ガッカリしてください! 作:((+_+))
修学旅行から帰ってきた花酒蕨は、さっそくやらかした。
矯正を跳ね除ける納村不道に対し、ワラビンピックの開催を告げたのだ。
しかも彼への実力行使による矯正を失敗し、その後毎日の面倒を見ているような形になってしまっていた鬼瓦輪と亀鶴城メアリも巻き込んで見せた……らしい。
女子生徒の殆どが講堂から出る中、慎は外に出ていない。というか、
「凄いね、同じ五剣も巻き込めるんだ?」
「えぇ、五剣会議は票が同数になると年功序列で決まりますから。鬼瓦さんと亀鶴城さんは彼に付きっきりでしたし、私は貴方の面倒を見ないとなので」
「あー……つまり今の先輩を止められる人が居ないわけだ」
「そういうことです」
そう、
今日は全校集会であり、男子生徒は一番最前列のゴザの上で正座をして受けなければいけないのだが……慎は月夜命令で彼女の席で、月夜本人を膝に乗っけて集会を受けることになってしまっていた。
慎としては何が起こっているのか見てみたい気持ちがあるが、月夜は動こうとしないので彼にはどうしようもない。
月夜は聴覚で全部把握しているため、動かないでいいのだ。
(ん~、視線にさらされないのは良いんだけどなぁ)
この共生学園の男子生徒は、基本的に全員転入生だ。
そして元問題児達でもある。流石に中学生で大きな問題を起こす生徒は少ないのだろう。高等部には一クラス分ほどの男子生徒がいる中、中等部には慎含めて数人しかいないらしい。
「………見に行きたいですか?」
「へ??」
「いえ、私は把握できていますが、貴方がどうしても気になるんでしたら、外に出てもいいですよ……?」
そう言ってこちらを見上げる月夜。
背中はピッタリとこちらにくっ付けて来て、全身からもうちょっとこのままがいいという態度がありあり見て取れるのだが、彼女はこちらを気遣ってくれた。
健気で可愛らしいなぁとついつい頭を撫でてしまう。彼女が何も言わないので、この行動を止める人も咎める人もおらず、既に癖となっていた。
「んーん、いいよ大丈夫。巻き込まれるのも面倒だし、もうちょっとゆっくりしていたいかな」
「そうですか。そうですね、また変なことになるのは嫌ですよね」
語尾に音符マークが付きそうなほど上機嫌に何度も頷くと、さらに背中を押し付け、もっと撫でろと言わんばかりに頭を少し掌にうりうりと押し付けてくる。
はいはい、とその要望に応える。
(――ハッ!……可愛らしい行動に思わず頬が緩んでしまうが、これは月夜ちゃんが可愛いからであって、決して小さい子にアレコレなことを考えているからでは決してなく、強いて言うなら妹を甘やかしているお兄ちゃんな気分と言いますか、いや勿論彼女は妹じゃないし自分みたいな一般人が本来こんな距離感であることなんて相当レアだしそもそもこの状況は役得ではなく矯正が目的であってだから、そうだからこれは健全、健全な行為と感情なんでセーフ、誰が何と言おうとセェーフ!!!)
一体誰に言い訳をしているのかと聞かれると、自分にとしか言いようがないことを内心で長々考える慎。
しかし、それを思うまでの行為が全て無意識であり、なによりその思考が色々墓穴ってるのは言うまでもなかった。
「――聞けば二人して
外から聞こえる蕨先輩の放送を聞きながら、朝の時間が過ぎていく。あぁ、平和だと噛み締める彼を講堂の外の生徒たち全員が思わず振り向いてしまう。
(((((イチャイチャ…………あれもイチャイチャ………イチャイチャって何なんだろう……)))))
日頃の鬼瓦と亀鶴城がイチャイチャならば、今も尚くっ付いているあの二人はいったい何なんだろうと、全校生徒の9割が思わず思考してしまった。
そして講堂出入り口付近の者に至っては、吐糖したいほどに甘さを感じており、結果全員講堂から出て苦いものを買いに行ったという。
ちなみに現在学内で一番売れている商品がコーヒーであることは、あの二人を除き、教職員含め周知の事実であることは蛇足だったりする。
ワラビンピックが開催されたお陰で、講堂から人が消えた。
今頃は全校生徒が中継を見るために、テレビのある校内のクラスへ移動していることだろう。
先生にとっては予定が狂わされる一日だろうが、天下五剣のやることなのでどうしようもない。彼らの教鞭の振り方がいいので、特に心配もしていないが。
(さて………どうしましょう)
講堂で二人っきり、これはチャンスである。
(今日こそ、今日こそ――番号の交換を、します!!)
