デート・ア・ライブ 未来からの来訪者   作:問題児愛

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本編に戻る前に幕間を入れる、ということにしよう。
デアラ5期の方は澪ゲームオーバーが終わっていよいよ澪トゥルーエンドですね!
私はというと士道の瞬閃轟爆破をウェスト何某さんに叩き込む回までしか見てませんが笑


幕間 Ⅱ

その日の夜。

村雨令音はいつものように崇宮澪真を抱き枕にして眠っていた。

今日も夢を見ることなく翌日を迎えるだろう⋯⋯そう思っていた。

しかしこの日だけはそうはならなかった。

 

⋯⋯⋯⋯⋯⋯?

 

深淵の如き暗闇の中、令音を照らすように一筋の光が差し込む。

 

⋯⋯?あの向こうに何かがあるのかな?

 

令音は無意識に、その光に向かって歩みを進める。

そうして暗闇に居たはずの令音の視界は、眩い光に包まれて――

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯え?」

 

視界に収まり切らぬ程の、青が彼女の目に飛び込んできた。

そうそれ即ち――海である。

この光景に既視感を覚える村雨令音(崇宮澪)

 

「⋯⋯!?」

 

更なる既視感が彼女を襲った。

自分のこの格好にもまた、覚えがあったのだ。

つばの広い麦わら帽子。

綺麗に編み込まれた髪。

白いワンピース。

そして今の姿は村雨令音ではなく――崇宮澪の姿。

そうそれはまるで――崇宮真士(シン)との初デートの時を彷彿させた。

澪は鼓動の高鳴りを感じる。

 

まさか、ここに⋯⋯シンが⋯⋯!?

 

そう予感した澪は駆け出し、砂浜へと足を踏み入れていく。

 

シン⋯⋯!シン⋯⋯!何処にいるの!?いるなら⋯⋯お願い、返事をして⋯⋯!

 

澪の愛しい彼を、真士を探すように無我夢中で砂浜を走る。

居るかも分からない愛しの真士(シン)を。

だがいくら探しても真士の姿は見当たらない。

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯っ、シ⋯⋯ン⋯⋯っ」

 

ああ、やはりシンにはもう⋯⋯会えないんだ。

そう思い、澪が悲しげな顔をすると。

 

「――澪?」

 

――不意に、優しい男の声が、彼女の名を呼んだ。

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯え?」

 

時が止まったような錯覚がした。

だってありえないからだ。

シンは――崇宮真士は、三〇年前にあの精霊に殺されて死んでしまった。

だから生きているなんてありえない。

では彼は私が作り直した五河士道(シン)

いや、私が作り直した彼は、私を〝澪〟と呼ぶはずがない。

そもそもシンに名付けてもらった私の名前を、今の彼が『識って』いるはずがない。

本当に、()()シンなの⋯⋯?

澪はゆっくりと振り返って、

 

「――!!?」

 

言葉を失った。

何故ならシンも私と同じだったからだ。

群青色のTシャツの上に白い半袖のワイシャツ。

裾を脛まで捲った紺色の長ズボン。

そう、初デートの時の格好と容姿が全く同じだったのだ。

ああ、ああ、シン⋯⋯!シン⋯⋯!

やっと、やっと、シンに――()()()シンに再会()えた⋯⋯!

 

「――シン!」

 

「うおっ!?」

 

真士は澪に抱きつかれて砂浜に倒れ込む。

 

「シン!シン!ああ、シン!また会えて嬉しい!」

 

「⋯⋯っ!ああ、俺も⋯⋯また会えて嬉しいよ――澪」

 

抱きしめてくる澪を、優しく抱きしめ返す真士。

シンの身体、温かい。

死んでしまったあの時の冷たさがない。

ああ、本当にシンが生きてる!

生きて、こうして私と抱きしめ合っている!

