ヒーローになれない出久くん   作:市松格子

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僕の考えたさいきょーの出久くん


これまで

 享年、などと言われて何のジョークかと思ったオールマイトであったが、そんな彼の慌てようを無視して出久は話しだす。

 

「僕、幽霊なんです」

 

 出久が手の平をオールマイトの目前に掲げた。

 よく見るとその手の平越しに出久の顔が透けて見える。

 

「幽霊だから、触れません」

 

 出久は掲げたその手を下ろし、今度はオールマイトの胸元に伸ばす。

 本来なら身体に遮られるはずのその腕は、まるで水に差し込むようにオールマイトの胸に埋まった。

 痛みなどはないが、思いもよらぬ光景にオールマイトは自身の胸元を注視し、気付く

 出久の腕は彼が着ている服も同様に僅かに透けている。

 

「君は、"幽霊"という"個性"なのか」

「それはYESでありNOでもあります」

「……どういうことだい?」

「先ほど言ったとおり、僕は享年10歳です。5年前に死にました」

 

 何でもないかのように出久は告げた。

 オールマイトはその言葉をそのまま受け止めることは出来なかった。

 目の前にこうして立っている少年が既に死んでいるなど、到底信じられなかった。

 

「必要であれば僕の実家を訪ねてください。僕の遺影があります」

「……趣味の悪い冗談だね」

「本当ですよ。……と言っても、この場では証明手段がないんですけど」 

 

 僕の墓にでも案内しましょうか、などと笑いながら出久は言った。

 

「生前の僕は"無個性"でした」

「だが君はこうして"個性"を使用している!」

「ええ。どうやら死んでから、あるいは死に瀕したときに発動する"個性"だったようです」

 

 ふわり、と出久の身体が浮かぶ。勢いもつけずその場でバク宙を決めた。

 死を経て発現する個性など、オールマイトは聞いたことがなかった。

 しかし、オールマイトはヒーローであって"個性"の研究に詳しいわけではない。そういった個性がないとは断じることができなかった。

 

「僕自身、最初は信じられませんでした。確かに屋上から飛び降りた。迫る地面を見た。……たとえそれで死ななかったとしても大怪我を負っていたはずだ。」

 

 だがそうはならなかった。

 気付いたときには、街を彷徨っていた。

 学校ですらない。

 

「もしかしてあれは夢だったのでは。そうも考えましたが、僕の身体は変化していました。

今でこそ人の形をしていますが、最初は靄のかかった塊だったんです」

「じゃあ今私が見ている君の姿は……?」

「生前、最期の僕です。この服もそうです」

 

 出久が着ている深緑のパーカーとクリーム色のクロップドパンツは、実体があるものではなく、出久の"個性"で再現されたものだった。

 

「……本当に君が死んでいるとして。この5年間、何を……?」

「最初は自分が何なのか、どうなったのか理解できずパニックになりました。誰にも見えず、何にも触れず。でも確かに自分の意識がある。哲学みたいですけど、確かに自分が存在する。それに気付いてからは、何ができるのかを模索しました」

 

 まず自分の身体を調べた。

 靄がかったこの姿は何なのか。自分は一体何になってしまったのか。

 元の姿を取り戻せないものか―――。

 

「そこで初めて、自分の身体が人の形を成しました」

 

 突然自分の姿が人間のそれになったことに驚き、そして鏡などを介さず何となくそのことを把握できることに気付いた。

 自分の姿を思いのままに変えられる。

 そこに思い至った出久は服を着た自分を想像し、生前最期のときの姿になることができた。

 

「今度は自分の姿を誰か見ることができないのかを考えました」

 

 人型になる前から自分が浮いて移動できることに気付いていた出久は、街に移動し、誰彼構わず声をかけていった。

 誰にもその声が届くことはなかったが。

 同時に、人々が自分の身体を文字通り"通り抜けてしまう"ことにも気付いた。

 そこで初めて自分の正体を知った。

 

「幽霊になった。幽霊だから誰にも気付かれない。幽霊だから誰にも触れられない。

だけど幽霊だからと言って、そのまま何にも干渉できずに時を過ごすのは嫌でした」

 

 それからは幽霊の身体でできることを探った。

 

「まず透過能力」

 

 幽霊らしく物をすり抜けた。壁などの障害物を無視して建物に入れたし、監視カメラなどにも映っている気配はなかった。

 

「念動力」

 

 すり抜けてしまうなら意識して触ることはできないものか、と考えたところ、手に持つようなポーズで物を浮かせられることに気付いた。当初こそ持ち上げるポーズが必要であったが、今ではノーモーションで車の一台程度振り回せる。

 

「飛行能力」

 

 これは最初から分かっていたものだ。靄のときから浮遊していたし、人型になってからも歩かず飛んで移動していた。

 物に触れられないから衝突の心配もなく飛行の練習ができた。

 

「実体化」

 

