ユウキに転生したオリ主がSAOのベータテスターになったら   作:SeA

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突発的年末(年始)企画。ご都合主義満載の番外もしもシリーズその4/3。

いつかどこかの未来のお話。


もーしも

 子供が一人真っ白な部屋のベッドに横になっている。

 部屋のドアの傍らには女性が一人立っている。

 女が口を開き、いつもの台詞を子供に言う。

 

「はやく死になさい」

 

 子供は反応を返さない。

 いつものように目を瞑って寝たふりを続けている。

 その方法が最も自分が傷付かないで済む手段だと今までの経験で理解しているからだ。

 女は一度舌打ちをして部屋を出る。これもいつもと一緒。

 一人になった部屋で顔を隠すように毛布を被り、思考する。

 

 ―――ボクに生きる価値なんて、あるのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………あ、夢か」

 

 机に突っ伏してた体を起こす。変な体勢で寝てたからか関節が少し固まっていて、ちょっと痛い。

 一体いつの間に寝てしまったんだろうか?

 開きっぱなしのままの、ぐっにゃぐにゃな字? 線? が書かれたノートを閉じながら記憶を掘り起こす。

 意識に残ってる最後の記憶は、あーだのうーだの口にしながらノートに文字を書いたり消したりしてた記憶だ。なにを書こうとしてたのかは忘れたけど。半分寝てたし。

 その時に見た時計の短針は2を指していたような気もしなくもない。

 ようは、ただの寝落ちだ。

 それにしても、昨日は確かに少しイライラしてたけど。

 

「だからって、あんな夢見る?」

 

 ほんと最近よく見るなぁ、あの夢。なんでだろ?

 しかも本来の内容とちょっと違うのが腹立つ。

 なんで個室なのさ。大部屋だったじゃん。喧しい人とか、静かな子とか色々一緒だっただろうに。

 

「あと寝たふりはいつもバレて叩かれたはずなんだけどなぁ」

 

 そんなどうでもいい改変をするくらいなら、大好きな友達と一緒に遊んでる夢を見たかった。

 絶対そっちの方が精神衛生上好ましいと思うし。

 

「……そもそも、夢に文句言ってどうするって話か」

 

 まあいいや、忘れよ。

 今のボクには関係ないし。

 そんなことより、今日の朝食の方が100倍大事だ。

 現在時刻は朝の7時15分。普段よりちょっとだけ遅い。

 あと変な体勢で寝たから寝癖もひどい。早く整えよう。

 

「ごっはん、ごっはーん」

 

 扉を開き部屋を出る。

 小さい頃はそれだけで感動してた時期があったのを覚えている。

 自分で扉を開け外に向かう、という行為に無自覚ながら憧れがあったのだろう。楽しそうに部屋を出入りする幼い頃の自分を、両親も姉も不思議そうに見ていたっけ。

 

 階段を降りるとコーヒーの香りが漂ってくる。いつもの朝の匂いだ。

 そのままリビングへの扉を開くとテーブルの近くに複数の人影が見えた。

 新聞を読む男性。

 テレビの天気予報を確認する女性。

 そしてその二人に話しかけている女の子。

 

 そんな三人向かって声をかける。

 

「おっはよー」

 

「……ああ、おはよう」

 

「おはよう。朝食もう出来てるから速く顔洗ってきなさい」

 

「おはよう。寝癖ひどいわよ?」

 

「知ってるぅー」

 

 そんな言葉を返しながら、ボクよりちょっと背の高い彼女に抱き付く。

 これがボク達の、いつもの朝のやりとり。

 

「もう……ほら、お母さんが今にも怒りそうな顔してるからはやくしなさい、木綿季」

 

「はーい。了解であります、姉ちゃん」

 

 いつの日か、もう見ることはないのだろうと諦めたはずの―――日常だ。

 

 

 

 

『君が描いた未来の世界は』

 

 

 

 

 ソードアート・オンラインというライトノベルがある。

 簡単に説明すると、VRゲームという仮想空間に囚われた主人公の男の子が色々頑張って現実に帰還する物語だ。

 ……端折り過ぎかな?

 まあいいか、そんなのがあるっていうのが大事なだけだし。

 その物語にユウキというキャラクターがいる。

 明るく快活な女の子だ。

 だが病気に罹っていて登場した時には家族は既に亡くなっており、本人も最後には死んでしまう。そういうキャラクターだ。

 以前ボクが読んだ時は思わず泣いてしまった。

 彼女が死んでしまったのが悲しかったからか。

 それとも、悲しむ大勢の友人がいて羨ましかったからなのかは、もう覚えていないけど。

 

「忘れ物はない?」

 

「多分ない!」

 

「じゃあここにあるお弁当は?」

 

「ありゃ……?」

 

 どういった理屈かは知らないが、死んだボクはそのユウキになった。

 そのことに気付いたのは、生まれてから結構経った頃だった。

 自分のことながらすごく鈍いと思う。

 

「やれやれ、木綿季はおっちょこちょいだな」

 

「もー。たまにはお父さんも木綿季に注意してくださいな」

 

「子供らしくて可愛いと俺は思うけどなあ」

 

「もー」

 

 気付いた時に感じたのは絶望だ。

 最後にソードアート・オンラインを読んだのはボクの主観で10年以上前。その知識はうろ覚えではあったけど、それでもユウキの結末は覚えていた。

 だから、本当に怖かったんだ。

 優しい母を、暖かい父を、大好きな姉を失ってしまうのが。

 こんなにも愛した人達が、こんなにも愛してくれた人達が死んでしまう。

 自分が死ぬのが怖くなかったわけではない。

 ただそれ以上に、喪うのが恐ろしかった。

 

