ガッカリしてください!   作:((+_+))

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白兎はひた走る

 正直な話、慎の精神状態は五剣の予想以上にガタついていた。

ただの一般人である慎にとって、武装しているだけでも恐怖の対象なのだ。

不良や暴力組織の中には、当たり前の様に強い女性が居た。そのため、彼の中で性差による危険度の変動は実はない。

 男女平等という意識が悪い意味で慎の脳裏にこびり付いていた。

この元女子高の女子たちにとって、男子というのは野蛮で傲慢でおっかない生き物なのかもしれない。だが、慎にとっては武装していたり武術をそれなり以上に出来る人間は、十分おっかない生き物なのだ。

 

 詰まる所、そんな人間ばかりの空間で、そういう人間に追い掛け回されるという状況は慎の限界を徐々に消失させていった。

 

「このッ!!って、え?」

「へ?」

「あ、うえ?した?よこ???」

 

 ドンッと地面を、()を、天井(・・)を駆け回る慎。

縦横無尽という言葉をそのまま体現しているその異常さに、女子生徒たちが全員目を剥いて驚愕した。

 

「まったく、しょうがないですわね」

 

 そんな彼に立ち塞がれる(・・・・・・)のは、もはや天下五剣と呼ばれる程の実力を持っていないと不可能だ。

 廊下を曲がった階段の踊り場、そこに立ち塞がるのは亀鶴城メアリ。

彼女は別に景品に興味はないし、同じ五剣の問題児が何か非常識なことをするつもりならば、それを実力を持って阻止するように動くだけだ。

 ではなぜ彼の逃走を邪魔するのか。

理由は簡単で単純明快。

 

「天下五剣として、放置はできませんわ」

 

 今は常識離れしてしまった治癒力が働いているため動けるが、このままでは勝手に潰れてしまう。

天下五剣が預かると了承し、()正すると言い放ったのだ。

吐いた唾を呑むような趣味は彼女にはない。

 それに何より、彼女は天下五剣として今目の前の問題を止めないという逃避を認めるわけにはいかなかった。

 

「ノブレス・オブリージュです。お相手して差し上げますわ」

 

 そう言って構えるのはレイピア。

先端が尖っており、本来両刃のそれは非常に慎の恐怖心に引っかかった。

しかし背後には今まで避けてきた武装少女達がいる。

故に、慎はそのまま強硬突破を仕掛けた。

 

 そして、その行動を慎はその後結構長く後悔することになる。

 

 突き込まれた刃を、躱す。そしてそのまま斜め上へ――跳躍しようとして、強烈な痛みを感じ思わず下がった。

 

「痛っなんで!?」

「ジュタージュ………と言っても、貴方には分からないようですわね」

 

 相手の肩口から背面を狙う剣技の一つ、それがジュタージュ。

簡単に言えば、剣先をしならせる(・・・・・)ことで相手の意表を突いた攻撃となる。

 

「降参するまで、どんどん行きますわよ!」

「う、ぐぅっ!?」

 

 レイピアの連続刺突を躱そうとするが、その殆どがしなって躱した後の崩れた姿勢を突いてくる。

しかも、その突き箇所は狙っているとしか思えないほど、痛覚が認識しやすい場所ばかり。つまり、痛い上にその残滓が残る。

 

(この人の攻撃、痛い……――怖い!)

 

 このまま穴だらけにされると感じ、事実銃弾で体に穴の空いた経験のある彼は、そうなった自分の姿と痛みを空想してしまう。

そうしてまた、彼のリミッターが一つ外れた。

 

「――」

 

 ドドドドンッと鈍い音が校舎に響く。複数の轟音は、純粋な脚力によって放たれたものだった。

その威力は、足跡状にひび割れた両の壁(・・・)が露わにしている。

 

(三角跳びに壁走り!?ニンジャのような移動手段ですわねっでも!)

 

 亀鶴城メアリの刺突範囲は、スッポリと踊り場を覆っている。

どんな変則的な高速移動を試みたところで、彼女の攻撃範囲(キリングゾーン)から逃れられはしない。

 

「そこですわ!!」

 

 勢い良く突き出されたレイピア。あり得ない移動術に虚を突かれたが、それを瞬時に立て直し、壁の破砕痕から飛び込んでくる場所を予測して見せた。

もう一度やれと言われたとしても、絶対出来はしない。亀鶴城メアリの集中力と観察眼、そして純粋な運が味方した瞬間だった。

 

「―――」

 

 それに対し、慎は何も反応を示さない。否、何も示せない(・・・・・・)

枷が外れた彼の速度(・・)は既に人間のそれを超えている。走馬燈の様なゆっくりとした体感時間の中、彼が喋る暇などありはしない。恐怖の感覚と身体の反射に身を任せながら、薄れる危機感(沸起こる興奮)利用して(愉しんで)前へと進む。

 

「――ぇ?」

 

 行われたことに、亀鶴城メアリは呆然としてしまう。

確かに突いたはずのレイピアは、片手で白刃取りされ(掴まれ)、そのまま直上へと投げられた。

投げられたレイピアは天井へと深く突き刺さり、柄部分しか見えていない。

 

 だが、問題はそこではない。

 

「今、何が……?」

 

 集中していた、運がよかった、予測していた、予測場所は当たっていた。

なのに、気づけば(・・・・)その手からレイピアは失われていた。

彼女の五感は勿論、第六感と言われる純粋な()ですら捉えることは適わなかった。

 最後の最後で圧倒され呆然とする彼女を置いて、慎はさらに加速する。

 

 

