ガッカリしてください!   作:((+_+))

1 / 11
僕ぁつまらない人間です

 僕の名前は稲津 慎(いなつ まこと)。ただの中学2年生です。

さて、僕みたいなつまんない奴のことを語る前に、重要な人物について少しだけ語ることとしましょう。

 

 ――因幡月夜(いなばつくよ)

 

 真っ白なツインテールに赤い瞳、ウサギを思い出させる風貌の少女。

盲目だという彼女の側にはいつも、エヴァン・(マリア)・ローゼという従者が付いている。

巫女服のような衣類を着こなす少女と、メイド服の女性(見かけ)はそれはもう目立った。

 

 まぁ、メイドさんは初日以外は遠目で見守っているだけだったが。それでも目立っていた。

なぜ?理由は単純。それは彼女、因幡月夜は――ある日、帯刀して来たからだ。

模造刀であるそれを盲目の少女が何に使うのかって?本人に直接聞いて、そして驚くといい。気が良ければ、抜刀術(・・・)を披露してくれるだろう。それはもう見事に斬れるから。っていうかなんで斬れるの?模造刀だよねそれ?ってなるから。

 なんでそんなこと知ってるかって?直に見たからだよ畜生。

 

「それ、刀だよね?」

「はい、そうですよ」

 

 中庭に座り込む彼女が持つ、杖の隣に置かれた模造刀を指さした。

彼女は見えていないが、当たり前のようにうなずいた。

 

「……使えるって聞いたんだけど、ホント?」

「えぇ、もちろんです」

「マジで!?何かして見せてよ!」

 

 年下の少女にそんな会話をして、拍手までしたからね過去の僕。

もし戻れるなら止めたいね、関わんの止めとけって。

普通の少年らしく刀に魅了されたのは分かるけど、止めとけって。

 3つ程年下で、数ヵ月後には自分が中学生になってどうせ話す機会なくすだろうからとか、そんな「折角だから」みたいな感覚で妙な思い出作りしようとすんなよって。

 

 なぜ?なぜって決まってる。

中学二年になってから、その縁とやらが有難迷惑として返ってくるから、だ。

 

「――こんなところで、何をやっているんですか。マコくん?」

「うげっ……こんな所登って来ちゃダメでしょ?」

「心配そうな声出してもだめですよ、ちゃんとうげって()こえてますからね?」

 

 彼女は聴力が非常に良い。良過ぎて学園中の音を聞きとれるくらいだ。

ちなみに聞こえるだけではなく、聞き分けられる(・・・・・・・)というのだから、彼女の能力の高さが伺える。

 つまるところ、彼女に対し隠れるというのは非常に難しい。僕は忍者ではない。そう思って彼女が来れそうにない場所で大人しくしていたのだ。

いくら能力が高いと言っても、態々立てた(・・・・・)鉄骨の木(・・・・)の上まで追ってこられるのは、流石に予想外だったが。

 

「あーお叱りは勘弁してよ。ほら高そうな巫女服汚れちゃうって、降りよ?」

「そうですね……では」

 

 んっと彼女が両腕をこちらに伸ばしてきた。

少しその仕草を見て、思わず額に手を当ててしまう。

 

「……えっと、抱えろと?」

「はい。楽に降りられますし、罰にもなりますから」

 

 いいでしょう?と小首までかしげてくる幼女。

何だこの可愛い生物は。いや、騙されてはいけない。彼女はこの学園で高校生にすら負けない天下五剣と呼ばれるほどの達人だ。

盲目で抜刀の達人で幼女とか何それ最強じゃね?というか何この子。素でこれって魔性の子だよね、魔()ちゃんだよね?

 

「どうしたんですか?」

「あー、いや。うん、何でもないデス」

 

 失礼して彼女を横抱きに抱える。

両腕が首に回され密着感が増して思わずドキッとするが、落ち着け相手は幼女だっ!!

