追記:感想で『しけんび』って言われて「確かにな」って思った。変えた。
その日、出久はビル街にいた。
ただのビル街ではない。人の気配はなく、あまりに閑散としていた。
それもそのはず、ここは雄英高校が試験会場として作った無人街であった。
そこに、出久は一人でぼうっと浮かんでいた。
近くにはスピーカーが一つ。試験内容は既に説明を受けており、ここからスタートの合図が流れることは聞いていた。
幽体であるため準備運動などを必要としない出久は、開始時間が訪れるまで街並みを静かに眺めていた。
『雄英に来いよ、少年』
憧れのヒーローにそう言われ、こうして試験を受けに来た出久。
しかし一般受験、推薦受験のどちらとも異なる、特殊なものとなってしまった。
というのも、出久はトップヒーローのオールマイト及び、英雄高校校長の根津の推薦こそ貰っているが、その実彼の扱いは特別保護。
確定で入学が決まった者を、受験という篩にかけるわけにはいかなかったのだ。
……とは言っても、実際のところ確定というのは間違いである。
今この場に出久がいるのがその理由であった。
この
なおこれで落第しても保護は行われる、という説明も受けた。
要するに受かってヒーローの道を得るか、落ちて被保護者になるかという二択を迫られているのだ。
『まあ、君の能力を見る限り問題はないさ!』
そう校長からも言われているが、果てさて。
試験内容は一般受験と同じものらしいが、制限時間は一般受験のそれより遥かに短い。
効率よく仮想敵を打倒できなければ、あの校長や先生のことだ、容赦なく落とす。
出久はそう直感していた。
《はいスタート!!!!!》
考えに耽っていた最中、唐突にスピーカーから声が響いた。
それに驚きつつも、躊躇うことはなく出久は自身の体を前方に飛ばす。
ビル入り口や窓、建物の隙間から何機かの仮想敵ロボットが出現する。
試験説明で貰った資料の記憶と照らし合わせれば1
《ブッ殺スッ!!!》
出久をカメラに映した瞬間、物騒な音声を発しながら仮想敵は出久に向かって突撃しだす。
出久はそれに対し念動力を使い、地面に叩きつけようと考え―――思いとどまる。
「公共物の損傷は避けた方がいいかな……」
素材が何でできているのか分からないが、道路に叩きつけて道路も破壊しました、というのはヒーロー的行動ではないかもしれない。
そう考えた出久はロボット同士を衝突させるように力を使った。
合計5機の1P仮想敵は、お互いが吸い寄せられるように一箇所に集まり、簡単に潰れ一つの塊になる。
「思ったより脆い。これなら……」
金属のような見た目に反して、その素材は樹脂か何かだったのか、容易く潰れる。
これで出久に肉体があれば殴りかかるところだが、今の出久にそれはできない。
続いて現れた1Pの仮想敵を出久は睨むと、途端にその仮想敵の体は歪みだし、瞬く間に潰れた。
「1Pのは念動力で直接潰せる……他のはどうかわからないけど」
だが、少なくとも普通の人間でも"個性"に頼らず素手で破壊できる程度には脆いだろう、と予想をつけた。
1P仮想敵に続いて出現した2P仮想敵数体に、先ほど潰した残骸をぶつけ破壊する。
「よしっ」
既に破壊した仮想敵を叩きつけても問題なく対処できることを確認した出久は、周りに落ちている残骸を全て宙に浮かべ、自身と一緒に移動させる。
ビル街を駆け抜け、道中の仮想敵を全て残骸をぶつけることで破壊し、その残骸をさらに武器にして直進する。
破砕した音に反応したのか、出久の左右に建っていたビルの上階の壁をぶち破り、3P仮想敵を含めた数体が出現し、その銃身を露にした。
発砲音が響く。
発射されたのはゴム弾だろうが、何にせよ出久に当たることはないだろう。
とはいえ当たらないからと無視するのはいけない。もし背後に人がいたなら、と思えば透過させてしまうのは良策ではない。
出久は念力でその弾丸を止め、全てを浮遊させていた仮想敵の残骸で叩き落す。
