世にも不思議な転生者 作:末吉
「すずか」
「……なに、アリサちゃん」
「出かけるわよ」
「……まだ解析が」
「入るわよ」
力也のところからその足ですずかの研究室へ向かい扉越しに声をかけるアリサ。声がいつもより弱々しく感じたので彼女の許可なく扉を開ける。鍵自体は彼女自身がすずかから受け取ったものだ。
で、中に入ったところ、いつも整理整頓されているはずの場所がごちゃごちゃになっていた。
アリサは息を漏らして「少しは休みなさいよ」と言うと、「休んでいるよ、毎日五時間ほど」とモニターを眺めながら返事をする。
「でも本当は休みたくないよ。だって大智君のこと返して欲しいから」
「……だからこうして引き籠っているって?」
「うん」
迷いのない断言に後ろまで来ていたアリサは額に手を当ててからすずかの後頭部をチョップする。
「いたっ」
「全く。一直線になるのは良いけど、行き詰っているなら自分だけで抱え込まないでよね。大智みたいに」
「うっ。でも、これは私にしかできないし……」
「確かにすずか以外できないわよ私達じゃ。それでも半分ほどでしょ、解析状況」
「……うん。構造とかは一般的なんだけど、材質が地球以外にあるものだし、プログラムとか変換効率とか私達じゃ思いつかないものだったから。一応プログラムの組み方は理解できたけど、あれは本当に技術革新以上だよ。今まで使っていたのが何だって思えるぐらい」
「はいはい。それについては今はなし。行くわよすずか」
「え?」
さらっと流された次に出てきた親友の言葉に面食らうすずか。それに対しまぁ説明した方が良いわねと考えたアリサは「どうせご飯食べてないんでしょ? だったら、食べながら説明するからここから出なさい」と簡単に説明する。
だがすずかはその提案に対し難色を示しモニターに視線を向けたので、ポツリと付け足した。
「…あいつを連れ戻せるカギになるかもしれない人物に会うわ。天上に居場所も訊いたから、解析してるものを持って会いに行くわよ」
「!!?」
突然の言葉にすずかは驚いて視線を戻す。それを受けたアリサは真剣な表情で「だから、いつまでもここに閉じこもっていないで外に出るわよ。すずかが難航しているアイツが作ったものを見せに」と言ったので、彼女は現状を打破できるかもしれないという希望が見えた気がして「……分かったよアリサちゃん」と頷いた。
「だぁくっそ元一と水梨さんの奴ら本業になりつつある俳優業で手が回せないと来たものだ! 早く帰って来いよ大智! お前は俺にこれを押し付けるために誘ったわけじゃないだろ!!」
裕也は経理の仕事を叫びながらこなしていた。彼もなんだかんだ人外になっているようで、経営に必要と思われる資格をその若さで一通り取得していた。ぶっちゃけどこの会社からでも引き抜きの声がかかるぐらいに優秀になっていた。
株式会社ではないので配当金とかの心配はないのだが、収支報告書や給与計算、その他経営するうえで必要なお金の計算をアルバイト含めて(地球で働いているほうだけ)一人で計算しなければいけないのが彼にとっては苦痛だった。
「おまけに普通の仕事もこなさないといけねぇし! 力也の奴も『少しの間大学の方へ行くから』だぁ!? お前が大学通って何になるんだよ!」
そう言って机をたたく。その衝撃で書類が何枚か宙に舞ったが、それを瞬時に回収して大きく息を吐く。
「……まぁ分かってるぜ。あいつのことだから自分から最終決戦へ向かうつもりだろうし。そのために特訓とかしたいんだろう」
彼の意図を呟いてから書類だらけのテーブルに顔を伏せる。
「……くっそ。アイツだけなんだよな、俺達側で唯一戦力になるのは。悔しいけど」
そんなことを呟いていると「マスターを助けてくれるのですか?」と声をかけられたので顔を上げたところ、心配そうな顔でメイド服の少女が観察していたのを目撃した。
「……そういえば、イクスヴェリア、さんは大智とどういう関係なんだっけ?」
「マスターとは恩人という関係です。こんな私にも道を示してくれましたから」
「そうか……あいつなんだかんだ言って人に影響与えまくってるよなぁ」
「ですね」
そう言って苦笑いを浮かべる彼女。大智が見れば「昔が嘘みたいだな」と言うに違いない反応を見せていた。