 

「ほいほいっと」

「……ふふっ」

 

 トットット、鉄骨や棒の出っ張りを足場にして降りていく。

耳元で小さく笑ったのが聞こえた。

 ちなみにこの子の口癖は「ガッカリです」らしいが、数えるくらいにしか言われたことがない。

まぁ言われる程長い付き合いというわけでもないからかもしれない。

 僕は彼女に初めて出会ってから、ちょくちょく一緒に遊んでいた。

でもそれも小学校を卒業するまでだ。卒業したら中学生になり、4つ下の彼女とは同じ学校で過ごすことはない……そう思っていたから。

 そして中学一年になり、友人も出来た僕は、まぁちょっと問題を起こしてしまった。その結果ここ、私立愛地共生学園へと転校させられてしまったのだ。

この学園は女子生徒が武装許可されており、そのほか色々あって「問題児更生施設」のような側面を持ってしまっている。まぁ、つまり悔い改めろと言われたわけだ。

 言っておくが、僕は転校に関して反省も後悔もしていない。胸糞悪い奴らを真正面から文字通り潰した結果だ。受け入れている。

 

 問題は……なぜかそんな不良の終着点のような場所に、4つ下の因幡月夜が中等部生徒(・・・・・)として在学していたことである。

 

 懲罰とか色々あるんだろうなーと思っていたところに、なぜか(心なし)目を輝かせた幼女到来。しかも、その彼女が自分のお目付け役(・・・・・)だという。

意味が分からなかった。というかわけ分からん。

だがまぁ、あの抜刀術と真正面からやり合うとかなりキツそうだし、何より自分勝手な理由で年下の女の子相手に暴力を振るうつもりは起きなかった。

 だからまぁ、監視くらいいいかなーなんて思っていたら……。

 

――これから私と衣食住共にすることになりますから、よろしくお願いしますね。

 

 そんなことを、疑問符がついていない、決定事項を、笑顔で言い放ちやがったのだ。

(ボカ)ぁそりゃ逃げましたよ。えぇ、流石にロリコン認定待ったなしじゃないですか。レッテル貼られるのは慣れてますけど、そんなレッテルはご免ですとも!

本人に言ったら「ブッコロ」案件なので、無言で窓から逃げ去ろうとした僕を誰も責めないでくださいお願いします。

 驚いたのは、従者のエヴァンさん使ってまで追ってくるんですからもう大変。

天下五剣とか呼ばれてる人たちも混ざってお祭り騒ぎ……いや、あの、丸腰の中学生に模造とは言え剣をもった高校生が斬りかかるとか、もうこれダメだよね?アカンやつのはずだよね?なぁんで誰も罰を受けなかったのか、それが納得いかない……僕はその日は飯抜きにされたというのに……!

 

「ほら、速く走ってください。遅刻しちゃいますよ」

「え、ちょっとまって抱きかかえたまま行けと?」

「はい、もちろんです。貴方のことを説明しないといけないじゃないですか。また逃げられたら面倒ですし、罰ですよば・つ」

「うぐぐ……」

「頑張ってください。今日は私、頑張ってお弁当作ってみたんです。無事一緒に食べるためにも、走ってくださいね?」

「はい、頑張りますッ」

 

 この天才幼女、もちろん作る飯はとても美味い。

盲目というハンデがあるのに、嗅覚と聴覚、味覚、触覚を常人以上にフル活用して作るその様子にも非常に庇護欲が湧く。

 ……いや、だから、そうじゃなくて――僕はロリコンではないから!!頼むから、皆お願いだからそんな目で見ないでくださいお願いしますッ!!

 (ボカ)ぁ喧嘩くらいしか能がない、只の健全な不良もどきなんです!!つまらない人間なんです!!

 

(そう、僕は一般人。従者付きのご令嬢様とは月とスッポン)

 

 だから、そう。いつかこの子が本当に「ガッカリ」してくるだろうその日まで、僕はこの関係に甘えてしまうのだろう。

でも仕方ない。僕は腕っぷしだけの弱い人間なんだから。

 

(早めにガッカリしてくださいね、お姫様?)

 

 

 

 

 

 

 私、因幡月夜は少し変わっているらしい。

私にとってエヴァは大事な友人だし、この刀も私の努力の結晶だ。

でも、私と同い年の子供たちはそうじゃない。従者なんていないし、刀を振るわない。

そもそも、武道を嗜んでいる人が少なかった。

 

(むぅ……困りました)

 

 昼休みに作戦時間として、人の少ない裏庭へと赴いた。

エヴァの付き添いのあった初日で、学校の地理は既に把握していたため、このくらいの移動はたやすい。

 さて、問題点を軽く上げてみましょう。まず、私には抜刀術と聴力重視の空間把握能力くらいしか詳しく話すことがありません。

漫画の話をされてもわかりませんし、テレビの話をされてもやっぱりよく分かりません。派手な音と会話でストーリーは大体わかるのですけど、可愛いとかカッコいいとか、やっぱりわかりません。

