それにしても登場人物多いと書くの大変ですねえ⋯⋯ちゃんと真那や精霊達の見せ場や絡みを用意しませんと。
アイザック・ウェストコットは、崇宮澪真を伴って、二人の少女に会っていた。
全身に白金に輝くCR-ユニット〈ペンドラゴン〉を纏った、淡いノルディックブロンドの髪の少女――エレン・ミラ・メイザースと。
全身に白と青のCR-ユニット〈ランスロット〉を纏った、ハーフアップに括られた金髪の少女――アルテミシア・ベル・アシュクロフト。
ウェストコットの無事に、エレンは安堵するが、彼の隣にいる澪真を見つめ、眉を顰める。
「⋯⋯アイク?その少女は?」
「ああ、彼女は――私の新しい協力者さ」
「⋯⋯協力者?その精霊が?」
今度はアルテミシアが訝しげに澪真を見つめた。
澪真は、エレンとアルテミシアを見回すと、微笑んで軽い自己紹介をした。
「わたしの名前はレマ、タカミヤレマだ。こことは別の世界で、異なる時間軸、未来からやって来た――タカミヤミオとイツカシドウの霊力から生まれた、疑似精霊さ」
「⋯⋯崇宮?それに、未来からだって?」
「⋯⋯〈デウス〉と、五河士道の霊力から生まれた疑似精霊、ですか」
「ああ、そうだ。しかも彼女は、疑似精霊でありながらその力は〈デウス〉に比肩するほどの存在だ。実際、〈デウス〉と同格に至った始原の魔王たる私の霊力をほとんど持っていってしまうくらいにね」
ウェストコットの言葉に、エレンとアルテミシアは愕然とし――澪真を危険視すると、レイザーブレイドを引き抜き構えた。
「その女から離れてくださいアイク!」
「よく分からないけど、凄く危険な感じがする⋯⋯!」
澪真を警戒するエレンとアルテミシア。
そんな二人を、ウェストコットが右手で制した。
「まあ待ちたまえエレン、アルテミシア。たしかに〈デミウルゴス〉は私の霊力を封印したが、それは〈デウス〉の愛しい少年――タカミヤシンジを精霊として復活させるために必要なピースだっただけさ」
「な⋯⋯、崇宮真士を精霊として復活させるために、アイクの力を奪ったのですか!?」
「ああ、そうだとも。しかし私のことなら心配はいらないよ。彼女と
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
ウェストコットの言葉を聞いて、エレンとアルテミシアは納得いかないような顔をしながらも、レイザーブレイドを収めた。
それにしても、死んだ人間を精霊にする術を持つ、明らかに常軌を逸した崇宮澪真という疑似精霊を、ウェストコットに近づけていいものなのだろうか。
エレンはキッと目つきを鋭くして澪真を睨みながら言った。
「⋯⋯⋯それで、私達の協力者を名乗る貴女は、一体何をしてくれるんですか?」
「――
「⋯⋯え?」
「なんでも、するよ。君達の悲願が叶うよう、私が出来るうる限りのことを尽くすよ。だから言って、どんな願いでも受け入れるから」
両手を広げ、優しげな微笑みを浮かべながらそう言ってくる澪真。
唖然とするエレンとアルテミシア。
ウェストコットもキョトンとして目を丸くしていたが――やがて弾けたように笑い声を上げた。
「ふふ、ふはははははははは!そうか、なんでも、か。なら――」
スッと目を細めてウェストコットは言った。
「――
「え?」
ウェストコットの言葉に、キョトンとして固まる澪真。
「――〈
ウェストコットが魔王の名を呼ぶと同時、虚空から〈
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯ぁ」
「ア、アイク!?」
「ウェストコットさん、何を!?」
突然のことに驚くエレンとアルテミシア。
だが澪真は、ウェストコットの企みを悟ったように微笑し、自分を貫いた〈
「⋯⋯ああ、そうか⋯⋯それが、君の――、」
最後まで言う前に、澪真の意識が闇に沈んだ。
そんな澪真を引き寄せたウェストコットは、愛おしげに彼女の
「我が愛しき〈デミウルゴス〉よ。君は言ったね、なんでもすると。ならば私は――」
恍惚な表情でウェストコットは告げた。
「
瞬間、〈
そしてそれが晴れると――
上書きに成功したウェストコットは、〈
不思議なことに、〈
その少女はゆっくり目を開けて、銀の瞳が露になる。
