ガッカリしてください!   作:((+_+))

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この男、大バカである

 中学に上がったばかりの頃、慎は一人の友人を得た。

その友人は別に我が強かったわけではなく、特に何かしらの特異があったわけでもない。

どこにでもいる、ありふれた男子生徒だった。

一つだけ特徴を挙げるのならば、名前が(ミコト)という、少し女っぽいイントネーションだったことくらいだろう。

 

「お隣さんだね、よろしく!」

「う、うん……よろしく」

 

 尊は大人しく従順で、何より気が弱かった。

対する慎は活発でおふざけが好きで、そしてマイペースを貫く気の強い人柄をしていた。

真逆な二人だが、凸凹(デコボコ)が合わさるように気が合ったのだ。

基本尊を引っ張っていくように色々連れだしては遊びまわる慎。短い期間で親友と呼べる間柄になるのに、そう時間はかからなかった。

 

 そして、そんな楽しい時間は圧倒間に過ぎていき――事件は起こった。

 

 尊がいつもの時間に登校せず、一日学校を休んだのだ。

携帯は繋がらず、先生に問いかけるも明確な答えは返してくれなかった。

気を焦った慎は街中を駆け回るも尊を見つけることがかなわず……数日が過ぎた。

 

「みこと!!」

「あ……久しぶり、まこと」

「――……」

 

 数日後、ようやく再会した尊は……手足を折られ、身体中を包帯だらけにしていた。

顔だってミイラ状態で、こちらを見て笑みを溢してくれる事すら痛々しい。

 

「おま、何があったんだよ……」

「えへへ、ちょっと、絡まれちゃって」

 

 いつも通り学校へ通おうとした尊は、所謂不良に出くわしてしまったという。

目元まで髪を伸ばした尊は、見るからに気弱で恰好の的だったんだろう。避けていこうとしたのに、無理やり相手から当たってきて絡まれたのだそうだ。

 そして、その相手から逃れようと少し押した……それが、尊の命運を分けた。

押された相手は運悪く、否、自分がポイ捨てした空き缶によって、自業自得にも転んだ。

 たかが転んだだけだったが、見かけから弱そうな尊に転ばされたのは、酷くプライドが傷ついたのだろう。

しかも相手は厄介なことに不良グループのボス。いわゆるガキ大将だった。

……それからは只のリンチだったという。持っていたものは全部壊され、金品も盗られ、嗤いながら空き缶を捨てるがごとく、道端に捨てられたそうだ。

 

「………」

「慎、変なこと考えちゃだめだよ?」

 

 押し黙った慎を見て、尊は察した。

短い付き合いだが、彼のことを理解しているつもりだ。

一見、運動が好きな普通の中学生のくせに、その実異常なほど情に厚い。

捨て猫、捨て犬を見つけたら放っておけず、二人で親探しをしたのはいったい何回だったか、数えていない。

 

「アイツら、ヤクザ者の知り合いもいるっていうから……慎、運動神経が良いのは知ってるけど」

「わーってますよ。あのさ、僕が頭悪いからってそんな直情的なことするわけないじゃん」

「そう?」

「そーそー」

 

 にこやかに笑う慎。

心配かけまいとしているのだろうか、それとも――。

 

「慎?」

「あっと、僕そろそろ行かないと。学校サボってきたからさ!ばれると怒られちゃうぜ」

「まこと!!」

 

 そそくさと病室から出ていこうとする慎の袖を、尊は痛む腕を無視し、慌てて掴んだ。

この友人は馬鹿だ。笑顔を浮かべても、その強く握りしめた拳を解くことを忘れている。誤魔化すというのが、とことん苦手なのだろう。

 

「ダメだよ?わかってるよね?」

「……心配性だなぁ」

 

 あくまで優しく尊の手を解くと、慎は笑顔で言った。

 

「僕が約束を破ったこと、今まであったっけ?」

「あった。慎は時間にルーズだし、そもそも校則だって今この瞬間ぶっちぎってるでしょ」

「タハハ、こりゃしっけい。……じゃぁ安心しろって」

「?」

 

 慎の言いたいことが分からず、思わず疑問を表情に出してしまう。

彼は馬鹿だ。きっと、この言い訳も凄い馬鹿なことを言うに違いない。

 

「いつも通り、遅れようと規則を破ろうと、僕は僕のやりたいようにやるだけだよ」

 

 後悔するだろう。きっと、後になって何やってんだと言うだろう。

でも構わない。激情が慎の中で渦を巻いていた。あふれ出ようとしていた。

これを我慢しろって……そんなの絶対嫌だ。

 

だから(・・・)大丈夫。ちゃーんとやりたいことやったら帰るからさ」

「……バカだなぁ。帰るから何してもいいってわけじゃないでしょ?」

「僕ぁそれくらいしかルール無いから。諦めろって、振り回されんのはいつものことでしょ?」

 