夢でもいい。

どうかこのまま、シンと居させてください。

 

「⋯⋯澪。実は――大事な話があるんだ」

 

真士が唐突にそう言ってくる。

 

「なに?」

 

澪はそう短く聞き返す。

 

「その、だな。――ごめん!三〇年間も澪のことをほったらかしにしてしまって⋯⋯!」

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯?それはどういう意味?」

 

砂浜に両手をついて顔を上げ、澪がキョトンと真士を見つめる。

澪の顔が近すぎて真士はドキリと心臓が跳ねたが、何とか堪えて言葉を紡いだ。

 

「⋯⋯そのままの、意味だよ。俺は三〇年間、『隣界』で澪のことをずっと見守ってたんだ」

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯え?」

 

真士の言葉に、澪は混乱する。

三〇年間、『隣界』で私のことを見守ってた?

⋯⋯私の『隣界(世界)』で?

 

「まあ、『隣界』と言っても澪の知らない『隣界』だけどな。澪が俺の存在に気づけなかったのはしょうがないか」

 

「ま、待って!言ってることが分からないよ!つまり、シンは何が言いたいの?」

 

戸惑う澪に、真士は優しく微笑みこう言った。

 

「俺はな、澪。()()()()()んだ。()()()()()()()()()()んだよ」

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯え?」

 

思わず耳を疑った。

シンが生きていて、既に私に再会()っている?

真士は気恥ずかしそうに顔を赤くしながら言う。

 

「⋯⋯いるだろ。澪と風呂入ったり抱き枕にされてドギマギする幼い少女の姿をした何か」

 

「――!!?」

 

ハッとして澪はそのことを思い返す。

そういえば、『隣界』から帰ってきてから澪真の様子がどこかおかしい感じはしていた。

けれどあの反応を、私のことを意識して見てくるシンと重ねると――思わず納得してしまった。

つまり私は――知らない間にシンに、色々見られてしまっているってこと!?

顔を熟れたトマトのように真っ赤に染め上げる澪。

そんな彼女に真士は慌てて謝罪する。

 

「す、すまん!正体を隠して澪に変なことしようとか、そんなことは思ってないんだ!」

 

「⋯⋯いいよ、シンになら」

 

「へ?」

 

「シンになら、私の全部、捧げてもいいよ」

 

「⋯⋯!!?」

 

澪の投下してきた爆弾発言に、真士の心臓が破裂しかけた。

真士に宇宙誕生(ビッグバン)級の衝撃を与える。

軽く昇天しかけた真士を、澪はジーッと見つめながら言った。

 

「⋯⋯シンは本当に、生きて私に再会()いに来てくれたんだね」

 

「あ、ああ。本当はこうして夢の中で会うことも、真実を言うこともルール違反なんだけどな」

 

「⋯⋯危険を冒してまで私に会いに来てくれたの?」

 

「あ、いや、危険ってわけじゃないんだ。ただ⋯⋯あの子に内緒で会ってるから後でこっぴどく怒られるだろうなと」

 

「あの子?⋯⋯ああ、そうか。あの精霊の正体は――澪真、だったんだね」

 

「ああ、そうだよ。あの精霊――〈デミウルゴス〉の正体は澪真だ。もう一人の俺を魔王〈永劫祭壇(ルシファー)〉――【(アサー)】で生み出して(創って)、殺し、澪に作り直させた」

 

「――!?」

 

驚愕する澪。

私が殺されたと思っていたシンは、澪真が生み出した(創った)シンの複製体で、そうとも知らずに私は作り直した?

⋯⋯どうしてそんなことをしたんだろう?

 

「⋯⋯澪真は言ってたんだ。『わたしの母様は、本当は幸せじゃあなかった。だから零からやり直して、母様が、父様が、みんなが幸せになる未来を創る』って」

 

「⋯⋯それがどうして偽物のシンを生み出して(創って)殺すような真似をしたの?」

 

「それはだな、澪。俺の死を偽装しないと――もう一人の俺が生まれる未来がなかったことになるからだよ」

 

「⋯⋯!」

 

「それにあの子は、俺を撃ち殺そうとした()()()さえ、幸せにしようとするとんでもないお人好しなんだ。俺が死んだ世界からやってきたあの子にとっては、殺したいほど憎い相手のはずなのにな」

 

「――ッ!!?」

 

絶句する澪。

そうだ、私の未来の娘である澪真にとってあの男は仇敵のはず。

なのにそんな男さえ救おうとするなんてどうかしてる。

⋯⋯いや、違う。

みんなが幸せになる未来を創ることで、私とシンに降りかかる火の粉を完全に払おうとしてくれているのでは?