 一人ポツンと残された月夜の懐から、機械音が鳴った。

目尻に溜まったソレを拭いながら、ゴソゴソと鳴っている物……携帯電話を取り出した。

盲目の彼女は携帯を扱えない。だが、携帯をワンプッシュして通話に出ることや、長押しすることで登録してもらった番号へかけることは可能なのだ。

 ちなみに言うまでもなく操作したのは自分の従者であり、彼女の携帯電話にはその従者と自分の親族しか未だ登録されていなかったりする。

 

「……もしもし」

「あ、もしもしお嬢?なんか学校が大変なことになってやがりますけど、大丈夫ですか?」

「えぇ……だいじょうぶです」

 

 さっきまで涙が零れないよう必死だったなどと言えるはずもなく、電話の相手……自分の従者であるエヴァに心中を誤魔化し伝える。

そして改めて精神を集中させ、校内へと耳を澄ました。

 

「…………前言撤回です、大丈夫じゃないかもしれません」

 

 どうやら五剣のうち二人と戦ったらしい彼。

校内は既に彼の実力を五剣並みと判断したらしく、一般生徒は遠巻きに観察しているだけの様だ。

だが、自分を抜いた残る五剣二人はむしろやる気になっている。

 

――へぇ、面白い子だなぁ。ちょっと遊んでもらおうかな~?

――ふむ、想像以上の盛り上がり様じゃ。さーて、賭けはどうなるかのぉ?

 

 一言、しかしハッキリとその呟きを聞いた。

取り合えず学校を賭場にしている花酒蕨は後で止めるとして、それ以上の問題(・・・・・・・)に耳を向けた。

 

「彼の身体が悲鳴を上げ始めています。未だ持つでしょうけど、早く止めなければいけません。エヴァ、手伝ってください」

「はい、承りましたよ。ちょうどこっちの方が近いですんで、ちゃちゃっと行ってきますわ」

「今の彼は危険ですが、慎重にお願いします」

 

 電話を切り、はぁとため息を溢してしまう。

彼の身体能力の高さ……というよりも、無茶のしやすさには驚かされる。まさか五剣を相手どって未だ無事とは、信じられない。

彼は動きは素人そのもののはずだし、天下五剣の彼女たちはそれなり(・・・・)だと思っていた。

 

「……ガッカリです」

 

 彼女たちなら止められる、そう思っていたが甘かった。

止められない彼女たちにもそうだが、想定が緩すぎた自分に対しても彼女は気落ちしていた。

 だが何時までもそうしていられない。

月夜は顔を上げると、急いで彼の元へと走った。彼女は雲耀の速さに至れるが、実際長距離を走るとなるとそんなに短時間の記録にはならない。

 こういう時、自分の幼さと病弱さが恨めしく思う。

もし、彼と同い年……せめてあと2つは年が近ければ。もし、もうちょっとだけ身体が丈夫ならば、ずっと速く駆け付けられるのに。

 

「……もどかしいですね」

 

 ガッカリという言葉にせず、改めて自分の胸の内を表現する。

もどかしいだけならばガッカリだけだったかもしれないが、それ以上の感情が胸の奥で燻っていた。

それをガッカリなんて言葉で纏めたくはなかった。

 

(……もっと速く……はやく)

 

 速く動け、進めと自分に命じる。

行き成りのことで彼を混乱させたのは分かっていた。彼の動揺の激しさにも問題があるが、自分に非があることも認めよう。

逃げられたことは凄く、すごく痛かったけども、でもやっぱり落ち着いたらやりたいことは一つだった。

 

――はやく、会いたい。

 

 話したいことがある。聞かせたいことがある。聞きたいことがある。

番号の交換だってまだだ。初めてのお友達の彼を登録したくてたまらない。

 会わなかった二年間。自分はこの二年を長く感じていた。会いたいのに場所は遠くて、声を聞きたいのに連絡手段は無くて、ずっとうずうずしていた。

もう二年間()もどかしさを感じていたのだ。これ以上我慢なんて出来るはずもない。

 

 彼が来ると聞いて、ずっと駆け出したくてたまらなかった。

ホームルームどころか、彼の住所を聞いてからずっと行きたくて仕方なかった。

でも堪えた。だって、自分から友達に会いに行くとき、何と言っていけばいいのか、どういう理由で赴けばいいのか、よく分からなかったから。

 そして、五剣の報告という大義名分が出来た、というより勝ち取った。

自分で彼の矯正役になると立候補した。彼と一緒に居られる言い訳が出来た。

 

「ハッ、ハッ、ハッ……!」

 

 そして彼をびっくりさせ、今の状況になって……ようやく、友達に会う理由(言い分)が理解できた。

会いたいのだ、話したいのだ、一緒に居たいのだ。

こんな単純なことでいいのだ、と。無意識のうちに理解できた月夜は止まらない。

呼吸が乱れるほど、息を切らせてただ只管に走るなんて初めての経験だった。

 こうしている間にも彼の戦いは過ぎていく。

エヴァと対峙して、五剣の二人ともそれぞれに出会っている。

あぁなんで自分が最後なんだとぶつけ先のない憤りも覚えながら、彼女はただただ走った。

 

「え、因幡さん!?」

「ッ失礼、します」

 

 いつもはクールビューティな彼女にしては珍しいどころか、初めての姿に一般生徒たちが驚き、道を開ける。

頭の片隅で有難く思いながら、最短ルートを行く。

見かけが幼いからと言って、五剣である彼女を止める者などいない。

何事かと奇異の視線も感じながら、そんな要らない情報を無視し、一直線に彼女は慎の元へと向かった。




 急にお気に入り数と評価が増え、目が点になっておろおろしてあたふたして冷静になろうとしてなれなくてそれでもどうにか一息落ち着くまで時間がかかった、そんな豆腐メンタルな私です。
連載効果というやつなのでしょうか……ビックリです。有難うございます。(←今もあまり冷静じゃない人
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