リハビリがわりに書かせてください。
もう一つの作品のほうを楽しみにしていた方がいらっしゃいましたらゴメンナサイ、もうちょっと待っててください(どげざー)
プロローグ
――勇者は悪いドラゴンを倒してお姫様を救い出したのでした。
ヒロイック・ファンタジーの中に欠かせないといえば英雄(ヒーロー)の存在だ。物語の中で英雄と呼ばれている者たちは、時に弱い者のために剣をとり、勇気を携え強大な敵に立ち向かっていく。膝を折っても立ち上がり、あらゆる艱難辛苦を退け、強い絆で繋がった仲間たちとともに壮大な冒険を繰り広げる。
物語の中には英雄(ヒーロー)がいる。
それは人々の希望であり、悪意という暗黒が渦巻く世界の中で人々の心の支えとなる者だ。
物語の最後はハッピーエンドで締めくくられる。
しかし。
ドラゴンを倒した勇者はお姫様が、その後の二人が幸せに暮らした、そんな保証はどこにもありはしないのだ。
◇ ◇ ◇
それが夢だと気づいたのは、懐かしい親父の背中を見たからだ。
夢の中で俺と親父はどこぞかを歩いている。周りの景色は古い映画のフィルムが擦り切れたみたいに白やんでいた。それがどこかなんて分からない。物心つく頃には親父と一緒に根無し草みたいな放浪生活をしていたのだから、場所の候補なんぞは腐るほどある。紙細工みたいな漠然とした世界の中で、親父の背中だけがくっきりと見える。
親父はいつだって俺の前を歩いている。走れば追いつく程度の距離だが、大人と子供では歩幅がそもそも違う。こちとら追いかけるだけで精一杯だ。
そのときの俺は無心で親父の後をついて歩いていた。
歩いていて、ふと気づく。
俺は歩いている最中も疲れたらいったん立ち止まって一息ついて、また歩き出すというのを繰り返している。止まっているのだから俺と親父の距離は広がる一方のはずだ。それなのに俺と親父の距離は常に変わらない。
俺が立ち止まると、親父の歩みはゆっくりとしたものになった。それはまるで俺が歩き出すのを待っているみたいに。
……上等だよ、コラ。
なんだか無性に悔しくなって、俺は駆け出した。
走って親父の横に並ぶ。急に走ったせいか喉の奥が焼け付くみたいに熱くなっている。おもいっきり息を吐き出したいのをぐっとこらえて、俺は何食わぬ顔で親父と同じ歩調で歩く。
親父の野郎は俺を見下ろしてにやりと笑った。そうだ、それでいいと言うみたいに。
ふふん、どうだ。
しかし歩いているとだんだんと俺と親父の距離は、さっきまでと同じくらいに離れてしまう。親父は変わらぬ歩調でずんずんと前を歩く。俺といえば情けないことに後ろをついていくで精一杯だ。
ちくしょう。
俺はなけなしの体力を振り絞ってもう一度走った。
親父の横に並ぶことはできたが、ぜえぜえと肩で息をする。今度は取り繕う余裕も無いほど疲労していた。心なしか上体がゆらゆら揺れている。
親父はそんな俺を見て、ほほえましそうに笑った、笑いやがった。
すねを蹴っ飛ばしてやろう。そう思ったが今はそんな体力的余裕は無いし、罵る気力もなかった。
またしばらく歩いていると親父と俺の距離は離れ始める。親父の一歩と俺の一歩。親父の一歩は大きくて、俺の一歩は小さい。それでも親父の背中を見失わないですんだのは、親父が俺が追いつくように歩幅を調節してくれたからだ。
そいつがひどく悔しくて、情けなくて、俺は親父に食らいつこうとした。膝が笑ってくたくたな体を叱咤して再び親父の横にまで走る、走る、走る。
追いついては離され、また追いついては離される。
奇妙な、そして一方的な追いかけっこ。
夢の終わりまで、俺は親父の背中を追いかけ続けた。
延々と……延々と。