それから少女はウェストコットを見つめてこう呟いた。
「――
「と、とう!?」
「父様!?」
ウェストコットを〝父様〟と呼んだ少女に、ギョッと目を剥くエレンとアルテミシア。
ウェストコットは、恍惚とした表情で少女のくすんだ銀の頭髪を撫でながら言った。
「目覚めの気分はどうかね?――
「レア?」
「ああ。タカミヤミオの〝澪〟に、私の名のアイザックの〝ア〟で〝レア〟だ。どうかね?素敵な名前だとは思わないか?」
「⋯⋯ふむ、そうか。父様の姓を名乗るならば〝レア・ウェストコット〟。母様の姓ならば――〝崇宮澪亜〟、かな?レア⋯⋯うん、凄くいい名前だ。ありがとう、嬉しいよ、父様!」
「はは、気に入ってくれて何よりだ。しかし、澪亜か⋯⋯タカミヤミオの〝澪〟に、そしてアイザックの〝ア〟の外国語音を表すのに使う〝亜〟か。ああ、なるほど、それはいい。レア、姓はタカミヤを名乗るといい」
「うん!」
嬉しそうにはにかむくすんだ銀髪の少女改め澪亜。
ウェストコットは恍惚とした表情で澪亜の頭を優しく撫でてやる。
ああ、なるほど、これが――娘を持った父親という感覚か。
存外、悪いものではないようだね。
それに――タカミヤシンジから〈デウス〉を
今の私は最高に、気分がいいようだ。
だが、私は〈デウス〉に振られてしまった身。
娘は手に入れたが、彼女をどう手に入れるべきか――
と、ここでウェストコットは、ある可能性を見出してしまった。
しかもそれは、最悪な手段だった。
――ああ、そうか、
タカミヤレマの存在を上書きしたように。
〈デウス〉の
〈デウス〉の想い人をタカミヤシンジから――
ふは、ふはははははははは!
ああ、なんだ、簡単なことじゃあないか。
私の手には、あらゆる条理を書き換える法の魔王〈
世界を上書きすることができる、魔王の権能がね。
タカミヤレマを〈
ならば如何に〈デウス〉とて、〈
ああ、だが、その前にまずは――タカミヤシンジを殺そうか。
再び〈デウス〉の想い人を殺して、彼女に『絶望』をもたらそう。
それから、〈デウス〉の想いを〈
〈デウス〉と〈デミウルゴス〉を手に入れ、世界を上書きした――
「――⋯⋯父様?」
心配そうにウェストコットの顔を覗き込んでくる澪亜。
「⋯⋯ああ、大丈夫だ。心配させてしまったようだね、レア」
ウェストコットは澪亜の頭を撫でながら、アルカイックスマイルを浮かべてみせた。
しかし彼は、一つの違和感を覚えていた。
本来の私ならば、霊力の塊にすぎない疑似精霊のこの娘を〝取り込む〟選択をするはずだ。
なのに何故私は彼女を――娘にするという選択をしたというのだろうか。
少し時を遡り、士道達は〈
〈
ウェストコットが最後の魔王――全てを無に帰す『無』の魔王〈
それを止めに士道を助け、向かっていった澪。
そこまでは分かっているのだが。
その後、何が起こったのかは知る由もない。
書の天使〈
澪の無事を祈り続けた士道は、泣きそうな顔で彼女の名を呟く。
「⋯⋯っ、澪⋯⋯」
「――うん。呼んだ、士道?」
士道の呟きに、少女の声が応えた。
「――⋯⋯え?」
そんな小さい声が、士道の口から洩れる。
ゆっくりと振り返った士道の視界に映ったのは――
「あ⋯⋯、あ⋯⋯っ、」
士道の両の目からポロポロと涙が零れ落ちる。
少女は驚いたような顔で士道を見つめた。
「どうしたの、士道?まるでありえないものでも見たような――」
顔をして、とは続かなかった。
何故なら、士道が急に少女に抱きつき、泣きながら強く、強く抱きしめてきたからだ。
「ああ⋯⋯、澪⋯⋯!澪――!」
「し、士道?」
「よかった⋯⋯、澪が⋯⋯、無事で――!澪が、生きていてくれて――!」
「⋯⋯そう、か。心配させて、しまったようだね。ごめんね、士道。私はもう大丈夫だから⋯⋯ありがとう」
泣きじゃくる士道の震える身体を、少女――崇宮澪が優しく抱きしめ返す。
そしてまるで子をあやすように、士道を撫でてやる澪。
その光景を、真那や精霊達が温かい眼差しで見つめていた。
目尻に涙を浮かべる者、士道のように号泣する者、様々な感情で。
しばらくして泣き止んだ士道は、袖で涙を拭うと澪を見つめて優しく微笑みこう言った。
「――おかえり、澪」
「――ただいま、士道。それに、みんなも」
澪もそう返して、士道や真那、そして精霊達に優しく微笑み返す。
