ヒーローになれない出久くん   作:市松格子

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話が進まない回


ほうかご

「さっきちょっと話したよな、俺は上鳴電気だ」

 

 個性把握テストの後、教室に戻ったところで出久はクラスメイトに話しかけられた。

 立ち幅跳びのとき出久を褒めた少年だ。

 

「み、緑谷出久です」

「お前すげえな、無限出したり他にも高記録出してたし」

「そ、そんなことないよ、どうしてもチビだし……女の子より小さいもん」

「確かになあ、小学生かと思ったぜ」

 

 実際出久の体躯は小学生サイズだ。

 加えて制服でなく私服。

 お茶子も迷子の小学生と勘違いしたし、教室で最初に出会った天哉も同じように疑問を口にしていた。

 

「うん、"個性"の関係で10歳からずっと変わってないんだ……」

「へー。でももう一人小さいのがいるよな」

「オイラのことか」

 

 二人の会話に加わったのは、出久よりも小さい少年だった。

 反復横とびで、頭からもぎ取ったボールで左右に跳ねていたのが印象的で、出久も覚えていた。

 何より身長が出久よりも低い。"異形型"でない10歳児の平均を下回る出久の身長は120cmほどだが、彼は出久よりさらに20cmほど小さい。

 

「オイラは峰田実!いやあヒーロー科最高!女子が!」

「わかる」

「ええ!?」

 

 峰田の発言に大きく頷く上鳴。

 出久は困惑するばかりだ。

 

「みんなエロい」

「エっ……」

 

 そういう目で見る人もいるのは分かるが、峰田はあまりに明け透けに言うものだから出久は絶句してしまう。

 黙りこむ出久そっちのけで二人が女子の品評を始めたので出久はすすすと下がり逃げることにした。

 この二人の会話には付いていけそうもなかった。

 自分の机に戻り、荷物をまとめて帰る準備をしていた出久に、再び声がかかる。

 

「あ、デクくん」

「デク!?」

 

 今度出久に話しかけたのはお茶子だ。

 自分から話しかけられないコミュ障出久にとってはありがたい限りであったが、デクと蔑称で呼ばれたとなるとちょっとびっくりする。

 今朝は緑谷くんと呼んでくれたのに何故だ。

 

「え?さっきテストで爆豪って人がデクって……」

「ああ……あれはかっちゃんが僕を馬鹿にして……」

「えー、そうなんだ!ごめん!」

 

 事情を説明するとすぐさま謝ってくれるお茶子に何だか申し訳なさを感じる。

 本人に悪意はなかったのに謝罪を要求したようで居た堪れなさがあった。

 

「でも『デク』って『頑張れ!』って感じで、なんか好きだ私」

「デクです」

「それでいいのか緑谷くん!!??」

 

 どうやら近くで会話を聞いてたらしい天哉のツッコミが入る。

 出久としては蔑称だろうと女の子に『好き』と言われたらそれだけで舞い上がってしまうほどであった。

 

「デクくんさっき他の人と喋ってたけど、そっちはいいの?」

「ああうん。ちょっと僕には早すぎる話だったというか……」

「?」

 

 あまり女子に言うべき話でもないだろうと適当に濁しつつ話を変えることにする。

 

「そういやさっきのテスト、飯田君すごかったね!4位だって!」

「ああ、ボ……俺の"個性"は『エンジン』だからな。加速が乗せられる分、色々応用がきいた。しかしすごいと言うなら君たちもだろう、無限を記録したのは君たち二人だけじゃないか」

 

 天哉の言うとおり、出久は立ち幅跳び、お茶子はボール投げで無限大を叩き出した。

 クラスメイト全員が"個性"を駆使していたが、合計でなく種目単一で見れば二人とも1位を取っている。

 

「私は物を浮かせるのは得意なんだけど、自分浮かせるのはすぐキャパオーバーしちゃうんよね」

「オーバーするとどうなるんだい?」

「吐く」

「それは……麗らかではないな……」

 

 ほんわか雰囲気のお茶子はやはりマイペースらしく、女の子ならあまり言いたくないであろう嘔吐のことをさらっと言う。

 

「デクくんは立ち幅跳びで無限出してたよね。跳んでる姿見なかったけど」

「ああ、僕相澤先生とは何度か会ったことがあって……"個性"も知られてるから、時間の無駄は省こうってことで……」

「へー!まあ確かに『合理的』とか言うてたからねー、そういう先生なんだね!」

「しかしそうなると君は無限に飛べるのか」

「うん」

 

 そこで出久は自分の体を床から少し浮かべ、お茶子と同じ目線の高さまで持ち上げる。

 

「おー、すごい!浮かぶ"個性"なん?」

「む、そういえばテスト前に話したときは君の"個性"を聞きそびれた」

「そっか、そうだっけ。僕の"個性"は『幽霊』だよ」

「幽霊!?え、ゴースト!?」

「う、うん。そうだね」

 

 "個性"が満ち溢れた現代、もはや心霊現象というのはあまり信じられていない。

 もちろん夏場は肝試しだとか、遊園地のお化け屋敷だとか、テレビ番組の心霊特集だとか、そういったものは現存しているし、人気もある。

 とはいえ"個性"という超能力を皆が有しているため、ある種の娯楽に落ち着いていた。

 

「そっかーじゃあすり抜けるのもそういう理由かー」

「すり抜け!?」

「あ、飯田君まだ見てないよね、ほら見てこれ!」

 

 お茶子が出久の胸元に手を伸ばし、その手を文字通り出久の中に埋める。

 お茶子の腕は貫通し、出久の背中から生えた。

 

