ガッカリしてください! 作:((+_+))
学園に衝撃的な事件が起こった。
天下五剣と呼ばれる人たち。そのうち、二人に喧嘩を売って見事勝利した人がいるらしい。高校生で、女帝と呼ばれるようになっていった。
ちなみに因幡月夜は個人的都合によりその場から離脱していた。えぇ、どこぞの寝坊助を起こしに来ましたとも。ごめんなさい。
「……」
「………えっと」
で、今の問題はその女帝、
キリっとした顔立ちに黒い長髪、高校生として真っ当に発達している身体つき。奇麗系の美少女という感じだ。
これで瞳が死んで……もとい、ハイライトが消えていなくて、微笑みの一つでも溢せば男女関係なく堕ちる人は多いのではないだろうか。
「ふむ……キミは、不思議だな」
「へ?」
「この学園では男子はけったいな格好をしているだろう?」
「あ、あぁ、アレですネ」
思わずしかめっ面をしてしまう。
この学園、女子による圧制が強い上に、男子は殆どが問題児。
故に、まず問題児の牙が折られる。そしてその勢いで色々粉々にされ、無理な女装をして屈服を示すのだ。
慎は初日に五剣と追いかけっこを繰り広げ、最終的に月夜に捕まりはしたが屈服はしていない。
理由としては逃げと防御に徹していたことと、とある
五剣を相手どれる実力を畏怖され、熊に気に入られたことが色々とプラスに作用しているからだ。
「キミはしないのかい?」
「いや、流石にあれはちょっと……じゃなくかなりいや、です」
「まぁ確かに気色は悪いが……私はてっきりアレが男子の正装なのだと思っていたから気になってな」
「そうなんd、ですか」
相手が先輩ということで、慣れない敬語を使う。
月夜が基本丁寧語なのだが、意識して使うのがこんな面倒だとは思っていなかった。改めて尊敬してしまう。
「ただ、大多数があの格好というのには意味があるんだろう?そして君はそれを免れている。理由は……天下五剣に認められているから、かい?」
「アッハッハ、そんなまさか。あの人たちには模造刀やら刃挽きしてある刀やら向けられる程度の仲ですよ。ハハハ……ハァ」
つい過去のお祭り騒ぎを思い出して深くため息をついてしまう。
もうあの鬼ごっこはしたくない、絶対に。そう思えるくらい大変だった。
「ほう――」
「ぇっと……」
キラーンとハイライトの消えた瞳が煌めいた気がした。
月夜といいこの先輩といい、なんで色めいてない瞳が輝くんだろうか、訳が分からない。
というか、勘が告げている。この人はヤバイ、これ以上会話するべきではない。
「ってことで、サラバ!!」
―――アッハッハ、これで僕は自由だぁぁぁぁ!!!
妙なテンションで飛び降りたが、此処は屋上である。
途中で出っ張りをつかみ、窓を割るつもりで3階に蹴り入った。
偶然窓が開いていた上に、人がいなかったため問題なく逃げ切れる。
今日学んだことは一つだ。
高等部の屋上でサボったり、しちゃいけない。
あそこは変人奇人の度合いが中学生より強い。そう確信した。
不思議でどこか懐かしいような気配だった。
それが天羽斬々の感想だった。
唐突で奔放でやることなすこと想定外。
(あの制服、中等部か)
屋上から飛び降り、無理やり下の階に逃げ延びられる身体能力とその度胸。
ますます似ていると思いながら、追うかどうかを考える。
「……いや、別にいいか」
追ったところで何を言うでもない。重心や目線の配りからして我流の喧嘩殺法だろう事は分かった。向かってきても対処可能だろう。
そして五剣の様に何かしらの地位にいるわけでもない。
なにより、懐かしい気分にさせてもらえた。
「気分がいいうちに、ひと眠りするとしようか……ふふ」
授業をサボるのもいつぶりだろう、なんて思いながら彼女は瞼を閉じた。
「で、言い訳は以上ですか?」
「いや、言い訳っていうか、仕方なくない?」
トイレに行くといって教室を出たまま、結局授業にでなかった理由を月夜に話す。
だがダメだ、言っておいてなんだが僕が悪いっ。自覚がある分これは言い逃れなんて無理だこれ。
「サボろうと思って高等部の校舎に無断侵入……そして飛び降りの危険行為」
「あ、あのぉ……」
「……フフ」
「あ、アハハ」
「――ブッコロ案件ですね。ちょっと逝ってきます?」
怒気で目を開いた月夜を見て、僕は無謀な脱兎を試みた。何時も瞼を閉じている彼女は、気分によって目を開くことがある。今回はダメです。はい、おこです。
ちなみにこう見えて僕はかなり脚が速い。なんせ五剣と熊相手に逃げ切った男だ。
だが、まぁしかし……正座をしていた上に近距離、その上容赦ない月夜相手に逃げられる可能性は、皆無である。
「この距離で逃げられるつもりですか?」
そんなつもりは毛頭ない。脱兎するには下準備が必要だ。
そんな考えを読み取っているからこそ、彼女は「ガッカリです」と言わないのだろう。
僕の動きを注視しながら、模造刀に手をかけた。
彼女に目くらましは通用しない。だが、彼女の邪魔になるものがその分存在している。そしてそれは、彼女の抜刀術に負けない――その名も!