ああ、そうか。
私はシンを取り戻すことで頭がいっぱいだったから気づけなかったけれど。
私の帰りを待ってくれる人達が、こんなにもいたんだ。
贖いきれないほどの罪を犯した、最悪な女だというのに。
こんなにも、私を受け入れてくれる人達が、いたんだね。
ああ、私はなんて、幸せ者なのだろう。
と、そんな澪の両肩に優しく手を置いた者が言った。
「もう、いいか?」
「え?」
「うん。本当に君は優しいね――シン」
「――⋯⋯は?」
シンと澪に呼ばれた少年を見た士道は、素っ頓狂な声を漏らしていた。
だってそこにいたのは――
「お前は、まさか――真士、なのか⋯⋯?」
『え?』
「ああ、そうだ。俺が本物の――崇宮真士だ。まあ、人間やめて澪と同じ
「なん、」
「だと!?」
顎が外れるほど驚愕する士道や真那、一部の精霊達。
その中で、冷静な調子で書の天使〈
左右不均等に結われた黒髪に、金の時計の左眼。
ゴシックロリータ調のドレスと、修道衣が合わさったような霊装を纏った少女――時崎狂三だ。
〈
「――な、これは⋯⋯」
「⋯⋯狂三?何か分かったのかしら?」
天女のような霊装を纏った、赤い髪をツインテールに括った士道の義妹――五河琴里が狂三に訊く。
狂三は難しそうに眉を寄せて返した。
「ええ。けれど、書いてある内容がデタラメすぎてとても信じ難いですわね」
「デ、デタラメ?一体何が書いてあるっていうのよ」
琴里がそう言うと、狂三は頷いて〈
《
「――以上が〈
狂三が話し終えると、
「⋯⋯未来から、それもこことは別の世界――士道が時間遡行する前の世界からやってきた、崇宮澪と士道の霊力から生まれた疑似精霊、ですって?」
信じられないような顔で琴里が呟く。
「異世界転生ならぬ、自分の力で異世界への扉を切り開いちゃう系主人公ちゃんかー。てか澪っちの想い人を死者の世界から連れ出して再会させるとか、そんなんアリ!?そういうのってさー漫画とか
修道女のような霊装を纏った灰色の髪の少女――本条二亜が悲鳴のような声を上げながら叫ぶ。
「いや、精霊とかいう存在がいる時点でこの世界も大概だと思うんだけど」
魔女のような霊装を纏った緑色の髪の少女――七罪が静かにツッコミを入れる。
「冥界の扉を開き、死者の魂との逢瀬⋯⋯そして精なる霊に転生させる、か。何それ物凄くかっこいいんだけど!」
拘束衣のような霊装を纏った橙色の髪の少女――八舞耶倶矢が興奮したように拳を作り震わせる。
「感嘆。母親の悲願を叶えにやってきた未来の娘というのは、とてもロマンチックなものですね」
耶倶矢と同じ霊装を、同じ髪色、瓜二つの顔を持つ少女――八舞夕弦がうっとりしたような顔で呟く。
「うーむ。しかし私の天使と魔王に、世界を隔てる壁や生と死の壁を切り裂くことができたとはな。知らなかったぞ」
お姫様のような霊装を纏った、黒髪の少女――夜刀神十香が感慨深そうに二度三度と頷く。
「むん⋯⋯一つ引っかかるのじゃが、何故むくの天使〈
星座のようなものが描かれた霊装を纏った、金髪の少女――星宮六喰が不可解とばかりにその疑問を口にする。
「たしかに六喰の鍵の天使〈
六喰の疑問に答える澪。
澪真がいた『並行世界』において、澪の世界たる『隣界』――法の天使〈
「そ、それなら十香さんの天使はどうして、異なる世界に対しても、通用するんでしょうか?」
『もしかしちゃってぇー、十香ちゃんだけ特別な存在だったりするー?』
兎耳がついたレインコートのような霊装を纏った、青髪の少女――四糸乃が小首を傾げる。
四糸乃の左手にあるコミカルな兎型の
士道はハッとして何かに気づいて、口を動かした。
「⋯⋯十香だけ、澪と同じ――純粋な精霊、だからか?」
『え?』
「うん。君の言う通り十香だけは、みんなとは違う純粋な精霊だよ。そして――私にとっても、世界にとってもイレギュラーな存在だからね。ああ、そうか、だからあらゆる条理を、概念を切り裂くなんて規格外な権能を手にしたのか」
士道の言葉に、澪は首肯して言う。
「なら、崇宮澪真という疑似精霊もまた、イレギュラーな存在でいやがりますね。あのひとでなしの社長の霊力すら封印しやがるくれーなんですから。それに――」
