ガッカリしてください!   作:((+_+))

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思い出という名の黒歴史

 次の日も納村不道はまた斬り合いを行った。

 女王蝶(レジーナデッレファルファッラ)とかいう長ったらしいあだ名というか、二つ名で呼ばれてるような呼ばせているような、そんなちょっと厨二入ってる女子生徒。

名前は……蝶なんとか薔薇咲(ばらがさき)。長くて覚えていないが、五剣の一人に憧れて金髪の鬘と青いカラコンをしているらしい。

それと、月夜のクラスメイトでもある百舌鳥野(もずの)ののという、片目が髪で隠れてる真面目系女子。

 この二人は五剣次席と呼ばれる中学生で、薔薇咲は鞭使い。百舌鳥野は小太刀使い。

特に百舌鳥野は五剣の鬼瓦輪先輩に直々に教えを受けているらしく、次席というのはほぼほぼ確定だろう。

 

 妹分一人一人は未だ五剣以下だろうが、二人そろって相手をして勝つというのは中々に至難だ。

しかもその次の日には早速違う五剣とやり合っている。

相手は亀鶴城(きかくじょう)メアリ。フランス人と日本人のハーフで、フェンシングの使い手。

神経上痛覚が強烈な所を突いてくるドSでもある。

ちなみに、薔薇咲が慕っている五剣というのはこの人のことだ。

 

(あの人とはもうやりたくないなぁ……)

 

 慎は別に喧嘩好きというわけではない。そもそも痛いのは嫌だし、辛い。

なるべく味わいたくないそれを狙ってくる相手というのは、二度と戦いたくないと思わされるのには十分だった。

 

「にしても五剣の二人とこうも連戦するなんて、やっぱり許可証ほしいのかな?」

「でしょうね……まぁ貴方の時の様に大ごとになっていないようで何よりです」

「いやー、あれは花酒先輩が悪いって」

 

 花酒 蕨(はなさか わらび)先輩。

五剣最年長であり、五剣一の問題児だ。

慎の逃走を、なぜか追いかけっこにしてしまった張本人でもある。

 転入生が来るたび、問題を起こすたびに通称『ワラビ(・・・)ンピック』という競技に変えては学校中を引っ掻き回す。

この人が五剣とか、色々問題じゃね?と思うが、それ相応の実力があるうえに、このお調子者な彼女は結構いろんな人に好かれている。

人徳も兼ね備えている実力者、まさに手が付けられないというわけだ。

 

「あの人の行うことはいつも唐突で、何より理不尽ですが……ちゃんと報酬は約束してくれる、意外と律儀な人でもあります。私としては、彼女のおかげでスムーズに物事が進んだので、特に文句はないです」

「あの人のせいで一クラスから中高交えた全校生との追っかけっこになったんだぞ?」

「でも、おかげで自分の現状がよく分かったでしょう?」

 

 それはまぁ、ミッチリとね。

慎の際に行われた『追いかけっこ』とは名ばかりの、一対多の虐殺劇。

それをふと、思い出してしまった。

 

 

 

 事の始まりは、転入初日のこと。

先生から化粧男子や武装女子の説明を受けながら、内心最悪だとガッカリして向かった自分のクラス。

当初は目が腐るかと思っていたが、今では慣れたものだから何とも言えない。

 

「えっと……」

 

 ホームルームで転入生の自己紹介……ありきたりなのに、この目の前の非日常具合である。

何と言えばいいのだろうか、それとも名前だけ名乗るべきなのだろうか。

女尊男卑極まっているこの惨状に目を瞑りたくなりながら、戸惑ってしどろもどろになっていると、唐突にクラスの扉が開かれた。

 

「へ?」

『!?』

 

 現れた少女に戸惑いが深まる慎と、教師含め驚く教室の一同。

 

「どうも」

「い、因幡さん?どうしたの、今はホームルーム中……」

「いえ、五剣の決定を説明しなければいけなくて、参上しました」

 

 どよめき立つクラスを無視して、迷いなく目の前で歩いてくる少女、因幡月夜。

思い出すのはあの速過ぎて見え難い(・・・・)三瞬斬撃。

相変わらず腰には模擬刀を下げており、巫女にも似た服装をしている。

 

「っていうか、あれ?月夜ちゃ―因幡ちゃんってまだじゅ、いや、九歳じゃなかったっけ?」

「えぇ、そうですよ。でも、今の私は中学二年生です」

「なんで?」

「飛び級しましたので」

「へー、そうなんだ。すげぇなー」

「ふふ……」

 

