世界が終わる、その前に。   作:バナナ天国

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乃木若葉や白鳥歌野、他の沖縄や北海道でも言えることだけど…あのバーテックスによる終末世界になった後で一番やばいのは、生存者達のいるコロニー(四国や諏訪など)に大社以外の変な宗教(オウムとか創価とか)が居座ることだよな。
あんな人々が不安定になった状態なら、それこそ神や悪魔で説明して適当な救済論ひねくって勇者祀るだけでも宗教集団作れそうだし。そんでトップに立った奴が要らん教義やらお布施やらで欲満たし始めたらもう大惨事だと思う。
その点、日常生活にそこまで宗教色を持ち込まず仮とはいえ政治と宗教で分けてた大社は偉い?のかもしれない。(まあ、あの時点で唯一ことの真実を知ってる団体だし)


諏訪の日常

  頭上の青空を(とんび)が長い弧を描いて飛んでいる。

 チカチカと、いつまでも色の変わらない信号に地団駄を踏みながら、藤森水都は腕の中のランチボックスを強く抱きしめた。中身はサンドイッチと夏野菜のサラダ。今朝も、早くから畑に出ている親友のために得意ではないが水都が作ったものだ。

 

「美味しいって言ってくれるかな…うたのんは。」

 頭に浮かぶのは親友の屈託のない笑顔。畑を耕している時の様に、収穫を喜ぶ時の様に、彼女は笑ってくれるだろうか。

 信号はまだ変わらない。いい加減渡ってしまおうか、と大胆な信号無視に打って出ようとした時、

「藤森ちゃん、乗っていく?」

 後方車線からトロトロとやって来た白いトラクターの窓から、麦わら帽子を被った女性が人の良さそうな笑顔を見せた。

「あ、え、あっと…あ…」

唐突な誘いに、水都は口を意味もなく開閉させるだけで答えることができない。

 

「畑の方に行くんしょう。遠慮せずに」

それを好感触と捉えたのか、女性の方はやや強引な口ぶりで水都を誘う。信号はまだ変わらない。水都はアウアウと幾度か口を閉じかけてから、意を決して

「あの、私、ひ、一人で行けるので…」

「その信号は、昨日から全然言うこと聞かないのよ。律儀に待ってたら日が暮れるよ。」

結局、乗せられてしまった。

 

 

 どうしてこう、自分ははっきりと人に意見できないのだろう。

柔らかな助手席のシートに背筋を正して座ると、水都は小さく溜息をついた。

緑の背もたれはくたびれて、車内には僅かに煙草の匂い。前面のガラス窓には小さなクマのストラップが吊るされている。

 

 ハンドルを握る女性は、おばちゃんトークで水都に話しかけてくる。返答を待つと言うよりも、ただ話したいから話すと言った一方的な会話。内容は、家で飼っている犬が子供を産んだとか、旦那が夏バテで痩せたとか、そう言った平和なもので、それでも二転三転する相手の会話に相槌すら追いつかない。

 返事を諦めて、水都は話すに夢中な女性から窓の外へと視線を向けた。

 

トラクターの小さな車窓から、ゆっくりと白い街並みが流れて行く。背の低い民家が続き、蕎麦屋、文房具店、ガソリンスタンドと不規則な模様が通り過ぎていく。道には、自転車を漕ぐ老人に、三、四人で固まって歩く少女達、それを追い越して小さな少年の一団が木の棒を片手に走る。

 無邪気さに思わず手を振ると、少年達はそれに気づいて不思議そうにこちらを眺め、立ち止まった。景色が流れる。背後で幼い歓声が聞こえ、やがてそれも遠のいていく。

「…本当に、諏訪は明るくなったわね。」

気付くと、横に座る女性が優しい微笑みを浮かべていた。水都は話を聞いていなかった事がバレないかと、肝をつぶしながらも

「そうですね。」

と、静かに言葉を返す。脳裏に浮かぶのは一年前の悪夢。突如、空から降ってきた化け物に蹂躙され、怯えながら逃げ惑う人の群れ。絶望の去った後も、空を見上げることを恐れ一歩も動けぬ沈んだ日々

「こんな風に、また皆が笑って暮らせるのも藤森ちゃんと白鳥ちゃんのお陰よ。」

白鳥ちゃんというのは、うたのん。つまりは藤森水都の親友である白鳥歌野の事である。

「二人とも、小さいのに本当にすごいわ」

 

違う、凄いのはうたのんだけだ。

 

水都は微笑む女性に控えめに頷きながら、心の中でその言葉を否定した。

 白鳥歌野は、化け物を倒すことのできる只一人の勇者だ。一年前のあの日、彼女のおかげでどれだけの人々が助かったか分からない。諏訪に避難した人々が、まだ暗く顔を伏せている時も彼女は率先して農作業を始め、人々にも一緒にやろうと呼びかけた。