「もう忘れ物はない?」

 

「多分ない! ……気がする」

 

「ほんとにもう…………私の妹の頭の中は一体どうなってるのかしら?」

 

「姉ちゃんだいすきー、あ・い・し・て・る! フゥー!」

 

「……たまに双子であるのが恥ずかしくなってくるわね」

 

 恐怖があって、絶望があって。でも、ボクにはなにも出来なかった。

 ただの小娘でしかないボクには、家族を救う力なんてなかった。

 だから神に祈った。

 こんなにも優しい家族をボクに与えてくれた神に。

 生きる価値なんてないボクに、愛してくれる家族を与えてくれた神に。

 

 ―――どうか家族を助けて下さい。そうしてくれたならボクは地獄にだって喜んで行きます。ボクはどうなってもかまいません。だから、せめてこの優しい人たちを救って下さい。

 

「姉妹仲良くじゃれあってないで早く行きなさい。遅刻するわよ」

 

「はーい」

 

「はい、お母さん」

 

 もちろんそんな願いに意味なんてなく。当然のように家族全員発病した。

 未来は変わらないのだと、ハッキリとボクに突きつけられた。

 ならせめて、前みたいな終わりにはしたくなかった。

 一人寂しく、惨めな最期は嫌だった。

 いつか読んだユウキのように、笑って逝きたかった。

 いつか読んだユウキのように、悲しんでくれる友が欲しかった。

 ボクは紺野木綿季として生まれた。だからきっとユウキになれると思った。

 

 姉を庇ってあの作られた世界に行ったとき、見知った姿と名前を持つ彼らに近づいたのは打算だった。

 うろ覚えではあったけど、キャラクターの性格はある程度覚えていたから。

 親しい友人になれば、きっと別れる時に悲しんでくれる。泣いてくれる。そう思ったから。

 

「それじゃあ、いってきます」

 

「いってきまーす」

 

「気を付けて行くんだぞ」

 

「いってらっしゃい。藍子、木綿季」

 

 打算だったんだ。騙していたんだ。

 ボクは自分の事しか考えていなかった。

 明るくて快活。常に笑顔な女の子。そういう風に自分を偽った。

 全部嘘だ。ユウキという存在は虚構でしかなかった。

 

 心のどこかで思っていた。上手くいくわけないと。

 生きることに懸命な人達の中で、死ぬ時の為に頑張るボクに居場所なんてあるわけないと。

 どうせすぐにバレて糾弾される。昨日まで笑いあっていた人達に軽蔑の眼差しを向けられることになる。

 そう考えながらも、ただただ笑う日々。

 

 でもみんな、思った以上にバカなんだ。

 ボクなんかの嘘に気付きもしない。

 陰口に気付いてないふりをして、バカみたいに笑って過ごした。そうしていたら一緒に笑ってくれる友達ができた。

 突拍子のないことをして周りを巻き込んでみた。呆れつつも付き合ってくれる仲間ができた。

 絶望し崩れ落ちてる人がいた。声をかけ、慰め、明日を語り、前を見た。共に戦う戦友ができた。

 

 誰も嘘に気付かなかった。

 誰も疑問に思わなかった。

 誰もが、ボクを信じてくれた。

 誰もが、ボクの嘘で笑ってくれた。

 

「じゃ、私はこっちだから」

 

「うん。またね、姉ちゃん」

 

「遅刻しないで行くのよ」

 

「姉ちゃん、ボクのことなんだと思ってるのさ」

 

 ある日のこと、攻略層から戻って宿の一室でふと鏡を見た。

 鏡の中で少女が泣いていた。

 ボロボロと涙を流し、声にならない声を出しながら泣き叫んでいた。

 まるで赤ん坊みたいだと笑おうとしたけど、喉から出て来るのは嗚咽ばかり。

 泣いて鳴いて哭いて、そして泣き疲れて眠ってしまった。

 起きた時に思ったことを、ボクは今でも鮮明に覚えている。

 

 ――――友達になりたい。

 

 みんなと、ちゃんと友達になりたいと思った。

 彼とバカなことを一緒にしてずっと笑い合っていたかった。

 彼女ともっと色んな所に遊びに行きたかった。

 みんなと一緒にいたかった。

 嘘の友達は、嫌だった。

 

「……目を離すと飛んでいく風船?」

 

「風船よりはドローンとかの方がいいな。自由に動けるし」

 

「そういうとこよ」

 

「へ?」

 

 あの世界から解放される時、またねとは言わなかった。

 嘘から始めたボクに誰かと一緒にいてもらう資格はないと思ったから。

 一人は寒くて寂しいけど、あったかい思い出があれば耐えられると思った。

 でもやっぱり最後にせめて『さよなら』は伝えようとも考えたけど間に合わず、気付いた時には天才大バカ野郎と二人きり。思い付く限りの罵詈雑言とSAOの思い出話と別れを告げ、そして気付けば病室のベッドの上。

 少し自分に呆れつつ。残り少ない家族との時間を満喫しようなんて考えて、言うこと聞かない体をどうにかこうにか動かしてナースコールを押そうとしたら。

 

 ―――元気そうに自身の足で立つ姉(・・・・・・・・・・・・・)が現れた。

 