 幽霊らしいこと、と連想を重ね、生前テレビで見たホラー特集で役者が幽霊の姿を見て驚く描写を思い出した。

 もしかするとと念じて人前に姿を現したところ、それまでと違い自分の姿を誰かに視認してもらえることが出来た。

 と言っても、当初ははっきりと出久の姿が見えるわけではなく、これまた靄がかった何か、としか映らないようではあった。

 

「恐慌付与」

 

 これも幽霊らしさから着想を得たものだった。

 誰かを怯えさせ、行動を制限する能力。

 ……ヒーローに憧れた少年としては、誰かを害する行いは心が締め付けられる思いではあったが。

 

「1年近くはそうして自分の特性を知り、強めることに努めていました」

 

 聞けば聞くほど多彩な能力にオールマイトは戦慄を隠せなかった。

 誰にも罰せられずに個性を使い続けていた。

 咎めるべき大人も存在せず過ごした少年。

 もしや無自覚なヴィランである可能性すらあった。

 だがまだ話の途中であり、その発想はただの言いがかりに過ぎない。

 オールマイトは続きを促した。

 

「残りの4年は?」

「……学校に隠れて通ってました」

「はい?」

「いえその……やっぱり学がないのって何だか嫌で……」

 

 聞いてみると拍子抜けではあった。

 強力な"個性"を得、修練を積み匠に操れるようになった先で行ったことは勉学であった。

 無力だった生前から大きく変化したことで増長し、大衆に損害を出すほど暴れる輩へと変貌してしまったのではと懸念を抱いたが、どうもそういうことはなかったらしい。

 

「誰にも気付かれないので堂々と教室に忍び込めますし……」

 

 堂々と忍び込むって何だ。

 

「ほら、オールマイトの母校、雄英の存在も当時から知ってましたし。憧れの存在に近づきたいなら、雄英に入学できるほど勉強もできないとなって」

 

 普通にどこにでもいる、純朴な少年であった。

 ファンレターや応援の声を数々貰っているオールマイトだが、目の前で自身に憧れていると明言する少年を無碍に扱うことはできない。

 

「えっと……言いにくいけど、個性犯罪とか」

「犯罪!?そんな!?えっあっでも存在するだけで"個性"の無断使用だからやっぱりダメなのかないやでもある種の"異形型個性"だから法律的にはセーフなんじゃでもそもそも死人裁く法律なんて知らないしいや知らないからって犯罪を犯していい理由にはならないよなえーと」

 

 ぶつぶつぶつぶつ。

 何やら独り言に夢中になってしまった少年を見て、オールマイトは毒気を抜かれた気分であった。

 

―――何を心配していたんだ私は。普通の少年ではないか。

 

「少年」

 

 ぶつぶつぶつぶつ。

 

「少年っ!!!!!!」

「は、はいっ!!!!!」

「君は『自分はヒーローになれない』と言った」

「……はい。既に死んだ身です。ヒーローはおろか、職に就くことすら叶わないでしょう」

「いいや。それは違う」

 

 オールマイトは骨と皮で出来た身体に力を込め、"個性"を発動する。

 巨躯となったオールマイトに出久は驚くが、続けられた言葉にさらに驚く。

 

「君はヒーローになれるっ!!!!!」

「!」

「何故ならあのとき、君は誰より"ヒーロー"だったからだっ!!!!」

 

 "個性"の発動限界に達してしまい逡巡してしまったオールマイト。

 相性が悪いと近づくことすらできなかった他のヒーローたち。

 そのどちらでもなく、人質を助けに飛び出したのは緑谷出久だ。

 たとえ出久がどんな存在であっても。

 たとえ出久がどんな来歴であっても。

 確かにあのとき、誰よりも"ヒーロー"らしくあったのは出久だった。

 

「もう一度言おう!!君はヒーローになれる!!!」

 

 その言葉に出久は涙した。

 零れ落ちた涙は地面に触れることなく消失した。

 出久は誰にも触れることができない。

 温もりを感じることができない。

 だが、オールマイトのその言葉には確かに温かさを感じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、まあ話はそれで終わることはない。

 

「それはそれとして、君は"個性"無断使用だから厳重注意ね」

「ひえっ」

 

 萎んだオールマイトの言葉に思わず悲鳴を漏らす出久。

 その気になればどこまでも逃げ続けられるのに、ビビリながらもその場に留まるあたり生来の出久の真面目さが滲み出ている。死んでいるが。

 

「法で罰することはできないけど、君は"個性"を不法に使用した」

「はい……反省します」

「もちろん、君の場合は『霊体になる』という"異形型個性"とも取れる。だがその最低限度の境界を越えて、君は"個性"を使用していたね」

 

 さらっと流れてしまったが、在籍してない学校に不法侵入して授業を受けるのは普通に問題である。授業料払え。

 

「処罰こそないが、問題行動は慎みなさい。……勉学の場は、私が用意してみせよう」

「……えっ?それって―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雄英に来いよ、少年」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




かっちゃんが息してない
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