ガッカリしてください!   作:((+_+))

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そうして今はこの有様です

 黒い毛皮、大きな四足に鋭い爪。

慎の目の前に、誰も見間違いなんてしないであろう熊がいた。

しかも子熊ではなく、普通に大人の――。

 

(いや、なんで熊?ていうか熊?え、熊??)

 

 目の前の現実を受け入れるのに数秒かかりつつも、どうにか呑み込み熊から金髪の少女へと目線を変えた。

視界から外すつもりはないが、どうしても熊が目に入って仕方がない……とても怖い。

 

「えぇっと……いややっぱ気になる。その熊さんはなんですか?」

「ん?あぁキョーボーのことか、なぁに見ての通りわらわの相棒よ。気性は穏やかな子じゃから、安心せい!」

「は、はぁ。そう、ですか?」

 

 身体中の大きな傷跡とキョーボー(狂暴)としか聞こえない名前からして全然穏やかそうに見えないのだが……まぁ、今のところ大人しく控えているだけなので、その言葉は一応信じておこう。

内心テンションに任せて突撃したことを非常に後悔しながら、それでも言っておきたかったことを伝える。

 

「悪いんですけど先輩、ワラビンピック、でしたっけ?取り止めてもらえません?」

「それは出来ん、と言いたいところじゃが」

「?」

 

 答えは想像していたのと少しズレていた。

此処まで大騒ぎになったコレを簡単に終わらせるなんて却下されると思っていたのだが、見かけ少女の先輩は困ったようにこちらを見た。

 

「おぬしが意外と頑張ってくれたおかげで、もうこれ以上の盛り上がりは期待できそうにない。しかし、わらわ自身賭けておっての。引き下がるなど出来ん」

「トップが賭けっていいんですか……?」

「それが許されるのが天下五剣というものよ。さて、そこで提案じゃ」

 

 ザっと背後に気配を感じとる。

扉を蹴破る際に無視した三人と、同じ背格好の人が大勢部屋の外をかこっていた。

その中にはカメラを回している人までいる。どうやら全員彼女の配下の者のようだ。

 

「天下五剣、そのうち三人を破ったおぬし対、わらわと三獣士。最後の賭けを行おうではないか」

「……これ、脅迫じゃないですか?」

「敵陣に真っすぐ突っ込んできたのはおぬしじゃよ。それで、どうする?」

「どうするって、受けるしかないでしょ」

 

 こっちはもう限界だが、この人数全員と相手するより、彼女とその三獣士とやらを相手する方がまだ勝率がある。

というか、三獣士ってなんだ、熊のほかにもいるのだろうか。虎とか……いやいやいや。

 

「えっと、ちなみに三獣士っていうのは誰のことです?」

「ん?あぁ、おぬしは知らぬか。リーダーはこのわらわ、花酒蕨(はなさか わらび)。そして三獣士とはまず、そこにいる東狐(とうこ)じゃろ」

 

 扇子を持った細目の金髪美人さん。どう見ても人間の美人さん。虎じゃなかった、良かった。

 

「次にその隣の狸原(たぬきはら)

 

 黒髪ロングで瞳が大き目の美人さん。こちらも人間で心底安心。

 

「で、キョーボーで三じゃ」

「あ、やっぱりキョーボー……先輩?は入るんですね」

「ハハ、キョーボーは生徒じゃないゆえ、先輩(敬称)は付けんでもよい。ん、ではついてまいれ!流石にここで暴れるわけにはいかんからのぉ」

 

 何だか嬉しそうな少女先輩についていく。

まぁ放送機材やらなんやらがあるわけで、確かにここで暴れると怒られるだけでは済まなそうだ。

 

「そうそう、扉の破損代はおぬしが払うようにの?」

「うげっ」

 

 教訓として、時としてハイテンションに身を任せると面倒なことになる、と慎は学んだ。

 

 

 

 追いついた月夜だったが、既に彼女の介在を許す状況ではなくなっていた。

校庭の中央に半径100mほどの丸い円が描かれ、その中央に三獣士と蕨、彼女たちの前には慎が立っている。

そして四人と一頭の邪魔をされないように囲っている蕨の配下たち。

 

(厄介なことになりました……)

 

 月夜の実力ならこの程度の囲い、突破するなんてわけはない。

だがこれは既に決闘、試合である。いくら彼女が天下五剣であり強者だからと言って、他人の決闘に自分の口、もとい「武」を挟むのは矜持に反する。

 