「ウワアアアァァッ!?」

「そんな驚かなくても……」

「人の体を貫通してるんだぞ!?結構ショッキング映像だぞ!?」

 

 映像というか目の前で起きているが。

 天哉の叫び声に反応して、他のクラスメイトが3人の元に寄って来る。

 

「なになにー……ってうわああああぁぁぁぁっっ!?ひ、人殺しぃぃぃぃ!?」

「ちがうよ!?」

「いやだって腕が!?え、何それどうなってんの!?」

 

 このままではお茶子が登校初日にして殺人を犯したとか変な噂が立ちそうなので、出久は集まった皆にもまとめて説明をした。

 

 

 

 

「―――はー、"個性"か……」

「よかった……初日から学校が血みどろライフになるかと……」

「お騒がせしました……デクくんごめんね」

「いやいやいや、まあ"個性"知らないとびっくりされるのは仕方ないよ……」

「しかし『幽霊』なあ、飛んだり透けたり、色々できるのな」

 

 そう話すのは切島鋭児郎という少年だ。

 

「俺の"個性"は『硬化』なんだけどよ、対人は強くても地味でなあ」

「僕はすごくかっこいいと思うよ。プロにだって通用する"個性"だよ」

「プロかー、でもやっぱ派手な方が目立つぜ?」

「派手さで言えば僕の"個性"も地味だし……」

「ちょっとちょっと!緑谷の"個性"が地味なら私はどうなるのさ!」

 

 空中に浮かぶ制服から声がした。

 『透明人間』の葉隠透という少女は、出久に批難の声をあげ、出久は慌てて謝る。

 

「ご、ごめん、そんなつもりじゃ……」

「冗談冗談、気にしてないよ!それに完全に上位互換ってわけじゃないみたいだし」

「う、うん、僕は透明になれるけど、実体がないから……」

「結構不便なこと多くないかそれ?」

「うーん、皆と違うと言えば……ご飯が食べられないとか」

「重大じゃん!?」

 

 食事を必要としない出久は、同時に食事の楽しみが味わえない。

 母の料理を二度と食べられないということに悲しみがあったが、一度死んでもその後があったというだけで幸運なのだと開き直っていた。

 今そういう話をすると雰囲気を悪くしそうなので黙っていたが。

 

「そっかー、緑谷はお菓子も食べられないのか……つらそう。私ならつらい」

「ていうかご飯食べられないって栄養とかは?エネルギー源は?」

「それがよく分からないんだよねえ」

「大丈夫なのかそれ!?突然成仏したりしないよな!?」

 

 切島の言葉に出久は濁すことしかできない。

 とはいえ死んでから5年、成仏の気配もなかったし、相澤の"個性"で掻き消えることもなかった。

 今後解明は必要ではあるが、現時点では不明としか言えないのだ。

 

「強い"個性"でもやっぱ色々制限があるもんだなー。飯田とかどうなんだその辺。テスト4位だったろ」

「ボ……俺の"個性"は『エンジン』ゆえにエンストが起きることもある」

「はー、こりゃまた扱いが難しそうだ。……ところで燃料何?まさかガソリン?」

「いや、オレンジジュースだ」

「オレンジジュース」

「100%だ」

「100%」

「炭酸系はエンストを起こす」

「ギャグにしか聞こえなくなってきた」

 

 本人は真面目に言っているようだが。

 

「私19位だったからなー、除籍が嘘じゃなかったら危なかったよ」

「『透明人間』は隠密行動にはよさそうだけど、ああいう身体能力じゃあ普通だよな」

「普通って言うな!からだの柔らかさには自信があるんだよ!」

「いや見えねーし」

 

 どうも前屈をして手の平を床に突いているらしいが正直見えなくて本当なのか判断がつかない。

 本人としては不服なようだが、まあこんなところでしょうもない嘘をつくとも思えず、そうなんだぐらいに皆受け止めていた。

 

「そういや相澤先生の"個性"って何だろうな。雄英で先生、しかもヒーロー科だからプロヒーローなのは間違いないだろうけど」

「デクくん知ってる?」

「うん、『"個性"を消す』"個性"だって」

「えっ、それ私受けたら姿見えちゃうのでは」

「異形型には効かないって言ってたから大丈夫なんじゃないかな……」

「じゃあセーフだ!」

「緑谷情報通だな、どこで仕入れたんだそれ」

「入学前にちょっとお話する機会があって……」

「お話?」

「ほら、"個性"の都合制服とか着れないから、そういう話をしたんだ」

「私服の小学生がいるとか思ってたけど、そういうことか。納得した」

 

 皆がうんうんと頷くのを見るに、やはり小学生だと思われていたらしい。

 なお"個性"溢るるこの現代でも飛び級制度は日本にはない。

 

「あれ?入学前に先生と会ったってことは、オールマイトと会ったりとかしたのか!?」

「えっ!?あ、ああ、うん」

「いいなー!」

 

 まさか家に招きましたとも言えないので、出久は曖昧な返事で誤魔化す。

 

「でもほら、明日にはヒーロー基礎学あるみたいだし。担当はオールマイトじゃないかな」

「確かに!今から楽しみになってきた、何やるんだろう!」

「いや待て、オールマイトじゃない可能性もあるぞ」

「相澤先生とか」

「やべえ毎日除籍テストと戦う日々になりそう」

「これが最高峰か……」

「みんな暗いよ!?明るく行こう!?」

 

 初日から先行きが不安になる一同であった。

 

 

 




後々するであろう会話をここに持ってきてしまったので、その回が来たら何を話させるべきかという悩みを自ら作ってしまった
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