ヒーローになれない出久くん   作:市松格子

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おりじん

 緑谷出久は、どこにでもいるヒーローに憧れる少年だった。

 世界総人口の8割が何らかの特異体質"個性"を持つ世の中で、それを持たぬ"無個性"と呼ばれる存在であった。

 "個性"を前提とした超人社会において、その"個性"を活かし活躍する職業"ヒーロー"。

 皆が憧れるそれになることを許されていないのだと、4歳にして出久は思い知った。

 

『僕はヒーローになれない』

 

 "個性"を持たぬ故に可能性の芽すらないのだと知り、出久は絶望に苛まれた。

 "無個性"であることを幼馴染たちに蔑まれたことも原因であろう。

 

 その幼い悪意は周りに伝播し、小学校に入る頃には出久はイジメの対象となっていた。

 とはいえ、理不尽な暴力に晒されるようなレベルにはならず、小馬鹿にされる程度ではあった。

 しかし、だからこそ誰も思いもしなかった。

 

『来世は個性が宿ると信じて、屋上からワンチャンダイブ!!』

 

 少年たちにとっては、いつもと同じちょっとしたからかいであった。

 出久にとってもそうであっただろう。

 ただ、その時出久は何となくその言葉を正面から受け止めてしまった。

 

―――ここから飛べば、個性が宿るかもしれない

 

 ヒーローがヒーローたる条件、"個性"。

 出久がそれを心から渇望していたが故に至ってしまった事態。

 

 

 

 

 緑谷出久は、その日、亡くなった。

 享年10歳であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆豪勝己にはある幼馴染がいた。

 そばかす顔の気の弱い少年だった。

 何事も秀でていた自分に欠片も届くことのない、何もできない"デク"。

 そう思っていた。

 

―――アイツが死ぬまでは。

 

 冬のある日だった。

 勝己は風邪を引いて学校を休んでいた。

 本人はたかが風邪だと学校に行くつもりであったが、母親が押さえつけて休ませたのだ。

 熱もあったし、インフルエンザの心配までされては仕方ないと、勝己は諦めて家のベッドで休んでいた。

 病院で風邪と診断され、明日は学校に行けるな。

 病気に負けたなどと馬鹿にされては堪らないと考えてたそのとき、家の電話が鳴った。

 受け答えした母が、見たこともない表情になったのを覚えている。

 母からそれを聞いた勝己も、同じ顔をしていただろう。

 

 学校の屋上から、緑谷出久が飛び降りたこと。

 頭から地面に落ち、即死であったこと。

 ……同級生が囃し立てたことが原因だったこと。

 

 勝己は聡明ではあったが、まだ子供だ。

 何かとつけて『死ね』と言うことはあったが、自身の周りで死人がでたのは初めてだった。

 散々『デク』と馬鹿にしていた奴が、もういない。言うべき相手がいない。

 アイツのことなんて、と思いつつも、何とも言えぬ喪失感を抱いた。

 アイツが飛び降りたとき、屋上に居た奴らは皆口々に言った。

 

『まさか本当に死ぬなんて』

 

 爆豪勝己は、その日から『死ね』と言うことはなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トップヒーロー、オールマイトは響く爆音の中、その光景を見つめていた。

 自身が取り逃してしまったヴィランが今、一人の少年を人質に暴れている。

 全盛期より劣ってしまった自身を情けないと呪いながら、拳を強く握る。

 過去の傷によりもはや骨と皮に萎んでしまった自分では、あの場にいる少年を助けられない。

 身体を襲う痛みを堪えながら思う。この状態であと何秒、"平和の象徴"の姿を保てるのか。

 弱った自身の姿を晒し、"平和の象徴"を崩壊させてしまえば抑止が途絶え、世の中にはヴィランが再び活性化するだろう。

 そんな言い訳を考えてしまう自身が情けない。

 人混みの後ろ、建物の影から様子を伺いつつ考える。

 

―――何かできることはないか。

 

 手段を持たずとも、感情のままに一歩を踏み出そうとしたその瞬間。

 

 目の前に、まだ幼い少年が立っているのを見た。

 

「……!し、少年、どうしたんだい?」

 

 迷子だろうか。あたりは野次馬で溢れている。親と逸れてしまったのかもしれないと、オールマイトは声をかけた。

 少年はオールマイトを見つめていた。

 口は開かず、黙ってオールマイトをじっと見ていた。

 数秒経ったのち、少年は一言。

 

「行かないんですか、ヒーロー」

「……っ!!!!」

「じゃあ、僕が行きます」

「えっ!?待つんだ、君!!」

 

 言葉に詰まったオールマイトから目を離し、少年はそう言うと群集の中に紛れた。

 途端、人々の制止の声が聞こえた。

 