狼を思わせるCR-ユニット〈ヴァナルガンド〉を纏った、士道の――否、真士の実妹、青髪の少女――崇宮真那がそんなことを言うと、澪の隣にいる真士に視線を向けて。
「⋯⋯本当に、兄様は真那の兄様でいやがるんですか?」
「ああ。といっても澪と同じ始原の精霊になって復活した元人間だからな。こんな俺が真那の兄を名乗る資格なんて――」
ないよな、とは続かなかった。
何故なら真那が両の目に涙を浮かばせながら、真士に抱きついてきたからだ。
「そんなの関係ねーです。人間として死に精霊として復活したとしても、兄様は真那の兄様です!」
「真那⋯⋯」
「それと――おかえりなさい、兄様」
「ああ、ただいま――真那」
抱きしめ合う崇宮兄妹。
士道は、
そんな士道の心情を察してか、琴里が義兄の背に抱きついてきて言った。
「大丈夫よ、士道。あなたには私がいるんだから」
「⋯⋯っ、琴里⋯⋯」
五河義兄妹がそんな風にしていると、真那が不思議そうな顔をして首を捻った。
「何を言ってやがるんですか?兄様も、真那の兄様でいやがりますよ?」
「へ?」
「は?」
二ッと笑ってみせる真那に、間の抜けた声を洩らす士道と琴里。
と、顎に手を当てて考え込んでいた純白のCR-ユニット〈ブリュンヒルデ〉と、花嫁のような霊装を複合させたものを纏った、白髪の少女――鳶一折紙が呟いた。
「崇宮澪真は、崇宮澪と士道の霊力から生まれたと言った。それはつまり――私達の娘と言っても過言ではない」
「え?」
「ですですぅ。澪さんを含めた私達一二人とだーりんの愛の結・晶!あ~ん!最高に素敵すぎますぅ!そのお顔は澪さんにそっくりだそうですからもうさぞ可愛い子なんでしょうねぇ⋯⋯こひゅっ、ふひゅひゅひゅひゅ⋯⋯是非是非ぃ、私のことを美九ママと呼んでほしいですねぇ⋯⋯」
歌姫のような霊装を纏った、青紫の髪色の少女――誘宵美九が興奮しながらそう言っていた。
だがヤバイ発言してる美九に、折紙は首を横に振った。
「違う、一二人ではない。私の勘が正しければそれでは足りない。おそらくあと五人+αはいる」
「あと五人も?って、+α?」
「そう。五人のうち、一人は二重人格な気がする」
「なんだそりゃ⋯⋯。――ッ!?」
士道は、その二重人格にあたる精霊が何者なのか、心当たりがあった。
「⋯⋯まさか、或守鞠亜と鞠奈⋯⋯?」
「――はい、呼びましたか士道?」
途端、二亜の書の天使〈
「マリア」
「はい。⋯⋯そんなに見つめられると流石に照れてしまいます」
「え?あ、すまん!」
慌てて視線を逸らす士道。
それにマリアが、それはそれでなんか傷つきます、と言ってムスッとしたような顔を見せた。
いやどっちなんだよ、と苦笑いの士道。
だがマリア、そして〈ニベルコル〉の容姿は、誰かに似ていると感じていたが――先の二人を思い出したことで得心がいった。
アッシュブロンドの髪の少女――鞠亜と。
黒鉄色の髪の少女――鞠奈。
二人は人工精霊と呼ばれる存在で、〈ラタトスク〉が開発したスーパーシミュレイテッド・リアリティの電脳空間――『恋してマイ・リトル・シドー2』の中で出会った少女達だ。
『愛』とは何かを探求する鞠亜と、そんな彼女を利用して〈フラクシナス〉の制御権を奪い取ろうとした鞠奈。
その最後は、とても悲しい結末であったが。
しかしその二人の霊力が士道の中にあって、そして澪真を形成する霊力の一部だというのか。
それならもしかしたら――
「⋯⋯万由里も、か?」
「ぬ?シドー、今万由里と言ったか!?」
「ああ。十香、四糸乃、琴里、耶倶矢、夕弦、そして――美九。六人の霊力と『想い』から生まれた疑似精霊で、役目を終えたら無に還る運命を背負った悲しい女の子だけど⋯⋯そう、か」
士道の言葉に、狂三がわざとらしく悲しそうな顔を作り言ってきた。
「非道いですわ、非道いですわ。わたくしの霊力と『想い』も、皆さんほどではありませんけれど、万由里さんの中にほんの一部あったといいますのに」
「え?⋯⋯あ、」
士道はハッとして思い出す。
そうだ、狂三の霊力の一部とも呼べる〈
ならば狂三の霊力と『想い』も、ほんの僅かではあるものの、万由里を形成する一部だったと言っても過言ではないだろう。
「す、すまん狂三」
「まあ、そういうわたくしも、あの時は士道さんに霊力の一部を封印されているとは思いませんでしたけれど」