一年ぐらいしか経過していないにもかかわらず遜色なく日本語が喋ているという事実に裕也は気付くはずもなく、不意に気になったことを聞いてみた。
「そういやここにいて大丈夫なの? いや、それを言うなら俺もなんだけどさ」
「博士たちなら大丈夫です。それに、マスターが帰って来た時のために維持管理しておかないといけませんから」
「……そっか」
恩人に対して義理堅い人だと彼女を評価していたところ、その当人は急に玄関の方に視線を向けた。
「ん? 誰か来たみたいだな」
「隠れた方が良いでしょうか?」
「ん~……いいんじゃねぇの? 大智だからで納得されるだろうし」
「……そうですか」
裕也はそれに何も言わず二歩で玄関先に向かい、扉を開けて「どうしたんだ、お二人さん? 依頼?」とアリサとすずかに投げかける。
彼女達も裕也がいる理由を知っているからか何も言わず用件を切り出した。
「『博士』に会いたいから来なさい」
「そうすればなのはちゃん達と一緒に戦えるようになって大智君が戻ってくるかもしれないよ!」
「…………っ」
一緒に戦える。その言葉に一瞬スバルの顔が浮かぶ。だが、彼は「どうやって行くんだよ」と問題点を提示する。
それに対しアリサは「地下室にある装置使えば行けるじゃない」と反論したところ、「あれは大智が自分で設定した場所しか飛べないんだよ。下手すると範囲内なのに離れ離れになる」とさらに追い打ちをかける。
答えに窮したアリサに変わり、「どうしてそんなに否定するの? 斉原君を助けたくないの?」とすずかが質問すると「助けてぇよ」と裕也は答える。
「だったら」
「でもよ、怖いんだよ。俺だって人から外れている自覚はある。けどよ、死ぬかもしれない戦場に自分からいけねぇよ。態々行って死人になりました、なんて笑えねぇだろ」
「「…………」」
「正直言って周りが羨ましい。世界の危機とか愛する人のためとか。そう言った理由で危険に飛び込んでいける覚悟のあるやつが。俺にはねぇからよ……って、悪いな。愚痴言ってよ」
「……悪く言えるわけないじゃない」
「そうだよ。私達だって怖いもん」
「…………覚悟、か」
裕也は二人を見てそう確信し、目を瞑る。そして考えをリセットし「分かった。そこまで言うなら俺も行く。ただし、俺に依頼ということで出してくれ。俺に対する報酬は『全員の無事帰還』。それでいいのなら、今から案内する」と頷く。
それに二人が喜んでいたところ、「でしたら、その依頼は私が出します。如月さん」と奥から女性の声が聞こえたので動きが固まる。
「え」
「それに話を聞いている限り他の世界で皆さん戦うご様子。それについて行きたいのです」
「マジで?」
「はい。私も待つだけで終わりたくありませんので」
「そうか」
「って、誰よこの女!?」
「誰如月君!!」
「ちょ、ま」
一通りの会話が終わったところすぐさま詰め寄られる裕也。アリサとすずかからすれば唐突に新キャラが現れたも同然。しかも裕也との会話から察するに大智との仲もそれほど良さそうだと思いつけば、彼女達の必死な反応も頷ける。
胸ぐらを揺さぶられて答えるに答えれられない中、イクスヴェリアはスカートの裾を掴んで広げ、自己紹介した。
「初めましてお二人とも。私はマスター――長嶋様に拾われたイクスヴェリアと言います。現在はこの家の掃除などをしております」
「……拾われた?」
「この家の掃除など……?」
「げほ、げほっ……俺だって今年知ったんだよ。去年から居座らせてるとかあいつは言っていたけど」
「去年……」
「居座らせている……」
二人は裕也の説明の気になる部分を呟く。さきほどまでの必死さはなく、今はどことなく怒りに震えていた。
その空気を察していないイクスヴェリアは「それでは博士のところへご案内いたします。依頼を出したのも私ですから、できることはしますので」と言って玄関の鍵を閉めて歩き出したので、アリサとすずかは静かに裕也はせき込みながらついて行った。
物置から地下室へ向かい、そこにあった転移装置に乗って到着した風景に、すずかは見覚えがあった。
「あれ、ここ……」
「どうしたのよすずか?」
「うん……なんか私達がなのはちゃん達を迎えたログハウスに似てるなって思って」