衣服だって自分ではどうなのかもよく分かりません。ただ、この衣服は抜刀術にあっていて、エヴァ曰く可愛いから着ているだけです。

 

 よって、私に皆さんと話し合える事が、ありませんでした。

だからちょっと無理を言って模造刀(アイデンティティ)を持ってきたのですが……大失敗。

注目が集まっても、危ない子と囁かれ始めてしまった。

 

(友達ひゃくにん、できるかなー……無理です)

 

 どこかで聞いた歌を思い出し、ガックリと項垂れてしまう。

このまま避けられ、一人ぼっちで小学校を卒業してしまうのでしょうか……飛び級してあの人(・・・)の学園に編入予定とはいえ、何の思い出もないというのは、悲しくなります。

いけません、心なし涙が零れそうになってしまいます。おかしいです、鍛錬でもこんな感情を覚えたことはないのに……。

 そんな風に乱れた感情で涙をこらえることに必死になっていた私は、近づいてくる足音に気づきませんでした。

 

「ねぇ、きみ」

「!? は、はい、私……ですか?」

「うん。えっと、因幡さんだっけ」

「はい、そうです。貴方は?」

 

 覚えのない声色、鼓動、吐息、骨の動き。

少なくとも同じクラスではない人だと瞬時に理解した。

 

「僕は稲津慎。6年なんだけど、きみの噂が気になって……」

「私の、噂?」

 

 一体何なのだろうか。よく分からない子とか、刀を持ちこんだ危ない子とか、そんなことなら聞いたことがある私は、禄でもないことだろうと思っていた。

だから……彼の興奮した声色に、戸惑った。

 

「それ、刀だよね」

「はい、そうですよ」

 

 何を当たり前のことを言っているのだろうと、さらに困惑した。

 

「使えるの?」

「えぇ、もちろんです」

 

 使えなければ杖でもついている。一体なんなのだろうか、からかっているのかもしれない、そう不安感を覚えた。

そしてそれらは、次の一言で吹き飛んでしまった。

 

「マジで!?何かして見せてよ!」

「……え?」

 

 とても楽しみにしている、という声色。

何がみられるのだろう、と興奮している呼吸。

ワクワクして、握り拳を作ってしまっているのだろう骨の音。

 

――この人は、私に興味を持ってくれているのだ。

 

 従者のように付き従うのではなく。見えないことで補っていた、ほかの人からすると特殊な能力に尊敬するわけでもなく。刀に恐怖しているわけでもない。

この人は、私が刀でなにかが出来るのだと、私に(・・)興味を持っている。

 

(……?)

 

 胸の辺りによく分からない鼓動を感じた。おかしい、息は整えていたのに何なのだろうか。

もしかして、いや、もしかしなくとも、緊張している…?私が?

驚きと疑問と困惑を感じつつも、気づけば彼の要望に頷いていた。

 

「……いいですよ」

「やったー!!」

 

 拳を振り上げガッツポーズというものをしたらしい彼。

喜んでもらえていることを思って――また鼓動がはねた。

もう、なんなのだ。もう一度整えなおし、少し離れるように言った後構える。

 

「………」

「………」

 

 彼も私の集中を察して無言になり、辺りが静かになった。

そして、一陣の風が吹き、木の葉が舞った――瞬間、私は抜刀した。

三枚の葉が、彼の前で真っ二つに斬られ、そのまま落ちた。

 

「……す、スッゲェーー!!」

「!?」

 

 大きな声にビックリしてしまった。

なるべく分かりやすいように、出来るだけゆっくりやったのだが、それでも普通の人には視認するのは難しいはず。

しかしこの驚きよう……もしかして見えていたのだろうか?

 

「何今の動き?因幡さん凄いね!」

「えっと……ありがとうございます、稲津さん」

「はー。いや、でもホント凄い。見えないのに刀そんなに振れるもんなんだね……ていうか、まず抜いて戻すのがすごいよね」

 

 その後も彼は凄い凄い、かっこかわいい、最強だー!、とひたすら私のことを褒めまくってくれた。

途中から自分でも顔を真っ赤にしていた自覚があった。褒められることはあったけども、こんな熱烈に、直接感情をぶつけられたのは初めての経験だった。

 

「見えたのでしたら、稲津さんにも出来るかもしれませんよ」

「ゑ、マジで?」

「はい。相応の鍛錬が必要ですけど……才能はあると思います」

 

 かなり手を抜いたとはいえ、雲耀の一端を初見で見切れたのなら、十二分の才能を持っている。

今からでも鍛え上げれば、彼はもしかしたらもしかするかもしれない。

 

