ヒーローになれない出久くん   作:市松格子

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短いけどこれ以上話を膨らませられんかった。
許せサスケ。
せやかて工藤。
バーロー服部。


ひーろー

「さて、まず何から話したものか……」

 

 オールマイトはお茶を啜りながら呟く。

 話すべきことが多すぎるために、順序だてることが難しかった。

 

「そうだな、じゃあ私の体のことから話そう」

「お体……というと、その痩せた姿のことですか」

「うん。5年前、とある(ヴィラン)と戦ったときに、傷を負ってね」

 

 オールマイトが自身の着るシャツを捲り上げ、左脇腹を指す。

 そこには痛々しい古傷があった。

 

「呼吸器官は半壊、胃袋は摘出。手術も重ねてようやく命を取り留めた。だがすっかり憔悴しちゃってね。今の私のヒーローとしての活動時間は、約3時間程度だ」

「じゃあ、その姿は個性の反動ではないんですね」

 

 オールマイトの個性の詳細は世間に明かされていない。

 それゆえに、出久は痩せ細ったオールマイトの姿を、個性の反動によるものと考えていた。

 しかしどうやらそれは違うと言う。

 

「事件そのものは公表していないがね。"平和の象徴"が悪と相討ったなどと知られては、人々を不安にさせてしまう」

「治療は……」

「完治は無理だと。活動時間も、これでも回復した方なんだ」

 

 当時は動くだけでも激痛が走ったものだ、と笑いながらオールマイトは言う。当然、出久は笑うことができなかったが。

 

「それでね、私は後継を探していた」

「"象徴"の……ですか?」

「それもある。だが、後継というのは、"個性"の後継だ」

「"個性"の……?」

 

 "個性"は一人につき一人。遺伝で似通った"個性"を得るが、オールマイトの言う"後継"とはそういう話ではないのは出久も察した。

 

「私の"個性"は"一人は皆の為(ワン・フォー・オール)"。一人が力を培い、それをまた一人に渡し、また培い、渡す。バトンのように、聖火のように、受け継いでいく。そういう"個性"だ」

「つまり、オールマイトは"個性"そのものの継承ができるんですね」

「そう。元々継承者を探してはいたが、君は継承するのに相応しいと、そう思った」

「……光栄です」

 

 出久は感動していた。憧れのヒーローに、後を継いでくれと言われ、感動しないはずがない。

 

「しかし、君に"個性"を譲ることはできない」

「え……」 

 

 天に昇るような心地から一転、地に落とされたようだった。

 出久は自身にいたらぬ点があったのだろうかと思い返す。

 

「いや、君に何か不満があるとかじゃあないんだ」

「……じゃあ、一体?」

「"個性"の継承にはDNAの摂取が必要なんだ。でも君、食事できないだろう?」

 

 なるほど、その条件なら納得であった。

 出久は食事を必要としない。否、"できない"という方が正しい。

 飲食をしようにも『ものに触れられない』という特性上すり抜けてしまうし、これまでも空腹に悩まされることもなかった。

 試しに食べ物を念力で浮かべて口に運んだこともあったが、結果としては口から足元まで落ちただけである。

 

「君と出会ってから、後継のことは色々考えたんだけどね、私は色々混ぜ込んでいた。"平和の象徴"というのは私の理想ではあった。けど、この"個性(ちから)"の義務ではない。私の師は正義感溢れる立派な人だったけど、"平和の象徴"ではなかった」

 

 オールマイトは思い出す。

 かつて自身に"個性"を譲り渡し、導いてくれた師。

 かの宿敵に討たれてしまった女性。

 彼女は確かに"ヒーロー"らしくあったが、オールマイトの夢を聞いたときは『クレイジーだ!』などと笑い転げていた。

 そう、『平和のための柱になる』と決めたのは他の誰でもない、オールマイトだ。

 

「君に"個性"を渡すことはできない。だが、私は君に、私の理想―――"平和の象徴"を、継いでほしい」

 

 師から受け継いだのは"個性"だけではない。その矜持も思想も引き継いだ。

 

『どんだけ怖くても《自分は大丈夫だ》っつって笑うんだ。世の中笑ってる奴が一番強いからな』

 

 その教えを、今度は自分が継いでもらうのだ。

 目の前の、この少年に。

 

「次の"平和の象徴"は、君だ!」

「―――はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とまあ、決め台詞を格好良くキめたところで。

 

「勝手に色々言ったけど、本当に大丈夫?その場のノリで返事しちゃったとかじゃない?」

「心配しすぎですオールマイト」

「いやでも君、私の大ファンだってことは部屋中の私のグッズから分かるし。私の言葉だからって受け入れてない?」

「大丈夫です。オールマイトの言う理想、"平和の象徴"の後継に僕が選ばれたというのは、身に余るほどの光栄だと思います。……僕にどれだけのことができるか分からないですけど、僕の力が誰かのためになるなら、誰かを救うことができるなら。僕がこうして幽霊として存在し続けてる意味が、確かにあるんだって感じられます」

 

 出久は強く頷く。

 死んだはずの自分が、今も在り続けている。

 道を失くした自分を、道に戻して貰えた。

 その恩義には心から報いるべきだと思うし、報いたいという意思がある。

 

「僕を導いてくれるんですよね、オールマイト」

「もちろんだとも!衰えたこの身だが、全身全霊を尽くしてみせよう!」

 

 巌のような筋骨隆々とした姿になり、拳を握るオールマイト。

 よく知るその姿に、出久は憧れたのだ。

 こうして彼に教えを請える立場まで貰えて、それに応えぬという選択肢は、出久にはなかった。

 と、途端オールマイトは喀血し、枯れ木のような姿に戻ってしまう。ちょっと無理をしていたらしい。

 

「じゃあこれから君には私に師事して学んでもらうわけだけど、ぶっちゃけ"個性"のこと以外で君に教えられることってそんなにないんだよね」

「ええ……?」

 

 出久、困惑である。

 

「ヒーローとしての勉学はこれから高校で学ぶことになるし、私も教師として勤める以上君だけに訓練をつけることはできないし。精々相談に乗るくらいなのさ!」

「ええ……?」

 

 大困惑である。

 

「もちろん放任するつもりはないさ。ただ、私もお師匠には何年もお世話になったからね。これからの3年間だけで全てを教えられるだなんて思ってないんだ。君には雄英でキチンと基礎を学んでもらわないと!いきなり私が応用を教えるとか無理な話だ!」

「そりゃそうですよね……」

 

 そもそもオールマイトは教師も師匠も初めてだ。

 オールマイトも師弟関係は"個性"(ワン・フォー・オール)ありきの話であったし、自身の思想を受け継いで貰うべく弟子を取るとなると、何からどう教えたものかサッパリなのである。

 

「まあつまりは目の前のことに集中してくれってことさ。ナチュラルボーンヒーローであれと活動していた私だけど、初めから"ヒーロー"だったわけじゃあない。私だって見習いから始めたものさ!そりゃまあお師匠様たちには色々しごかれたものだ……うん……本当に……」

「何で暗くなるんです!?」

 

 見習いの頃によほど酷い目にあったのだろうか。

 顔を青くしていくオールマイトにまさか自分もと思ってしまう出久であった。

 




次回があればたぶん入学からじゃないかな
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