(いえ、しかしもう彼は限界。これ以上は――)

「あれぇ、どこいくのぉ?」

 

 やはり無理にでも介入しよう、そう決めた月夜だったが、背後からの声に立ち止まる。

 

「………もう起きたんですか、眠目さん」

「ん~、まぁまだフラフラするけどねえ~~」

「マコ君が優しくて、何より未熟で助かりましたね」

 

 本来の雲耀の速力を攻撃にそのまま変えたとしたら、気絶では済まなかっただろう。

それもあんな滅茶苦茶な雲耀の攻撃ならば、骨は容易に砕いたはずだ。

まだまだ未熟で、速度で言えば瞬光の足元程度だろうが、攻撃力だけならば馬鹿力も合わさって……人などスプラッタに出来るだろう。

 顎に掠らせるという温情と、雲耀を初めて使ったという未熟。この二つが合わさったおかげで、眠目さとりはこのタイミングで目覚められたと言ってもいい。

 

「それで、どうするのかなぁ~?まさか、あの中に割って入る気ぃ~~?」

「……そうだとして、貴女にどういう関係が?」

「ん~、ただちょっと、彼の底力(・・)に興味があるかなぁ~~」

「既に底力なんて尽きかけてますよ」

 

 武装生徒たちからの逃走、天下五剣との連戦、そして今この状況。

肉体的にも精神的にも限界のはずである。今彼が立っていられるのは、脳内麻薬によってハイテンションが維持されているからだろう。

 

「ふふ、人ってねぇホントに分かんないんだよ~?」

「……彼を使って未知を知りたい、と?」

「限界を超えられるんでしょ?きっとボクが出来ないようなことが起こるんじゃないかなぁ~~――なぁんてね?」

 

 嘘か本当か、月夜でも動悸や体の動きからそれを判断することはできなかった。

ただ、背後に立った彼女は言外に告げていた。

 

――邪魔をするな、と。

 

 

 

 さぁてどうしたものか、そう考えてもいい案は浮かばない。

慎にとって今自分が動いているのが自身でも不思議でたまらないのだから。

身体中が痛いことから、何となくヤバい状態であるという曖昧なことくらいしか分からない。

ただ言えることは一つ。

 

(多分、もう身体保たないぞコレ……)

 

 問題は熊だ。あの巨体はいったい何キロあるのだろうか?少なくとも300キロは難いだろう。

となると一番に狙うのは熊。そのほかは後回しということになる。

 

「さぁて、それでは」

「グルル」

「っと、落ち着けキョーボー。スタートはまだじゃぞ」

 

 人が集まったことと、ハイテンションが相まって若干やる気になっている慎に当てられたのか、熊さんが唸った。

それをポンポンと撫でているが、そんなので落ち着くわけが……。

 

「バゥ……」

(すげぇ、落ち着くんだ……!?)

 

 流石飼い主ということだろうか。あんなに怖さを感じさせていた熊が、心なしかデフォルメ化している気がする。

今からアレと戦わなければいけないのか?

そんな疑問と戸惑いが浮かぶ程度には、普通に可愛らしい動物にしか見えなくなっていた。

 

「それでは、改めてルール説明じゃ。なぁに簡単なルールじゃよ、手負いのお主でも勝機があるようにしておいた」

「それは有り難いですけど、どんなルールですか?」

「この円枠の外に出るか、倒れたら負け。以上じゃ」

「ハハハ、そいつはお優しいことで……」

 

 シンプルだがそれがどれだけ難しいか。

そもそもあの巨体の熊をどう倒せと?色々頭の中で考えるが、碌なアイディアは浮かばない。

 

(いや、もう考えんのやめよう………五体満足なんて無理そうだし)

 

 思考、知恵というのは素晴らしい人間の武器だ。

だがそれは時に恐怖や躊躇を生み出し、身体の動きを阻害することがある。

3対1という状況の中、頭を回している時間は無いだろう。

直感的且つ反射的にこなさなければ、きっと負ける。

 

「あの娘が合図じゃ、よいな?」

 

 髪型も顔つきも似たような女子生徒のうち、一人が旗を持っていた。

その旗を振り上げ、その後振り下ろしたらスタート、そういうことらしい。

 

「コココ、姫様の手を煩わせはしないわよぉん」

「ん、さっきの不覚……汚名返上するぽん」

 