 あぁその通りだった。尊には慎を止める術など元より持ち合わせちゃいない。

彼はこのまま喧嘩を売りに行くのだろう。それなのに、尊にはそれを止める手段なんて何もなかった。

 

「きっと後悔するよ」

「だろうね」

「………絶対、ぜーったい、後悔するのに、ばかだなぁ」

「そうだな、今してるしな」

 

 ぽたぽたと涙を溢し、泣きだす尊を見ても慎は行動を変えようとしない。

仮にも尊のためならば、この時点で止まるべきなのに、むしろ怒りが増すだけだった。

 

「じゃ、いってくらぁ」

 

 尊は、出ていく慎の背中を見つめることしかできない。

彼には動く力がない。戦う術がない。その意志だって、持ち合わせてはいない。

でも彼は五体満足で、戦う術は知らなくとも理由があった。

友のためなんていう奇麗ごとではなく、只々気に入らないという……きっと不良と変わらない理由。

 

「――いってらっしゃい」

 

 そんな男なのに、尊はそれでも返事を返した。

例え行動理念が不良のそれだとしても、自分を害した彼らとキミは違うよ、という……気弱な少年の、ささやかな抵抗だった。

 

 そしてその日、ある不良少年たちが一人の少年によって、軒並み病院送りにされた。

そしてさらに数日後、一つの暴力団が、これまた一人の少年にカチコミをかけられ(・・・・・)、壊滅したという。

 

 その少年の名前は稲津慎。只の中学生だった(・・・)、立派な不良である。

 

 

 

「――マコくん、起きてください」

「ん……?」

 

 ゆさゆさと揺さぶられ、目が覚めた。

目が覚めると巫女服の白ツインテール女児……というとブッコロされるので、急いで口を閉じる。

 

「今、変なこと考えませんでした……?」

「考えてないデス!」

 

 朝っぱらから帯刀している彼女に逆らうことはせず、敬礼をして無罪を主張した。

無論、何も考えていないわけはなく、この小さな兎鬼(うさっ子)め畜生と心を読められたら一発ギルティな慎。

 

(……あの日、色々経験したけど……)

 

 殴り、殴られ、蹴り、蹴られを繰り返したあの数日間。

ドスなんて言うのを振り回されたし、拳銃だって向けられたあの濃い時間。

何も知らなかった自分は殴る感触が気持ち悪かったし、殴られるのは痛かったし、怖かったし、涙だって溢した。

 それでも自分にはそういう(・・・・)才能があったらしく、色々と特殊な体質のおかげもあって、納得のいく勝利を得た。

だが、しかしそれでも――。

 

(このちっちゃな白兎に勝てる気がしねぇのは、なんでだろなー?)

 

 その抜刀術は不可視と呼ばれる程素早く、だがそれでも迫る銃弾よりかは避けることに現実味があるはず。

だというのに、彼女に勝てるイメージが湧かなかった。

そもそも喧嘩をしたいとすら思えない。おかしい、ほかの天下五剣は追いかけっこをしながら、それでも向けられる敵意、剣気に思わず武者震いしたというのに……。

 

「……? 何をぼさっとしてるんですか?早く着替えてください」

「あ、あぁ……っていうか、前も行ったけど出て行ってくれない?」

 

 盲目故に着替えを覗くということは出来ない。

だからと言って同じ部屋にいる男子が着替えるのに、堂々と仁王立ちというのはどうなのだろうか?

 

「前科として、着替えるといって窓から飛び出したりしなかったら、出ていったんですけどねぇ……?」

「あ、ハイすみませんでした、僕が悪かったです」

「えぇ、ですから諦めて着替えてください」

「はい」

 

 尻に敷かれている現状だが、しかし嫌な気持ちではない。

……これが尊だったら、からかっていじくり倒すのだが、それは何だがしにくい。

いや、これでも彼女をからかうのは中々に面白いのだ。若干命懸けではあるが、むくれるところとか凄い可愛いと思っている。

 

「……そんなだから、調子が狂うのかなぁ?」

「何のことですか?具合でも悪いんです?」

「あー、いや単なるひとり言だよ。今日も今日とて五体満足ですよっと」

「ひゃっ」

 

 着替え終わると、荷物を手に取りついでに月夜を肩に抱えた。

 

「い、いきなり何するんですか」

「んー、いやだって月夜に歩幅合わせるの大変でさー」

「何ですか、喧嘩売ってるんですか?――あ、今日の朝はおにぎりです」

「タハハ、怖い顔しないでよっとサンキュー」

 

 彼女が握ったであろうそれを加えながら、タッタッタと軽い足取りで駆けていく。

少女とはいえ荷物を抱えたまま走るのは中々キツイものがあるはずなのだが、これを彼はあっさり行う。

 