 唖然とした。顎が外れたかと思った。

 更に次の瞬間。

 

 ―――花瓶を持った元気そうな父と母(・・・・・・・・)も現れた。

 

 変な声が出そうになった。喉が張り付いて出なかったけど。

 ちなみに部屋に入ってきた三人は変な声を出してた。

 

 

 結論から言うと、神様にボクの願いが届いたらしい。

 

 ボクが仮想世界に囚われてすぐに病気の特効薬が出来たそうだ。副作用ほぼゼロで即効性のある特効薬が。

 なんだそりゃ。

 ボクの絶望はなんだったんだって話だ。

 いや、良かったんだけどさ。これ以上ないくらい良かったんだけどさ。

 ただ素直に納得いかないだけで。

 

 ともかく。

 そんなご都合主義とも言える薬のおかげで家族は快復。ボクも元気もりもり。

 まあ、しばらくは満足に歩けもしないから入院してたけど。

 

 ボクはライトノベルしか知らなかったけどアニメとか漫画ではユウキに関する展開が違ったのかな? はたまた映画? あっ、ゲームも出てたんだっけ?

 ま、今となってはなんでもいいんだけどね。

 

「ま、いいや。いってらっしゃい。車には気をつけなさいよ」

 

「うん、そっちもね。いってらっしゃい姉ちゃん」

 

 未来は変わった。ボクにとって最高な形で。

 ママがいて。

 パパがいて。

 姉ちゃんがいる。

 話を聞いた後でボクは泣いた。大いに泣いた。一生分泣いたんじゃないかってくらい泣いた。

 釣られたのか家族もみんな泣いてた。

 そのあと、みんなで笑った。

 

 つまり、ボクは生きていてもいいってことらしい。

 

 

 

 

 

 

 キーンコーンカーンコーン。

 学校中にチャイムの音が鳴り響く。

 もうボクのおなかはペコペコ。早くご飯にしよう。

 

「紺野さん、あたし達と一緒にお昼しない?」

 

「あーっと、ごめん。今日は先約あるんだ。明日じゃダメ?」

 

「そっか、いいよ全然。明日待ってるわね」

 

「ごめんね、ありがとう」

 

 断っちゃったけど、誘ってくれたのはほんとに嬉しかったからね。ありがと。

 

 お弁当を持って教室を出る。ちょっとだけ早歩き。

 今日は雲一つ無い晴天。きっと外は気持ちいいだろう。

 靴を履き替えて中庭に行くと既に彼女はベンチに座って待っていた。

 結構ボクも急いだつもりだったんだけどな。

 彼女の視界に入らないようにしつつ、音を立てず後ろに回り込む。

 抜き足差し足忍び足ってね。

 

「―――おっまたせっ!」

 

「きゃっ!?」

 

 真後ろで声を出すのと同時にベンチ越しに抱き着く。柔らかくていい匂いがする。

 VRだとこの感触は再現しきれないから、ちょっぴり新鮮な感じ。

 こういうのを感じると、現実で会えてよかったなってよく思う。

 

「……いや、あの……なにも言わずに嗅ぐのやめてもらえる?」

 

「だめ……?」

 

「だーめ。それよりもお昼にしましょう、ユウキ」

 

「はーい。わかったよ、アスナ」

 

 残念。

 もうちょっとくっついていたかったのに。

 

「そういえば他の人は? あとから来るの?」

 

 まだアスナしかいないけど?

 みんな授業が長引いたりしてるんだろうか? 

 

「あれ、わたし伝えてなかったっけ?」

 

「なにを?」

 

 はて? 

 昨日の夜届いたメッセージには『明日一緒にお昼食べない?』くらいしか書いてなかった気がしたけど。

 違ったかな?

 

「……あー、ごめんユウキ。今見たらわたし誘っただけで他になにも書いてないわね」

 

「いいよ全然。アスナの誘いだったらボク無条件に受けるし」

 

 昨夜のトーク履歴をわざわざ確認してくれたけど、ボクもなにも聞かずにすぐ承諾したしね。そこでこの話題は終わっちゃったはずだし。 

 

「そう言ってくれると助かるわ。ありがとう」

 

「ううん。気にしなくていいよ……それで、みんなは来ないの?」

 

「来ないというか。今日はユウキしか誘ってないから」

 

「……ボクだけ?」

 

「そう。ユウキだけ」

 

 なぜボクだけなんだろう?

 ボクにしか言えない話? またはなにかの用事? まさか今さら恋愛相談はないと思うんだけど……。

 実はキリトと喧嘩していて仲裁の頼みをしたい、とか?

 二人が喧嘩してるのは嫌だな。いつまでも二人には仲良くイチャイチャしててほしい。

 

「……それで、ボクになにか用事があるってこと?」

 

 もし予想通りだったら嫌だけど、まだ内容は聞いてないわけだし。

 聞いた後で改めて考えよう。そうしよう。

 

「用事というか、なんというか……」

 

「うん」

 

「ただユウキと一緒にごはんを食べたかっただけよ」

 

「……え、それだけ?」

 

「うん。それだけ」

 

 ホッ、っと胸に広がる安堵と歓喜。

 無駄に深読みして無駄に安心してるよボク。なにしてんだか。

 

 ちょっとだけ赤面してるだろう顔を誤魔化すように両手を広げ、アスナに少し芝居がけてこう言う。

 

「ああアスナ。そんなにもボクのことを想ってくれてたんだね。ボクは嬉しいよ」

 

「あーもう、わかったから。嬉しいのはわかったから抱き着いて来ないの。お弁当落とすわよ」

 

「それはダメだね。やめまーす」

 

 ママが愛情込めて作ってくれた大切なお弁当だからね。

 落とすなんてことは絶対にあったらいけないこと。

 気を付けなければ。

 

「……ん? どうかしたアスナ?」

 

「なにが?」

 

「いや、なんかこっち見てニコニコしてるから」

 

 ボクのこと見ながら笑ってるから。なんかお母さんみたいとでも言うべきだろうか? そんな感じの表情を浮かべて。

 今ボクなにか笑われるような変な事してたかな?   