もし、全てが私とシンの幸せに繋がる為ならば。

ああ、なんて、なんて――愛おしい娘なんだ。

ごめんね、澪真。

今日まで君を敵と思ってしまっていた愚かな母親()を許しておくれ。

 

「⋯⋯じゃあ澪真のこれまでの敵対行為は――本気で私に、敵と認識させるため?」

 

「そうだ。だから〝世界の敵〟になろうとしてる澪真を俺は――俺達は止めたい!協力してくれるか、澪?」

 

真士がそう言うと、澪は迷うことなく小首を縦に振った。

 

「うん。シンの頼みなら喜んで協力させてもらうよ」

 

「⋯⋯!澪!」

 

「それはそうと、俺達ってどういうことか詳しく聞かせてくれる?」

 

「うっ!そ、それは、だな⋯⋯」

 

「なんて、ね。ふふ、大丈夫だよシン。私は浮気されても気にしないから。ただ――シンの一番は譲る気はないけれど」

 

「浮気なんかしてないわッ!俺だってな、一番は澪に決まってる!」

 

「⋯⋯!シン――本当に?」

 

「本当だ!」

 

「本当の本当に?」

 

「本当の本当にだ!」

 

「本当の本当の本当に?」

 

「本当の本当の本当にだ!」

 

睨み(?)合う澪と真士。

すると澪が悪戯っぽく笑って言った。

 

「じゃあ――キスして」

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯は!?」

 

「もし本当なら、してくれるよね?」

 

「うっぐ!」

 

かぁっと顔を紅潮させる真士。

夢の中とはいえ、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。

 

「⋯⋯あ、この体勢じゃキスしづらいよね」

 

そう言って立ち上がる澪。

それに釣られるように真士も立ち上がって、澪と見つめ合う。

互いの心臓が高鳴り合い、ムードは最高潮に達していた。

 

「ん」

 

澪が目を閉じて真士からのキスを待っている。

ああもう可愛いな俺の嫁!

真士は内心で叫び――やがて意を決したように目を閉じて澪の顔に、自分の顔を近づけていく。

そして砂浜に伸びる澪と真士の影が一つに交わり――キスをした。

しばらくして名残惜しそうに澪と真士の唇は離れて、

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯っ!」

 

「⋯⋯ふふ、三〇年ぶりにシンとキス、しちゃった」

 

ボンッと頭から煙を出し、顔どころか耳も首元すら真っ赤に染め上げた真士と。

赤く染った両頬に手を置いて満面の笑みを見せる澪。

互いのファーストキスは、〈デミウルゴス〉こと崇宮澪真の「盛大に手が滑った!」とか何とか言いながら真士の背を押し――澪の上に覆い被さるような形で二人はキスをするという不可抗力な事故だった。

今思えば、私が偽物のシンとキスする展開を先読みしてシンとのファーストキスを先に成就させるのが目的だったのかもしれない。

とてもではないが子供の発想力とは思えなかった。

真士はコホンと咳払いをし、澪に言う。

 

「早速で悪いんだけど、澪。この世界を創り、維持してくれてる子達を紹介してもいいか?」

 

「この世界を?⋯⋯うん。紹介して、シンの協力者達」

 

「いや、正確に言うと俺は協力者の一人に過ぎない。いの一番に澪真を救おうと計画したのは――狂三だって話だからな」

 

「え?」

 

予想外の人物の名前が真士の口から出たことに驚く澪。

それは無理からぬことだ。

何せ狂三は、澪のことを殺したいほど憎んでる相手なのだから。

『正義の味方』だと嘯き、狂三を散々利用した挙句の果てには――彼女の大切な親友すら、その手にかけさせてしまった。

故に私は恨まれて当然の存在、だというのにその狂三が私の未来の娘のため――澪真のために動いてくれている?