 これは、彼が起こした事件の副次効果のようなものだ。

 あの一件から、彼は脳の機能がおかしくなった(・・・・・・・)

肉体的に苦しかろうとそれをそう思えることはなく、思ったとしても無視できてしまう。怪我を恐れることも無くなったし、素の力と体力も上がった。

 

 医者曰く、一種の火事場の馬鹿力らしい。脳のリミッターが外れやすくなっている上に、一種の興奮作用のある脳内麻薬を一定量出し続けているのだとか。

普段は一般人より少し頑丈程度だが、その気になれば彼は難なくコンクリートを打ち割り、銃弾にも怯まず、それどころか走馬燈の応用で体感時間を極限まで引き上げ避けてしまうほどだ。

 

 ただ、言われなくてもわかることだが、これは体を壊す行為である。

自壊する彼を、脳内麻薬によって自覚できない彼に止めることはできない。

今日は朝から変な夢(過去)を見たせいだろう、そのリミッターが外れだしていた。

 

「ていっ」

「あいたっ」

 

 そして、だからこそ(・・・・・)因幡月夜がお目付け役として一緒に居るのだ。

 

「ちょっと張り切りすぎです。落ち着いてください」

「えー、いつもこんなもんじゃん?」

「何時もの貴方は、面倒でも(・・・・)私に歩幅を合わせて歩きます……深呼吸してください」

「えー、なんでさ」

 

 不良であるからこそ強く、一般人であるからこそ脆い(・・)

こうなった理由は喧嘩による怪我の外的要因と、精神的な内面的要因(・・・・・・・・・)の両方のせいだと、医者は告げていた。

 自業自得だと彼は笑うが、これは簡単に受け入れていいことではない。

リミッターがない状態だと常人の約5倍以上の力を発揮する。これはつまり、単純に言って常人より数倍壊れやすいという意味でもあった。

 

「……私は、貴方に傷ついてほしくありません。いうことを聞いてください」

 

 真摯に誠実に、言葉を届けようと静かに慎に語り掛ける。

そうすればこの人はちゃんと分かってくれる、そう信じているから。

そして事実一瞬目を見開いた後、慎はゆっくり月夜を降ろすと深呼吸をした

 

「すぅーはぁぁーー……悪ぃ」

「いえ、この役目は私が望んだことですから。それより、貴方は病人だという自覚をもっと持つべきですね」

「そういわれたってなぁ」

 

 こうなってから彼の代謝も変わった。

多少の怪我なら一日で完治してしまうのだ。

これは良いことではなく、本能的に死なないように必死に自然治癒を上げているからだという。

人の細胞には限界があり、この行為はそれを早めるもの――つまり、彼は寿命を縮めているのだ。それも完全にタガが外れた状態だと、5倍以上の速さで。

だというのにヘラヘラと、全く。

 

「あなたは、大バカですね」

「アハハ、ガッカリした?」

「いいえ、病弱という意味なら私もですから。人のことは言えません」

 

 特殊な家柄のせいで色々と体に不調をきたしている月夜にとって、それは他人ごとではない。

きっと、月夜も慎も長生きは出来ないだろうと、何となく察していた。

でもこのままだと確実に慎の方が先に逝ってしまう。禄に思い出も作れず、きっと満足した顔で……それは、心底嫌だから。

 

「早く治しますからね。私、こう見えて厳しいんです。ビシバシいきますよ?」

「ハハ、おっかねー」

「ちなみに、治すと言ってもリミッターの切り替えが自在にできるようになってもらうという意味ですよ?貴方は武の才能あるんですから、そうしたら抜刀を覚えてもらいますからね」

「その心は?」

「私が教えたいからです」

 

 ふふん、と機嫌よく将来の希望を伝える月夜。

はいはいと流す慎に、一体どれだけそれが本気なのか伝わっているのだろうか?

抜刀の達人が、直々に(・・・)それを教えたいというのがどういう意味なのか、そうする行為がいったいどれだけ乙女心も入り混じっているのかなんて、きっと彼には理解できていないだろう。

 

「ホント、大バカですね」

「バカバカ言うなよ、へこむぞ?」

「事実ですから。あ、バカついでと言っては何ですけど」

「ん?」

「来週あたりに一人新しい問題児(おバカさん)が転入してくるそうです」

「うわー」

 

 そりゃ可哀そうに、と顔をしかめる慎。

学校中を敵に回すのだけはやめてほしいと、過去の教訓から祈るが、その願いを真っ向から破られることになるとは今は知らない。

 

「まぁ私たち中等部ですから、直接かかわることはないと思いますけどね」

「アハハーそりゃフラグっていうんだぞー」

 

 新たな問題児――納村不道(のむらふどう)が学園にやってくるまでの一週間。

この一週間は比較的(・・・)穏やかだったと、フラグを実体験した後の慎は語ったという。

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