 

「いいなぁ、って思って」

 

「いいな?」

 

「そう。現実でもこうやってユウキといれて。楽しそうなユウキを見れて良かったなぁ、って」

 

「ふ、ふーん。そうなんだ……」

 

 まるで何も感じてないかのように返事をしながら膝の上に置いたお弁当に視線を向ける。

 やばい。すごくやばい。無茶苦茶嬉しい。

 今ボク絶対にダメな顔してる。全然顔のにやけが収まらない。頬が自然と上がっていく。

 下向いてるけど耳も真っ赤になってる気がするから意味なさそう。

 顔全体が熱くてたまらない。

 

 くそぅ。こういうことを唐突に口にするのはボクのキャラだったはずなのに。 

 ちくしょう。この場にキリトがいれば、この表情を誤魔化す為に盛大にいじり倒すのに。

 なんでこういう時に限っていないんだよ。

 キリトのバーカ。アホ。おたんこなす。今度黒歴史スグちゃんにバラしてやる。

 

「その、まあ、うん、あれだね。えっと……そう、ごはん! ごはんを食べよう!」

 

「ふふっ、そうね。いただきましょうか」

 

 いただこう。今すぐいただこう。

 その、しょうがないなぁみたいな顔するのほんとは禁止だからねっ。

 あーもう恥ずかしい。

 

「いっただきまーす」

 

「いただきます」

 

 よし。食べて少し落ち着こう。

 大丈夫。冷静になればなにも問題はない。

 ここは別にテンパる場面でもなんでもない。いつものボクを思い出せばいいだけだ。

 そう、いつものボクだ。

 思い出せ、キリトをからかってるボクを。

 思い出せ、キリトをおちょくってるボクを。

 思い出せ、アスナが作ってくれたごはんを一緒に食べたボクを。

 ……あのカレー美味しかったなぁ。また食べたい。

 

「そうだユウキ、週末ってなにか用事ある?」

 

「週末? 特になにもなかったような?」

 

 言いながらスケジュールを確認するが、記憶通り特になにもなし。

 あえて言うなら、いつも通りちょっと遠くまで散歩して帰って、その後ゲームするくらいだけど。

 

「週末なにかあるの?」

 

 ALOでイベントとかあったかな? 告知とか見た覚えはないけど……。

 それとも人手がいるタイプのクエストとか?

 

「わたしの家でお泊り会やろうって話になったからユウキもどうかなって」

 

「……おとまりかい」

 

「そ。お泊り会」

 

「………………お泊り会!?」

 

「え、ええ。わたしの家でどうかなって話なんだけど……いや、だったりする?」

 

「しないしない! 行く! 絶対に行くっ!!」

 

 お泊り会ってあれだよね! みんなでワイワイしながら同じ部屋で寝て、恋バナとかを夜通しでするあれでしょ!?

 やる! 行く! 押しかける!! 

 

「いついつ!? 週末ってことは土曜から日曜? もしかして金曜日の学校終わったあとからとか!?」

 

「えっと、一応土曜日の予定だけど……」

 

「土曜日だね! わかった! いっぱい準備していくねっ!」 

 

 お菓子とかいっぱい用意していった方がいいよね。

 あ、それとアスナの家族にもなにか持っていくべきだよね。お世話になるわけだし。

 すごく楽しみ。心が躍るよ。

 今日は早く帰って準備しないと。

 あと……あ、そうだ。これも聞かないと。

 

「話になったって言ってたし他にも人いるよね。リズとか?」

 

 あとはシリカとかもかな?

 

「リズとシリカちゃんにリーファちゃん、それとシノのん。それにユウキを合わせて5人ね」

 

「おおー、美少女勢揃いだね。これは楽しみが増してくるよ」

 

 お泊り会って友達と一緒にお風呂入ってもいいんでしょ?

 楽しみだ。

 

 ん? どうしたのアスナ寒そうに体を竦めて。 

 

「なんでかしら、急に寒気が……」

 

「風邪? 寒いなら校舎に入ろうか?」

 

 病気は怖いからね。気を付けないと。

 

 

 

 

 

 

 

 その後、なんでもないと言い張るアスナを念のため保健室に押し込んだりしたけど、先生は大丈夫だって言ってた。なにもなくて良かったよ。

 これで、お泊り会も問題なく出来そうだね。よかったよかった。 

 

 放課後。今日の授業も全て終わった。

 本日の放課後予定は特に無し。あとは帰るだけ。

 帰ったらママと姉ちゃんに相談しないといけないな。

 ボク、友達の家にお泊りとか初めてだし。失敗しないようにしないと。

 厳しいと噂のアスナのお母さんに嫌われたりしたら大変だし。

 

 色々考えながら下駄箱に向かうと、そこにはよく知った顔。

 珍しく一人だね。

 小走りで近寄って背中を叩く。一応力は抑えめにしてだけど。

 

「―――とりゃっ」

 

「いてっ、いきなりなん…………なんだユウキか」

 

「なんだとはなにさ、ちょっと失礼じゃないキリト?」

 

 女の子には優しくって言葉を知らないのかねキミィ。

 

「あのな……いきなり叩いてくる方が失礼だと俺は思うけどな」

 

「ボクに免じて許してくれる?」

 

 必殺! 斜め下から瞳ウルウル攻撃!!