二ッと笑う狂三に、調子のいいやつめと苦笑いを浮かべる士道。
これで三人だが、士道が記憶の中に存在する精霊は鞠亜、鞠奈、万由里だけだ。
「⋯⋯折紙の勘、ってやつが正しければあと三人の精霊に、俺は会ってるはずなんだろうけど――駄目だ、まったく思い出せない」
士道は、知っているはずなのに思い出せない三人の少女に苦悩する。
すると澪が士道に歩み寄ってきて。
「そうだね。士道、君は思い出してあげるべきだ。そうでないと、あまりにも彼女達が可哀想だからね」
「澪⋯⋯んなこと言われたって、思い出そうにも――」
思い出すことができない、とは続かなかった。
何故なら、唐突に澪が士道の両頬を手で包み込み、自分の額を士道の額に当ててきたからだ。
瞬間、士道の記憶の中に、忘れていたはずの記憶が流転して鮮明に思い出していく。
十香が力を暴走させたことで、それに巻き込まれ死にかけた士道を救いたいという澪の『願い』が生み出した存在。
顕現するは何度も繰り返せる歪な楽園、疑似天使〈
最後には本当の『幸せ』を『識って』、士道に霊力を封印されて消えていった悲しき疑似精霊。
凜祢に渡した合鍵を見たことで、彼女のことを思い出した士道が、凜祢にもう一度会いたいという『願い』が、士道の中に封印されていた凜祢の力たる疑似天使――〈
士道をパパ、凜祢をママと呼ぶ、彼女を幼くしたような愛らしい少女――園神凜緒。
凜祢と同様に自分の『幸せ』を顧みない彼女は、〈
三〇年前に目の前で愛しい少年、崇宮真士を殺されたことで『絶望』した澪の憎悪と嘆きから生まれた彼女の分身と呼ぶべき赤紫色の髪の少女――蓮。
その性質上、遠い未来で産まれるであろう作り直した彼を傷つけられることを恐れた澪が、彼女を
真士としての記憶を思い出した時のように、凜祢、凜緒、蓮との思い出の記憶が、士道の中に流れ込んでくる。
「あ⋯⋯、あ――ッ!」
士道は滂沱の涙を流す。
どうして俺は今まで、彼女達のことを忘れてしまっていたんだ!と、そんな自分を責める士道。
そんな士道を優しく抱きしめた澪が、泣く子をあやすように撫でてやる。
「自分自身を責めないで。あの子達も君を責めたりはしないだろうから」
「澪⋯⋯、ああ、そうだな。いつまでも泣いてたら、俺の中にいるあいつらを心配させちまうだろうしな」
袖で涙を拭い笑ってみせる士道。
それを見て安心したような顔をする澪。
一方、真士はふむ、と顎に手を当てて考え込み。
「それにしても凄い子だな、澪真は。澪を含めた一九人分の霊力と『想い』の結晶、か。こっちの世界に来た目的が、澪を『幸せ』にすることなのは理解できたが、今のあの子は
「そうだね。あんな奴を救おうとしてるなんて、あの子は優しすぎるよ。それともあの子は――あの男を『識った』ことで心境に変化が生じたのかな?」
真士の言葉に、澪も不思議そうに首を捻る。
士道達も首を捻り、澪真の意図を汲み取ろうとしたその時。
「――さて、諸君。別れの挨拶は済んだかな?」
上空に現れたウェストコットが、そんなことを言ってきた。
「――ッ、ウェストコット!」
「我々ももちろんいますよ、五河士道」
「それに私たちには、強力な助っ人がついてるよ」
全身に白金のCR-ユニット〈ペンドラゴン〉を纏い、レイザーブレイド〈カレドヴルフ〉を携えるエレンと。
全身に白と青のCR-ユニット〈ランスロット〉を纏い、レイザーブレイド〈アロンダイト〉を携えるアルテミシア。
「助っ人ですって?」
琴里が眉を寄せて言うと、ウェストコットが恍惚とした表情を作ると、自分の後ろに控えさせていた一人の少女に向けて言った。
「さあ、我が愛しき娘。みなに自己紹介したまえ」
「うん、父様」
『え?』
ウェストコットのことを〝父様〟と呼んだことに、士道や真那、精霊達が目を丸くした。
くすんだ銀髪を風に靡かせた少女が、漆黒のドレスの裾を軽く摘んで一礼する。
「わたしの名前は崇宮――崇宮澪亜。愛するわたしの
ウェストコットと澪に、愛らしい笑顔を向ける澪亜。
『なっ、』
絶句する士道達。
そりゃそうだ、狂三が〈
すると真士がウェストコットを激しい怒りと共に睨みつけて激昂した。
「テメェ!澪真に何しやがったッ!」
「何をした、とはご挨拶だね。彼女は我々に対してこう言ったんだ。『なんでもする』、とね。だから私は、私のしたいようにした、ただそれだけのことさ」