実際は大智に誘拐されたところを助けてもらった場所なのだが、秘密にしたいらしい。
その思いに気付かなかったアリサは「確かにそうね。あいつも持っていたなんて知らなかったわ」と感想を述べる。
そこから少し歩いたところ、イクスヴェリアが何もない場所で立ち止まったので、アリサ達も立ち止まる。
「ここです」
「何もないわよ?」
「まぁ魔法で隠していますから」
そう言って指を鳴らしたところ、目の前の景色が揺らぐ。
「「「…………」」」
三人が驚きで声をなくしていると、揺らいでいる景色の中から男性の声が聞こえた。
「あれ、久し振りじゃないか。大智くんが居なくなってから」
「立ち止まってはいられなくなりました。その協力をお願いしたく」
「ふむ…」
パリンとガラスが割れたような音を響かせながら男性が姿を現す。
彼が『博士』だと三人は直感したが、当の彼はアリサ達を見て首を傾げる。
「誰だい彼女達は」
「マスターのお知り合いの方達で、鍵となる人達です」
「ふむ」
彼女の紹介を聞いてからジェイル=スカリエッティは考える。自分たちを脅かす存在なのかを。
沈黙したスカリエッティ博士に変わり、アリサが口を開こうとしたところ裕也が「あーあなたが大智が言ってた『博士』で間違いないのか?」と確認を取る。
その問いに何も返されなかったので警戒してるのかと思いながら「何でも屋バーリ・トゥード社長代理の如月裕也という。このバッジに見覚えはあるな?」と胸ポケットからバッジを取り出したところ、彼は納得した。
「あああるな。それは確かに大智くんが経営している会社の社員証だ……となると、君たちがここで働いている社員ってことで良いのか?」
「厳密に言えばそこの二人は……大智のことを好きな人で社員は俺以外に二人ほどいるが二人ともテレビに出てるよ。後いるとしたらバイトだけ」
「……。紹介ご苦労社長代理。君の説明のおかげで僕の疑問も解消された。その上で話を聞こう。出来る限りの協力はするつもりだ」
「話が分かる人で助かった。端的に言うと、大智を引っ張り出したから最終決戦を引っ掻き回したい。そのための手段としてあいつが遺した武器の解析を手伝ってもらいたいんだ」
そう言って裕也はすずかに視線で合図し、彼女は持ってきたものをスカリエッティ博士まで歩いて手渡す。
「これ、です」
「ふむ」
手渡された弓を少し観察した彼は「ちなみに、どこまで?」と確認を取る。
「えっと、材料とかは分かってません……プログラムとかは何とか」
すずかの自信のない言葉に博士は驚いた。
「ソフトの方は大丈夫なのか! とんでもないな……空間転移装置を作った大智くんと言い、傑物ばかりを目の当たりにすると私が霞んでしまうな。これでも天才科学者と呼ばれているんだが」
自分の言葉で少し落ち込んでからすぐに切り替え、裕也たちに問いかけた。
「……最後に聞きたい。君達は、大智くんを引っ張り出すといった。それがいかに危険で、可能性がないことだと知っているにもかかわらず。それでも、覚悟はあるんだね?」
「「「はい!」」」
「そっか……なら、分かった。この件は僕達もかませてもらう。ここ数ヶ月身に覚えのない罪状が増えているからね。無実である証明をするために、協力する」
頷きながら了承した博士の言葉に裕也が「ありがとうございます」と言おうとしたとき、「「本当ですか!?」」とアリサとすずかが嬉しそうに声を揃えてから顔を見合わせ、ハイタッチをした。
愛されてるなぁと男性二人が思っている中、一人だけその光景に複雑な気持ちを抱いていたが、何も言わなかった。
一頻り喜んだのを見た博士は、「それじゃ、僕は君達に合った武器をこれを参考に作るから。要望があるなら今のうちに言ってくれ」と話を進める。
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―――
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――どことも知れない空間。
時計に埋め尽くされたこの空間の中ひとりお茶を飲んでいる『誰か』は面白そうにつぶやいた。
「やっぱり人間はいいねぇ。統一意志の状態は特に」