 エッヘンと胸を張る姿に、ついつい懐かしくなってよしよしと頭を撫でる慎。

その行動は今思えば相当失礼なことであり、同時に撫でられ心地を受け入れている月夜があり得なくもあり、クラスが呆然としていた。

 

「って、そうじゃなくて。いま五剣って言った?五剣って、先生が言ってたあの天下五剣?」

「えぇ。五剣の決定は、ホームルームよりも優先されますので」

「へー。僕、まだ転入初日なのにいったい何が……」

「コホン」

 

 誰がどう見ても嬉しそうに、因幡月夜は頬をほころばせながら言い放った。

それはもう堂々と、決定事項だと断言をした。

 

「私が貴方の矯正を行います。故に――今日から衣食住を管理させてもらいます」

「……………ゑ?」

「つまり、今日から一緒に行動するということです。クラスは違いますが、授業以外はちゃんと私のところに来てくださいね?」

「……………ゑ?」

 

 衣食住を管理?

授業以外は月夜のところに通え?

 

「…………………痛い」

「何をしているんですか?」

「いや、夢かと思って頬を……いや、えっと、え?」

「?」

 

 本当に?本気?と疑問符を投げかけるが、彼女はこちらが何を言いたいのか分からず小首を傾げている。

あぁ、これあれだ。決定事項だ。

 

「いやいやいや、いくら何でもそんな、冗談でしょ?」

「いえ?冗談ではありませんよ?」

「………」

 

 このロリっ子、一体何を言っているのだろうか。

やっぱりあれだ、これは夢なんだろう。

そうだ、そうに違いない。痛みまで感じるなんて初めての夢で驚かされる。

小学生の最後の方で交友関係となった相手が飛び級してきて同学年で?しかも自分を矯正するとか言って四六時中一緒に居ろなんて、そんな都合のいいこ、と――。

 

「目覚めろ、僕ぅぅぅー!!!」

 

 気づけば窓からダイブしていた。

飛び降りれば夢から覚めるかもと思ったが、そんなことはなかった。

取り合えず所々にあるでっぱりを掴んで勢いを殺しながら降りると、改めて走った。

 

「そもそも何が都合がいいだまるでこの状況にとても喜んでいるみたいじゃん僕はいったい何を嬉しがっているって?いやいやいや違いますから旧友が夢に出てきて嬉しいだけですから!決して、決してそんな趣味があるわけねぇだろぉおおおおおおおお!!!!!」

 

 一体誰に何を弁明しているのか、自分でも何を叫んでいるのか、さっぱり分からないまま慎は走った。

 

「………」

「え、えっと、因幡さん?」

 

 呆然とする月夜に、この惨状に巻き込まれた代表として、クラス委員長が話しかけた。

いきなり逃げられて怒っているのだろう。そう思っておずおずと腰を引きつつも勇気を絞り、どうにか機嫌を取ろうとも思っていた。

だが、誤算が一つ。

 

「……………グスッ」

「ふぇ?」

「ぅ、ぅぅぅぅぅっっ」

(え、泣、え?!)

 

 本人が思っていた以上にショックを受けていたことだ。

いつも冷静沈着で、()によって校内を把握し、様々な外敵(転入生)を斬って捨ててきたあの魔物(子兎)が、必死にこらえているが、涙目――!?

 

「えと、えっと……みんな!!」

 

 混乱した委員長が、混乱したまま一つの決断を下した。

これが、直ぐに校内全域に広がることとなるとは、その時は誰も思っていなかっただろう。

 

 

早く、転入生(私たちの)を捕まえてくるのよ(手に負えないわ)!!!!!」

 

 

 そうして、慎の長い一日の始まりとなった。

 中等部のクラスが一つ、廊下を駆け出し外へと出ていく。

そんな騒ぎを百舌鳥野や薔薇咲が聞き逃すわけもない。

いの一番に駆け付けてきて、ボコボコにして連れて行こうとしていた。

 

「女子を泣かす非道な悪人、許すまじ、ですわ」

「そうなのです。絶対土下座させるのです!」

 

 月夜が涙目になった件がどんなねじ曲がり方をしたのか、初日から女子生徒に酷いことをして泣かせた極悪非道な転入生ということになっていた。

天下五剣が泣いたとは信じられなかったらしく、女子生徒(・・・・)という曖昧な人物表記となったのは、月夜にとって幸いの一つだった。

 