「なんだと!?」
「⋯⋯法の魔王〈
澪が顔を顰めてそう呟く。
ウェストコットは、澪の言葉に首肯する。
「ああ、流石は〈デウス〉だ。私は彼女の存在を〈
『――ッ!!?』
ウェストコットのしたことに、ふつふつと怒りが込み上げる真那や精霊達。
士道だけは、澪亜を見つめて悲しげな顔を作っていた。
『なんでもする』、それは自分の幸せを顧みない行為に思えたからだ。
それは今し方士道が思い出した、凜祢と凜緒のような行為と同じに思えたから。
エレンは澪亜に振り返って言った。
「先陣は私とアルテミシアが切りますから、貴女には我々の援護をお願いします」
「うん。けれど数は圧倒的に向こうが上だから――君達には
「え?」
澪亜の言葉に、眉を寄せるアルテミシア。
澪亜が両手を広げると、虚空から『闇』の帯が二本現れて――エレンとアルテミシアの胸を貫いた。
『!?』
その光景に既視感を覚えて士道達が戦慄する。
まるで澪が、自分の力を士道達に注ぎ込むような感じと似ていたからだ。
しかし今のは澪亜の力を注ぎ込む――だけではなかったらしい。
「⋯⋯は?この、力は!」
「こんなこともできるんだ。流石は始原の精霊の娘、かな?」
全身に『闇』の霊力を纏わせたエレンとアルテミシアがそんなことを言ったのち。
「では――遠慮なく使わせていただくとしましょうか!」
まずエレンがそう言い――〝ソレ〟を纏った。
「――〈
エレンがその名を言うと、〈ペンドラゴン〉の上からお姫様のような『闇』の霊装を纏わせた。
しかしそれだけではない、エレンは〈カレドヴルフ〉を仕舞うと――〝ソレ〟の名を呼んだ。
「来なさい――〈
エレンの声に呼応するように全身を『闇』で彩られた片刃剣が顕現する。
〈
「ほう、これは――ふふ、なるほど。最強の私が扱うに相応しい
『闇』の霊装と剣の魔王〈
「は?ちょ、何それそんなんあり!?」
「驚愕。あのエレンに魔王は笑えない冗談です」
「むう⋯⋯よもやエレンが私の魔王を手にするとはな」
耶倶矢、夕弦、十香がそんなことを言っていた。
しかし『絶望』はこれで終わりではなかった。
次にアルテミシアが口を開き。
「それじゃあ私も――使わせてもらおうかな!」
そう言ったのち――〝ソレ〟を纏った。
「――〈
アルテミシアがその名を言うと、〈ランスロット〉の上から喪服のような『闇』の霊装を纏わせた。
だが当然それだけではない、アルテミシアは〈アロンダイト〉を構えながら――〝ソレ〟の名を呼んだ。
「おいで――〈
アルテミシアの声に呼応するように『闇』の王冠が顕現し、ついで無数の『闇』の『羽』が彼女を守るように展開された。
アルテミシアは自分の纏っている霊装や、無数の『闇』の『羽』を見つめて呟いた。
「へえ⋯⋯これが魔王。凄いや、今ならなんでもできそうな気がする!」
エレンと同様、『闇』の霊装と『闇』の魔王〈
「まさか、アルテミシアも魔王を手にするなんて、これはとても脅威」
「むん⋯⋯〝しーあーるゆにっと〟とやらと精霊の力、その双方を同時に扱えるのは、折紙だけの特権ではなかったのかの?」
「これが、澪さんと士道さんの、娘さんの力ですか」
『いやぁー、これは流石にまずいんじゃなぁい?』
折紙、六喰、四糸乃、よしのんがそんなことを言っていた。
一方、澪亜はウェストコットの方に向き直り。
「父様はわたしと
「ああ、ありがとうレア。では、そうさせてもらおうかね」
澪亜の言葉に、ウェストコットは薄く笑って――〝ソレ〟の名を呼んだ。
「来たまえ――〈
ウェストコットの声に呼応するように『闇』の本が彼の前に顕現した。
だがそれだけではない、ついでウェストコットは口を動かして。
「――〈ニベルコル〉」
ウェストコットがその名を言った瞬間、『闇』の本が開いてパラパラと幾つもの紙片が宙を舞い――〝ソレ〟は黒に近い灰色の髪の少女の姿を取り、修道女のような簡易霊装〈
「きゃはは、復活のあたし!」
「即死攻撃振りまかれて出番全然なかったけど」
「これでようやくお父様のお役に立てられるわ!」
全てが同じ疑似精霊の登場に、士道達の表情が強ばる。
「うげ、二べ子も完全復活かー。澪真っちホント何でもありじゃん!」