月夜の決意は固く、しかし行動に移すための勇気が足りない現状だった。
携帯は懐にあるし、ピタッとくっ付いている上二人きりの今がチャンス、なのだが……この現状事態唐突だったため、緊張に負けてしまっていた。
(そもそも花酒さんも花酒さんです。昨日の今日でいきなり開催することはないじゃないですか、こんな急に、それも朝から二人きりになれるなんて思ってませんでしたし……あぁ、どうしましょう、どうしたらいいんでしょう?なんと切り出せばいいのですか!?)
座り心地も撫でられ心地もよく、寧ろずっとこうしていたい気持ちもあるのも問題だろう。
今までふかふかな座椅子に座った経験があるはずなのに、そのどれよりも彼がいいと考えてしまう自分の思考をどうしても追い出せない。
色々緊張してしまっているのに、思わず頬が緩んで彼に背を預けてしまう。
(うぅ……いけません、番号の交換を……こう、かんを……)
彼の撫で方は日に日に上手くなっており、小学校時代と比べると此方を気遣ってくれる気持ちが増したのか、かなり丁寧で優しい。
入院していた時は腕が上がらなかったため、撫でることはできなかった。だからその分、思う存分味わおうという気持ちが無いわけでもない。
(……そういえば、もう一人で食事もできるのですよね……むぅ)
入院中彼の世話を月夜とエヴァの二人で行っていた。
流石に用を足すのは自力で行っていたが、それ以外は彼女たちが付きっきりだった。
特に月夜は彼に「あーん」をすることと、彼の身体を熱いタオルで拭くのが楽しかったため、ちょっと残念に思っていた。
(流石に校内であーんは……今度どこか食べに行きましょうか。お風呂は……さ、流石に未だ私にはハードルが高いですっ)
次同じようなことをするには、邪魔するものがいない中同じ食卓を囲み、一緒に湯に入るために背を洗うくらいしか彼女には思いつかなかった。
前者はともかく、後者はなんだか気恥ずかしさが勝っている。目が見えないにも関わらないこの天才幼女さまは、当たり前のように、何となく視線を感じとれてしまう。
だからこそこういうことを考えてしまうのだが、まぁ詰まる所、お年頃なのだ。
(そのためにも、まず第一歩として番号の交換ですっ)
ギュッと動機付けをして無理やり決心を固める。
月夜は呼吸法とは全く無関係な深呼吸をして、口を開いた。
「あ、あのっですね!」
「ん?どうかした?」
「その、えぇと……」
緊張でうまく口が回らず、伝えるのに四苦八苦するが、慎は優しい口調で待ってくれた。
無論五剣であり、世話役でもある自分に逆らえないというのもあるのだろうけど、それでも嬉しいという気持ちが湧いてしまう。
それはともかくとして、懐にある携帯電話を握りしめ、彼に突き付けた。
「こ、これ、その」
「携帯電話?」
「は、はい……私は世話役ですし基本貴方の近くにいますし何より私の耳から貴方が逃れられることはありませんが、でも知っていると便利でしょうから、その、えと」
さっきとは真逆に口数が多く、喋りも早くなってしまう。
焦る自分を落ち着かせようとするが、如何せん密着している状態ではどうやっても彼を意識してしまい落ち着くなんてあり得ない。
さっきまでこの温もりがあればいいとか考えていたのに、こうなると離れなければ落ち着かないだろう。
しかし、月夜に離れるという選択肢はあり得なかった。
顔を羞恥心で真っ赤にしながら、無理やり言葉を続ける。
「番号を……交換、しましょ?」
「………」
「……だ、ダメですか?」
「え、あ、いや、大丈夫。うん、交換しよう。えっと、登録の仕方とか聞いてる?何番に登録したらいいとか、あるよね?」
「はい、ちゃんと真ん中を開けておきました!」
番号の真ん中、詰まる所5番か8番辺り。携帯を持った時、彼女の指が一番届きやすい場所に彼の番号を登録しておく。
ちゃんと言えたことにウキウキする彼女は満面の笑みを浮かべ、番号を交換した携帯を大事そうに仕舞い込んだ。
「………」
「~~♪」
月夜は全く自覚していなかっただろうが、上目遣いで頬を染めた美少女というのは言わずもがな希少である。
しかもいつもはクールと言われる彼女がそれをするのは、攻撃力が高い。
緊張から解放されたことと、番号を交換して上機嫌になった彼女は気づいていなかったが、慎の顔は真っ赤である。
そして彼の心臓も動きを速めているが、同様にドキドキしていた月夜が気づくことはなかった。
