デート・ア・ライブ 未来からの来訪者   作:問題児愛

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オリジナル回だと文字数が多くなる模様です_(┐「ε:)_


紗和フレンド Ⅴ

「〈刻々帝(ザフキエル)〉――【一の弾(アレフ)】」

 

右側に浮遊している短銃を手に取り、時間加速(アレフ)を自分のこめかみに撃つ狂三。

それからその短銃を放ると、元の位置にそれは収まる。

 

「〈狂々帝(ルキフグス)〉――【牡牛の剣(ショール)】」

 

軍刀(サーベル)による刺突の構えを取ることで得る空間加速(ショール)

本来は不可能な加速(時間)加速(空間)だが、天使と魔王の両方を統べる今の狂三ならばそれも可能だ。

万象祭壇(アイン・ソフ・コーシェク)〉の『闇の粒』を掻い潜ってこの一撃を当てることは恐らく無理だろう。

だが澪真の霊力を手にしている今の狂三ならば『闇の粒』に触れたとて死ぬことはない。

被弾覚悟の狂三の刺突による突貫は――神速の域に到達した。

 

「〈虚無地獄(デミウルゴス)〉」

 

澪真は幾本もの〈虚無地獄(デミウルゴス)〉の『根』を、自分を守る障壁のように展開させることで、狂三の神速の突貫を止める気らしい。

だが『根』の障壁は、神速の刺突を止めるどころかその勢いを殺すことさえ出来なかった。

幾本もの『根』の障壁を貫き、軍刀(サーベル)の切っ先が澪真を捉え――るまでには至らなかった。

澪真は僅かに上体を反らすことで狂三の神速の刺突を躱す。

完全には躱せなかったのか、狂三の刺突は澪真の霊力の膜と〈永劫祭壇(ルシファー)〉の霊装(ドレス)の一部を削り取ることに成功した。

⋯⋯!今のわたくしならば、崇宮澪真に通用する――!

確かな手応えを感じて笑みを浮かべる狂三。

 

「貫け――〈虚無地獄(デミウルゴス)〉」

 

澪真が幾本もの〈虚無地獄(デミウルゴス)〉の『根』を狂三に向けて動かす。

狂三は『根』を躱しながら澪真に神速の刺突を見舞う。

頬を、腕を、肩を掠めて澪真の霊力の膜と霊装(ドレス)を少しずつ削り傷を負わせていく。

 

「きひひひひひひ、どうしましたの崇宮澪真!避けてばかりではありませんの!」

 

「⋯⋯図に乗らない方がいいよ、トキサキクルミ」

 

澪真は狂三の猛攻を躱しながら右手を振るった。

次の瞬間、狂三の足元から無数の〈虚無地獄(デミウルゴス)〉の『枝』が伸びて来て、狂三を串刺しにしようとする。

 

「〈狂々帝(ルキフグス)〉――【牡羊の弾(タレ)】」

 

狂三は左側に浮遊している短銃を手に取り、自分のこめかみに撃った。

そして――無数の『枝』は狂三を串刺しに出来なかった。

無数の『枝』は狂三の身体に当たる寸前で止まってしまっているのだ。

澪真は眉を顰めてその原因を言った。

 

「【牡羊の弾(タレ)】⋯⋯なるほど、空間拡張による距離の()()か。【巨蟹の剣(サルタン)】の空間切断による距離の()()と対をなす能力。わたしの『枝』は当たらないのではなく()()()()ということだね」

 

「ええ、ええ、その通りですわ。【牡羊の弾(タレ)】は撃った対象を中心に空間を広げる弾。つまり視覚はまるで当てにならない状況でして、あなたの攻撃はわたくしに届くことはありません」

 

空間切断(サルタン)による距離の短縮と空間拡張(タレ)による距離の延長。

確かに空間を統べる魔王の能力なだけあって強力だ。

狂三の言う通り、〈虚無地獄(デミウルゴス)〉の『根』と『枝』も、〈万象祭壇(アイン・ソフ・コーシェク)〉の『闇の粒』も届かないだろう。

澪真は溜め息を吐くと、

 

「⋯⋯本当は二体の魔王だけでクルミを殺すつもりだったけど――やめた。⋯⋯他の魔王達も遠慮なく使うとしよう」

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯え?」

 

狂三は間の抜けた声を洩らす。

⋯⋯他の魔王達()