「あら?今はマリアがいるんだからどうとでもなるじゃない」
「わたくしが分身体で一掃して差し上げてもいいんですのよ?」
「えぇっ!?〈ニベルコル〉さんにマリアさん、そして狂三さんが絡み合ってくんずほぐれつですかぁ!?ディープキスとかもしちゃいますかぁ!?私もその中に混ぜてもらってもいいですかぁ!?」
「美九、ストップ。深呼吸」
二亜、琴里、狂三、美九がそんなことを言っていた。
興奮する美九に、冷静な声で七罪が落ち着かせようとする。
澪亜は、ウェストコット、エレン、アルテミシアを見回した後、己が魔王の名を呼んだ。
「おいで――〈
瞬間、澪亜の背に一二枚の暗く輝く『闇』の『翼』が顕現した。
そこから発せられる凄まじい霊波に、思わず息を飲む士道達。
「とてつもない力を感じる」
「うへぇ⋯⋯何あれまんま堕天使じゃん!」
「あら、あら、おぞましいことこの上ありませんわね」
「嫌な感じが、します」
『なんかこぉ、ピリピリくるねぇー』
「一二枚もある『翼』に、何か意味があるのかしら?」
「ふむん⋯⋯むくの〈
「『翼』一枚一枚から死の光線とか出してこないでしょうね!?」
「漆黒の、一二枚の、『翼』⋯⋯くっ!一枚欲しいかも!」
「理解。耶倶矢が如何にも好きそうな『翼』ですね」
「きゃー!あんな可愛い子に『翼』とか、可愛さ倍増アイテムか何かなんですかぁ!?」
「よく分からんが、気をつけろシドー!」
精霊達が各々感想を述べる。
そしてすかさず狂三は書の天使〈
「⋯⋯は?なんですの、これ?ふざけてますの?」
が、想像だにしない『情報』を目にして、狂三は身震いさせながらそんな言葉を呟いていた。
狂三のその反応に、士道は不思議に思い首を傾げる。
「どうしたんだ狂三?」
「ど、どうしたもこうしたもありませんわ。まず、澪真さんの生の魔王〈
「ああ」
「恐ろしいことにあの『翼』一枚一枚が、一体の魔王を冠している、ということですわ」
『は?』
素っ頓狂な声を洩らす士道達。
澪がふむ、と顎に手を当てて考え込む素振りを見せた後、細い息を吐いて言った。
「なるほど。要するに私が背負ってるコレみたいなものだね。そして澪真が扱える権能は――私と士道が有している天使とは対の、全ての魔王、ってところかな」
『え?』
「士道が持つ一〇の天使と、澪の持つ三つの天使、合わせて一三の天使――その対となる一三の魔王が、澪真には使えるってことか」
『な!?』
澪の言葉を理解した真士が補足し、それを聞いて士道達は言葉を失う。
だがそうなるのも無理からぬことである。
疑似精霊でありながら、その力は始原の精霊と何ら変わらないのだから。
しかも澪のような、されど澪とは違った方法で力を貸し与えることができるという反則級の特権持ち。
「さらに魔王を顕現させなくても、その権能を行使することが可能というオマケつきもありますわね」
「え、何それなんでもありすぎない!?」
狂三の追加『情報』に、悲鳴じみた声で言う七罪。
「唯一の救いは、貸し与えた魔王を澪真さんが使用すると、貸し与えられた側の魔王の力が半減してしまうというデメリットがあるというとこですわね」
「⋯⋯む?それのどこがデメリットになるのだ?澪真には影響がないのだろう?」
「そうね。けれどせっかく貸し与えた魔王の力を弱らせるなんてこと、彼女がすると思うかしら?」
「つまり――貸し与えた魔王の力を、彼女は使ってこなくなる」
十香の疑問に琴里が答え、折紙が補足する。
「澪真が貸し与えた魔王は〈
「ですが、まだ魔王が一〇体も残っています」
『どのみち、油断大敵だねぇー』
士道の言葉に、四糸乃とよしのんが警戒するように促す。
「呵々!一二の『翼』に宿りし未知なる魔王、か。一体如何様な権能が眠っておるのか、興味に尽きぬわ!」
「嘲笑。威勢のいいことを言ってますが、膝がガクガク震えてますよ」
「ふ、震えてなんかないし!」
耶倶矢をからかう夕弦。
「むん⋯⋯むくの〈
「ムックちんの魔王とか、二亜ちゃん想像つかないわー。だってだって〈
「なら二亜が〈
「おおっと、そいつは盲点だったぜ!」
「もっとも、〈ニベルコル〉対策にマリアは必須でしょうから、『調べる』余裕はないでしょう」
「って、そうだったわちくしょー!」
六喰、二亜、マリアがそんなやり取りをしていた。