 東狐と狸原の二人がやる気を上げて一歩前へ出た。

さっきのことというと、恐らく扉を蹴破られたことだろう。下級生、それも中学生にしてやられたことが、彼女たちにとっては汚名らしい。

 

「…………スゥ」

 

 旗が振り上げられるのと同時に、呼吸を意識する。

天下五剣との戦いで、何となく呼吸による切り替えが分かってきていた。

音はならないが、頭の中でカチッ(・・・)とスイッチが入るような感覚を起こす。

 全てがスローになり、旗が振り下ろされるまでがじれったくなる。

ドックンドックンと心臓の鼓動が煩い。殺気のような闘気が相手から感じられる。そのやる気が視線に乗せられ、目の前の三人と一頭が自分のどこを見ているかが予測できる。

 

(まだ……未だ………)

 

 視界の端で振り下ろされる旗。

降り降ろされ切った瞬間が開始だ。

意外にも相手は律儀にルールを守るらしい。同じく視界の端に旗を収め、しっかり振られるのを見ていた。

 そして――降り降ろされた瞬間、スタートダッシュを切ったのは慎だ。

 

「コッ!?」

「ぽン!?」

 

 先輩二人が駆け出そうと重心を前にしたその時には、慎はその身を深く沈ませ、二人の()にいた。

不可視とはいかないが、それでも人間としてはあり得ない速度。その理由は、単純な力任せである。

その証拠に彼がいた場所は砂煙が立ち昇っている。

 そもそも二人は慎が熊を警戒して近寄ってこないと踏んでいたのだろう、直近された瞬間が隙だらけになっていた。

 

「すんませんッ!」

「「ゥグッ」」

 

 グイっと襟首を掴み、観客の居る枠外へと放り投げた。

先輩二人は観客である武装少女たちに受け止められるも、ルール上敗退だ。

 

「ハハ、近寄ってくるとはな!次はどうするつもりじゃ?逃げ場はないぞよ!」

「グオォオオオオオオ!!!」

 

 元々円枠は広く作られていた。

恐らく、三獣士相手に逃げ回る慎を(見物)にしようとしたのだろうが、こんなボロボロの状態でそんなことに付き合うつもりはない。

 そもそも熊相手に追いかけっこできるなんてあり得ないのだが……それが出来るのが彼である。

 

「――」

 

 思考は捨てた。反射と勘のみで熊と人のコンビネーションを捌く。

二足歩行でボクサーの動きをしながら寄ってきた熊には多少驚いたが、ボクシングというなら彼は体験していた。

ヤクザや不良の中には、ボクサー崩れと世間一般で呼ばれる人種がいたからだ。

 ボクサーのパンチと熊のパンチ、実はそこまで差がない。熊のパンチ力はプロボクサーとどっこいどっこいだとか。

だが問題はそこではなく、爪があるというのと、振り下ろし(・・・・・)だ。

人の肉どころか骨すら断つであろう爪は勿論、二足歩行となったことで重さが十分乗せられる熊の振り下ろしも厄介だ。

何せ、常人ならば(・・・・・)即ミンチである。

 

「ハ?」

 

 故に、慎が行ったことを全員が目を疑った。

人と熊が左右を激しく交差させながら、熊の引っ搔きと人の刃が慎を襲った。

まさに人獣一体の攻撃に対し、慎の勘は避けきれないと判断。

行われた反射として、振り下ろされた爪を蹴り上げ(・・・・)、胴を狙って来た刀の側面を殴った(・・・)

 熊の三百キロを超えるであろう体重が乗せられた振り下ろしと、花酒蕨特有の、円を描くようにして身体を捻った振り回しの全力一刀が見事止められた。

 

「グッ、ガァアアアアアアアア!!!!!」

 

 脚、腰、背骨、拳、腕、肩と衝撃が伝わり、全身がビキビキと異音を発したような気がしながらも、慎は止まらない。

目の前の熊が一瞬怯えるほどの咆哮を上げながら、蕨の腕を掴み、引き寄せ――そのまま熊にタックルした。

 

「お、お主――ぐェ?!」

「グォ?!」

 

 溺愛しているのだろう相棒の熊を自分の刀で傷つけるわけにはいかない蕨は、一瞬武器の動かし方を思考する。

熊は信頼している相棒である蕨を傷つけるわけにはいかず、一瞬動きが膠着する。

勿論、その後両者が狙うのは速やかな慎の排除だろう。

おそらく約2秒後にはその身軽さを利用した彼女が抜け出すか、抑えられたまま攻撃してくる。

熊、キョーボーも同様に狙いを定め直し、改めて攻撃してくるだろう。

 そして、今の慎にもう二度目は無い。

次同じ無茶を行えば、今度こそミンチ待ったなしだ。

 