「バカヤロウ!止まれ!止まれぇ!!!」

 

 見れば、先ほどの少年が歩くでも走るでもなく、『宙に浮いている』のが見えた。

 常人が走るよりも速く飛行し、少年は人だかりの中央、暴れるヴィランと人質の少年の元へ一瞬で辿り着く。

 

「何だテメ―――」

 

 ヴィランの言葉は最後まで発せられなかった。

 流体状のヴィランは突然人質に取っていた少年を解放し、その姿を小さく纏めていく。

 次第に体積はおおよそ人のサイズとなり、先ほどまでの暴走が嘘のように静かになった。

 流体ゆえにはっきりとは分からないが、ヴィランの顔は恐怖に歪んでいた。

 

「何だ―――何なんだテメエ……!」

 

 奇しくも、それは少年が割り込んだときに発しようとした言葉と同じだった。

 それを最後にヴィランは気を失う。

 その身体は少年と同じように宙に浮いている。

 確実に少年の個性だ。

 ヴィランが大人しくなったのを見て、控えていたヒーローと警察は走り出す。

 かくして、ヴィランは捕らえられた。

 それを成した少年は、飛んで建物の陰に消えていった。

 オールマイトは慌てて、その背中を追った。

 

 

 

 

 

 

「追いついた……!少年!待ってくれ!」

 

 事件の起きていた商店街を抜け、住宅地に辿り着いたところでオールマイトは少年の後ろ姿を見つけた。

 思わず大声を出し呼び止めたが、痩せ細った姿で無理をしたためか傷が大きく痛んで呻いてしまう。

 

「……」

 

 少年は振り返り、オールマイトの元に寄っていく。

 

「……大丈夫ですか?」

「あ、ああ……ちょっと古傷がね」

「それで、御用は何でしょう」

「君に聞きたいことがあった」

 

 オールマイトは少年の目を見つめる。

 そこに光は感じられない。

 先ほどはそれこそヒーローのようにヴィランを抑え人質を救って見せたが、そのことに全く執着を見せぬ無感動ぶりであった。

 

「少年、君は何故あのとき、私をヒーローだと?」

 

 少年は悩む素振りを見せ、そして答えた。

 

「あなたがあのヴィランを一度捕まえたところを見てました」

 

 その返答を聞き、自身がオールマイトであることはバレていると確信した。

 なにせ捕まえたときは確かに"個性"を使っていたし、そしてミスにより逃がしてしまったときは"個性"を解いていた。

 親しくない一般人、それも子供に正体がバレたことを後悔しつつ、続けて尋ねる。

 

「何故、君はあの時、飛び出したんだい?」

「必要だと思ったので。僕以外の誰かが助けるかもしれなかったけど、僕しか助けられなかったかもしれない。だから、行きました」

 

 オールマイトは少年の言葉に感動した。

 オールマイトがこの街に来たのは、自身の後継となる存在を探すために、雄英高校の教師として活動するためだ。

 そして、その可能性を秘めた少年を見つけた。

 

「少年。君は、ヒーローになれる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無理です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええええええええええええええっっっっ!!!!????」

 

 まさか断られるとは思ってなかったオールマイトは声を上げてしまう。

 

「えっ何で?そういう流れじゃなかったよね?」

 

 困惑しつつも気を持ち直す。が、心なしか少年にかけた言葉は震えていた。

 

「流れって言われても……そもそも僕、ヒーローにはなれません」

「いやなれる!あのとき君は誰よりもヒーローだった!」

「気のせいです」

「Oh」

 

 にべもない。

 こうなるとオールマイトも意地であった。

 

「どうしてそんなに嫌がるんだい!?」

「いや、ヒーローが嫌なわけではないです。憧れです」

「じゃあ何で!?」

「ヒーローの資格が取れないんです」

 

 はい?

 オールマイトは混乱した。ヒーローの資格が取れない。

 資格条件そのものはそう大したものはない。

 せいぜい前科の有無くらいだろう。

 もちろんヒーローとしての勉学ができているかなどの審査項目はあるが、それは条件ではなく試験内容だ。

 

「僕、戸籍がないんです」

「はい?」

「そういえば自己紹介もまだでしたね」

 

 少年は言う。

 

 

 

「緑谷出久。享年10歳です」

 

 

 

 

「はいいいいいいっっっ!!!!???」

 

 

 





緑谷出久
個性:幽霊
幽霊っぽいことができる
・飛行
・ポルターガイスト(念動力)
・恐慌状態付与

たぶん透過能力や瞬間移動もできる。
でも幽霊だからご飯食べられない。
つまりワンフォーオールも受け取れない。
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