「アハハハハハ、武装した女子生徒に追い掛け回されるとかナニコレ。てか鞭こわっ!?」

 

 この時、ある意味夢見心地だった彼はリミッターが緩んでおり、さらに現実逃避のため脳内麻薬が過剰に分泌されていた。

フラフラと鞭や警棒の軌道を見切って避けていく。

時折クルクルと変な回転で避け笑うその姿は、若干名の女子から引かれていた。

そしてそんな大騒ぎをしながら、高等校舎まで逃げたのが運の尽き。

 

「これはいったい、何の騒ぎだ」

「あ、輪お姉さま! こ、これは、その……」

 

 言いよどむ百舌鳥野を一度見た後、顔を覆う(・・・・)鬼の仮面をつけた少女はジロリと慎を睨みつけた。

 

「確か、今日来たばかりの転入生だな」

「え?えぇ、そうですけど……」

「この騒ぎは何だ?貴様の矯正は因幡に任せたはずだが」

「…」

 

 ピクっとその名前に反応する。

そして、彼女が日本刀を帯刀しているのを見た後――言葉を投げかけた。

 

「……先輩って、天下五剣って人?」

「あぁそうだが?それとこの騒ぎに何の関係が――!?」

 

 ドンッと距離を一歩で詰めた(・・・・・・)慎に驚愕する鬼瓦輪。

 

「月夜ちゃんが僕の矯正係で四六時中一緒に居るようにとかそんなふざけた決定を下した、あの五剣ですか!?」

「は?……ハァ!?」

 

 そしてこの時、不幸にも一つ慎が勘違いをしていた。

何時も模擬刀を帯刀していたのが普通(・・・・・・・・・・)だった月夜が、五剣の一人だなんて思っていなかったことだ。

つまりこの時、彼の中では無垢な月夜に変な命令を下したおかしな連中=天下五剣、という図面が出来上がっていたのだ。

 

「冗談にしても酷くないか、というか月夜ちゃんに一体何を命令してるんですか、つぅか社会的に僕を殺したいんですかそれなら実力行使でいっそ殺せぇええええええ!!!!」

「ちょ、ちょっと待て。落ち着け!!」

 

 肩をグラグラ揺らされながら、鬼瓦輪は慎が混乱していると察した。

一喝して落ち着かせようとするが、それはむしろ逆効果となる。

 

「落ち着け?あのなぁ、武装女子は別にまぁ慣れてっし問題なかったけどさ……転入初日から化粧男子とかヤバイもんを見るわ女子の目つきは怖ぇし、月夜ちゃんがなんか凄いこと言い出すし、追っかけまわされるし鞭めっちゃ怖いし……限界なんですよぉぉおお!!!」

 

 ここに至るまで鬼瓦輪が理解できていなかったことは、慎の精神があまりにも一般人(・・・・・・・・)のそれだったということ。

 

(いったい、どういうことだ?)

 

 不良グループを打倒し、暴力組織を壊滅させたという不良。

想像ではもっと荒々しい物だと思っていたため、勝手なギャップに戸惑ってしまう。

 

「よく分からんが――離れ、ろ!!」

「おぉ!?」

 

 抜刀し、刀を振るうことで距離を取らせた。

一度ぶっ飛ばして物理的に落ち着かせた方が早い、そう決断した彼女はさらに刀を振るう。

振り上げたそれを振り下ろすだけだが、それも相手の視線を考えて振るえば一つの技となる。

 

 鹿島神傳直心影流――刃隠の剣!

 

 真正面からでは手元によって刃が隠れてしまう、もとい隠すことで相手に太刀筋を読ませない技。

刃が見えた時にはすでに眼前に迫っており、避けることは不可能――の、筈のそれを、慎は避けて見せた。

 

「あっぶな」

「……今、どうやって?」

「え?いや、普通に?」

 

 そう、普通に見て避けた(・・・・・・・・)。彼にとってただそれだけだが、どれだけおかしな動きをしたのか、自覚は持っていなかった。

振り下ろされた刀を見つめる胆力も凄いが、それ以上に見てから動いたのでは普通避けられない。

なのに無理やり避けて見せた。

 

「なるほど……そういうことか」

「?」

「お前のことは聞いている。常識が通用しない、と」

「失礼だな!?」

「事実そうだ、ろ!」

「うわっ!?」

 

