「サーヴァント、バーサーカー
彼女はまだ知らない。その姉が
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「ねえ、ようちゃん。久しぶりに会えてうれしいわ♡今夜一緒に寝ましょう?」
「う~ん、寝るだけならいいよ。でもさ・・・」
妖姫が自身のおしりを撫で続けていた白い手をがっしり掴む。
「お姉ちゃん寝るだけじゃすまないよね?絶対変なことするよね?」
「そ、そんな事するわけないじゃい」
「はいそこ、目をそらさない」
手首をしっかりと掴んでいるのに、指が妖姫を求めてわらわらと動く。その動きはまさに蟲のごとし。
「そ、それに!全部ようちゃんが悪いのよ。私のことを魅了しといて安珍様を追いかけて溺死しちゃうんだから。思わず私も後を追ってその後安珍様を焼き殺しちゃったわ☆」
「そこテヘペロするところじゃないと思うんだけど・・・だいたい、私が溺死したのは船が沈没したからじゃない。安珍は関係ないじゃん」
そこでニコニコしていた、いやニヤニヤしていた清姫の表情が変わった。妖姫はやってしまったといった風に頭を抱える。
「なに、安珍様を庇うの?そうなんだ、私よりも安珍様を好きなのね」
「いや、だれもそんなことは言ってないでしょ」
「いや、絶対そうだわ!許せない」
こうなってしまっては清姫はよっぽどのことがない限り止まらなくなる。それはカルデアにいるすべての人が知っていることだ。
「・・・めんどくさいなぁ」
「ようちゃん酷いわ!こうなったら二人で一緒に逝くしか」
「はいはい、今日一緒に寝てあげるから落ち着きなさいな」
妖姫が仕方がないと腹をくくる。その頭にある角のようなものは気持ちを表すがごとく、しなしなっと元気がなくなった。
「ほんと!?女に二言はないわね!絶対よ!嘘は許さないわよ!」
「ああ、はいはい。わかってるって」
「あぁ、なんていい日なのかしら。そうだわこうしてはいられない、夜のために準備をしなくてはぁ♡」
清姫はそう言って妖姫に熱い視線を送ったあと走り去っていく。その姿を苦笑いで見送った妖姫は今夜のことを考えて溜息を吐いた。はたして清姫はこんな状況で満足なのか「満足ですわ♡」あ、そうですか。苦労人妖姫ちゃん!頑張れ、君がカルデアが誇る清姫ストッパーだ!こうして妖姫が来ることによってカルデアの平和が保たれたのであった。めでたしめでたし。
「めでたくないよ、ずっとそこでなにしてんのさマスター」
休憩スペースにある観葉植物の鉢の陰からカルデア唯一のマスターが現れる。彼はのちに世界を救う英雄になるわけだが、現在彼からそんな雰囲気は感じられない。
「いやぁ、姉妹水入らず交流してるから邪魔してはいけないと思って隠れてたのさ。ねえ、マシュ」
そういうと次は休憩スペースのベンチからなすびが生えてきた。
「なんだかいま侮辱された気がしたのですが、まあいいです。そうですね、先輩の言う通りです。もしあそこで二人の間に入っていれば・・・」
「入っていれば?」
「「確実に清姫に焼き殺されてたな(ましたね)」」
「えぇ・・・」
二人ぴったりそろって言うものだから妖姫もつられて笑ってしまう。カルデアでの清姫の認識は統一されているようだった。
「でも、妖姫さんが来られてから心なしか前より清姫さんが楽しそうですよね」
「ん?そうなの?」
「ん~そうだね。前まで安珍安珍言って藁人形燃やしてばっかだったからね」
「いや、なにしてるんだ姉さんは・・・」
他にもたくさんある。妖姫の絵を自分で描き、それに一日中話しかけていたり、抱き枕にして三日三晩抱き着き続けたり・・・まあ、どちらにしてもカルデアでの清姫の扱いは変わらないが。
「まあ、とにかく妖姫が来た当初は混乱したけど、今では大助かりだよ」
「ほんとです。これからも清姫さんをお願いしますね」
「はいはい、任されました」
手をぶらぶらと振りながら妖姫は自分に与えられた部屋に戻っていく。その間、マスターとマシュは妖姫に敬礼をし続けた。これまでの清姫への対応とこれからの健闘を祈ってだ。その様子を廊下の壁から見守る(監視する)人が一人。
「・・・ふふふ。マスターたちと浮気でもしているのかと思いきや、私との永遠を誓うだなんて大胆♡」
うれしさのあまり髪が逆立ち、体がプルプルと震えている。
「これには私も答えなくては・・・今夜は寝かせませんわ」
こうして妖姫の地獄の夜が決定した。
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とある部屋にて
二人の少女が同じベットの中で正面から抱き合っていた。
「マスターたちの前ではあんな風に言っても、私と二人っきりになると甘えん坊さんですね」
妖姫はそう言って清姫の可愛らしい胸に顔を埋める。表情は人には見せられないほどにとろけていた。
「うぅ~ん?別にいいじゃん♡お姉ちゃん大好きだし」
「ふふふ、可愛いですね。でもいいのですか?私本気にしちゃいますよ?」
妖姫が不満そうな顔をして清姫に抱き着く力を強くする。
「そう言って安珍に一目ぼれして私をほったらかしたのはお姉ちゃんじゃん」
「それは悪いと思っています。あんな奴に惚れて無ければ妖姫も死ななくてよかったのに・・・」
清姫がそう言って表情を曇らせると妖姫は清姫の頬に手を添わせて、キスをした。
「そんなに思いつめないでいいよ。あんなことがあったからこそ、今こうやって再び愛し合えてるんじゃない。人間だったころには私たちは愛し合うこともできなかったし、永遠の愛も誓えない。けどね」
清姫にだけ見せる妖姫の表情。それは名前の通り妖しさを宿した笑みだった。
「今ならいつでも、いつまでも愛し合えるよ?」
その言葉、仕草は清姫のリミッターを外すには充分すぎた。その後二人はより深いキスをしてそのまま部屋には水音が響いていく。
清姫の妹、それは姉よりも姉を愛し、姉よりも愛に狂い、姉よりも妖しい。ある意味二人はお似合いなのかもしれない。