「スゥ、ンガァアアアアア!!!」

「あ、アババババ!?!」

「?!!?」

 

 故に行ったことはシンプルだった。

キョーボーごと花坂蕨を持ち……そして、そのまま回転(・・)した。

ちなみにこの時、彼女を下敷きにキョーボーを持ち上げる(・・・・・)事も可能だったが、それをすると花酒蕨という少女が三百キロ以上の熊に潰されることになる。流石に自分の手で少女が文字通りプチっと潰れるのは避けたかった。

 流石に上下に振られながら回転されるのは初体験なのだろう、彼女もだが、何よりキョーボーが直ぐに目を回していた。

 

「そぉーらぁああ!!」

 

 十分な遠心力を生み出した後、ポーイっと一頭と一人を投げ飛ばす。

今度は観客を越え砂塵の上へ、キョーボーが下敷きになるように投げた。

 

「ハァ……ハァ……もぉ、無理」

 

 座り込む慎。もう彼には動く気力すら残っていなかった。

周囲は呆然とし、眠目さとりはケラケラ笑っていた。どうやら熊を振り回して放り投げるとは思っていなかったようだ。花酒蕨が目を回している様子もウケたようで、彼女の笑い声のみが暫く響いていた。

 

「ぐぅ、えぇい、喧しいぞさとり姫!」

「アハハハ、いや、だってキョーボーちゃんと蕨ちゃんのそんな姿見られるなんて思わなかったよぉ~」

「わらわとて、まさかキョーボーごと回されるとは、―ウプッ」

 

 相当振り回したせいでどうやら酔っているらしく、気分悪そうにしている花酒蕨。

しかし、このワラビンピックを開催した当事者として、最後まで責任を通そうとしているようだ。

 

「えっと、これで優勝は僕、でいいんですよね?願い聞いてくれますよね?」

「お、おぅ……なんじゃ必死よのぉ」

「もうこうなったら、天下五剣直々に訂正してもらうしかないですし。何より都合がいいんで」

 

 慎の要望は勿論、月夜との件である。

矯正方法ならもっと他にあるだろう、そっちにしてくれないか?、と。

しかし、それは叶えられなかった。

 

「いや、それは無理じゃ」

「なんで!?」

(うさ)姫直々の案じゃったからのぉ」

「うさ……あぁ月夜ちゃ―因幡さんか。天下五剣なら、一生徒の嘆願くらいなんともないんじゃ?」

「いや、兎姫が五剣だからな、それは本人に伝えんとなんとも」

「ゑ?」

「ん?」

 

 ここで、ようやく一つ誤解が解けることとなった。

 

「え、五剣?」

「うむ、兎姫は天下五剣じゃよ。帯刀しとるじゃろ?」

「いや、あの子は昔っからあぁでしたから……え、マジで?」

「マジじゃ。というか、そっちこそマジか?昔って兎姫は小学校からの飛び級じゃろ?」

 

 両者ともに何者なんだあの娘は、と驚いているとそんな二人の間に噂の少女がやってきた。

 

「……あの、いいですか?」

「ん、おぉ噂をすればというやつじゃの。どうした?」

「取り合えず――ほい」

「へ?」

 

 気づけば首筋に冷たい感触。

見れば抜かれた刀が当てられていた。

 

「って、え、なに?!なんで!?」

「今回のワラビンピックは、彼を捕まえた者に賞品を、でしたね?」

「あ、あぁ……そう、じゃの」

 

 さっきの決闘で終わらせる気満々だった花酒蕨だったが、どこか有無を言わさない様子の月夜に押され、思わずうなずいてしまう。

 

「では、これで私の優勝ですよね?」

「え?」

「あぁ……いや、しかしの」

 

「私の勝ちで――いいですよね?」

 

「「ア、ハイ」」「クゥぅ……」

 

 それともやりますか?という闘気が月夜から起こり、流石にもうそんな体力も気力もありませんと白旗を上げる二人とキョーボー。

皮肉なことに、この学園に来て始めて心を通わせた相手が、よりによってこの一人と一頭であった。

取り合えず怯えているキョーボーを二人でよしよしと撫でながら、月夜の用件を聞くことに。

 