 ポイントは胸の前で小さく両手を握ること。

 ボクのあまりのかわいさに喰らった相手は残らず倒れる必殺技だ! 

 

「ユウキのやったことをなんでユウキに免じるんだよ」

 

「ぶぅー」

 

「はいはい、ぶーぶー」

 

 そうやって人の鼻押すなよー。ボタンじゃないんだぞ。

 もー。ボクじゃなかったら普通の女の子は怒るよ、きっと。

 

「アスナはどしたのさ? 一緒じゃないの?」

 

 周りには影も形もないね。いつも放課後デートしてるんじゃないの?

 

「今日は別々で帰るんだよ。さすがに毎日一緒じゃないって」

 

「ふーん。お昼も別々だったのに悲しいねー」

 

「今日はユウキと一緒だったからだろ、それは」

 

「……なんだ、知ってたんだ」

 

「あの中庭のベンチ、テラスから丸見えだぞ」

 

「えっ、そうなの?」

 

 マジか。全然知らなかった。

 じゃあアスナを驚かしてたのも見られてたんだ。

 なら次からはそれも考慮しないといけなくなるな。ちゃんと覚えとこ。

 

「……なあ」

 

「なーに?」

 

「この後もし暇なら一緒にどっか行くか?」

 

「なにそれ、デートのお誘い?」

 

「たまにはリアルで遊ばないかってお誘い。どうだ?」

 

 よく言うよ。

 ボクの返事なんてわかりきってるくせに。

 

「どうしてもって言うなら、付き合ってあげるけど?」

 

「どうしてもどうしても。これでいいか?」

 

「もー。女の子にそんな誘い方したら嫌われるよ」

 

 まったく。そのうちアスナに愛想尽かされちゃうよ。

 

「ユウキぐらいにしかしないから、多分大丈夫じゃないか」

 

「そっか。ならばよし!」

 

 アスナにしないならいっか。

 

「どこ行くの?」

 

「駅前あたりをぶらつこうかと思ってたけど、ユウキはどこか行きたいとこあるか?」

 

「んー、ない! けどアイス食べたい! たい焼きでも可!」

 

 クレープとかでもいいよ!

 

「甘いものくらいしか共通点無さそうだな。ま、それなら駅前でいいな」

 

「よーし、そうと決まればレッツゴー!」

 

 

 

 

 

 

 

「あーおいひぃ」

 

「相変わらずユウキは美味しそうに食べるよな」

 

「美味しそうじゃなくて美味しいの! その言い方は作ってくれた人に失礼だよ」

 

「悪い悪い。じゃあ詫びに俺のも喰うか?」

 

「いいの!? やったね。ではでは、あーん」

 

「ほらよ」

 

 そう言って突き出されたアイスにパクリ、と大きく一口。

 口の中に広がる甘さと冷たさ。美味しい。こっちの味の方が好みかも。

 

「どうだ?」

 

「おいひぃ。アイスはやっぱりいいよね」

 

 SAOでも色々食べたけど、やっぱり現実と仮想現実じゃ結構違うもんだね。

 この一気に冷たいもの食べた時のキーンって感じは現実じゃないと味わえないもんね。

 

「もう一口ちょーだい」

 

「はいはい。ほれ」

 

 あーん。

 おいひぃ。食べ物がおいしいってそれだけで幸せだよね。やっぱり。

 

 あれ? どしたのキリト? いきなり顔をしかめて。

 

「どしたのさ急に? 頭痛くなった? アイスの残り全部ボクが食べようか?」

 

「……いや、改めて今の状況を客観的に見たらさ」

 

「? ……うん、見たら?」

 

「これ、アスナにすごく問い詰められるタイプのヤツじゃないか?」

 

「………ハッ!」

 

 脳内に稲妻が走る。

 確かに! 今までの経験則からして、これはバレたら全く痛くもない腹を探られるいつものパターンな気がする!

 

「……まあ、内緒にしてたらバレないよ、きっと」

 

「……アスナに真っ直ぐ目を見られながら聞かれてもか?」

 

「…………無理、かな」

 

「……だよな」

 

 なんでアスナもリズもシリカも、毎回違うって説明してるのに信じてくれないんだろう。そんなにボク信用ないのかな?

 それかキリト相手なら女の子はみんなそうなる、なんて考えてるのかも?