まさか――

 

「〈狂々帝(ルキフグス)〉――【巨蟹の剣(サルタン)】」

 

澪真がそう言った刹那、〈永劫祭壇(ルシファー)〉の六対十二枚の『翼』の一枚が暗く輝き、不可視の斬撃が空間を切断した。

そして一歩踏み出した澪真が――狂三の眼前に現れる。

 

「⋯⋯くっ!」

 

澪真の空間切断(サルタン)が狂三の空間拡張(タレ)ごと斬り裂き距離を零にしたことを悟った狂三は守りの体勢に入ろうとするが、それよりも速く澪真の神速の拳が狂三の鳩尾に突き刺さった。

 

「か、はっ⋯⋯!」

 

吹き飛ばされて〈虚無地獄(デミウルゴス)〉の『根』に叩きつけられる狂三。

激痛に顔を顰める狂三は、澪真を睨みつけ、

 

「〈狂々帝(ルキフグス)〉――【山羊の剣(グティ)】」

 

再び澪真の『翼』の一枚が暗く輝き、狂三の眼前に空間歪曲(ワープ)した。

 

「⋯⋯ッ!?」

 

狂三は慌てて右に転がり込むように避けることで、澪真の神速の拳を躱した。

空間歪曲(グティ)は空間を斬り裂き『入口』を、任意の場所に『出口』を発生させて瞬間移動を可能にする能力だったはずだ。

なのに澪真の空間歪曲(グティ)は『入口』も『出口』も発生することなく、瞬間移動を果たした。

魔王〈狂々帝(ルキフグス)〉を顕現せずに能力を使っているところを見るに、澪真は能力のみを扱えるのかもしれない。

だとしたらかなり厄介な相手に違いないだろう。

狂三は立ち上がって〈狂々帝(ルキフグス)〉を構える。

澪真は狂三の纏っていた空気が変わったことに気が付き笑う。

 

「ふふ。ようやく誰と殺し合ってるのか理解したようだね。わたしの霊力を手に入れたからといって、わたしに勝てるとは思わないことだ。母様の娘を舐めてかかったら痛い目見るよ?」

 

「⋯⋯そうですわね。あなたに通用することを知って少し調子に乗っておりましわ。けれどもうわたくしは、わたくし自身の力を過信致しません」

 

「うん、いい心がけだ。では続けようか――【山羊の剣(グティ)】」

 

「⋯⋯!」

 

狂三は注意深く澪真を観察する。

永劫祭壇(ルシファー)〉の『翼』の一枚が暗く輝く。

⋯⋯左側の下から三番目の『翼』が暗く輝いている。

そして澪真の視線の先は――わたくし。

けれど真正面は先程わたくしが対応出来ましたわ。

なら空間歪曲(ワープ)先は――

 

「真後ろ、ですわね!」

 

軍刀(サーベル)を放った狂三は、振り向き様に右側に浮遊している歩兵銃を手に取って銃口を向ける。

 

「⋯⋯え?」

 

跳んだ先に銃口を突きつけられて驚く澪真。

わたしの空間歪曲(ワープ)先を読まれた⋯⋯?

けれど【五の弾(へー)】を、未来を視る弾を使ってはいなかったはずだ。

一体どうやって突き止めたというのだろうか。

 

「ドンピシャ、ですわね――【七の弾(ザイン)】」

 

「⋯⋯!【乙女の剣(べトゥラー)】」

 

澪真の左側の下から三番目の『翼』が暗く輝く。

狂三の時間停止(ザイン)が澪真に突き刺さる前に、自分の幻影を生成することで無効化する。

舌打ちする狂三はもう一度澪真に歩兵銃の銃口を向けるが、

 

「〈虚無地獄(デミウルゴス)〉」

 

「――ッ!」

 

澪真が〈虚無地獄(デミウルゴス)〉の『根』を動かし、狂三を貫こうとした。

 

「【二の弾(ベート)】」

 

狂三は自分を貫こうとしてきた『根』に時間減速(ベート)を撃ち込み動きを鈍くさせる。

 

「【魚の弾(ドゥギーム)】」

 

更に狂三は短銃を澪真に向けて撃って、澪真に突き刺さる。

そして――澪真の動きが鈍くなった。

まるで()()()()()()かのように。

だが流石は始原の精霊崇宮澪の娘といったところか、スローモーションとまではいかないらしい。

それでも空間減速(ドゥギーム)は澪真の俊敏さを封じることに成功し、

 