その日の夜、上機嫌
コンコンというノック音に振り向き、扉を開けたメイドにガバっと縋りついた。
「え、エヴァ!」
「はいはい、どうしたんですお嬢?」
「で、電話」
「はい?」
電話がどうしたのだろうと疑問符を浮かべるメイド。
昼休み辺りに見かけたときは、かなり上機嫌だったところを見かけているため、特に問題があったように思えないのだが……。
「なんと言って、彼に電話をかければいいのでしょうか!?」
「………あぁー、あぁ~~~」
「エヴァ?何を唸っているのです?唸っていないで応えなさい!」
「あーはいはい。というかなんで電話何です?本人に言えばいいじゃないですか」
慎は女子寮の側のテントで暮らしている。
というか、ついさっきまで寮で一緒に食事をしていただろうに、何を言っているんだろうかこの小さなご主人様は。
「いえ、その、折角なので携帯で出かける日取りを決めようかなぁ、と……思ったのですが」
「いざ電話をかけようとしたら、恥ずかしさと緊張で番号を押せない、と?」
「ま、まさしくその通りです。エヴァ、いつの間に読心術をっ!?」
「いやーもう何っつぅか……ハァ」
もう何を言っていいのか分からなくなってきたエヴァ。
別に慎ならまだ起きているだろうし、食事も住んで今頃は備え付けのシャワーでも浴び終えている頃だろう。
電話するタイミングとしては間違っていない。というか、それを聞いていたからこその判断だろうに、この幼女主人は行動に移せないでいるようだ。
(年頃の娘っていうか、乙女っつぅか……面白、もとい可愛らしくなりやがりましたね~)
目の前であたふたする月夜を見るのは、正直愉悦……もとい年頃で大変そうだと思う。
まぁこの辺りは決心を固めてしまえばいいのだろう。羞恥心や緊張に負けない動機付け、というのが必要なのだこの主様は。
「今電話しないと、もうしばらくしたら寝ちまうんじゃないですかねぇ?」
「そう、でしょうね」
「話すことは決まってるんでしょ?」
「はい……」
「……そういえば、入院中は暇で退屈そうでしたよねぇ。私らが相手してない時間が億劫だって言ってませんでしたっけ?」
「似たようなことは、言ってましたね」
「日頃学園に拘束されてますし、最近は良い子ですし?たまにはご褒美とか良いんじゃないですか?」
「そう、ですね。ご褒美、そう、ご褒美ですっ」
「んじゃ、私はそろそろ残りの仕事を片付けますんで、失礼しますね」
「はい……押すだけ、押し込むだけ」
ギュッと小さな拳を作ったのを見て、大丈夫だろうと部屋を後にする。
エヴァが立ち去った後、月夜は数分携帯と格闘した後、ようやく慎へかけることに成功した。
「もしもし、月夜?」
「は、はひ!っも、もひもし!!」
耳元で彼の声が響き、思わず変な声が出てしまう。
電話ってこんなに気持ちがいいモノだっただろうか?エヴァと通話していた時はこんな感覚感じなかったのに、と思わぬ衝撃に驚き声が上ずってしまう。
「えっと?月夜、どうかした?」
「えぇと、ですね……その」
いけないと感じた。
頭が真っ白になりかけながら、必死に言葉を紡ぐ。
ちょっと慣れれば上ずることはないが、やっぱり心地良いことに変わりはない。
座り心地といい撫でられ心地といい、彼は何でこうも一々凄まじいんだっと何やら訳の分からなくなりかけている月夜。
言っておくが別に慎は高級クッションに勝るようなふわふわした体ではないし、どこぞのマッサージ機のような性能はしていない。
只いうならば、月夜が彼に対しそういう風に感じ取っただけであり、彼が凄いわけではないのだが、まぁ蛇足であろう。
「つ、次の休みの日、どこかに出かけませんか?」
「へ?」
「あ、貴方も日頃大変そうですし、私とエヴァが一緒ではありますが、拘束感とか諸々から幾ばくか解放されると思いますよ?」
「えっと……いいの?」
「はい、全然大丈夫です!」
「じゃぁ、んっと、よろしくお願いします?」
「承りましたっ」
一体何の会話なのだろう、事務的な会話ではないのだがなぜか妙な受け取り方をしてしまった。
月夜自身が妙なテンションだからだという自覚はあるが、自覚しても落ち着けるものではない。
「………」
「んと……」
「はぅ……!」
「………」
暫く謎の無言が続くが、彼の吐息と声で結構一杯いっぱいの月夜。
妙な声が出たため抑えた。彼に変な勘違いをさせてないか心配になる。
(いつもは、いつもはこんなんじゃないんですよ!?)