 自分達がそうだったからってボクも一緒にしないでほしいね、まったく。

 

「……大丈夫だよ、キリト」

 

「どう大丈夫なんだよ」

 

「アスナは誠心誠意話せば必ず分かってくれるから、大丈夫だよ。アスナの彼氏なんだから自信持ちなよ」

 

「……そうか、そうだな! 俺が自信持って言えばアスナなら信じてくれるよな!」

 

 そうそう。

 キリトとアスナの絆は絶対なんだから、問題ないって。

 まあ、それはそれとして。

 

「ボクはキリトに無理矢理されたって言うけど」

 

「おいこらちょっと待て」

 

「ボクは嫌だって言ったのに、キリトが無理矢理押し込んできて……ボクはもうアスナに見せる顔ないよ」

 

「言い方っ!」

 

 よよよ、と泣き崩れる演技。

 完璧だね。アスナに聞かれたらこうしよう。そうしよう。

 

「ったく。………なんでそういうとこはいつも通りなんだよ」

 

「そういうとこはってなにさ。それ以外もいつもと一緒だよボク」

 

「……」

 

「えっ、なにその呆れ顔」

 

 おかしいな。いつも通りのはずだけど……。

 なんかキャラぶれてたりした?

 

「ボクのどこが変だって言うのさ」

 

「……特に多いのはリアルでだけど」

 

「うん」

 

「不安そうにしてる」

 

「……えっ?」

 

「不安そうだって言ったんだ。迷子みたいにどこ行ったらいいのかわかんなそうな感じ」

 

「…………それ、ほんと?」

 

 冗談とかじゃなく?

 

「マジな話だ。だから今日二人きりでご飯したかったんだと」

 

「……アスナも、そう感じてたってこと?」

 

 それで直接会って話したかった。つまりはそういうことだよね。

 

「アスナだけじゃなくてリズにシリカ、クラインとかもだ。付き合い長い連中は軒並み気付いてたよ」

 

 マジか。

 だとしたら相当わかりやすく変だったんだ。ボク。

 でも、さ。

 

「ぜんっぜん、ボクはその自覚ないんだけど」

 

「自覚なさそうだから俺達も対応に困ってたんだよ。そのくせいつも通りな部分もあるしな」

 

「あーっと、なんか心配かけたみたいでごめんね」

 

「いいって別に。それで? 原因に心当たりはあるのか?」

 

 原因ねえ?

 最近のボクがおかしくなった理由。最近のボクに起きてるなにか。

 だとしたら最近ちょっとイラッとした時に見る夢のこと、かな?

 ………いや、多分違うな。 

 

「……これかなってのは一応思い付くけど……」

 

 夢じゃない。そっちじゃなくて、なぜまたあの夢を見る事になったのかだ。

 いつからまたあの夢を見るようになった? いつからボクは違和感を発するようになった?

 決まってる。あれ以来だ。

 

「……聞かない方がいいやつか?」

 

「うーん。そうだなぁ……いや、せっかくだし聞いてくれる? それで解決するかもだし」

 

「分かった。聞くよ」

 

 ちょっとだけ深呼吸。落ち着いて息を整える。 

 大丈夫。なんでもない。

 ただ今思った自分の考えを言えばいいだけ。それだけ。大した事じゃない。

 

「ボクってさ、病気だったって言ったでしょ」

 

「ああ。聞いて、そして怒ったよ。知ってたら戦わせなかったのにって」

 

「いつ死ぬか分からない人が、いつ死ぬか分からない戦場に行くだけなのに?」

 

「それとこれとは別物だろ。それに俺達だけじゃなくて他の攻略組のメンバーもそのこと知ったら絶対にユウキのこと怒るからな」

 

「もーごめんって。―――で、本来なら治らないはずだったわけじゃんボクって。家族含めてさ」

 

 あんな夢みたいな薬が出来てくれなければ。

 

「それはっ! ……そうかもしれない、けど」

 

「うん。で、多分今ごろにはボクはもうこの世界にはいなかったわけだ」

 

「…………」

 

「でも生きてる。治ったから」

 

「病気だったって聞いて怒ったけど、治ったって聞いて嬉しかったんだぜ俺達全員」

 

「うん。ボクもそう言ってくれてすごく嬉しかったよ。……でもさ、SAOに行ったばかりのボクは薬が出来るなんて知らなかったわけで、クリアしてもすぐ死ぬことになるってずっと思ってたんだ」

 

 だから、嘘を吐いた。

 だから、誤魔化した。

 怖くて恐ろしくて、ずっと泣き出したい気持ちを隠す為に。

 

「しょうがないだろ。未来の事なんて誰にもわからないんだから」

 

「……ふふっ、ふふふ。そうだね。そりゃそうだよね。はははっ」

 

「今なんか変なこと言ったか?」

 

「ううん、ごめん。なんでもない。―――未来の事は分からない。こんな当たり前のことをボクは忘れてたんだね」 

 

 未来を知っている。なんてこと自体がおかしいのは当たり前のことなのにね。

 ボクが紺野木綿季として生まれて、ユウキであると自覚したからこそ忘れてしまっていた。

 ほんとボクってバカだよなぁ。

 

「だからあの頃のボクは一応覚悟して生きてたんだよ」

 

「覚悟?」

 

「そう。いつ死んでもいいっていう覚悟」

 

「……」

 

「愛してくれる家族がいた。一緒に遊んでくれる友達がいた。共に戦う仲間がいた。ボクは最高に幸せだったって最後に言う覚悟」

 

「…………ユウキ」

 

「でも生き残った。生き続けられた。生きていいって言われた。その時のボクの気持ちを想像できる?」

 

 なんて言うけど、ボクも今話しててやっとわかったんだけどね。

 どこかモヤっとしたままで今の今まで言語化できなかったボクの感情。ボクの悪夢の理由。

 普通ならすぐわかるんだろうな。

 

「……嬉しかったんじゃないのか。ずっと死ぬって思ってたんだろ」

 