「んー……いや、僕はいいよ」

「そう、ですか」

 

 しかし、彼は断った。

胸元にチクッと何か刺さったような痛み。これは分かる、初めて会った人に拒否されたからだろう。

人と触れ合うというのは、嬉しいだけではない。これは家柄として、分かっていることだった。

 

「いや、その鞘っていうんだっけ?それに刀を抜き差しするのも大変そうだし。こまごましたの向いてないんだよねー」

「むぅ、練習すれば出来ることですよ?」

「んー……まぁ、機会があればね」

 

 機会と聞いて、次のことを想像してしまった。

彼は六年生……数ヵ月後には中学生になってしまう。私の飛び級先は元女子高で、男子生徒の風当たりが強いと聞く。彼はそこにはいかないだろう。

 そう思うと、自然に口が開いていた。

 

「でしたら、……」

「ん?」

「抜刀術、もっと速くできるんです。もっと、すごいことも、出来るんです……」

 

 何を口走っているのか、少し自分で混乱した。

勝手に口が動いたということは、これは私の本心、本能的な何かだろう。ただ、その何かをどう伝えればいいのか分からなくなっていた。

 

「マジでか。まだ速いとか、何それ凄い」

「えぇ、見えないくらい速くできますよ」

「じゃぁまた今度見せてよ。そろそろチャイムなっちゃうしさ」

「は、はい!」

「次余裕あるとき来てよ。僕六年四組だからさって、四組が分かんないか」

「いえ、大丈夫です。分かります」

「そうなんだ?わかった。じゃぁ、またね!」

 

 またね――そう、そうだ。

 

「はい、また」

 

 私はまたね(・・・)と、次の約束をしたかったのだと、そんな簡単なことに初めて気づいた。

次の日から私は家と従者、学校に無理を頼み続け、模造刀を持ち歩くようになった。

彼に楽しんでもらいたい、喜んで欲しいという一心で……。

 

 

 それが私の初めての人である彼との出会いで、きっかけだった。

 

 

 彼が見てくれるのがうれしくて、彼を感じるのが楽しくて、彼と一緒にいるのが心地いい。

時折鈍感でデリカシーにかける事もあるが、ガッカリなのは些細なことばかりで私は彼との日々()満たされていた。

だから中学生となって別の学校へと行ってしまったときは悲しかった。

そしてそれ以上に、不謹慎だとはわかっているのだけど、彼がこの学園に転入してきたことが、何よりも嬉しかったのだ。

 ほかの人が何かをする前に自分が矯正役に立候補し、一緒に居られるようになった。他の誰よりも真っ先に近くへ行った。……唐突過ぎて、逃げられたのは少しショックだったけど、それでも今こうして彼は私の近くにいる。

 

(私の、友達……私の、私の――)

 

 友達だとはっきり言える人。でも、それ以上に何かを感じる人。

まだそれに名札を貼れない未熟な自分だけど、ずっと一緒に居たいと思える人。

ガッカリなんてする余裕が持てない人。

 

(だから、頑張らないと)

 

 私には抜刀術くらいしか自慢できるものがない。

もっともっと、色んなことをして彼との話題を広げ、彼と一緒の時間を作っていく。

彼にガッカリしてほしくないから、慣れないことだって頑張るし頑張れる。

その手始めが料理。ほかにもエヴァから沢山教わっていく。

「もうこんな日が来るなんて……」とエヴァが何か訳の分からないことを言っていたけど、嬉しそうだったからきっと間違いじゃない。

 

(頑張ります。私、頑張りますから)

 

 ギュッと彼に抱き着き、胸元に顔を押し当てる。

ドキドキとした鼓動は、彼のか私のか――暖かくて気持ちがいいから、きっと彼のだろう。

暖かくなった(・・・・・・)私は、決めつけてもっと力を込める 。

病弱で非力なのだから、これくらいしないとダメですよね……?

 

(ずっと、一緒にいてくださいね……?)

 

 恥ずかしくて言えないその気持ちと言葉を胸に仕舞い込み、私と彼の今日が過ぎていく。

 

 

 ――今日も、私は彼にガッカリする余裕がないでしょうね。




 武装少女、凄く面白かったのでつい書いてしまいました。
因幡ちゃんに言われるがまま旧作も拝見し、なお一層です。いいですね、強くてかっこよくてかわいい女の子って。

 あ、もちろん原作主人公も好きですよ?カッコいいです!(小並感
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。