⋯⋯いや、そもそも私の娘には罪はないし、あの狂三が澪真を恨むこと自体ないのかもしれない。

 

「――と、話が逸れちまったな。それじゃあ行こうか澪。みんなのいるとこに」

 

「その必要はないわ」

 

そんな少女の声と共に、金髪サイドテールの少女――万由里が真士の背後から現れた。

今の彼女は来禅高校の制服ではなく、白地に黒のラインが入ったどこの学校の制服か不明なものを纏っている。

 

「うわっ!?急に現れるなよ万由里!」

 

「そうだよ万由里ちゃん。急に真士の背後に現れて声をかけたら驚いちゃうよ」

 

「でもしんじのはんのうは、すこしおーばーなんだよ」

 

続けて苦笑いを浮かべながら、薄桃髪セミロングの少女――園神凜祢と。

そんな凜祢を幼くしたような、されど少し濃いめの桃色長髪の少女が凜祢の真似をして苦笑いを浮かべていた。

 

「⋯⋯それにしても、あんた達のイチャつきっぷりは甘ったるすぎて胸焼けしそう」

 

「などと言ってますが、ただの嫉妬なのでお気になさらず」

 

「ちょ、また勝手なこと言ってあんたはぁぁぁぁ!」

 

さらに続けて黒鉄長髪の少女と。

アッシュブロンドの長髪の少女が現れた途端、そんな言い合いをして。

 

「やれやれ。早々に姉妹喧嘩とは本当に貴女方は仲がいい」

 

最後に赤紫長髪の少女――蓮が現れるやで黒鉄髪の少女とアッシュブロンド髪の少女を見やってそう言う。

 

「どこをどう見たらそうなるの!?」

 

「はい。鞠奈とわたしは大の仲良しです。それはもう、真士と澪さんに負けず劣らずの相思相愛です」

 

「って、あんたはあんたで何小っ恥ずかしいこと口にしてんのよ!?」

 

声を裏返して叫ぶ黒鉄長髪の少女こと或守鞠奈。

そうは言っているが、頬が赤いのは満更でもないのかもしれない。

アッシュブロンド髪の少女こと或守鞠亜が頬を紅潮させた。

次から次へと美少女が現れるものだから唖然とそんな彼女達を見つめる澪。

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯シン?」

 

「先に言っておくが俺は彼女達に手を出してないからな!?」

 

「うん、大丈夫だよ。私はシンのこと、信じてるから」

 

「いやえっとあの澪サン?笑顔なのになんかとても怖いんですが⋯⋯っ!」

 

「ふふ、なんのことかな?」

 

「い、いや、なんでもございません!」

 

笑顔なのにどこか恐怖させる澪に、全力の土下座をする真士。

あの笑顔なのに恐怖させる表情に既視感を覚えた万由里、鞠亜、鞠奈、蓮が凜祢を見やる。

 

「⋯⋯?どうしたのみんな?私の顔になにかついてる?」

 

『いやなんでもない』

 

「???」

 

四人が凜祢から視線を逸らし、それを不思議に思う凜祢。

と、桃髪ロングの幼い少女が察したのか凜祢の服を引っ張る。

 

「なあに、凜緒?」

 

「まゆりちゃんとまりあちゃん、まりなにれんおねえちゃんはね、ママもみおおねえちゃんみたいにえがおがこわいことがあったから、きっとそのことだとおもうんだよ」

 

『り、凜緒(ちゃん)!?しーっ!しーっ!』

 

「あはは、私の笑顔が怖い?そんなことないよねみんな?⋯⋯ね?」

 

『!!?』

 

凜祢が笑顔(?)で万由里、鞠亜、鞠奈、蓮を見回す。

何とも言えない凄まじいプレッシャーに滝汗を流す四人。

ちなみに桃髪の少女こと園神凜緒には、澪のことを間違っても『おばあちゃん』と言わぬよう真士が釘を刺しておいてある。

流石に幼い子供に手を上げるとは思えないが、念のため。

だがそんな凜祢に、不安そうな顔をした凜緒が言った。

 

「ママ、けんかはだめだよ⋯⋯?」

 

「⋯⋯うん。大丈夫だよ、凜緒」

 