「うん。嬉しかったんだ。いっぱい泣いていっぱい笑って。―――で、落ち着いた後に思った。『怖い』って」

 

「怖い? 病気は治ったのに何が怖かったんだ?」

 

「んー、カッコつけて言えば先の見えない未来、になるのかな」

 

 死ねと言われ続け、一人寂しく死んだ以前のボク。

 家族を愛し愛される平穏の中で、生きる幸せを知った幼少期。

 突如として思い出すことになった『ユウキ』の死の未来。

 まるで、世界がボクに死ねと言っているのかと思ったあの日。

 

 一人が寂しくて、愛してくれる家族がいて、未来を思い出し未来を諦め、最期を覚悟した。

 でも、世界は今度は「生きていいよ」と告げてきた。

 

 ボクの心はごちゃごちゃだ。

 存在を否定されて死んで。生まれてきて喜ばれ。未来がない事を知って絶望して。そして今度はなにもしてないのに求めてた未来を渡された。 

 

「絶望したら希望が来て、その希望が絶望に変わって、また希望が戻ってきた。―――なら今の希望もまた消えてしまうんじゃないかって、そうは思わない?」

 

「……それは」

 

「巡り合わせが悪かっただけって? ボクもそう思うよ。ただの考え過ぎだって」

 

「ならっ」

 

「でも未来は分からない。だから、怖いんだ」

 

 だから夢を見るのだろう。

 ボクが一番辛かった頃の夢を。

 ボクの存在を否定されていた頃の夢を。

 また、絶望が訪れた時に「やっぱりね」ってすぐに諦められるように。最近妙に見る頻度が高いとは思ってたけど。多分こういうことだよね。

 バカみたいな自己防衛だ。我ながら意味があるとは到底思えない。

 

「気にしなくていいよキリト。結局のところ、こんなのはただの被害妄想に過ぎないんだから」

 

 そう。ただ無駄にボクが物事を否定的に捉えてるだけ。

 もしかしたら交通事故に遭って死ぬんじゃないか、とか。

 突然通り魔に襲われるんじゃないか、とか。

 はたまた隕石が落ちてきてみんな潰れちゃうんじゃないか、とか。

 そんな話でしかない。別に深い意味なんてないんだよ。 

 

「だいじょーぶ。そのうち時間が解決してくれるよきっと。今の状況にも慣れるさ」

 

「……よくないだろ、全然」

 

「ううん。いいんだよこれで」

 

「いいわけないだろ。友達が苦しんでるのに放っておいていいわけあるかよっ!」

 

「……ならキリトは友達だったら誰でも助けてあげるの?」

 

「そんなの決まって」

 

「―――誰も望んでないのに?」

 

「なっ」

 

「キリトはさ、確かに英雄だよ。誰にも出来ないことをしてみんなを助けた」

 

 SAOの途中クリア。

 キリト以外では出来なかったであろう偉業。それは確かだ。

 

「でもだからって、友達だからなんて理由で心に踏み込んでいいわけじゃない」

 

「そうかもしれない。でもっ」

 

「俺なら救えるって? それはさすがに傲慢だと思うよ」

 

 キリトは特別で、主人公だ。

 でも、ただの男の子でしかないのも事実だ。

 ただの友達の問題にそこまで踏み込んでいい理由にはならない。

  

「……確かに俺はユウキにとってはただの友達なのかもしれない。でも、俺はユウキを……」

 

「ボクを? ボクがなんだってのさ?」

 

「―――ユウキのことを、親友だと勝手に思ってる」

 

 親、友?

 ボクが、キリトにとって?

 

「そうだ。俺がユウキを助けたいって思うのはそれが理由だ。ただの友達なんかじゃない。今まで生きてきた中で一番大切な友達だから、助けたいんだ」

 

「…………それが、キリトがボクを助けたい理由?」

 

「……ああ」

 

 なんていうか。

 もー、ほんとにキリトはこれだから。

 

「……ふふっ、ふふふ。あははは」

 

「ユ、ユウキ……?」

 

「ごめんごめん。キリトだなって思ってつい笑っちゃった」

 

「……どんな理由だよそれ」

 

 言葉通り、そのまんまの理由だよ。

 

「―――うん、そうだね。ボクは女の子でキリトは男の子だけど、一緒にバカなことできる親友だもんね」

 

「ああ、そうだったろ。俺達は」

 

「うん」

 

 もーほんとにさー。おかげで心臓バクハツしそうだよ。

 今日はキリトといいアスナといい、ボクをどうしたいんだろうね、ほんと!

 

「……だから、なんだ。頼りないかもしれないけど、ユウキが困ってるならいくらでも手を貸すから。助けてって迷わず言ってくれ。すぐに助けに行くから」

 

「うん。わかったよ。でも今はほんとに落ち着く時間さえあればだいじょーぶだから。また今度、泣きそうになったらその時はすぐにキリトを呼ぶよ」

 

 なにが頼りないだよ。キリトほど頼りがいがある人なんてボク知らないっての。

 

「おう」

 

「うん」

 

「……その、なんだ。そろそろいい時間だし、帰るか」

 

「そだね。帰ろっか」

 

 二人隣り合って歩き出す。

 お互いに顔をちょっと背けながら。恥ずかしい事言いやがって、もー。

 でも、嬉しかったよ。ボクのことを親友って言ってくれて。

 

「ねえ、キリト」

 

「なんだ?」

 

 だから、これは普段は言わない心からのボクのキリトへの気持ち。

 

 

「―――大好きだよ」

 

 

 分かるかな。ちゃんと伝わるかな。ボクのこの思い。

 

 

「―――俺も、ユウキのこと好きだぞ」

 

 

 ああ、よかった。伝わった。

 なら、続きの言葉も分かるよね。

 

 

「「親友として」」

 

 

 ふふっ、ふふふ。

 あーもーっ! 今すぐ体を思いっきり動かしたくてたまらないなっ!

