ヒーローになれない出久くん   作:市松格子

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連載にしないのかってお話を頂きましたが、短編のままやらせていただきます。
ぶっちゃけ思いついたときに一気に書いているので、思いつかなければ続きはないのです。


さいかい

 爆豪勝己は天才だ。

 何事も上手くこなせる才能がある。センスの塊だと評されたこともある。

 個性抜きの身体測定では大体一番を取るし、勉学の成績だってトップクラスだ。

 周りのモブ共など自分を輝かせる脇役でしかない。

 クラスの主導権は自分が握っていたし、何もかもが順調だった。

 

―――あの日、幼馴染が死ぬまでは。

 

 今でも思い出せる、幼馴染の記憶。

 あの日、風邪を引いて休まなければ、あのクソモブ( 幼馴染)が死ぬことはなかったのではないか。

 それと同時に、どうして自分があんなやつのことを気にしなきゃならないのか、という思いもあった。

 後悔、悔悟。認めたくない思考がぐるぐる回り、あれから5年が経とうというのに勝己は未だにその事件を引き摺っていた。

 『死ね』という文句を言わなくなったのがいい例だ。

 とはいえ、普段からこんなことばかり考えていたわけではない。

 何を言おうと考えようと、死人は戻らない。

 まして自殺ともなれば、全てを諦め投げ出したのは本人なのだ。

 この自分が気にかける必要がどこにあるのか。

 

 しかし、今はそうやって自分を抑えることができない。

 原因は、先週、ヴィランに襲われたとき誰かが群集から飛び出し、自分を助けたことだ。

 爆炎を撒き散らしただ抵抗することしかできなかった自分と違い、群集から突然飛び出してきた影は一瞬でヴィランを戦闘不能にした。

 捕らえたのはヒーローと警察だが、あの人影はまだ10歳ほどの身なりだった。異形型でもないかぎり大人とは思えないし、そもそもまともな人ならあの場に残って然るべきだ。ヒーローだとは思えない。

 否。

 そんなことはどうでもいい。

 あの飛び出してきた人物。

 自身の爆破の光で僅かに見えた、フードの中の相貌。

 あれは、あの日死んだ幼馴染の顔だ。

 

「……んなワケねえ、見間違いだ」

 

―――死人は戻らない。

 

 葬式で奴の母親が泣く姿を見た。

 自分が奴を苛めていたことは知っていただろうに、責められることはなかった。初めて見た奴の父親も、何も言わずただ妻の肩を抱き、遺影を眺めていた。

 自分にとってどうでもいい人間(クソモブ)であろうと、悲しむ誰かがいることを知った。

 

―――死人は戻らない。

 

 自分を助けた誰かが、何者かなんてどうでもいいことだ。

 見えてしまった顔も見間違いだ。

 生き返るわけがない。

 

―――死人は戻らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、かっちゃん」

 

 

 

 

 

―――死人が戻ってきた。

 

 

 

 

 

 勝己は頭が真っ白になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――で、なんでおるんじゃテメエ!」

「ひえっ」

 

 偶然出会った道端から近所の公園へと場所を移し、それまで黙っていた勝己が発した言葉に出久は小さく悲鳴を上げる。

 実際のところ出久より勝己の方がテンパっている。

 死んだ幼馴染がかつての背格好のまま突然目の前に現れたのだから当然といえば当然だが。

 

「その……話せば長くなるんだけど」

「二十文字以内で簡潔に言え!」

「死ぬ直前に個性が目覚めて幽霊になりました!」

 

 手のひらから爆破を繰り出し脅すように喋る勝己に対し、出久は叫ぶように返す。

 

「は……?幽霊……?」

「うん」

「ふざけてんのかテメエ!!!」

「ふざけてないですごめんなさい!!!」

 

 BOM!と走る音にビビリながらも出久は手を伸ばし、勝己の手のひらに重ねた。

 もちろん触れることはできず、すり抜ける。

 勝己はそれを見て言葉を失う。

 

「お前……これ……」

「幽霊だからね……ものに触れないんだ」

 

 何ならこの服も実体がないよ、と袖ごと勝己の手を透かした。

 そこにいるのは確かなのに触ることができない、その不思議な感覚に戸惑う勝己だが、冗談でもなく出久が幽霊として存在するのは信じることにした。

 

