追記:最後の最後で死ぬほど恥ずかしい誤字やらかした。教えてくれた人ありがとう
春。別れと出会いの季節であるが、まともに中学校に通っているとは言えない出久にとっては別れもへったくれもなかった。
10歳で人との関わり合いがなくなった出久は、交友がないに等しい。というかない。
生前もいじめられっ子だったこともあり、特段親しい人間もいなかった。ある意味では勝己が一番縁の深い相手ではあるが、彼もまた雄英に入学することは聞き及んでいた。
そう。入学である。
雄英高校へ初めて登校した出久は、
「迷った」
迷子であった。
入学にあたって必要な物品こそ雄英が取り計らってくれたものの、校内案内などは貰っていなかった。
というのも、出久は自身の処遇などの話し合いのため、何度か雄英を訪れている。
そのため案内は必要ないだろうと、無駄を省くことに定評のある教師が渡さずにいたのだ。
しかし出久は教職員室などの一度訪れた場所こそ覚えていたが、これから自分が通う教室の位置など全く知らずにいた。当然ではあるが。
では職員室に行って聞いてくればいいのでは、というのは尤もな判断だが、そもそもコミュニケーションを苦手とする出久にはハードルが高すぎた。
「校舎でかい……広い……」
敷地が広い雄英は自然とその施設も大きい。
迷子となった出久は、自分がどこにいるのかも分かっていなかった。
まして見た目が10歳児ゆえに、見るからに迷い込んだ子供であった。
加えて、出久は制服を着ていない。
着れない、というのが正しい。
ものに触れられぬ出久はもちろん衣服にも触ることができない。
今着ている服も自身が死んだ日に着ていた服のままだ。
どうにか変えることはできないかと試したことはあるが、着替えるどころか脱ぐこともできなかった。
深緑のパーカーとクリーム色のクロップドパンツ。
春夏秋冬時期を問わず、一生このままらしい。すでに死んでいるが。
制服姿を母に見せたくはあったのだが、これも自身の体質なのだと諦めた。
「やば、時間が……」
手元に浮かべている鞄から時計を出してみると、既に時刻は8時過ぎ。初日から遅刻というのは生真面目な出久からすると大罪であった。
これは怒られることを覚悟で一度外にすり抜けで出てしまって、職員室を目指すべきか……そう考えたが、
「あれ、君、どうしたん?」
後ろから女の子の声が聞こえた。
振り向くと、そこにはショートボブにした茶髪の少女がいた。もちろん雄英の制服を着ている。
辺りには出久と少女以外に人影はない。少女は自分に話しかけているのだと出久は理解した。
「もしかして迷子?」
関西弁のような訛りのある声だった。
こちらを心配するような声色に対し、コミュ障の自覚のある出久は、
「……!……!」
大混乱であった。
あまり人と会話したことのない出久。同世代の女の子と話すことにテンパっていた。
それでもどうにか頷くことで少女に肯定の意を伝えられた。
「そっか、やっぱり!小学生?忍び込んだん?」
「え……いや、その……」
どうやら小学生と間違えられているらしい。
見た目はまんま小学生なのだ、致し方ない。制服が着れればよかったのだが、現実は非情であった。
「ほら、行こ?校門まで連れて行ってあげる」
少女は出久の手を取ろうとした。が、当然すり抜けた。
「……?君の"個性"?」
「あ、うん……」
(うおおおおおお女の子と手ぇ握るところだった!!!!)