そうしてその勢いを乗せたまま、残骸を全て3Pの仮想敵にぶつけた。
あちこちを凹ませて煙を上げて動かなくなったところを見ると、無力化に成功したと見ていいだろう。
念のため駆動部に残骸を突き刺し銃身を曲げ、これ以上抵抗できないようにしてからさらに進む。
音でさらに呼び寄せてしまったのか、既に道路は仮想敵で埋まっていた。
出久はそれを見て笑みを浮かべる。
「探す手間が省けた……!」
「YEEEEEEEEEEAAAAAAAAAAHHHHHHH!!!」
プレゼントマイクはリアルタイムで流れるその映像を見て叫ぶ。
「うるさい……」
イレイザーヘッドはそれに苦言を呈すが、プレゼントマイクはそれを気にする様子はない。
テンションを上げたまま、映像を齧り付くように見ていた。
「オイオイオイすげえじゃねえか!仮想敵を一瞬でスクラップにしやがった!」
出久の能力に興奮するプレゼントマイク。
画面の中では出久が次々に仮想敵を無力化する姿が映っていた。
「見た目は子供だったから正直校長とオールマイトの推薦って聞いても疑ってたけど……ちゃんと実戦を想定して周りにも気を配ってる。辺りに被害が出ないように戦ってるのが見て取れるわね」
「念力の能力か……シンプルゆえに強いですね……」
「それだけじゃないのさ!!!」
教師たちが溢した感想に根津は画面を指差す。
映像内では、出久が積まれた瓦礫を無視して直進し、すり抜ける様子が映っていた。
「透過能力……!」
「念力だけじゃないのか……」
「具体的に上げるなら念力、透過の他にも金縛りなんかができるよ!」
「……お化けみたいですね」
「その通り!」
「えっ。じゃあまさか」
「そう!彼の"個性"は『幽霊』!幽霊っぽいことは大抵できる!」
オールマイトが誇らしげに言う。
教師たちは強い"個性"だとか、限界はどのくらいなのかだとか感想を溢して室内がざわつくが、すぐにそれは収まり皆静かに画面に集中しだす。
「完全に物理攻撃が無効なら……この試験、全然意味ないんじゃ?」
「もちろんそれだけで合格とはいかないさ!この試験で見たいのは彼が稼ぐ"
「そう!如何にヒーロー的行動ができるか……"ヒーローポイント"さ!」
出久が仮想敵を破壊・無力化に成功すれば、それに応じて"
そこで雄英高校が審査制で加えた項目が"ヒーローポイント"だ。
その内容は根津の言葉の通り、『どれほどヒーロー的な行動ができるか』を見ている。
本来の一般試験であれば"レスキューポイント"であるが、この場には助けるべき他人はいないので、この項目を作った。
これまでの行動を鑑みて、教師各人は既に出久に与えるヒーローポイントを決めつつあった。
「街に被害を出さないようにしているのはいいわよね」
「弾丸を止めて落としたり、仮想敵の残骸をぶつけているのも、救助すべき一般人がいることを想定していると見た。いい
口々に評価を言い合うなか、根津はおもむろに一つのスイッチを押す。
途端、画面が揺れだした。
ステージ内のギミック、0P仮想
設置したカメラの揺れが収まったところで、並び立つ雑居ビルよりも巨大な0P仮想敵が、そのレンズに出久を映しているのが見て取れた。
「おお、ついに来たぞ0P」
「どうするのかしら」
「自動車程度なら持ち上げて振り回せるとは聞いているが……あのサイズはさすがに無理だろうな」
「緑谷少年……頑張れ!」
出久は現れた巨大なロボットに目を白黒させていたが、それも一瞬。
近くに浮かべていた仮想敵の残骸を勢いよく射出し、0P仮想敵の頭部に叩きつける。
しかし、表面的に傷付くことはあっても内部までは届かなかったらしく、0P仮想敵はなお動き続ける。
巨大な体躯が動くたびに辺りの建物が破壊されていく。
このままでは"ヒーローポイント"は大きく評価が下がるだろう。
もちろん出久はそのことを知らないが、それでも出久自身、街が破壊されるのを黙ってみていることはなかった。
「おっ」