「⋯⋯っ!」

 

狂三の歩兵銃から放たれた影の弾丸が、澪真の左肩を撃ち抜いた。

澪真の纏う霊力の膜と霊装(ドレス)も貫いて。

左肩に出来た風穴から鮮血が噴出する。

苦痛に顔を顰めながら左肩を押さえ、笑みを浮かべる澪真。

 

「見事だ、トキサキクルミ。撃った対象に()()()()()()弾、【魚の弾(ドゥギーム)】。負荷を()()する【牡牛の剣(ショール)】とは対をなす能力。これでわたしの動きを鈍く出来た――とは思っていないようだね?」

 

「ええ。〈永劫祭壇(ルシファー)〉の『翼』の数は六対十二枚。〈狂々帝(ルキフグス)〉の能力を行使した時に左側の下から三番目の『翼』()()が暗く輝きましたわ。ならば〈虚無地獄(デミウルゴス)〉や〈万象祭壇(アイン・ソフ・コーシェク)〉の他に――()()()()()()が使える⋯⋯そうですわね?」

 

冷や汗を流しながら言う狂三に澪真は頷く。

 

「うん⋯⋯正確には十四体だけどね。それと右側の一番上の『翼』は能力のみの行使は出来ない。この魔王だけは生み出して(創って)顕現させないと使えないんだ」

 

「な⋯⋯!?」

 

愕然とする狂三。

あと十四体の魔王を行使出来る澪真。

流石は始原の精霊崇宮澪の娘なだけあってデタラメが過ぎる存在だった。

澪真は「ふう」と息を吐き、

 

「〈狂々帝(ルキフグス)〉――【牡牛の剣(ショール)】」

 

「⋯⋯ッ!」

 

澪真の左翼の下から三番目の『翼』が暗く輝く。

澪真の負荷無視(ショール)による超加速と打ち出される神速の拳を、狂三は上体を反らすことで辛うじて躱す。

狂三の負荷加重(ドゥギーム)は対をなす負荷無視(ショール)には意味をなさない。

てっきり別の魔王を行使するのかと思ったが、そもそもそんな必要はないということか。

牡羊の弾(タレ)】は【巨蟹の剣(サルタン)】で。

魚の弾(ドゥギーム)】は【牡牛の剣(ショール)】で。

七の弾(ザイン)】は【乙女の剣(べトゥラー)】で無効化される。

八の弾(ヘット)】や【双子の弾(テオミーム)】、【蠍の弾(アクラヴ)】は〈虚無地獄(デミウルゴス)〉の世界に耐えられる保証はないし、仮に耐えられたとしても〈万象祭壇(アイン・ソフ・コーシェク)〉の『闇の粒』が死滅させるだろう。

攻めるに攻めきれないこの状況に歯噛みする狂三。

わたくし一人では、後一歩が届きませんの⋯⋯?

この場に紗和さんが、紗和さんが居て下されば――

と、その時――狂三のすぐ傍の空間に穴が開いた。

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯え?」

 

そしてその穴――否、【山羊の剣(グティ)】の能力で発生した『出口』から紗和が現れて狂三に微笑むのだ。

 

「狂三さんに呼ばれた気がしたので来ちゃいました」

 

 

 

 

 

狂三と同じ霊装(ドレス)を、混沌霊装(カオス・ドレス)を纏う紗和。

その双眸も狂三と同じ右は金色、左は薄青の時計盤。

これを意味するのは――紗和も狂三と同じで天使と魔王を同時に行使出来るということだ。

いや、それよりも。

 

「さ、紗和さん!?身体はもう平気ですの!?」

 

「え?あ、うん。さっきは狂三さんに霊力ゴッソリ持ってかれて気絶しちゃったみたいだけど、もう大丈夫ですよ」

 

この通り!と右拳を作り天高く掲げてみせる紗和。

どうやら狂三の心配事は杞憂だったようだ。

少し離れたところに移動した澪真が言う。

 

「ヤマウチサワの霊力はわたしが供給し続けているからね。わたしがその供給を断たない限り霊力が尽きることはない。そして――サワはクルミとキスしたことで目には見えない『経路(パス)』が繋がった。即ち――クルミ()()、わたしが霊力を供給しているということになるね」