出久は緊張でもはや口がぱくぱく動くだけになっている。
実はちょっと惜しいことしたなと思わなくはなかった。
「実は私も道に迷っちゃって。校舎ひとつ間違えてたのにさっき気付いたんだよねえ」
なるほど、そもそも校舎が違ったのかと出久は内心納得した。
これで迷子問題は解決したが、今は別の問題に直面していた。
どうやら少女は出久のことを本当に迷子の小学生だと思っているらしい。
しかし実体は同級生である。
彼女がクラスメイトだったりすると、今後すごく気まずくなりそうだ。
出久は決心して、声をかける。
「あの……」
「ん?どしたん?」
「そのですね……」
どう説明したものか。
僕も新入生です、と正直に伝えて信じてもらえるのだろうか。
というか今女の子とお話してるけれど(できていない)、これ真相がばれたらめっちゃ気持ち悪がられるのではなかろうか。やべえ詰んだ。
少女は出久の言葉の続きを待つが、うまく言葉にできず思考がぐるぐる回る出久。
そこに、また別の声がかかった。
「HEY、お前ら!そこで何してんだ!?」
逆立てた金髪、サングラス。そして革ジャン。出久もよく知るヒーロー、プレゼントマイクがそこにいた。
「あ、先生!この子迷子みたいで」
「迷子?……って緑谷じゃねえか。本当何してんだお前」
「先生のお知り合いの子ですか?」
「いや知り合いっつーか」
雄英に保護される以上、雄英の教員は全員出久の顔を知っている。
中でもプレゼントマイクは出久も数度実際に顔を合わせ、言葉を交わしたこともある。
有名なヒーローとの対面であったため、出久はがちがちに緊張していたが。
「新入生だ」
「……?はい、私は新入生ですけど」
「おお、入学おめでとう。……そいつも新入生だ」
「へ?……ええ!?」
「はい……そうですごめんなさい……」
所属するクラスの近くまでプレゼントマイクに見届けられて。
「えっと……私、麗日お茶子です」
「緑谷出久です……本当ごめんなさい……」
「いやいや、私こそごめんね!迷い込んだ小学生だなんて言っちゃって!」
「いえ、それも当然の反応ですし……」
出久はお茶子に平謝りし続けていた。
お茶子の勘違いではあったが、すぐに誤解を解かなかったのは出久だ。騙したような気分で、罪悪感があった。
「先生も"個性"の都合で制服が着れないって言ってたし……すり抜ける"個性"なの?」
「"個性"による体質みたいなもの……かな」
「へー!面白い"個性"だね!」
お茶子は先ほどのことは気にした様子もなく笑っている。
出久もそれに安心して、数刻前よりも幾分か流暢に話ができた。
「1-A……ここだ」
「扉でっか……」
「バリアフリーってことなのかな?」
「緑谷くんと逆にすごい大きい人とかおるんかなあ」
見た目の重厚さに反して扉は麗日の腕でもすんなりと開いた。
中に入るとそこには数人の生徒がいた。
まだ教師の影は見えず、朝のホームルームには間に合ったらしい。
「む、小学生?」
眼鏡をかけた真面目そうな少年が二人に近づき言う。
やっぱりそう思われるよなと出久は若干辟易しながらも、少年を見上げた。
妙にカクカクした動きをしながら、少年は自己紹介をした。
「ボ……俺は私立聡明中学出身、飯田天哉だ。よろしく頼む。」
「私麗日お茶子!よろしく!」
「よろしく。それでそちらの子は……」
「み、緑谷出久です。……一応、同級生です」
「なぬ!?何故制服を着ていないのかね!?」
「ひえっ」
出久の言葉に驚く天哉。出久も詰め寄ってくる天哉に驚き、少しだけ恐怖を抱いた。出久は気の強い人は苦手なのだ。
しかし天哉の言葉も無理もない。体躯は子供、その上私服だ。お茶子と同じように迷子の小学生と考えるのが妥当であった。
「"個性"の関係で制服着れないんやって」
「そうなのか!それは失礼した」
出久の代わりに麗日が答えると、天哉は頭を下げて謝罪した。
その腰は綺麗に60度傾いていた。
「ううん、勘違いされるような見た目なのは分かってるし、こっちこそごめん」
「しかし服を着れない"個性"か、初めて聞いた。……ん?では君が今着ている服は……?」
「これは、ええと……」
「お友達ごっこがしたいなら余所へ行け。ここはヒーロー科だぞ」
出久がどう説明したものかと思案したそのとき。
今しがた通った扉の向こう、廊下に横たわる何かがあった。
「相澤先生……」
「席に着け。ホームルームの時間だ」
横たわる何かは寝袋で、それに包まれていたのは雄英の教師―――相澤。
壁にかかった時計を見れば8時25分。なるほど、悠長に自己紹介などしている暇はなかったのか。
天哉は自分の席に戻り、出久とお茶子も自分の席を確認して着席する。
「―――はい、静かになるまでに8秒かかりました。合理性に欠くね、君ら。俺は担任の相澤消太だ。よろしくね」
相澤が担任と聞き、出久は嫌な予感を覚えた。
数度会っただけだが、相澤の合理主義は理解していた。
昨年度1クラス丸々除籍処分にしたらしい。
それは校長から聞いていた。