 剣をこれでもかってくらい振り回したくてしょうがないよ、もーっ!

 

「……顔真っ赤だよキリト」

 

「うっせ、そっちこそ首まで赤いぞ」

 

「ちょっとどこ見てるのさ。そーゆーのセクハラって言うんだよキリト」

 

「大丈夫ですー。俺はユウキのことをそういう目で見てないので問題ありませんー」

 

「なにさそれ!」

 

「なんだよ!」

 

 キリト誤魔化し方へたくそ過ぎ!

 そんなんじゃボクの方まで恥ずかしくなってくるじゃんか!

 ボクの親友なんだからもっと上手くやってよね!

 

「あ、そうだ。今いいこと思いついたんだけどさ」

 

「……一応聞くけど本当にいいことなのかそれ?」

 

「ボクはキリトの親友。さらにアスナの友達なわけでしょ」

 

「まあ、そうだな……」

 

「じゃあさじゃあさ。二人の結婚式の時に友人代表としてボクがスピーチするってどう!?」

 

 ヤバい。名案すぎる。

 ボクって天才じゃないだろうか。

 

「…………やだ」

 

「なんでっ!? 絶対盛り上がるって!」

 

「どうせユウキの事だから無い事ばっかり話すんだろ、どうせ」

 

「しないよそんなこと!」

 

「本当かよ……?」

 

 なんだよその怪訝そうな顔は。

 失礼なやつだな。

 

「ある事無い事をこれでもかって盛り付けて、原形をわからなくするくらいだよ」

 

「やっぱりじゃねえか!」

 

「なにさ、どこが不満だってのさ」

 

「全部だよ全部! ……決めた。絶対にユウキには頼まない。むしろ招待しない」

 

「なっ、ひっどーい! それは横暴だよキリト!」

 

 いくらなんでもひどすぎる! ボクだってアスナの晴れ姿見たいのに!

 

「うるせえ! そうでもしなきゃ絶対にユウキは無茶苦茶にするだろ!」

 

 キリトめ。黙って言わせておいたらいい気になっちゃって。許さん。

 

「かっちーん。頭にきた。今謝るなら許してあげるよ、キリト」

 

「そっちこそ。今ごめんなさいって頭下げるなら許してやるぞ、ユウキ」

 

「……………」

 

「……………」

 

「やるかこのヤローッ!」

 

「上等だオラーッ!」

 

 もう許してあげないからな!

 

「18時! ユグドラシルシティ中央広場!」

 

「魔法無し! 飛行無し! 消費アイテム無し! 初撃決着!」

 

「辞世の句を用意して待ってな、キリト!」

 

「そっちこそ首洗って待ってろ、ユウキ!」

 

 宣戦布告するなり家に向かって走り出す。背後から聞こえる足音から向こうも走ってるみたい。

 さて、どうしてくれようか。

 この前のPVPは勝ったけど、また同じ手は効かないだろうし、なにか違う手でいかないといけないな。やっぱり最近作ったOSSで攻めるべきだろうか? でもあれはとっておきにしたいんだよな。どうしよ。

 

 あーでもないこーでもないと考えながら帰路を走る。そして気付く。

 

 ―――今、ボク笑ってる。

 

 別になにも解決してはいない。

 未来への希望も、絶望も。これからボクがどうするべきなのかも定まっていない。不安な気持ちも減っていない。

 今朝、あの夢を見て起きたときから状況はなにも変わっていない。

 もうボクに未来は分からない。ボクの持っている知識とは明確にズレてしまった。明日死ぬかもしれない。明後日死ぬのかもしれない。なにも分からないままだ。

 だけど、一つだけ分かっていることがある。

 

 

 もう、ボクがあの夢を見る事はないってこと。

 

「キリトのバーカ!」

 

 ありがとう。ボクの大好きな親友。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日行われたアスナの家でのお泊り会は、急遽放課後デート査問会に変更された。

 解せぬ。

 

 




ユウキ「あの、みんなどうしたの? なんでボクは真ん中に座らされたの?」

リズ「被告人は先日駅前のアイス店でアーンしあってたという目撃証言があります」

ユウキ「ちょっ、リズ!?」

シリカ「あたしのクラスメイトが見たと証言してました」

ユウキ「シリカ!? 間違ってるよ! その証言には誤りがあるよっ!」

リーファ「アーンしあって無かったと?」

ユウキ「しあってなんか無いよ! ボクはそんな事してない!」

シノン「……してはもらったと?」

ユウキ「そうそう。してもらっただ………ボクは何も言ってないよ」

アスナ「判決を言い渡します」

ユウキ「アスナ! アスナはボクを信じてく」

アスナ「有罪。全員でくすぐり5分の刑に処します」

ユウキ「アスナぁ!? 待って、みんなストッ! ちょ、やめっ」



あけましておめでとうございます。今年も皆様にとってよいお年でありますように。
ちなみに今回で番外編最後です。
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
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