 

「⋯⋯!?」

 

「そうなんだ。つまり私だけでなく狂三さんも、澪真さんの霊力を使いたい放題なんですね」

 

「まあ、そういうことになるね。そうじゃなかったら二人とも、この〈虚無地獄(デミウルゴス)〉の世界で存在を保つことさえ出来ないのだから」

 

「え?何それ凄く怖いんだけど!?」

 

紗和が堪らず叫ぶ。

それだけこの世界は異質な場所なのだろう。

もし澪真の霊力を持たないものがこの世界に入ってしまったら――あらゆるものを失った真っ白い存在に、『虚無(エンプティ)』になっていたのだから。

と、澪真の身体の至る所に傷があることに紗和は気づく。

 

「⋯⋯狂三さんが一人で澪真さんに傷を負わせたんですか?」

 

「ええ、まあ。とはいえ殺すにはまだ一歩及びません。ですので」

 

「うん。じゃあ澪真さんを倒そう――二人で」

 

「⋯⋯!ええ、勿論ですわ。共に崇宮澪真を倒しましょう」

 

頷き合い、狂三と紗和は〈刻々帝(ザフキエル)〉と〈狂々帝(ルキフグス)〉を構える。

澪真は〈虚無地獄(デミウルゴス)〉の『根』と『枝』、〈万象祭壇(アイン・ソフ・コーシェク)〉の『闇の粒』、〈狂々帝(ルキフグス)〉の能力をもって二人を迎え撃つ。

 

「【一の弾(アレフ)】――【牡牛の剣(ショール)】」

 

狂三は時間加速(アレフ)をこめかみに撃ち、負荷無視(ショール)による軍刀(サーベル)の刺突の構えで突貫する。

 

「〈虚無地獄(デミウルゴス)〉――【枝剣(アナフ)】」

 

狂三の神速の刺突を、澪真は剣のように研ぎ澄まされた〈虚無地獄(デミウルゴス)〉の『枝』が受け止めた。

続けざまに繰り出される狂三の連撃を【枝剣(アナフ)】で捌き続ける。

 

「貫け――〈虚無地獄(デミウルゴス)〉」

 

澪真は狂三の攻撃を【枝剣(アナフ)】で捌きながら、幾本もの『根』を動かし狂三を貫かんとした。

 

「【二の弾(ベート)】――【魚の弾(ドゥギーム)】」

 

紗和は時間減速(ベート)負荷加重(ドゥギーム)の弾を『根』に撃ち込み動きを鈍くしていく。

 

「なるほど、良い連携だ。これならどうかな?〈万象祭壇(アイン・ソフ・コーシェク)〉――【蕾砲(ヘネツ)】」

 

澪真は両手を前に突き出すと、虚空に手の平大の球体を顕現させた。

それは極死の蕾で、球体は一瞬にして花開くと、その中心から紗和目掛けて、一直線に暗く輝いた闇の光線を放った。

澪真の霊力を供給されている紗和とはいえ無事では済まないだろう。

 

「【巨蟹の剣(サルタン)】」

 

迫る闇の光線を紗和は、空間切断(サルタン)で空間ごと斬り裂くことで無効化した。

それと同時に、狂三が【枝剣(アナフ)】を力任せに弾き飛ばし、澪真の足元の『根』に短銃で撃つ。

すると澪真の周囲の空間が撓み隙間が発生し、その中へ澪真を閉じ込めた。

 

「――〈空隙の檻〉」

 

狂三はそう言い、更に〈時喰みの城〉で〈空隙の檻〉を覆い尽くす。

影で覆うことでこちらの行動が相手に見えないようにするためだ。

それから狂三はその場から離れる。

選手交代、紗和が〈空隙の檻〉と〈時喰みの城〉の二重結界に捕らえられている澪真に狙いを定める。

 

「【一の弾(アレフ)】――【射手の剣(ケシェット)】」

 

それは剣でありながら弾丸、弾丸でありながら剣。

一直線に飛んだそれはマッハ一〇を超える凄絶な速さに加え、時間加速(アレフ)で神速さえ凌駕する速度を得た。

まさに光の如き速さで〈空隙の檻〉と〈時喰みの城〉の二重結界ごと、澪真を、〈虚無地獄(デミウルゴス)〉の世界すら刳り貫いて彼方へと飛び去った。

 

