ガッカリしてください!   作:((+_+))

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転入生は話題になる

 月夜は衣食住を共にすると言ったが、実際四六時中一緒というわけではない。

住んでる場所は女子寮の横に簡素なテントが張られ、そこで暮らしている。ちなみに作ったのはエヴァさんだ……恰好のせいで勘違いされがちだが、あの人、一応性別は男なのだ。細腕に見えるが、テントを張る筋力は普通に持ち合わせている。

 食事は月夜が従者であるエヴァさんと一緒に作ったり、一人で作ったりして持って来てくれるが、逆に言えば彼はそれ以外を食べることを禁止されている。

着ているものは学生服……ここまでは一緒だろう。

 だが、一つ違うものがある。それは――クラスだ。

 

「なぜ此処まで一緒なのに、一番大事なところがずれているんでしょうか……ガッカリです」

「いや、転入生の僕に言われても」

 

 転入してくると判明した時点ですでにクラス分けは決定していた。

人数が足りないクラスに自動的に割り振られた後では、流石に決定を覆すのは面倒なのだ。

いくら五剣といえど、それを決めたのは学園長……もとい、その上の理事長である。

 

「……つい話したのは間違いだったかもしれません」

「なんのこと?」

「いえ、なんでも」

 

 小学生の時、友人が出来て嬉しさが絶頂だった時と、慎が中学生になって別れが訪れて最悪だった時期にちょっと心中を溢した事がある。

それが彼女(・・)の付き人に聞かれ、そのまま伝わったのだろう。

色々と愉しそうな表情を浮かべているであろうことが、容易に想像できてしまった。

 

「お?」

「どうしました?」

「あぁ、いや……」

 

 この学園は高等部と中等部の真ん中に大講堂があり、校門はその近くにある。

よって、この周辺が一番生徒が多い。武装少女に化粧男子……その中で一人、普通の格好をした高校生がいた。

恐らく以前月夜が言っていた転入生だろう。

 

(なるほど、確かに目立つ……人のこと言えないけど)

 

 この間、斬々先輩に言われたことを思い出した。

確かにこの様相の中、一般的な学生の格好というのは目立つのだと。

 

「おぉ?」

「ぁ」

「はい?」

 

 少し見過ぎたのだろう、視線を感じられて転入生が振り向いてきた。

 

「おぉ~、なんだなんだ。普通の格好の奴もいるじゃねぇか」

「バカ、アンタそいつは特例よ!」

「?」

 

 図体のでかい化粧男子が転入生にツッコミを入れて止めているが、はて、特例とは?

思い当たるのは隣の月夜さんだ。確かに五剣のお目付け役がいつもそばにいるのは、特別なことなのかもしれない。

 

「「特例?」」

「ってなんで本人まで疑問顔なのよ!?」

「あーいえ、自分の事がどう言われてるのかあんまり気にしたことなくて」

 

 というか、気にしたくないというのが本音である。

陰でロリコンとか言われて後ろ指さされてしまっていたりすれば、化粧男子ほどではないかもしれないが、かなり痛々しくてやってられない。

 

「天下五剣に認められてる実力者よ。転入以来素行が悪くないから、特に何も言われない、この学園で現在唯一自由な()よ」

「へー……その天下五剣って警棒じゃなく、たしか特別に帯刀してるやつって話だけど……もしかしてぇ?」

 

 自分のことを話されたと気づき、顔を転入生に向けたことでリン、と月夜の錫飾りが鳴った。

 

「えぇ、私が天下五剣……と、呼ばれている者の一人です。今日は貴方についての会議があると聞いてますよ、問題児さん」

「へぇーおたくが……って、出なくていいんかい?」

「えぇ。私は彼のお目付け役ですから。貴方がよっぽどな()になることがない限り、不干渉を通すつもりです」

 

 そいつは難しい話だと聞いていた生徒たちは内心呟いた。

彼女の耳は校内の出来事を聞き分ける。つまり、噂なんて小さなものから大きなものまで、全て拾えてしまうのだ。

転入生が初日にやらかさないわけがなく、絶対なにかしでかすという予感があった。

 

「ま、お手柔らかに頼むぜぇ」

「えぇ、私も面倒ごとはごめんです」

「じゃ、僕らはこれで失礼しますね、先輩方」

納村(のむら)不道(ふどう)。納村だ。アクセントは頭に頼むぜ?」

「……稲津慎です。好きに読んでください、()ムラ先輩」

「因幡月夜です。問題はほどほどに、頼みます」

「オッケー!またな!」

 

 それぞれ高等部と中等部。学校は此処を中心に分かれているため、それぞれのクラスへと向かう。

そんな中、月夜がふと振り返った。

 

「……あの人、もうお友達が出来てましたね」

「あー……」

 

 そう。この少女は友達百人という、まるで小学生のような目標を持っている。

年齢が数えで10歳なのだから、間違っていないのだが、それはそうとして別の意味で転入生が気になったようだ。

まぁあの化粧男子と交友関係を持つというのは中々難しいだろう。

 

(………あれ?)