「個性で幽霊になった、っつったなお前」

「う、うん」

「じゃあこの5年近く何してた」

「実は学校に隠れて通ってた」

「は?じゃあお前まさか俺と同じ教室に」

「いました」

「ストーカーかよテメエはよぉ!!!」

「ごめんそんなつもりはなかった!!!」

 

 5年間も同じ教室に死人が通ってた事実に勝己は戦慄を隠せない。

 ストーカーと称したが背後霊とかそういうのだこれ。

 

「じゃあ何で今になって姿を現したんだ。『隠れて』ってことは今みたいに姿を見せることはできたんだろ」

「ヒーローに見つかっちゃった」

「……こないだのヘドロ野郎のときか」

「うん」

 

 見つかったと言ってもオールマイトの前に姿を現してわざわざ話かけたのは実はただファンだからという理由で、話しかけるタイミングを見計らってたら何か事件起きちゃってしかも知り合いが巻き込まれてることでテンパって妙に意味深な台詞吐いて姿を消すことを忘れたまま飛び出したという酷くマヌケな事実は伏せる出久。

 彼にだって守りたい自尊心がある。

 

「じゃああのとき出てきたのもテメエか」

「うん……」

「何で出てきた。それまで隠れてたのに」

「君が、助けを求める顔をしてたから」

 

 繰り返し言うが姿を見せたのはテンパったからである。

 念動力は姿を見せずとも使える。

 全力で誤魔化す方向の出久である。

 

「別に助けなんていらなかった」

「かもしれない。君は凄い人だから」

「ケッ……」

 

 勝己はあのとき助けられたことに納得していない。

 大人たちはまるで自分を贔屓するように褒めたからだ。

 あのとき必死に抵抗する勝己を見ていながら、救いの手を伸ばすことのなかったヒーローたちが、正体不明の誰かに助けられた瞬間それまでのことをなかったかのように褒めちぎる様に苛立った。

 ましてその『誰か』が出久だったと知った今、無性に腹が立っていた。

 しかし勝己は当り散らすわけでもなく、怒りを飲み込むことにした。

 

「引子おばさんには会ったのか」

「うん。昨日、顔を見せてきたよ」

「そうか」

 

 出久の葬式で滝のように涙を流し嗚咽を溢した引子の姿を、勝己は覚えている。

 息子の突然の死に悲しみに暮れ、あれから5年が経とうとしている今になっても暗い表情を見せる引子に、得体の知れぬ罪悪感のようなものを抱いていた。

 だが今、こうして出久が再び姿を見せた。

 引子の心も晴れるだろうと思うと、心に突き刺さっていた棘が取れたような思いであった。

 

「それで、ヒーローに見つかってどうなった?」

「保護……ってことになるのかな。家にそのまま帰るってわけにもいかないから。ほら、一応死んだ身だし」

「笑えねえ冗談はヤメロ」

「うっ、ごめん。一先ず戸籍は死亡届を撤回して戻るんだけど、生活はお母さんの元にはしばらく戻れないかな」

 

 当然だろうな、と勝己は思う。

 死人が幽霊になって戻ってきたなどとこの"個性"社会であってもあまりに突飛すぎる。

 元の生活に戻るのは無理な話だ。

 

「僕を保護してくれたヒーローの元でしばらく管理、ってことになったよ。でも、学校にも通えるし、お母さんとも偶に会いに行くくらいなら大丈夫だって言われてる」

「学校?お前、それ小学校からってことか?」

「ううん、来年度から、高校に」

 

 つまり勝己と同期のままということだ。

 勝己も中学三年生だ、高校受験が目の前まで来ている。

 進路はもう担任教師には伝えているし、自分が落ちるとは全く考えていない。

 

「俺は、雄英に行くぞ」

 

 どうだ羨ましいだろうと、自慢するように勝己は言う。

 いくら個性に目覚め、奇跡的に帰ってきたとしても所詮出久(デク)出久(デク)

 そこいらの普通の高校に行くもんだとしか思っていない。

 

「あ、僕も雄英に通うことになったよ」

「ハアアアアアァァァァァッッッ!!!!???」

「ひえっ」

「どういうことだワケを言えてめえ!!!!!!」

「いやその、保護してくれたのがオールマイトで……」

「ハアアアアアァァァァァッッッ!!!!???」

「ひえっ」

 

 この後しばらく公園に爆音が響き渡った。

 




リアルマネーがなくて文明的な生活ができぬ。あかん。
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