「――ふむ、先のは危なかった」

 

「「!!?」」

 

⋯⋯だが、澪真は仕留め損なったらしい。

山羊の剣(グティ)】で紗和の隣に瞬間移動したようだ。

紗和の反撃を受ける前に、澪真の神速の手刀が紗和の首の後ろを打ち、紗和を気絶させる。

 

「紗和さん!?」

 

「君も寝る時間だ、トキサキクルミ」

 

「⋯⋯っ!」

 

狂三は声のした方に振り向くが、澪真の姿はなく――首の後ろに強い衝撃を感じて意識が飛びそうになる。

それをどうにか踏ん張った狂三が、短銃で澪真の脇腹を撃ち抜いた。

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯へえ」

 

「き、ひひ、ひひ。最後に、一発⋯⋯ブチ込んで、差し上げ、ました⋯⋯わ⋯⋯」

 

そうして狂三の意識も闇に沈む。

最後の最後にしてやられた澪真は、撃たれた脇腹を手で押さえながら笑みを浮かべる。

 

「――まあ、さっき()()()()()()()()この勝負は⋯⋯君達の勝ちだ」

 

 

 

 

 

虚無地獄(デミウルゴス)〉の世界と〈万象祭壇(アイン・ソフ・コーシェク)〉を消した澪真は、気絶させた紗和と狂三を抱きかかえて響と山打紗和(未来の狂三)の下へ帰還する。

霊力の網の上に紗和と狂三を寝かせる澪真。

響が心配そうに駆け寄ってきた。

 

「くるさわさん!」

 

「⋯⋯?なんで一纏めにして呼んでるのかな?」

 

「私響はくるさわファンクラブ第一号のものですので!」

 

「???⋯⋯まあ、別にいいけれど。さて――【水瓶の弾(ドゥリ)】」

 

澪真の左翼の下から三番目の『翼』が暗く輝き、空間治癒(ドゥリ)を展開して自分の負傷した脇腹を癒す。

空間治癒(ドゥリ)は自分だけでなく、自分中心の一定範囲内のため、当然ながら気絶している狂三と紗和も癒すことになる。

そして――

 

「――ッ!!?戦いはどうなりましたの!?」

 

まず狂三が飛び起きる。

 

「――ッ!!?逃げて狂三さん!」

 

紗和も悪夢でも見ていたのかそんなことを叫びながら飛び起きる。

 

「やあ、二人とも。気分はどうかな?」

 

澪真が狂三と紗和に声をかけると、

 

「⋯⋯!?崇宮澪真!」

 

「⋯⋯!?下がって、狂三さん!」

 

警戒する狂三と紗和に、澪真は溜め息を吐く。

 

「⋯⋯勝負は君達の勝ちだよ」

 

「「⋯⋯⋯⋯⋯⋯は?」」

 

「は?ではない。君達を殺さずにこの場所に戻ってきたのが証拠じゃあ不十分かい?」

 

「⋯⋯え?」

 

「⋯⋯私達の勝利ってことは、澪真さんは一度死んだんですか?」

 

「うん、見事に殺されたよ」

 

「え?」

 

「そうなんだ。てっきり間に合わなかったのかと思いましたよ」

 

「え?」

 

「あんな速度で飛んで来たら【山羊の剣(グティ)】の能力を行使する暇さえないよ」

 

「それもそうだね」

 

「ちょ、ちょっとお待ちを!」

 

澪真と紗和の不自然な会話に待ったをかける狂三。

紗和と澪真は「ん?」と不思議に思い狂三を見た。

 

「崇宮澪真が一度死んだ、ですって?」

 

「「うん」」

 

「ではそこにいるあなたは崇宮澪真ではないんですの!?」

 

「いや、わたしはタカミヤレマだけれど」

 

「は?ご冗談を!死んだはずのものが復活するわけがありませんわ!」

 

「⋯⋯狂三さん。その気持ちは分からないでもないんですが、澪真さんはですね――殺しても死なないんですよ」

 

「は、はあ!?」

 

「はいはーい!私は澪真さんの死を三回も見てます!」

 

「な⋯⋯!?」

 

響の発言を聞いて言葉を失う狂三。

殺しても死なない精霊ですって!?