時間の無駄をとことん嫌う相澤のことだ、入学初日から篩にかけるなんてことも……、いやありえないか。
「早速だが、体操服着てグラウンドに出ろ」
ありえた。
相澤によると、これから『個性把握テスト』を行うらしい。
内容は体力テスト。ただし、中学校までと違い、"個性"の使用を許可されたもの。
「爆豪、お前ソフトボール投げ何mだった?」
「67m」
相澤に呼ばれて前に出たのは、勝己。
彼も同じクラスなのだと出久は知り、少しだけ嬉しくなる。
雄英に受かったことは母伝手に聞いていたが、再会を果たした後はついぞ話すことはなかった。
「思いっきりやれ」
相澤が促し、勝己は『死ねぇ!!』という掛け声と共に爆音を響かせた。
そういえば自分が死んでから『死ね』という言葉を使わなくなった、というのも母伝手に聞いた。が、今の様子を見るにその口癖は復刻したらしい。
自身の死が彼に影響を与えていたのを知り申し訳ない気持ちがあったが、どうやら既に克服したようだ。出久は心なしか感慨深くあった。
「面白そう!」
勝己の705mという記録にクラスメイトは歓声をあげ、楽しげに騒ぐ。
ああいけない、相澤先生はそういうの聞くと……と出久が止めようとするが、それよりも早く相澤は言う。
「面白そう……か。そんな腹積もりで3年間過ごす気か?……よし、
トータル最下位の者は見込みなしと判断し、除籍処分にしよう」
やっぱり、と出久はがくりと項垂れた。
もちろんブーイングが飛ぶが、相澤は取り合わない。
校訓『Plus Ultra』の言葉を残し、持ち場についてしまった。
個性把握テストが始まる。
最初は50m走。
出席番号順に競技をこなすようで、50m走は二人ずつ同時に計るらしい。
出久は一緒に走る人には挨拶したほうがいいよな、と隣を見ると。
「あぁッ!?何だクソデク!?」
勝己であった。
相変わらず口調が荒い。
「いや、一緒に走るみたいだからよろしくと……」
「何でテメエなんかと!」
「それは先生の采配だから……」
攻撃的な性格は相変わらずで、出久に対しての当たりも昔と変わらない。
妙な安心感を覚えてしまう出久。
「喋ってねえで走れ」
相澤が合図を出すと同時に、二人は飛び出す。
勝己は爆音を轟かしながら。
出久は浮遊しながら。
記録は勝己が4秒13、出久が5秒01。
他のクラスメイトと比べても好成績なようだった。
「ついて来んなデクッ!」
「いやそれ無理」
勝己の文句も何だか懐かしく思えてしまう出久。昔であれば怯えて何も言えなかっただろうが、今はそうでもなかった。
勝己は舌打ちを残して次の競技の場所に移動する。
少し遅れて、出久も握力測定の場に移った。
相澤に測定機器を差し出され、握れと一言貰う。
が、当然出久は触ることはできない。
出久は念動力で機器を浮かせると、感応部に圧力をかける。
「緑谷、やめろ」
「えっ」
「それ以上力をかけたら壊れる」
なるべく他の箇所に力が分散しないように心がけたが、どうもそれが原因で、いらぬ方向に力がかかったらしい。
結果としては測定できた最高値、600kgwで記録された。
「次は立ち幅跳びか」
「緑谷」
「はい」
「お前は跳ばなくていい。飛べるのは知っているからな」
「……はい」
再び相澤に声をかけられたから何事かと思えば、浮遊能力を有しているがゆえに出久はこの競技は無視していいそうだ。
記録は無限(∞)と記された。
「無限!?」
「すげえ!」
それを見たクラスメイトたちが沸く。
「お前やべえな……ところで気になってたんだけど、何で私服なん?」
「"個性"の関係でこの服しか着れないんだ……一応、学校からは許可貰ってるよ」
隠すことでもないので出久は正直に答える。
話しかけてくれた少年は、変わった"個性"なんだな、と納得して次の順番を待っていた。
出久も列に並ぶかと動くと再び相澤が出久を呼び止める。
「お前長座体前屈と上体起こしもやらなくていいから」
「ええ……?」
「時間は有限。分かりきった記録取っても意味がない」
長座体前屈は、たしかに出久なら念動力でどこまでも伸ばすことができる。
上体起こしは出久の脚を押えられないので、そもそも参加できない。
計る意味がないと言われれば、まあそうかと受け止めて他の競技に集中することにした。
―――結果として。
「んじゃ、パパッと結果発表」
相澤が出した表には、クラスメイトと数字が書かれている。
各種目を点数化して合計した値らしい。
上体起こしの得点が0なのが痛いが、ソフトボール投げ(517m)や反復横とび(103回)でそれなりに点数を稼げたためか、中堅の順位に納まった。
どうやら除籍は回避できたらしい。
「ちなみに除籍は嘘な」
嘘だったらしい。
本当かよ、と相澤の性格と去年の行いを知る出久は思ったが黙っていた。
誰かが『嘘に決まっているでしょ』と漏らしていたが、まあいらぬ藪は突かないに越したことはない。言わぬが花、知らぬが仏である。
語彙が足りずなかなかうまく表現できない。
ついつい同じような言い回しになっちゃう。
文章書くのって難しいね。