凜祢の怖い笑顔は、いつもの優しい笑顔に戻った。

助かった、と安堵の息を吐く四人。

そんな様子に苦笑いを浮かべる真士。

 

「ええと、すまんがみんな、澪に自己紹介を頼む」

 

「はい!じゃあ私から自己紹介をさせていただきます」

 

最初に凜祢が手を挙げた。

今の凜祢の格好も来禅高校の制服ではなく――白いシャツの上に白のフリルつき赤いキャミソールを重ね着し、紺色の短パンの私服である。

 

「初めまして、澪さん。私の名前は園神凜祢。澪真ちゃんと一緒に未来から来た疑似精霊です。疑似天使は〈凶禍楽園(エデン)〉で能力は広域結界内の世界を一からやり直すこと――簡単に説明すると『リセット』かな」

 

「⋯⋯『リセット』、か。〈凶禍楽園(エデン)〉の中ならば世界のやり直しが可能。なるほど、君の――凜祢のその疑似天使の権能は私の法の天使〈輪廻楽園(アイン・ソフ)〉のような強力なもののようだね」

 

「あはは、澪さんの天使と比べたらそれほど強力なものじゃないですよ。そして私の隣にいる子は――」

 

「りおはね、凜緒っていうんだよ。園神凜緒!」

 

凜祢に紹介されて元気よく名乗る凜緒。

赤と白を基調とした霊装(ドレス)を纏っていた。

どこか既視感のある喋り方に澪は目を丸くする。

 

「⋯⋯君の――凜緒の喋り方、澪真とそっくりなのだけれどもしかして」

 

「うん!りおはれまちゃんのぎりのおねえちゃんだからね。みおおねえちゃんにしょうたいをさとられないように、りおのくちょうをまねさせてあげてたんだよ」

 

「ああ、なるほど。それで三〇年前の〈デミウルゴス〉とは違う喋り方だったのか。理解できたよ、ありがとう」

 

「どういたしまして!あとりおにはね、ママとパパがいるんだよ」

 

ピシッと何かに亀裂が入るような音がした。

そして澪は機械のようにギギギとゆっくり首を回して真士を見つめた。

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯シ・ン?」

 

「俺じゃない!本当に俺じゃないんだよ!?未来のもう一人の俺―――五河士道が凜緒のパパだからな!?」

 

「うん、大丈夫だよ。私はシンのこと、信じてるから」

 

「ついさっき言った台詞でなんかデジャヴを感じて怖いんですがっ!?」

 

堪らず叫ぶ真士。

だが澪の疑惑は仕方のないことだろう。

何せ三〇年間も、澪に負けず劣らずの園神凜祢(美少女)と一緒にいたのならば、間違いの一つや二つ犯して子供を一人や二人ほど作ってしまうやもしれぬのだから。

だからこそ、そうならなかった真士のことがもっと好きになってしまった澪。

澪だけをずっと想い続けるなど、並の人間にできたものではないのだから。

 

「じゃあつぎはまりなのばんだね」

 

「ええ、分かったわ」

 

凜緒のご指名に、鞠奈は快く了承した。

漆黒の修道服のような霊装(ドレス)を纏っているが、スカートの裾の部分がバグを起こしたかのように歪な形状になっている。

 

「あたしの名前は或守鞠奈。あんたの大嫌いなあの男の手によって第二の精霊――本条二亜をモデルに創られた人工精霊よ」

 

「⋯⋯!つまり君は――鞠奈は、私の敵?」

 

「そうねえ⋯⋯かつてはあんた達の敵だった、とでも言っておこうかしら?未来で五河士道に敗れて、今は凜緒のお守りをやってる感じ」

 

「⋯⋯そう。なら、よかった」

 

「とはいえこの世界にはあんたの未来の娘が関与してるんだから、もしかしたらかなり早い段階であたしが創られる可能性もあるかもしれないわよ?」

 

「うん、忠告ありがとう。優しいんだね鞠奈は。とてもあの男が創った人工精霊とは思えないよ」

 

「⋯⋯⋯っ!」

 

顔を紅潮させてそっぽを向く鞠奈。

その隣で微笑ましそうに見つめていた鞠亜が手を挙げた。

鞠奈とは対の純白の修道服のような霊装(ドレス)を纏っている。

 