教師たちの誰かが声を漏らす。
出久は壊された建物の瓦礫を浮かべ、先ほど同じように射出した。
しかし今度は塊ではなく、広がるように動く。瓦礫は膜状となり、頭部に配置されていたカメラをすべて塞いだ。
仮想敵ロボットに積まれたセンサーはカメラだけではないが、それでもセンサーの一つがダメになったことで仮想敵の動きが緩慢になる。
続けて出久は駆動部を狙い、関節の隙間に瓦礫を突き刺した。仮想敵の出力からしてこれで動きが止まるわけはないが、多少の時間稼ぎにはなる。
動かない敵ならば、出久の念力で押しつぶすことも可能であった。
「おおおおおおおおおおおおおっっ!!!」
「あの巨体を潰しやがった!!!」
「見た目の体積、一回りくらい小さくなってるよあれ……」
「なるほど……持ち上げることはできないが、一箇所に収集するように圧縮することはできるのか……」
動かなくなった0P仮想敵を確認し、出久は再び動き出す。
試験の時間はまだ続いていた。
残り時間いっぱいまでポイントを稼ぐのだろう。
とはいえ。
教師たちの中では、既に出久の合否など決まったようなものであった。
「私が!合否通知を持ってきた!」
「オールマイト!?」
雄英で保護されている間の住まいとして貸し与えられたマンションの一室、その玄関で、出久は訪れたオールマイトを迎えた。
言葉の通りなら、オールマイトの持つ封筒には出久の合否通知が入っているらしい。
なおオールマイトは細身のトゥルーフォームの姿だ。知名度の高いマッスルフォームでは如何に雄英直下の敷地でも騒ぎになってしまうからだろう。
「お茶用意しますので、とりあえず奥に……」
「お邪魔します」
食事を必要としない出久だが、こうしてオールマイトや根津が偶に様子を見に来るため、お茶とお茶請け程度は常備していた。
1Kのこじんまりしたへやだが、睡眠も必要としない出久なので部屋に置いてある家具は机と椅子、座卓と本棚程度だ。
なお部屋の各所にオールマイトグッズが並べられている。
出久を待つ間オールマイトは壁に貼られた自分のポスターに囲まれ、ちょっと落ち着かないでいた。
出久がオールマイトの前にお茶を置き着席したところで、話が始まる。
「では緑谷出久少年!君の合否だが!」
「はい!」
「合格!」
「あっさり!」
もう少しタメとかあると思ったのだが。エンターテイナー的な側面もあるオールマイトだし。
「事前の説明では"
「えっ」
「いや、正確には"
「ということは……」
「ああ。"
「やった!!!!!」
出久は諸手を挙げて喜ぶ。
試験から一週間ほど、落ち着かない心地であった。
それから解放されること、そして合格であったことで至上の喜びであった。
「とはいえ、まだまだ君はヒーローへの道に立っただけに過ぎない。必要なことは、これからの3年間でしっかり学びなさい」
「はい!」
「そして、合否とは別に君に話がある」
「話……?」
出久は何やら不穏な気配を感じた。
もしや二次試験とかあるのか。
「いや、そう構えなくてもいい。私の話だ」
「オールマイトの……?」
「そう。私のこの体の話、まだしていなかっただろう?」
「……!それは……僕が聞いてもいい話なんですか?」
「君だからさ。私が選んだ、"平和の象徴"の灯火を受け継いで欲しい存在。そんな君に私の来歴を話さないのは、あまりに不誠実だ」
「……わかりました。謹んで、お聞きします」
そうして、出久にオールマイトの過去、そして"個性"の秘密が語られる。
上手く描写できなかったけど、出久くんの念力能力は、
・持ち上げる
・射出する
・圧縮する
あたりができます。重量制限は自動車程度だから2~3tくらいか。
――弱点考える話はどこ行った……?
――君のような勘のいいガキは嫌いだよ。
今のところ念動力では液体や気体なんかの流体は動かせない設定で考えてます。ヘドロヴィランに対しては金縛りしか使ってないしね。セーフセーフ。あんま細かいことは気にしないで(懇願)