大分裂戦争と呼ばれる大きな戦いから二十年ほどの時が流れた。
 二十年という時間が長いか短いかは激動の時代を過ごした人々にしか分からないだろう。たくさんの血が流れ、たくさんの命が散った。近しい人を失った悲しみや、家族を奪われた怒り。怨嗟の声が大陸全土を駆け巡り、悲しみの涙と血が大地に流れた争いの時代。英雄の存在によって大戦は終局したが、それですべてが終わったわけではない。戦いの後に残されたのは焼かれた家や田畑。そして人々の心に刻み付けられた消ええぬ傷だった。
 それから二十年。過去の傷が完全に無くなったわけではない。しかし多くの人々はそれでも村を、街を、国を復興させ、かつての平穏な生活に徐々にだが戻って行った。
 そんな時代に、ハル・スプリングフィールドは生きていた。
 トレードマークの赤い髪に、不適な笑みを浮かべ。性格はずうずうしく図太くガサツで無鉄砲、飄々として捕らえどころがない。しかしそんな彼を慕う人々が自然と周囲に集まる、不思議な魅力の持ち主だった。
 人は彼をこう呼ぶ。
 『二代目』サウザンドマスター。
 大戦を終結に導いた英雄ナギ・スプリングフィールドの実子の一人にして、最強の魔法使いの称号サウザンドマスターの名を継ぐ英雄……と世間では知られているが、ハル自身はそんなこと知ったこっちゃない。人から押し付けられた称号も、いつの間にやらできていた正義の味方像とやらもどこ吹く風で、彼は今日も我が道を突き進む。

『二代目』サウザンドマスター
  プロローグ()
  01 【魔法世界の一期一会】2013年10月06日(日) 21:08()
  02 【まだ、間に合う】2013年10月13日(日) 09:28()
  03 【襲撃】2013年10月14日(月) 20:47()
  04 【襲撃された襲撃者】()
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