「あー……。なんか勘違いしているようだが訂正しておくと、
私は木の葉で働いていた期間のうち、大半が暗部だった。
そしてお前の兄の監視を、直接火影と、一応こいつにも任されていた。」
先程踏み潰した原型も無くなりそうな頭部を指すサクヤは困惑していた。
前々から、なんだかサスケの様子的にいいように美化されているなぁとは思ってはいたが、ここまでとは思わなかったからだ。
話はそれるが
サスケ達『うちは』がシリアス時空とすれば、サクヤはギャグ漫画時空の人間である。
死ぬようなことがあっても次のコマでツッコんでる側の人間で
爆発落ちなんてサイテー!と言われる側の人間だ。
喧嘩は、土埃の中から腕や足が見える感じの喧嘩をするし
たんこぶは3段アイスのように積まれる。
端的に言うと
「(なんか考えるのめんど……。)」
シリアスパートはさっきのマダラの謎解きで使い切っているし。
サクヤにとって、サスケの人生はめんどかった。
その目は、あの優しいイタチをして『空っぽの目』と言わしめた、冷たい目。
諦めと、戒めと、矛盾を抱えた、サクヤの興味を失った目だった。
サクヤの姿に、言い様の無い虚しさがサスケの頭に広がり、一瞬で冷たく脳みそがスパークした。
「なるほど、そうだな……
イタチに裏切られて捨てられた可哀そうな人だったのが
実はイタチと共謀してたなんて言われて、更には本当はイタチの敵側の人間で、イタチを使ってうちは一族を滅亡に追いやったなんて信じられないよな。
ああ、あと辛気臭いうちはマダラとかと言う奴と手を組んでるとか、イタチが任せたはずの里をぬけたのかとか、そういうことか。」
真っ赤に染まった袖と、手袋の飽和量を越した指先から垂れる鮮血を見せつけるように両手を開いて、サクヤは肩をすくめる。
その姿にサスケの息が止まった。
そのサクヤの姿は、表情は、
サスケの記憶の中となんら変わりなかった。
変わりないからこそ、その姿が途轍もなく不気味に思え、今迄縋ってきたと言ってもいいサクヤ像が、全て嘘だったと気付いてしまったのだ。
サクヤはまるで慣れたこととばかりに、言葉を並べてサスケの思考が追い付くのを待つが、サスケは余りにも現状やサクヤの目的が不明すぎて、何も言えないでいた。
「水影がすぐそこまで来てるか……ちょっと早めに行こう。
一応の訂正だが、私はマダラと合意の上、一時的に手を組んだに過ぎない。
ダンゾウを殺すのにお前が少し目障りだったからな。
暗殺では無く敢えて五影会談を襲撃するよう示唆して、足止めさせた。」
困ったように笑う姿はいつものサクヤで、サスケの知るサクヤで、
浴びる様に血に濡れたサクヤは、空っぽの何も見ていない目は、サスケの知らない姿で
戸惑いに声が出ないサスケを放置して、サクヤは印を組み始める。
「そちらさんもサスケに本懐を遂げさせるためダンゾウを殺させたいようだったけど、ちょっと伝手で良い情報が入ってな。
そいつをちらつかせて、無理やり取引した。」
話しながら丁寧に組まれる印はサスケの知らない物ばかりだった。
唯一読み取れた印の傾向から、目くらまし系の術なのは分かった。
また、逃げられる
そう思ったサスケは重い体を引きずり、今度は腰の獲物を投げようと手を持っていくが、五影を相手取る際に投げた事を思い出す。
舌打ちをしながら、それでも逃がすまいと何の術か分からない所に飛び込むサスケ。
後ろで座り込んでいた香燐が悲鳴をあげるが、サスケは止められなかった。
サスケは術の効果で視界が暗転していくのを無視して、気配と声を頼りに更にサクヤに走り寄る。
距離が遠い。
もっと早く、速くと、雷影の様に雷遁を身にまとい筋肉を無理やり動かした。
視界がおぼつかないながら、疲弊した写輪眼を発動させる。
「私が過去うちは一族滅亡に一役買ったのも本当。
あの時は背景が忙しくてね。詳しい話は怠いから死人にでも聞いてくれ。」
草薙の剣の代わりに、床に落ちていた黒い剣をチャクラで拾って
術の効果か暗転した視界の中、消えそうな気配に突き立て、何とかして引き止める。
あのおちゃらけていて、どっちつかずで、無責任なサクヤに聞かなければならない事がいっぱいあったからだ。
「私は「じゃあっ!!」
サクヤの言葉の辛気臭さに、何一つサスケの求める答えをくれないサクヤに、いらだちから言葉をさえぎる。
「なんであの時俺にっ!! 何で兄さんとっ!! なんでっ
俺を、生かしたぁっ!! 」
本当にイタチを裏切っていたのか。
なぜ、幼少のサスケを中途半端に生かしたのか。
なんで、そんな冷たい目をするのか
なんで、イタチに全てを話さなかったのか
なんで、自分に全てを話さなかったのか
全てを知っておきながら
行先を、わかっておきながら
回避する方法を知っておきながら
なんで、なんで、なんで、なんで
幼き日の出来事が泡沫の様に浮き出ては弾ける。
聞きたいことはいっぱいあった。
けれど口を吐いて出たのは、自分ひとりを置いて行った、恨み言の様な言葉ばかりだった。
乱暴に突き立てた切っ先は、まっくらな視界の中、グッと何かを捉え静止した。
途端に暗闇が溶けるように消え、黒に順応した視界に光が入り、サスケは眩しさに目を細める
すぐ近くに血の匂い、そして死の気配を関知する。
「頼まれたからだよ。」
ぽたぽたと口端から血を垂らして、あのおびただしい返り血では無く
正真正銘のサクヤの
「さよならだ。
イタチを追え。そのさきで待ってる。」
サスケが突き立てた刀剣はサクヤの心臓を見事に射抜き
サクヤの体は、白い炎によって燃えカスも無くほろほろと燃え尽き、消えて行った。
そしてサクヤはその時、終始サスケの良く知る優しい目だった。