 

 そこでふと気づいた。

化粧男子からは遠巻きに見られているだけであり、武装少女で自分に話しかけてくれるのは、月夜くらい。

もしかして、いや、もしかしなくても彼と彼女は似た者同士(ボッチ仲間)であった。

 

「………僕らも、もう少し他と関わりもとっか」

「そうですね……少し、話しかける練習をしましょう」

「うん」

 

 そこで話しかけるのではなく、練習と言ってしまうあたり、この二人のコミュ障加減が今どれくらいなのか察せられる。

 

 

 

 そんなことがあったのが、早朝のこと。

 彼、納村不道はホームルーム前から、さっそく問題を起こしていた。

五剣の一人、鬼瓦 輪(おにがわら りん)と斬り合いを行ったのだ。

場所は大講堂前。どうやらそこまで納村不道が走ってきたらしい。

結果は、納村不道の恐らく唯一の技、『魔弾』で決着がついたという。

 らしいというのは、全部聞いていた(・・・・・)月夜から後聞きで、それも昼食を食べながら聞いているからだ。

 

「それで、その魔弾(・・)っていうのは?」

「まだ一度しか聞いていないので……恐らくですが、腸腰筋と仙腸関節による推進力を、螺旋状に手首へと伝えた、一種の寸勁に近い物でしょう」

「そこまでわかるとか、流石だね」

「いえ、恐らく同門でしょう。足さばきに似たものを聞きましたから」

「同門?抜刀の?」

「いえ、どちらかというと雲耀の方です」

 

 雲耀というのは、稲妻の速さを例えとしている彼女の技だ。

不可視の足さばきに、不可視の剣閃。昔散々見せてもらったからわかるが、あれは人間離れしている。

 

「ですが、どうも腑に落ちません。未完成というか、不出来というか……半端な感じです」

「へぇ……ん?あれ、もしかして月夜、魔弾撃てる?」

「えぇ、あと一度か二度聞けば再現可能ですよ。雲耀使いの私が真似できないわけないです」

「そりゃ凄い」

 

 というか、必殺技を完コピ出来るって、先輩泣きそう……そう思ったが、目の前でえっへんと胸を張っている月夜が可愛らしいので、野暮なことは言わないでおくことにした。

 

「にしても鬼瓦先輩に勝ったんだな、あの人」

 

 鬼の仮面の一部をいつも身に着けている先輩、鬼瓦輪。彼女は特殊な呼吸法によって、その細身からは信じられない力を発揮する、()の剣を得意としている。

勿論技も大したもので、追いかけっこの際一番斬られたくない人でもあった。刃挽きしてあるとはいえ、下手すれば斬れるし、そうでなくとも骨折は免れない。

避けて物使って逸らして、必死こいてノーダメージで倒した(・・・)苦労を思い出していた。

 

「まぁ最後の最後、足をくじいていましたから。あれで決められなかったら、負けていたでしょうけど」

「そうなの?ってか、魔弾って脚使わないんだ」

「使うのは腰ですよ。ですから、態勢は別に関係ないんでしょうね。座ったままでも撃てるはずです」

「そりゃすげぇや」

 

 どんな格好からでも撃てる必殺打撃。

そんなものを扱えるのだから、相当鍛錬したのだろう。

 

「今までの不良とは違うみたいだね」

「えぇ。ですが、だからこそ厄介でもあります」

「というと?」

「貴方のような前例(・・)がまた生まれそうだということですよ」

 

 そう言って月夜が見せてきたのは、一枚の紙きれ。

しかし、その紙には五つの印が押されている。

『外出許可証』――品行方正で、五剣に認められなければ得られないそれ。

 月夜が持っている理由は簡単で、彼女が管理する代わりに出かけたければ、彼女とエヴァの二人を連れていくことが条件付けされているからである。

本来は五剣二人以上が付き添わなければいけないのだが、月夜は学園長と理事長が知り合いだか親戚だかで、特別な許可をもらったらしい。

 

「……あれ、特例ってもしかしてそれ?」

「まぁその証でしょう。五剣に認められるには、実力を示すのが一番手っ取り早いですから、彼ももしかしたら取れるかもしれません」

「ハハハ、そいつは大変(・・)だ」

 

 慎が許可証を得られたのは追いかけっこの経緯があるからというのも勿論ある。

五剣のうち四人+熊を相手にして辛勝したという事実は揺るがない。

 しかし、そのうちの一人である目の前の少女とは戦ってもいない。それどころか、許可証を得られた理由の半分以上は、この少女の口添えがあったからこそだ。

つまり、慎は月夜という少女との繋がりがあったからこそ得たものであり……五剣最強であるこの少女に実力を示したわけではない。

 これから先、先輩が自由を手にするまでの苦労を考えると、思わず合掌してしまいたくなる慎だった。

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