「次はわたしですね。或守鞠奈の妹の或守鞠亜です。敵だった頃の鞠奈に対抗するために、鞠奈を模して実体化した〈フラクシナス〉の管理AIにしてもう一人の人工精霊です」

 

「ふむ。〈フラクシナス〉の管理AIということは君は――鞠亜は士道や琴里の妹にもあたる存在ということだね」

 

「はい、そうなりますね」

 

楽しげに笑う鞠亜。

鞠奈の妹にして、士道と琴里の妹でもあるという圧倒的妹ポジションの少女である。

 

「それじゃあ次は私ね」

 

耳に付けたイヤリングを揺らした万由里が手を挙げた。

 

「私は万由里。〈雷霆聖堂(ケルビエル)〉の管理人格よ。一定以上の霊力が一所に集まった際自動的に生まれ、その裁定を下す。器が、それを手にするに相応しいか否かを。まあ簡単に言うと『システム』なの」

 

「⋯⋯〈システムケルブ〉、だね」

 

「ん、流石ね。そして役目を終えれば無に帰る。それが私よ」

 

「⋯⋯そう、か。ごめんね、未来の私は自分の目的のために凜祢や万由里を利用するだけ利用して、最後には消滅する運命を背負わせてしまって」

 

「別にあんたが謝ることじゃないわ。私達が澪真についてきたのは――この世界で生まれる私達に、そんな運命を辿らせないようにするためだから」

 

万由里が未来から来た目的を話す。

そう、澪真を救う目的の他にも、この世界で同じ結末を辿らせないよう、運命を変えるために来たのだと。

 

「うん。私達は与えられた役割を果たしてそれで満足だったけど、きっと澪真ちゃんが――そして士道が望まない。だから私達は私達自身の力で、この世界の私達を救おうって決めたの」

 

「れまちゃんにばかり、せおわせるわけにはいかないからね」

 

続いて凜祢と凜緒もそう言う。

すると澪は少し考える素振りを見せてから口を開いた。

 

「⋯⋯そうだね。ならばその役目を私に任せてくれないかな?」

 

『⋯⋯⋯⋯⋯⋯え?』

 

予想外の提案に驚く真士達七人。

まさかあの澪が言うとは思わなかったのだろう。

 

「こんな素敵な場所で、シンと再会()わせてくれた恩義に報いたいんだ。未来の娘が、シンを救ってくれたように。私にも君達という娘を、ただ目的のために生み出すのではなく――救わせてほしい」

 

「⋯⋯澪!」

 

澪の提案に、真士は嬉しそうな声を上げる。

真士が生きているというだけで、こんなにも変わってしまうものなのか。

別に澪はヤンデレというわけではない。

ただただ、真士のことが大好きで、愛おしくて、恋しいのだ。

純粋なる愛。

その愛しい真士が戻ってきたことで、病みかけていた澪の心は浄化されて綺麗になったのだ。

と、不意に蓮が手を挙げて言った。

 

「母上がこの世界の自分達を救ってくれると言ってくれたのは嬉しいけれど、一体どうやって救うつもりかな?」

 

「ああ、無策ではないし無論、手はあるよ。その前に――君のことは不思議と誰なのか分かる。たしか⋯⋯蓮、だったかな?」

 

「おやおや。自己紹介の手間が省けて助かるよ。そう、自分は蓮。母上の絶望と嘆きから生まれた悪逆の精霊さ。彼方の世界(現実)と『隣界』の狭間に封印された自分は、貴女を恨み復讐に走ったが――まあ、五河士道に絆されてすっかり道化から一人の恋する乙女に堕ちたしがない精霊だよ」

 

「そうだったんだね。君は『未来の』蓮か。⋯⋯『現在の』蓮はどうしてる?」

 

「ああ、『現在の』自分となら『隣界』で会ったよ。澪真の魔王〈永劫瘴獄(ベリアル)〉の権能で記憶を改竄され、『未来の』自分と同じく貴女に復讐しようと躍起になっていた。隙あらば澪真さえ殺しかねない触れば切れるナイフのような感じかな」

