめんなさい、外に出ているわね」
一言だけ言って扉を閉める。
お盆をそっと床に置くと私は顔を埋めて座り込む。
私のバカァァあ!!熱があれば当然汗はかくじゃないの!!どうして確認しないのよぉぉお!
でも体綺麗だったわ……そうじゃない!そうじゃないわよ私!!確かにそれも大事かもしれないけどそこじゃない!!
「うぅ……本当に今日の私は変だわ…それもこれも希が変なことを言うからよ…」
「もう大丈夫です、先輩」
そっと部屋に入ると、彼は布団に横になっていた。着替えたシャツは脇に畳まれている。やっぱり几帳面よね。
「その、もし次があったらちゃんとノックはしてください。びっくりするんで」
「え、ええ。ごめんなさい……」
なんとなく気まずい雰囲気が部屋に残ってしまった。
「……作ってきたの、ご飯。食べましょ?」
「はい……」
私は作ってきたもの──卵粥をスプーンですくい上げると息で冷まして彼の口元に持っていく。
「それじゃあ、あ、あーん」
「いえ、自分で食べられますから……」
「無理をしたバツよ♪早く口を開けなさい」
本当は、私がやってみたいだけだけれど、このくらいの悪戯は良いわよね♪
「意地悪ですね……」
彼は観念したのか、諦めて口に含む。
「………」
「どう?口にあうかしら?」
「はい。とっても美味しいです。本当に料理がお上手なんですね」
「それは良かったわ。まだあるから、しっかりと食べなさいな」
「であればスプーンを「認められないわ!」えぇ」
この後、結局全部私が食べさせて、彼の家で仕事も済ませてしまうことにした。
「絢瀬先輩は、どうして僕にそこまでしてくれたんですか?」
「放っておきたくないの。貴方みたいに危なっかしい人の事を」
多分、これは私の本音だ。彼と仕事をしていく中でなんとなく彼の危うさに似た何かを感じていた。人の為であれば平然と無茶をしてしまう彼を目の前で見て、改めて感じた。
彼を、一人にしたくないと。
私が、せめて私だけでも、常に彼と肩を並べていたいと。
「だから、何か困ったりすることがあったら、私に少しは頼ってね?また無茶したら、その時は本気でお説教なんだから」
「……はい。ありがとうございます」
このあと私は、彼に仕事の説明を受けてから帰途についた。
「これで、大雑把な話は全部だけれど……」
何故かしら?希以外の二人が落ち込んでいるわね。
「絵里は、辛くないのですか?今の状況が」
「辛くない、って言ったらもちろん嘘になるわ」
確かに、突き放された最初は辛かった。でも今思い出してみれば、あの時私に彼が見せた瞳の奥に、私は確かに彼の苦悩を見ていた。
「でも、彼の方が今は辛いはずだもの」
そっと、眠っている彼の頬を撫でる。
「今の彼は、多分私たちの誰よりも苦悩しているわ。一人で仕事をこなして、廃校と真摯に向き合おうとしているの……本当はね。私は彼を隣で支えたいわ、でもそれは今じゃない。
廃校が無くなったなら、多分彼はこれまで以上に私たちと距離を置こうと、一人になろうとすると思う」
これは、私の推論でしかない。でも何故か確信がある。彼が一人で遠い所へ行ってしまうような予感が。
「彼は不器用でしょ?だから、それしか知らないのよ。そうなった時に、私は今度こそ彼の手を離さない。たとえ迷惑だって言われても彼を支えるのは、私でありたい。私って自分勝手でしょ?」
そう自虐的に笑うと、呆れたような顔を真姫にされてしまう。
「それじゃ、私も絵里のサポートをしないとね」
「……!真姫、貴女……」
「な、何よ?!仲間なんだから呼び捨てでいいんじゃないの?!」
「ふふっ、それで構わないのよ?少し驚いただけだから」
「もう!私が真面目に話してるのに!イミワカンナイ!」
顔を赤らめてそっぽを向く真姫だったけど、私は素直に嬉しかった。
「ウチも絵里ちのサポートするよ〜、ウチに任せれば結婚まで一直線や!!」
「そ、それはそれで怖いわよ……?」
何をするつもりなのよ…?
『まもなく到着します。お忘れ物にお気をつけ下さい』
「もう着くみたいね。彼を起こさないと」
改めて彼の寝顔に目を向ける。最近は顔を合わせる機会も無かったからか、愛しさが込み上げてくる。
(私は絶対に、貴方を一人にしないから)
そう自らに改めて誓いを立てると、私は彼の肩に手を置く。
「勇人君、もう到着するわよ!起きなさい!!」
さ、合宿はこれからなのだもの。楽しみましょうね!
ここまで読んでいただきありがとうございました。今回の話は絵里ちゃんが覚悟を新たに決める回だと思ってもらえれば幸いです
今後、彼女には活躍してもらうのでそのための布石です
さて、ここで御礼申し上げます
前話投稿後、なんの気なしにランキングをチラ見していたところ、この作品が25位にありました!冗談でなく、小躍りしてました。
みなさまの応援のおかげで、私自身が密かに目標としていたランクインができました!本当にありがとうございます!!
そして、本日までに評価くださった
☆10:絢瀬白様、京都産様
☆9:be-yan様、タケト様
☆8:RINA様
重ね重ねありがとうございます。励みにさせていただいております
それでは、また次回の更新時にお会いしましょう