 今度は見ずに避けた(・・・・・・)

 

「今度はどうやって避けた?勘か?」

「え、まぁ、そうですけど……?」

「なるほどなるほど、文書通りというわけだ」

 

 この時、彼女の脳裏には丁寧に読み解いた慎に関する書類の内容が浮かんでいた。

 まず、リミッターが外れていること。

これによって常識外の動きを見せる。さっき一歩で近づいてきたのも、見て避けるという離れ業もその一つ。

さらに脳内麻薬の効果によって倫理観や危機感が薄れている。近づいてくる刃を見ていられる事から納得した。

 そして、暴力団組織とのやり合いの中で生まれた、刃物や銃弾等といった物にさらされたことで得た、身の危険に対する潜在的な恐怖心(・・・)

脳内麻薬ではどうしようもない、本能に刻み込まれた恐怖は、並外れた回避能力(・・・・・・・・)につながっている。

 

(リミッターを外す行為にも限度がある。行き過ぎると直ぐに体が壊れると書いてあったことから、今は緩んでいる程度なのだろう……早めにケリをつけねばな)

 

 そして、文書の最後に書かれていた最重要事項。

 

 未だ彼は上記をコントロールできていない。そのため、一度緩むと自力で再度掛けなおすことが困難。

故に――。

 

(第三者によって、物理的、もしくは精神的に落ち着かせなければならない)

 

 転入初日で精神も昂っており、ただでさえ緩みやすい状況。

その中での混乱。慎の枷はどんどん外れていっていた。

 

「どうやら色々誤解があるようだが――悪いな、私にはこれくらいしかしてやれん!!」

「わわ!?ちょ、ギャー!!」

 

 意を決して刀を振るう鬼瓦輪に対し、一件ふざけた様子で避ける慎。

本人は凄く真剣で、寧ろその真剣さのせいで動きが並外れていく。

足捌きは素人なのに、動きがハチャメチャすぎて読み取れない。

 

「ハぁぁあ――んんんン!!」

「ッ」

 

 鬼瓦輪が特殊な呼吸をした瞬間、圧が上がったように(ゾッとする恐怖を)感じた慎は、近くにいた女子から警棒を素早く奪うと、振るわれた刀に当てて弾いた(・・・)

 

(阿吽の呼吸での全力の振り下ろしを、片手で!?)

(手がちょっと痺れたぞ、何なんだこの人?)

 

 両者ともに驚くが、驚きの内容が違っていた。

慎はど素人。故に、パーリング(逸らし)なんて意識していない。そのため、真正面から刃と棒が交わったことになる。

阿吽の呼吸というのは、いわば無駄ない筋肉の使用になる。正しい姿勢で振るわれる刀の威力は相当なものであり、それを無駄ない力を絞って振り下ろされたのだ。刃挽きされているとはいえ、人の骨程度ならばバキバキにできてしまうだろう。

 そんな威力を、一見軽い様子で弾き飛ばしたのだから、驚きはかなりのものだった。

 

「ちょ、と、うわぃ?!」

 

 三斬ほどで警棒はひしゃげ、使い物にならなくなってしまう。

逃がさないように遠巻きに囲んでいた女子生徒は、苛烈になっていく鬼瓦輪の攻撃の邪魔にならないようにと、距離を取ってしまっていた。

そのため、近場のレンガ(石ころ扱い)を掴んで刃に当て弾く。

 

「私の振るう刃に、此処まで合わせてくるとはっ」

「いや、だって防ぐ方法これくらいしか、っ」

 

 目がいいだけではすまされない。動体視力が常軌を逸している。

だが、これはリミッターがどうこうではない。

 月夜の一瞬三斬を必死に見ようとし、そして見続け憧れてきたのだ。速度でずっと劣る彼女の剣閃に合わせて動くだけならば、たやすい。

小学生時代の人間離れした出会いと技は、観るだけでも彼に力を与えていた。

 

「お?」

 

 防いでいた慎が、一瞬斜めに当てたことで始めてパーリング(逸らし)が出来た。

その偶然の一度でジャリッと軽い手応えで刀を防げたことに気づいた。

 

「なに?」

 

 そしてその一度で、彼はモノ(・・)にしてしまった。

振るわれる刃を次々に逸らしていく。

 

(これは、長期戦はまずいか……もとより、そんなつもりはないが!)