 

「⋯⋯そう」

 

蓮の話を聞いて、澪は悲しげに目を伏せる。

この世界の蓮を封印した真の理由を忘れてしまっているようだった。

だが今の澪には、澪真がどうしてそんな真似をしたのか理解できてしまった。

 

「⋯⋯なるほどね。蓮に私への復讐心を抱かせるだけ抱かせといて、最後には全てを思い出させて私と一緒に澪真を殺す――そんなところかな?」

 

「ああ、流石は母上。それが澪真の狙いであり、〝世界の敵〟として君臨するためのシナリオだよ」

 

「⋯⋯なら自らの手でもう一人のシンを殺し、私に作り直させたのも――五河士道に、澪真を救わせる気を起こさせないため、か。いくら優しい彼でも、己を殺した相手を救うなんてことは絶対にしない、そう思ってしたことなのだろうね」

 

澪真のこれまでの行動を振り返りながら、彼女の真の狙いを的確に読んでいく澪。

全知の権能を有する天使〈囁告篇帙(ラジエル)〉を持っていなくてもこの考察力とは、流石は始原の精霊といったところか。

 

「最後は私だね。シンから既に聞いていると思うけれど、私はとある人物達の、とある目的のために生み出された始原の精霊。それから彼らから逃げてそしてシンと出逢い――崇宮澪という素敵な名前を付けてもらったんだ。その後に何が起こったのかは、みんなも『識って』いると思うから省略させてもらうよ」

 

最後に澪が軽く自己紹介して終わる。

精霊の『始まり』にして、そう遠くない未来で『終わり』の精霊――否、半精霊を産むこととなる存在。

数多の悲劇と犠牲の上にできたのは、偽りの幸せ。

そんな未来を変えるべく『終わり』の半精霊――崇宮澪真が幸せな世界を掴み取るために奮闘する、そんな物語だ。

 

「さて。互いに自己紹介を終えたことだし、早速私の娘達を救うために行動するとしよう」

 

『え?』

 

澪のそんな言葉に驚く真士達七人。

 

「――〈輪廻楽園(アイン・ソフ)〉」

 

澪が天使の名を呼ぶ。

すると澪の背後から天を衝くほど巨大な青白い樹が砂浜から生えてきて――『根』と『枝』を伸ばしていく。

幹の一部が裂けて――凜祢そっくりな少女の姿があった。

 

「⋯⋯え?」

 

再度驚く凜祢。

 

「おいで」

 

「はい、お母さん」

 

澪に呼ばれた凜祢そっくりな少女は、幹の中から飛び出して砂浜を歩く――一糸纏わぬ姿で。

 

「ちょっ!?」

 

真士は顔を真っ赤に染め上げ、これ以上見ないように両手で顔を覆う。

精霊達六人がラッキースケベな真士を「あら?」とか「おや?」とか言ってからかう。

歩み寄ってきた凜祢そっくりな少女を澪は見やると、左手を掲げた。

すると天使〈輪廻楽園(アイン・ソフ)〉の樹は消えて代わりに――()()()()()()が澪の左手に現れた。

そしてその桃色の霊結晶を、凜祢そっくりな少女に渡す澪。

 

「さあ、受け取って。今日から君は――〈輪廻楽園(アイン・ソフ)〉を有する精霊だ」

 

「はい」

 

凜祢そっくりな少女は、桃色の霊結晶を受け取ると、胸の中に吸い込まれていった。

瞬間、一糸纏わぬ姿だった彼女は、霊装(ドレス)と思しきものに包まれた。

それは桃色を基調にしたドレスを、青白い枝葉や根が装飾された衣装だった。

そんな凜祢そっくりな少女の頭を優しく撫でる澪が言う。

 

「君の名前は凜祢――園神凜祢だ。君にはこれから生み出すもう一人の精霊と共にやってほしいことがあるのだけれど⋯⋯少し待っててくれるかな?」

 

園神凜祢と名付けられた少女はコクリと首を縦に振った。

それを見やった澪は、別の天使の名を呼ぶ。

 

「――〈万象聖堂(アイン・ソフ・オウル)〉」

 