「では、彼の外出許可が欲しいです」

「ま、まぁそれくらいなら別に……良いかの、鬼姫!」

「ん、ちゃ、ちゃんと矯正してくれるなら自分は構わないが……」

 

 天下五剣取締り役でもある五剣の一人、鬼瓦輪が外出許可証を所有している。

彼女の許可が無ければ、まずこの証明書一つ手に入らない。

彼に敗北したこともあるが、何より月夜の圧に負け、他の五剣も判子を押して渡す。

 

「……さて、フフ。行きましょうか」

「え?どこに?」

 

 とても機嫌の良い笑顔を浮かべた月夜は、慎の手を取り立たせた。

 

「勿論まずは病院です。相当無理をしたんですから。直ぐにエヴァが車で来てくれます」

「え、あ、え?あ、ありがとう?」

「はい。それと終わったら男子寮ではなく、女子寮に来てくださいね?寮の隣に貴方用の住まいを用意してあるんですから」

「ゑ?」

「言ったでしょう?貴方は私と衣食住を共にするんです。本当は寮内一緒がよかったのですが、流石に許可は降りませんでしたので、しばらくはテントで我慢してくださいね?

それと、この許可証は私が管理します。お姉さ……理事長にかけあって特別な許可もとるので、楽しみにしてくださいね?」

「え、ゑ……あれ?あれぇぇぇぇ???」

 

 慎は心底首をひねった。

おかしい、自分はこの幼女から逃げたつもりだったのに、何で気づけば逃げ場が無くされているんだろうか?

 

――え?逃げ場が無くなったのは暴れた自業自得?いやいや、花酒先輩がワラビンピックとかおかしなこと言いだすからでしょ?え、わらわ悪くない?ふっざけんなよまた回すぞっ……あ、キョーボーは回さないから、怯えないでよ……よしよし。

 

 最終的にキョーボーを使って現実逃避し始めた慎。

その日は暴れた罰として病院食すら抜きにされたが、四六時中月夜とエヴァが一緒に居たため暇ではなくなっていた。

そうして一般人なら半年は入院が必要な状態(殆ど自壊)だったのにもかかわらず、僅か一週間と数日で治してしまった彼は、改めて学園へ通うことになったのだ。

 

 

 

「………あの騒ぎも、まだそんな時間経ってないんだよなぁ」

「ふふ、噂をすればなんとやらですね。見てください、アレ」

 

 今日も今日とて一緒に朝食を食べ、一緒に登校していた月夜が指さした場所は、校門。

そこには、見事修学旅行先のハワイで焼けてきた花酒蕨先輩と、キョーボーがいた。

 

「あろーは!日本よ!共生学園よ!わらわが戻ってきたぞよ!!」

 

 どうやら、また一騒動起きそうである。

 

「取り合えずお帰りなさい、花酒先輩、キョーボー」

「お疲れ様です」

「おぉ、二人とも息災よな!」

「ガゥ」

「おーよしよしキョーボー……なんか先輩は焼けたけど、ちょっとキョーボーは逞しくなったような?ハワイで何してたんですか?」

「ん?一緒に泳いだり……まぁ色々な」

「熊と海で戯れたんですね……」

「相変わらず非常識です」

 

 小学校を飛び級した天才児で盲目抜刀剣士とかいう非常識の塊の幼女が何かを言っている気がした。

 

「今、何か失礼なことを考えませんでしたか?」

「きのせいきのせい」

「……まぁいいです。ほら、行きますよ」

「うん。じゃ、先輩失礼しますね~」

「うむ!」

「ガウガウ~~」

 

 手を振るキョーボーを見て思った。

 

「……キョーボーって、たまにデフォルメ化するのはどういう原理何だろう」

「でふぉるめが分かりませんが、まぁ深く考えない方がいいですよ」

 

 世の中には不思議な存在が多数存在する。この手を繋ぐ幼女を含めて……。

 

「やっぱり失礼なこと考えてますよね?ブッコロ案件ですか?」

「違う違う!いくら何でも朝からブッコロされるようなこと考えるわけないでしょ!?」

 

 女の子相手に頭を下げる姿は、見る人が見れば情けないと言われるかもしれない。

でも、この学園の生徒は皆口をそろえてこう言う。

 

 

――あぁ、また手を繋いだままイチャイチャと……砂糖吐きそう。

 

 

 なお、色々怖いため爆発しろとは言わない。えぇ、言いませんとも。

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