 口先だけで行動を起こさない人間はいくらでもいる。しかし、彼女は常に先頭に立ってその自信溢れる行動で、人々を照らし続けた。それに引き換え、自分は…。

  嘆く人々に声ひとつかけられない。

  どう行動すればいいのかも分からない。

 出来る事と言えば神の声を聞き化け物の襲来を予測するぐらいで、神託を受ける巫女の役目だけが藤森水都という内気な少女の立場を明るくしていた。

車窓から見える街並みは徐々に薄れ、代わりに緑が増えてくる。トラクターは何時の間にか農道に入っていた。青々と育ったナスやキュウリの野菜畑には、女性と同じ麦わら帽子を被った人達が水を撒いたり、草を刈ったりと、忙しなく動いている。その大人達に混じって見覚えのある「農業王」のシャツを、視界に捉えた。

 

白鳥歌野だ。

「すみません、ここで止めてください!」

慌てて水都は、女性に声を掛ける。女性は急に大声を出した水都に、驚いたように目を見開いてから

「ここでいいのね。」

と笑って、道の脇にトラクターを止めた。

「ありがとうございます!」

 トラクターが停車すると同時に水都は扉を跳ね開け、お礼もそこそこに目の前の畑へと駆け出した。畑の中で白鳥歌野も振り返り、水都に気づいて手を振っている。

「みーちゃーん。丁度良かった、こっちにー」

 歌野は右手に赤く熟したトマトを握り、なにか叫んでいる。どうやら、野菜の出来を自慢しているようだ。

 水都もまた手を振り返しながら、ランチボックスを高々と掲げた。

「うたのーん、お昼ご飯持って来たよー」

 

 

 

 

 目が覚めたとき、太陽は既に天高く昇っていた。

 皇 徹(すめらぎ とおる)はビーチパラソルの様に伸びた木の下で目を覚ました。緑の傘を通り抜ける木漏れ日に顔をしかめ、幹に預けていた身体を起こしてゆっくりと背を伸ばす。

 ピキ、パキ、と関節が小気味のいい音を立てる。同様に手首、足首をカキ、コキと鳴らして朝の準備運動は完了。

 

「さて、今日こそ行く…諏訪に。」

 現在、下諏訪までの25㎞地点を過ぎ高速道路を降りたところである。とはいえ、状況は昨日の高速道路とあまり変わらない。足元に茂る草花と、頭上を覆う樹林の天蓋。諏訪へと向かう舗装路は植物の侵食で形を無くし、完全な山道と化していた。渋滞の中を進まなくなったとはいえ、山道もまたノーマルな人間の状態では進むのに手こずることは変わりない。

 見通しのきかない山道は闇雲に歩いても体力を消耗するだけで、最悪の場合、諏訪にたどり着けない可能性すらある。

 

 だからこそ、まず必要なのは行く先を見定めることだ。

 徹は背後の木に手をかけると、枝から枝へスルスルと猿もかくやという身の軽さでよじ登って行く。時間にして約十二秒。周辺の木よりも頭一つ高い杉の 大木の頂きから顔を出すと、一気に視界が開けた。

木々の天蓋を絨毯にして広がる緑の大パノラマ。その中央に、高尾山、守屋山、大見山に三方を囲まれたなだらかな諏訪盆地が見える。更によく目を凝らすと諏訪盆地を囲う様にして、何本もの柱が並び立っているのも確認できた。

「あれは…御柱か?」

 柱は一本一本にしめ縄がされ、鉄格子のごとく諏訪盆地を囲むそれらは間違いなく、諏訪の名物の一つ御柱だ。

 それにしても、御柱といえば斜面を滑り落ちているイメージしかないが、なぜ諏訪を囲う様にして立っているのだろう?祭りだろうか?顎に手を当てて、その迫力に思わず徹は唸った。

  諏訪の御柱祭は迫力のあるものだと聞いたが、斜面を滑り落ちるだけでなく、ああいった迫力も兼ね備えているのか。

「ううむ、奇祭だ。」

これは是非とも、寄って確かめねばなるまい。そう一人で強く頷くと、徹は杉の大木の頂点を蹴って高く高く跳んだ。

 

 

 

 

「おいしい!おいしいわ、みーちゃん!」

 ランチボックスの中から、持ってきたサンドイッチが瞬く間に消えていく。親友からの惜しげのない賞賛に、藤森水都は口を手で押さえて微笑んだ。

 

 木漏れ日の下、傘を広げる木の幹に背中を預けて二人は遅めの昼食を取っていた。両手に持ったキャベツとハムのサンドイッチを頬張りながら、歌野は「おいしい、おいしい」と目を輝かせている。水都もランチボックスから卵サンドを一つ手に取った。

 

「手伝ってくれる人、前よりもかなり多くなったねうたのん」

 三角形の角を小さく齧りながら、水都の視線が水平に動く。畑の至る所では自分たちと同じように、持ってきた弁当を広げる大人達の姿が見える。

「そうね、お陰で農作業も前よりスピーディーになったわ。あ、みーちゃん、最後の一つ頂いていいかしら?」

 いつの間にか、歌野のてからサンドイッチは消えていた。箱に残った最後のサンドイッチを薄く日焼けした歌野の右手がつかんでいる。

「うん、どうぞ。」

水都は笑って頷いた。もともと、歌野に食べさせようと思って持ってきたのだから、喜んでくれるならそれで満足だ。

 