すると遥か上空に巨大な青白い球体が現れ――やがて蕾が花開くかのように展開された。

その花の中心には――万由里そっくりな少女の姿があった。

 

「⋯⋯!あれは、私?」

 

万由里が目を丸くする。

 

「おいで」

 

「⋯⋯ん」

 

澪に呼ばれた万由里そっくりな少女は、花の中心から飛び降りて砂浜に着地する――一糸纏わぬ姿で。

 

「ちょっ、またかよ!?」

 

また顔を真っ赤にして真士が顔を両手で覆って見ないようにする。

もっとも、また既に見てしまったから遅いが。

精霊達六人がまたラッキースケベを発揮した真士をニヤニヤしながら見つめる。

歩み寄ってきた万由里そっくりな少女を澪は見やると、右手を掲げた。

すると天使〈万象聖堂(アイン・ソフ・オウル)〉の花は消えて代わりに――()()()()()()が澪の右手に現れた。

そしてその青白い霊結晶を、万由里そっくりな少女に渡す澪。

 

「さあ、受け取って。今日から君は――〈万象聖堂(アイン・ソフ・オウル)〉を有する精霊だ」

 

「ん」

 

万由里そっくりな少女は、青白い霊結晶を受け取ると、胸の中に吸い込まれていった。

途端、一糸纏わぬ姿だった彼女は、霊装(ドレス)と思しきものに包まれた。

それは薄青と白を基調に、まるで花のようなヒラヒラした衣装だった。

そんな万由里そっくりな少女の頭を優しく撫でる澪が言う。

 

「君の名前は万由里――聖堂院万由里だ。君にはこれから園神凜祢と共に、五河士道の傍にいて守ってあげてほしい」

 

「ん、分かった。よろしく、凜祢お姉ちゃん」

 

「うん。こちらこそよろしくね、万由里ちゃん」

 

『⋯⋯⋯⋯⋯⋯』

 

一連の流れを見ていた真士達七人は唖然としていた。

まさかそんな方法で、この世界の凜祢と万由里が消滅する未来を無くしてしまうとは思いもしなんだ。

澪は真士達に微笑んで言う。

 

「どうかな?これが私の――娘達の救済措置だよ」

 

「え、ええと、澪さん?」

 

「疑似精霊ではなく、本物の精霊にするという発想はいいんだけど」

 

「それをするということは母上――貴女の力がさらに弱体化を招くんじゃあないのかな?」

 

凜祢は困った顔をし。

万由里が淡々と喋り。

蓮が澪の心配をする。

それに澪は苦笑で返す。

 

「うん。けれどいいんだ。娘達を生かせるのなら、私はいくらでも力を分け与える。だって私には――」

 

真士の右腕に抱きつき言った。

 

「シンさえいれば十分だから!」

 

「み、澪!?」

 

急に抱きつかれて驚く真士。

次いで、右腕に伝わる澪の柔らかい感触に、真士の顔が真っ赤に染まっていった。

しかし澪は全く気にしないどころか満更でもない顔で頬を紅潮させる。

そういえば澪はこういう子だったなと。

真士と自身の力を天秤にかけても、圧倒的真士だろうなと。

未来の疑似精霊四人と人工精霊二人はそう思うのだった。

こうして崇宮澪の幸せな夢はふけていき、朝を迎えるのだった。




澪と真士の再会、例の六人の精霊の正体、そして澪真の目的などが大まかに分かる回でした!
真士生存ルートで澪がどんな反応するのかは完全に私の妄想なので悪しからず
そして判明した残りの精霊四人は

園神凜緒
或守鞠奈
或守鞠亜


でした!まあ鋭い方にはバレッバレでしょうが笑
さらに澪の協力の下、園神凜祢と万由里は与えられた役目を果たすだけの疑似精霊ではなく自分の天使の力を与えて精霊に!

次回 十六話

翌日、士道のクラスに転校生が二人やってきた。

「久しぶりだね――士道」

「え?」

「え?じゃないでしょ、士道お兄ちゃん」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯は?」

「不倫は良くないと、先生は思うんですよね!」

「私も、あなたとの子供が欲しい」
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