八の弾(ヘット)】の過去再現(分身)や【双子の弾(テオミーム)】の劣化複製(分身)の死ではなく、本人が死んでも復活出来るですって!?

そんなの、どうやって殺せるというんですの!?

澪真のデタラメ加減に拍車がかかったような気がした。

苦笑しながら山打紗和(未来の狂三)が澪真の隣に歩み寄る。

 

「何はともあれ、『わたくし』と紗和さんが澪真さんを一度殺したのは事実ですわ。そしてこの世界で()()()()()()、奇跡とも呼べる事象ですわね」

 

「「「え?」」」

 

「うん。ここまでの道のりは本当に長くて⋯⋯永くて。永遠とも思える時間を、やり直しを繰り返してきた」

 

「⋯⋯やり直し?」

 

「そうですわね。『わたくし』と紗和さんが澪真さんと殺し合ったのは、それはもう数え切れないほどありました」

 

「「「!!?」」」

 

思わず耳を疑った。

この戦いは一度だけではなく、数え切れないほど行われていたことに。

そして、この戦いだけが違う結末を迎えたということに。

 

「けれど、トキサキクルミとヤマウチサワが覚醒してわたしを殺したことで、わたしに殺されるはずだった運命を覆し、永遠と思われた不変の事象は砕かれた。これでわたし達はようやく、未来(さき)に進むことが出来る」

 

「ええ。ですがその前に『わたくし』達に、澪真さんとわたくし達の()()()()をお見せしてもよろしくて?」

 

「うん。別に隠しておく必要もないからね。それにわたし達のこれまでを『識る』ことで、協力してくれるようになったら儲けものだ」

 

山打紗和(未来の狂三)の提案に、澪真は承諾する。

時崎狂三が自分の悲願を放棄して協力してくれる可能性はないに等しいが、打てる手は打っておくべきだと判断したのだろう。

山打紗和(未来の狂三)は頷いて、

 

「分かりましたわ。⋯⋯澪真さんの許可がおりましたので、これから『わたくし』と紗和さん、響さんの三人には、澪真さんと『わたくし』達のこれまでを見ていただきます。拒否するのであれば今のうちに申し出てくださいまし」

 

「⋯⋯よく分かりませんけれど、崇宮澪真を『識る』機会が得られるのであれば、喜んで承りますわ」

 

山打紗和(未来の狂三)にそう返す狂三。

 

「⋯⋯そうですね。私も狂三さんと同じ気持ちかな」

 

紗和も同意し。

 

「それって澪真さんのあれやこれやが知れるんですね!?なら是非とも教えてくださいお願いします!!」

 

興奮しながら響が言ってくる。

くるさわファンクラブ第一号って言ってなかったっけ?と苦笑する澪真。

満場一致で三人は澪真のこれまでを知りたいようだ。

山打紗和(未来の狂三)は頷くと、その手には〈刻々帝(ザフキエル)〉の短銃が握られていた。

 

「では、参りますわ。〈刻々帝(ザフキエル)〉――【一〇の弾(ユッド)】」

 

計三発の記憶伝達(ユッド)が狂三に、紗和に、響に突き刺さる。

本来、撃った対象の記憶を伝える弾のため、自分ごと相手に当てる必要がある。

だが山打紗和(未来の狂三)は残留思念であるがゆえに、自分の記憶を【一〇の弾(ユッド)】に載せて撃つという芸当が可能なのだ。

そしてその影の弾丸を受けた狂三と紗和、響は意識を闇に沈めた。

 

 

 

 

 

崇宮澪真が最初に【一二の弾(ユッド・ベート)】で時間遡行したのは、一〇年前だった。

この時間軸を選んだのは、とある精霊を救って欲しいと、未来の少女(残留思念)達に頼まれたからである。

そのとある精霊の名は――■■■■■。

その■■という精霊は、この時間軸で消滅してしまう存在らしい。

 

消滅⋯⋯ああ、母様が()()天使を使うというのか。

だからわたしの中には、王国(マルクト)が存在しないんだね。

 

輪廻聖堂(ルシフェル)〉の『翼』を背に生やして飛んでいた澪真はそのことを理解し、先を急ごうとしてあるものが視界に飛び込んで来る。

遥か上空、幾重にも重なる花弁を誇る、巨大な花。

その中心には、少女のような形をした柱頭が、祈りを捧げるかの如く鎮座していた。

 