「今は野菜を5種類くらい育ててるんだけど…今度は何を育てよう?」

  パンの最後の一欠片を口に放り込むと、歌野は空を仰いでそう問いかけてきた。水都は頰を掻きながら、同様に空を見上げて考える。

「唐突だなぁ。今育ててるのは全部夏野菜だよね…うたのん?」

「オフコース!旬の季節に旬の野菜を食べるのが、一番美味しいもの!今は、トマトにピーマンにナス、キュウリ、それにトウモロコシね。」

  歌野の人差し指が踊るように跳ねて、野菜の名前を読み上げていく。その顔は夢を見るように朗らかで、きっと頭の中で農業の妄想でもしているのだろう。

「あ」

少し思い付いた事がある。饒舌な野菜のウンチクが始まる前に、水都は歌野の肩を叩いた。

「じゃあ、秋野菜なんかいいんじゃないかな?もう8月に入ったし、ちょっと早いかもしれないけど。」

しばしの沈黙。歌野の視線が左に動いて、それから右へ。脇に置かれた水筒の蓋を開け、麦茶を一気煽り

「それ、採用!」

プハァ、と息を吹きながら天高く吠えた。

「何、今の間は?」

「まあまあ、気にしない気にしない。じゃあ、みーちゃん一緒に秋野菜の種を倉庫に探しに行こう。」

 そそくさと、歌野は立ち上がると不審な早口と共に歩き出す。

「もしかして…私が良いアイデア出したのが意外だと思ったでしょ!?うたのん!」

歌野の歩調が早まった。水都も慌ててランチボックスを抱え、その背中を追う。

「レッツゴー!」

「待ってよー、うたのーん!まって……」

 

 突如、脳内を電流が駆け巡った。

 

 眼前の景色がぐにゃりと曲がり、鉄の匂いが鼻から抜ける。

夏の日差しが降り注ぐ柔らかな小道。目の前で微笑む老人や女性は、顔も名前も知らない誰かで、それらが万華鏡のように形を変えて色を変え温度を変えて、終わりなく頭の中で螺旋を描く。

  それは花が咲くように豊かで、風が吹くように激しく、水が満ちるように静かな色彩。巨大な樹海の中に集った、少女達の儚い舞踏。

 水都は咄嗟に膝をついて、視界いっぱいに広がったその膨大な幻覚(イメージ)の濁流に耐えた。異変に気付いた白鳥歌野が、酷く驚いた様子で近づいてくる。

「みーちゃん、大丈夫!」

肩にかけられた親友の手をそっと握りながら、徐々に水都の中から幻覚(イメージ)の光が失せていった。

「 だ、大丈夫だよ…うたのん。ちょっとクラッときただけ。」

 ゆっくりと顔を上げ精一杯のの笑顔で応える。歌野は今にも泣きそうな表情でブンブンと顔を横に振り

「熱中症かも…木陰で休みましょうみーちゃん。冷たいものを、すぐに持ってくるから。」

 有無を言わせぬ口調でそう言うと水都に肩を貸し立ち上がった。どうやら彼女に自分の嘘は通じなかったらしい。

 

「うたのん、さっきの立ちくらみは多分神託だよ。だから、心配しないで…。」

「ノン、心配するわよ。というか心配させて、みーちゃん。親友なんだから、こんな時に気を使う必要なんてないじゃない。」

「…うん、そだね。」

 水都を先程昼食を広げた木陰に横たえると、歌野はすぐに走っていった。水を用意するつもりなのだろう。

ゆっくりと伏せた身体を転がして、水都は小さく息を吐いた。頭の中がまだチカチカする。

それにしても、先程のアレはなんだったのだろう?歌野には神託だと言ったが、水都の知る限り神託にあんな思わず膝をつくような衝撃は伴わない。まるで無理やり頭の中に電極を刺されたような気持ち悪さだった。

それに…

 明滅する色彩の中で確かにアレは言葉を発した。明確な発音で、明瞭な短文を。

 

 

花を集めよ

 

 

そう確かに言ったのだ。

 

 

 




今回、書いてる中で思ったが諏訪での巫女と勇者の扱われ方ってどうだったんだろう?優遇はされてると思うけど、歌野様とか呼ばれるの嫌いそうだし…なのでこの作品ではフレンドリーに「歌野ちゃん」「藤森ちゃん」という呼び方で諏訪の人たちが呼んでることにしました。原作と違う!知ったかすんなハゲ!もっと調べろ無能!等の厳しい目線で読んでください!(願望)そして罵倒コメントをドシドシ送ろう!(ドM)

さて、これでようやく次の話から派手な戦闘シーンを書けます。本編を読んでなお続きを見たいというドアMな方はお待ちください。
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