そう叫びたいが、それを言うとなんだかもっと可笑しなことになりそうで口から出さないようにキュッと閉める。
最終的に無言に耐えられなくなった慎が続きになるようなことを探し、切り出した。
「い、何時頃出掛けようか?」
「そ、そうですね。朝食は一緒に食べましょうか」
「その後私服に着替えて、寮前で待ってればいいのかな?」
「はい、そう、ですね……」
(私服、私服?えっと、い、いつものでいいのでしょうか……あとでエヴァに訊かないといけませんね……)
外見の変化は月夜にとって分からないことの一つである。
何となくこういうのを着ているのだろう、というのは布のこすれる音で察せられるのだが、自分が着るとなるとピンとこない。
特に色と呼ばれる概念は全く、想像すらつかないためコーディネートはエヴァ任せとなっている。
エヴァを信頼しているため、気にしていなかったことなのだが……一緒に出掛けるとなると、妙に意識してしまう。相手に変な格好と思われないだろうか、なんて不安がよぎるのだ。
「……ふふっ」
「?ど、どうかしましたか?」
「あーいや、なんか今日は月夜の珍しい行動をお目に掛かれて楽しいなぁって」
「ムッ、面白がられるのは心外です」
「悪い意味じゃないよ?」
「分かってます。分かってますが、むぅ……」
今日一日、甘えたり緊張したり嬉しがったり、コロコロと態度が変わっていた自覚はある。
それを楽し気に見られているというのもわかってはいたが、実際言われると、なんというか……釈然としない。
「何だか、狡いですね」
「何が?」
「私ばっかり緊張している気がします。不公平です」
「って言われてもなぁ。これでも結構緊張してるんだよ、こっちも」
「それも、分かってはいますけど……でも、なんかそっちの方が落ち着いてて、ずるいです」
電話するという行為に月夜より慣れているのだろう。
彼の性格からして、少なくとも電話する友達の一人や二人はいるだろうし、こういう約束もしたことがあるのかもしれない。
(……もしかしたら、女の子と出掛けたことも……むぅ)
もやっとする謎の感情を抱えつつ、会話を続ける。
「他に電話する友人がいる差でしょうか、慣れを感じてずるいです」
「それズルに入るの?いや、まぁ慣れちゃいるけど」
「……友達、ですか?」
「まぁそりゃ」
「……女の子でしょうか」
なんとなく、声色が変化したのを自覚する。
怒っているつもりはないのだが、何故かニュアンス的にそんな風に口から出てしまった。
「いや、女子と番号交換とかしたことないって」
「そう、なんですか?」
「そーだよ。っていうか知ってるでしょ?こちとら一年で問題起こしたんだから、友達だって一人くらいしか出来なかったよ。そいつ男だし」
「そうですか……では、私が初の女友達、なんですね」
「そーですよー」
「ふふっ」
彼には悪いが、思わず嬉しい声が漏れてしまう。
きっとその友人一人の為に無茶をしたのだろうという想像も、その一人しか残らなかったのだろうという結果もわかっているし、その残酷なことを嬉しく思うのは不謹慎なのだろうが……抑えられなかった。
「なんだよ、ボッチで悪かったな」
「ボッチじゃないですよ?今は私が一番近い友達です」
「はいはい、そんなの知ってるよ」
「♪」
知ってるよ、過去形のそれはつまりこうなる前から友人認定されていたということ。近いというのが場所なのかそれとも距離感なのか、無論その両方だろうという自負。
自分と会う小学校時代はよく分からないが、少なくともその友人よりも自分の方が速く友達だったのだ、という浅ましい優越感。
イケナイことだと思いながら、それはどうにも抑えられない。
その後も他愛のない会話を、一時間近く続けてしまった。
その時の彼女を他の人が見れば、年齢相応の少女としか見れなかっただろう。
それほどに、彼女は浮かれていた。それほどまでに、彼女が自分の感情をコントロールできていない、という証明でもあった。
取り合えず、一応成り行きが心配になって扉の前まで来てみたエヴァが砂糖を吐きそうになったのは、言うまでもない。