と、ウェストコットが書の魔王〈
「来るか――エリオット」
「⋯⋯ッ!?」
ウェストコットの言葉に、エレンが驚愕の表情を見せ――すぐにそれは激しい怒りの表情に変わっていった。
そして――
「――おいおい、なんだってエレンの奴が魔王なんかを手にしてやがんだ?」
突如上空に現れた、全身に金色のCR-ユニット〈ヴォーダン〉を纏った、金髪の男――エリオット・ボールドウィン・ウッドマンがそんなことを口にしていた。
「え、誰あのイケメン?あんな人いた?」
「それよりエリオットってまさか、」
「⋯⋯!澪、あの人って」
「うん。あの顔には覚えがある。三〇年前に私とシンを助けてくれた人と同じ」
精霊達が呟くと、真士と澪が思い出したようにウッドマンを見つめた。
それに気がついたウッドマンは、澪達に近づいてきて――澪の隣にいた真士を見て目を見開いて驚いた。
「⋯⋯!おまえは――あの時の坊主か?」
「はい。お久しぶりです、ウッドマンさん。あの時は、お礼も言えずすみません」
「いや、俺が勝手にやったことだからお礼なんかいらねえよ。むしろ謝らなきゃいけないのは俺の方だからな」
「いえ、ウッドマンさんが謝ることじゃありませんよ」
「⋯⋯そうかい。しかし今や少年はその子と同じ
ウッドマンの冗談めいた言葉に、真士がかあっと顔を真っ赤に染め上げる。
澪も嬉しそうに笑っていたが、ウッドマンを悲しげな顔で見つめて言った。
「⋯⋯君は、自分の命を燃やして〈
「え?」
「おや、バレちまったか。だが完全復活したあいつらを相手取るには、戦力は欲しいところだろ?それにこいつは俺のけじめでもある。だから――」
「うん。止めはしないよ。ただし――」
澪の霊装から『光』の帯が伸びてきて――ウッドマンの胸を貫いた。
「私達のために命を費やすなんてことはさせない。だから私の力を使って。これなら、命を費やすことなく、〈
「――!はは、そうかい。そいつはありがたい。俺にも少し、澪の『愛』を分けてくれるのかい?」
「⋯⋯そんなつもりはないのだけれど」
「はは、ちょっとしたジョークさ。それにおまえはその少年を選んだんだ、今さら奪い取ろうなんざこれっぽっちも思ってねえよ」
「ふふ、知ってる。君のことは村雨令音としての『私』が見てきたからね」
「ああ、そういえばそうだったな」
笑い合う澪とウッドマン。
それからウッドマンが士道と琴里に向き直り言った。
「――というわけで俺もおまえらと戦うことになったから、よろしく頼むぜ五河士道に五河司令――いや、嬢ちゃん?」
「は、はい!こちらこそよろしくお願いします、ウッドマンさん」
「ハッ!ウッドマン卿⋯⋯って、え?」
「おいおい、堅苦しいのはなしにしようぜ少年に嬢ちゃん。今の俺は〈
ウッドマンが軽い調子で士道と琴里に言ってくる。
それに士道は困ったような顔を見せ、琴里はしばしの間逡巡したが、やがていつもの調子で返した。
「⋯⋯分かったわ。あなたがそれでいいなら私も普段通りに接することにするわね――エリオット」
「おお、いきなり呼び捨てにするとはやるじゃねえか嬢ちゃん」
琴里に名前を呼び捨てにされて、嬉しそうに笑うウッドマン。
と、エレンがそんな彼の背を睨みつけて激昂するのかと思いきや、逆に落ち着きを取り戻した調子で言った。
「エリオット、あなたが出てきてくれるとは僥倖ですね。これであなたという裏切り者も含めて、彼らを纏めて始末することができるのですから」
「少しは私たちを楽しませてくれるよね?」
エレンに続いて、アルテミシアもそんなことを言ってくる。
ウェストコットは両手を広げて告げた。
「ではそろそろ始めようじゃあないか。我々と君たちの――
「ええ、そうね。始めましょう、私達の――最後の
琴里がウェストコット達に戦斧を、炎の天使〈
斯くして、世界の命運をかけた最後の
一方は、人類に復讐し、この世界を上書きするための戦いを。
一方は、その野望を阻止し、この世界を守るための戦いを。
エレンとアルテミシアが魔王の霊装と武器を手にしました、え?なにこれ?勝てんの士道達?
ウッドマンさんが駆けつけてくれたとはいえ、ウェストコット側にはオリ主ちゃんがいますからねえ。
果たして勝利することができるのか!
次話で澪真トゥルーエンドは終了予定です。