⋯⋯あれは――〈万象聖堂(アイン・ソフ・オウル)〉。

そして周囲にばら撒かれてる『光の粒』は、万物を殺める『死』そのもの。

なるほど、この惨状を作り出したのがあの天使の権能ならば頷けるね。

 

そう、その『光の粒』は触れた対象は有機物無機物関係無く死ぬし、霊力や魔力を持たないものは近づくだけで死ぬ。

死屍累々とはまさにこの状況を表す言葉に違いない光景が広がっていた。

しかし、その『光の粒』は澪真を殺めることは出来ないらしい。

無害というわけでもないが、()()()()()()する程度だから気にするようなものでもない。

だがこの世界に顕現しているのは〈万象聖堂(アイン・ソフ・オウル)〉だけではない。

硝子を思わせる無機的な表面。

空を仰ぐように広がった幾つもの枝葉。

幹の一部の裂け目から、樹霊(ドリュアス)の如く少女の姿をした何かが顔を覗かせている。

そしてそれを中心に広がっていく白と黒とで構成された、モノクロの世界。

方眼紙のように整然と区切られた地面に、ブロック状の段差が連なり、漆黒の空がそれを睥睨している。

 

⋯⋯〈輪廻楽園(アイン・ソフ)〉。

母様の『隣界(せかい)』で、何でも母様の思い通りになる世界。

あんなものが相手じゃ、勝ち目なんてあるわけないよね普通に。

 

そう、あの『隣界(せかい)』は、澪真の言う〝母様〟の世界であり、彼女の思い通りになる世界だ。

あそこで彼女に敵うものはまずいやしないだろう。

と、澪真に直接語りかけるものがいた。

 

『――もうすぐ崇宮澪が〈   (アイン)〉を発動しますわ。その前に』

 

「うん。分かってるよ、未来のクルミ。■■■■■■■の力は、わたし達の『計画』を成功させるには必須だからね」

 

『⋯⋯幸運を祈りますわ』

 

未来の時崎狂三はそれだけを言い残して沈黙する。

時間が無いのならば急がねばなるまい。

澪真はすぐさま行動に移した。

 

「〈封解主(ミカエル)〉――【(ラータイブ)】」

 

輪廻聖堂(ルシフェル)〉の左翼の下から三番目の『翼』が光り輝く。

すると突如、目の前の虚空に孔が『開き』、澪真はその中へと入っていくと、

 

「――【(レートリヴシュ)】!」

 

「⋯⋯なに?」

 

まさに■■と澪が戦っている最中だった。

澪真は孔の中からその様子を覗き見て、目をキラキラと輝かせる。

 

⋯⋯え?何あれかっこいい!【凍鎧(シリヨン)】みたいに天使を纏ってるのかな!?

 

澪真の中に無い力ゆえか、子供のように(子供だが)はしゃぐ。

と、興奮してる場合ではないことに気が付き、澪真は孔から飛び出した。

金色に輝く玉座の鎧を纏った■■は、〈万象聖堂(アイン・ソフ・オウル)〉の光線を躱す。

 

「な――」

 

「はああああああああああああ――ッ!」

 

■■が〈輪廻楽園(アイン・ソフ)〉の『根』や『枝』を力任せに弾き、一瞬で澪へと肉薄。

そしてその勢いのまま剣を振り下ろし、

 

「――母様には、()()()()()

 

■■の剣撃が無効化された。

 

「何!?」

 

「⋯⋯え?」

 

予想外の出来事に驚愕する■■。

澪は自分のことを〝母様〟と呼んだ謎の声に困惑する。

目の前にいる■■以外、私の娘達は死んでしまったはず。

他ならない、私が彼女達の命を奪ったのだから。

では一体誰が?まさか私の与り知らない新手が⋯⋯?