 

 慎の天性の冴えと感性(・・ ・・)に驚きながら、冷静に追い詰めようとする。

 逆に慎は鬼瓦輪という少女の刃を逸らせるようになったことで、相手の技量の高さを感じ取り、称賛を挙げていた。

不良にも暴力団にも、何人か武道を嗜んでいた人がいた。

その人たちのせいで刃や銃、いっそ拳、掌にすら恐怖心が根付いてしまったのだが、お陰で彼女の力量を正確に測れることが出来ていた。

 

「つっよいなぁ、ほんとに高校生ですか!?」

「その私を相手にしているお前は、一体何なんだ!!」

 

 言いながら、決めに入る。

剣筋が足元に変化し、それを避けられた瞬間斬り上げ、それをいなされた途端に振り下ろす。

三コンボのそれは、初心者にどうにかしろというのは酷な話だ。

相手が普通の者ならば、確実にこれで倒れていただろう。

 

「――ただの、」

 

 だが、慎はそうならなかった。

リミッターが緩むのは、別におかしいことではない。大声を上げれば緩みやすく、ハンマー投げの選手などが叫ぶ理由、その例の一つとして挙げられる。

だが、火事場の馬鹿力と呼ばれる程外れるのは、基本危機的状況だけである。

その領域まで簡単に足を踏み入れるその精神は、絶対どこか破綻しており――。

 

「不良だ……よ!!」

「ッ」

 

 ――普通ではない(ただの枠に収まらない)

足元に変化した刀を一歩、軽く下がり片足を上げ、渾身の力で振り下ろした。

刃挽きしてあるからできた行為。自分で壊さない為に(・・・・・・・・・)丈夫な靴を履いているとはいえ、本来なら足が真っ二つにされかねない。

だが、頑丈な靴と刃挽きしてある刀。そして何より、常識はずれの馬鹿力(・・・)によって刀が地面に沈んだ。

 そしてそのまま逆の脚を振り上げ、彼女の顎を掠めた(・・・・・)

 

「ほいっと」

「な、あ!?」

 

 脳を揺さぶられ、感覚がおぼつかなくなった所で肩を押すことで、彼女を倒した(・・・)

五剣の一人を倒したその事実に周りが驚愕し、言葉を失くす。

慎を畏怖やら怒気やらの視線が集中される中、居心地が悪くなった彼は……。

 

「えっと……し、しつれいしまーっす」

 

 苦笑いを浮かべながらそそくさとその場を再度走り去っていった。

 

「くっ、待て……ダメか。のの、携帯を」

「……は、はいなのです!」

 

 五剣の一人として、このまま放置はできない。

だが、彼女は動けそうになかった。

故に、方法は単純明快。他の五剣への通達――そしてそれが、慎にとって災難となってしまう。

 

「ほほぅ、ずいぶん面白そうな転入生じゃの。しかし、手のかかる小僧だ」

 

 花酒蕨は少し考える。

流石に人を殺すことまではしようとは思わなかった。目的は矯正、だがそれだけではつまらない。

しかし今度の転入生は種目(・・)を多くそろえると自滅しかねない。

故に、彼女は今の状況をそのまま使うことにした。

 

『ぴんぽんぱんぽーん、なのじゃ!』

 

 放送室に飛び込んだ彼女は、そのまま特大イベントを発表した。

 

『さぁさぁ、皆の者よく聞くがよい。今宵のワラビンピックの開幕じゃ!』

「は、え?わ、わら……なんて?」

 

 愉し気な声と、周りも静止したことによって思わず慎も足を止めてしまう。

 

『ちょいと急だったので種目は一つのみ!転入生の……えっと、稲津慎、こやつを捕まえた者に褒美を取らす!!五剣の褒美じゃ!ちょっとした無茶くらいは叶えてやるぞ!』

「ハァ!?」

『ちなみにわらわが勝ったら、自分へのご褒美として皆の一日をもらおうかのぅ』

 

 その言葉に、一体何人が顔を青くしただろうか。

彼女が一日どんな滅茶苦茶なイベントを開くのか、考えただけで恐ろしい。

 

『さぁ、転入生対学園生、盛大な追いかけっこ開幕じゃ!!』

「……うっそだろ?!」

 

 その瞬間、あらゆる理由で彼を追いかける人数が増え、その本気度が上がった。

この放送主の声に恨み言を心中呟いた彼は、必死に走った。




登録百人到達ありがとうございます!
何だかもうちょっと書けそうなので、一応連載に切り替えました。
が、そんなに話数は増えない予定。
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