防・犯・ブザー!!
けたたましい音が鳴り響いたが、これだけでは彼女は止まらない。
聞き分けられる上、何よりすでに間合いは測られた後。故に、彼女の圏内から逃げるにはもう一工夫必要である。
(まぁ、ただ近くの机を転がすだけなんだけどネ!)
出来ることなら彼女の近くに障害物を用意する。それだけで、大分時間稼ぎが出来る。
「むっ」
だが流石というべきか、彼女は自分との間に障害物があることを察した。
判断した彼女は抜刀せず、
止まったついでに彼女はそのまま慎の背後に着地。
机を使った作戦が、見事自分を捕らえる邪魔ものになってしまった。
「って僕の馬鹿ぁ―!」
「……ブザーに障害物、ずいぶん考えてたんですね……」
「あ、いや、その……」
冷気が漂っているのかと勘違いする程に怒気が伝わってきた。
離れて見守っていたクラスメイト諸君が、身を寄り添ってこちらを見ている。関係なくとも怖いらしい。
「僕が悪かった、だから落ち着け。いや、落ち着いてください……!」
「………――」
スッと息を吸い込んだ。抜刀は免れたが叩かれる、そう思って身構えると……思ってもいない台詞が飛び込んできた。
「――そんな本気で、逃げなくても、いいじゃないですか」
寂しげな悲し気な、切なげな……とても聞いてて申し訳なくなる声色だった。
顔も下を向き、表情が見えない。ついでに言うのなら怒気がきれいさっぱり消えている。
そして何より、クラスメイトの視線がすっごい痛い。ちょっとまって、さっきまでかわいそうな目で見てたよね?同情心が完全に月夜に移っちゃってますよこれ!?
「えっと、あの、つ、い、因幡、さん?」
「……むぅ」
弁解しようと思ったが、今度は頬を膨らませた。
「……ずっと、言おうと思ってましたが。なんで、前みたいに呼んでくれないんですか」
「え、あ、いや……前は小学生で無邪気だったというか」
「ほんの2年前ですよね」
「だ、男子三日あわ―」
「……」
「……ごめんなさい恥ずかしかっただけです申し訳ありませんから涙目になるのはやめてくださいホント勘弁して」
こういう風に感情に動かされる彼女を見ると、抜刀術の達人で家柄がお嬢様で難しい家庭環境だというのに……年齢通りの子供なのだと、自覚してしまう。
そしてなお一層庇護欲と申し訳なさが強まってしまうので、必死になだめた。
結局、「月夜ちゃん」でもなんだか不満そうだった彼女は、普通に「月夜」と呼び捨てることで何とか機嫌を戻してくれた。
ちゃん付けだとNGで、呼び捨てはOKって、よく分からないんですが……。
「そういう所はガッカリです」
「うっ」
「けど、いいです。その辺は、貴方らしさでもあるので、いいです」
「それ、諦められてない?」
「ふふ、そんなことないですよ?むしろ逆ですね」
「???」
そんなことがあった直後、次の授業を開始した先生(未婚)からひたすら問題を当てられ分かりませんと言いながら月夜に教えられる無限ループに入ることになった。
どうやら僕には何かしらの地雷を踏む才能があるらしい。
凄く、すごぉぉーーく、嬉しくない!!