と、〈輪廻楽園(アイン・ソフ)〉の『根』で遠くへ投げ飛ばされていた士道が戻って来て、

 

「――は?なんだありゃあ!?」

 

見たことのない存在を目にし叫ぶ。

 

「ぬ?どうしたのだシドー!まさか澪に仲間が――ッ!?」

 

■■が士道の見上げている視線の先へ目を向けて、その圧倒的存在感に言葉を失う。

 

「⋯⋯君は一体、何者なんだ?」

 

澪は、自分と()()()()な幼い少女を見上げて問いかける。

士道、■■、澪の視線が澪真に集中する。

六対十二枚の光り輝く『翼』を背に生やした澪真が、霊装(ドレス)の裾を摘むと、行儀よく一礼した。

 

「初めまして。わたしは母様と父様の未来の娘、崇宮澪真だよ。そしてこれから――世界を改変して楽園(エデン)を創り上げるものさ」

 

「は?」

 

「ぬ?」

 

「え?」

 

澪真の自己紹介に士道、■■、澪は目を丸くし。

 

「なんじゃそりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――ッ!!?」

 

士道の渾身の叫びが天宮市に響き渡るのだった。




紗和フレンドはこれで終了です!
この話の続きとなる澪真と未来の少女達の永遠に等しいやり直しの回、澪真ウロボロスは乞うご期待となります。

次回は時間を少し遡って蓮パートナー

「⋯⋯それで、自分はこれから何をすればいいんだい?」

「レマのパートナーになってほしいんだよ。――悪役として、ね?」

「お疲れ様、もう一人のわたし」

「ようこそ、澪真ちゃんの世界――第一一領域へ!私はここの管理を任されてる一人の園神凜祢。⋯⋯正確には『未来の園神凜祢』だけどね」

オリジナル設定の説明

〈輪廻聖堂(ルシフェル)〉の六対十二枚の『翼』のうち、光り輝いた一枚の『翼』の能力、権能が行使可能。なお、天使の顕現は不要。

〈輪廻楽園〉 〈万象聖堂〉
〈絶滅天使〉 〈囁告篇帙〉
〈刻々帝〉  〈氷結傀儡〉
〈灼爛殲鬼〉 〈封解主〉
〈贋造魔女〉 〈颶風騎士〉
〈破軍歌姫〉 〈■■■〉

左翼の一番下の天使〈鏖殺公〉だけは未来の■■■■■から力を借りてかつ天使も顕現せねば扱えない。
〈   (アイン)〉を行使する際は全ての『翼』が光り輝く。

〈永劫祭壇(ルシファー)〉の六対十二枚の『翼』のうち、暗く輝いた一枚の『翼』の能力、権能が行使可能。なお、魔王の顕現は不要。
〈輪廻聖堂(ルシフェル)〉と違うところは位置がひっくり返ってるところ。

〈■■■〉  〈滅誘歌姫〉
〈豪嵐騎士〉 〈変幻魔女〉
〈外掛主〉  〈昏冥殲鬼〉
〈凍寒傀儡〉 〈狂々帝〉
〈神蝕篇帙〉 〈救世魔王〉
〈極死祭壇〉 〈永劫瘴獄〉

右翼の一番上の魔王〈暴虐公〉だけは〈永劫祭壇(ルシファー)〉の【創】で生み出して顕現せねば扱えない。(未来の黒いお姉さんが澪真を警戒してるため、力を貸さないらしい)
〈■■■(ケメティエル)〉を行使する際は全ての『翼』が暗く輝く。
原作でも未登場な魔王達は対応の天使を行使する少女達の回にて登場予定なので名前だけでも先出ししておきます。
〈昏冥殲鬼〉は設定集でチラっと紹介されてたりしますが。
設定集もそろそろ整理しないとですね、色々変わってたりオリジナル設定追加したりしてますし。

〈空隙の檻〉、読み方はくうげきのおり。
〈狂々帝(ルキフグス)〉の能力の一つ。
撃った対象を中心に空間が撓み、隙間を発生させその中へ閉じ込める能力。
本来は脱出不可能な檻。

未登場の能力の説明。

【牡羊の弾】、読み方はタレ。
撃った対象を中心に空間を広げる弾。
空間拡張による距離の延長は、相手の攻撃が当たらないのではなく届かないようにすることが出来る。
一瞬で距離を零にする類の能力とは相性が悪い。
例は【巨蟹の剣】による距離の短縮、【山羊の剣】による瞬間移動など。

【魚の弾】、読み方はドゥギーム。
撃った対象に負荷を加える弾。
まるで水の中にいるかのように動きが鈍くなる。
本来は【二の弾】の時間減速のように動きがスローモーションのようになるため、喰らえば回避不可能と言っていいほど強力。
負荷を無視出来る【牡牛の剣】や時間加速の弾【一の弾】などで相殺可能。
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