巨影を知らない都市   作:ギガンティック芦沢博士

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stage5:暴走する機械の影 ③

 特車二課の内容は第一小隊と第二小隊に分かれ、前者は選りすぐりの人材が集うエリート部隊といった様相だ。写真で見たことがあるが、隊長も凛とした美人。

 一方の特車二課第二小隊、これが良くも悪くも異彩を放つ問題児集団である。枠に囚われない遊撃隊的な大胆行動で八面六臂の大活躍を果たしたと思えば、何かにつけてすぐ破壊、粉砕、そして被害拡大と、おおよそ警察らしくない大味な振る舞いで悪名も高い。

 かく言う俺も、彼らへの好意的な報道というものはあまり目にしたことがない。

「なんで第二小隊! クソッ、せめて第一小隊ならなぁ……!」

『なんだぁ! きさむぁ! 納税者だと思って優しくしてりゃあ付け上がりやがって!』

「それが仮にも警官のセリフか!」

 他のあらゆる機能は失われているくせに、なぜか無線だけは双方向で繋がっていたらしく、激高した男性隊員が後方からタイラントに掴みかかってきた。

『このヤロォ~ッ!』

「お、おい! 無茶するなよ!」

 しかしさすがはパトレイバー、タイラントの歩調は完全に停止し、その力は拮抗した……ほんの一瞬は。

 タイラントの突出した背部ユニットが二機の引き合いに耐えきれず、もぎ取られる形で剥離した。後方は運転席横の窓から僅かにしか覗けないが、見ればパトカーのような白黒調のレイバーが天を仰いで転倒していた。パトランプが光る肩には“2”と印されている。

 第二小隊のパトレイバー、確か名はイングラムだったか。この機体はタイラントなどの土木作業用レイバーとは異なり、より人間に近くスマートな体形だ。左右非対象のアンテナがウサギの耳のように伸びる頭部も、一種の愛嬌を感じさせる。

 が、これを駆るのが破壊神とまで称される第二小隊であるからして、この状況に置かれてもイングラムが救世主に見えることはない。

『やってくれるじゃねえか!』

「勝手にやられたんだろ!」

『ええい問答無用ぉ!』

 現にこうして()()()隊員に飛び掛かられ、しまいには蹴りまで入れられる始末。

「うおっ! この、いい加減にしろよ……!」

 あまりの狼藉に俺の堪忍袋の緒も切れようかという時、タイラントが異常な動きを見せた。

 急に歩調を変え、今までになく機敏に横へ動いたかと思うと、あろうことかドロップキックを浴びせようとしたイングラムを紙一重で回避した。イングラムはそのまま正面の家屋へ腰から落下し、隊員の驚愕の叫びがノイズ交じりに聞こえた。

「へっ、よく分からないけどいい気味だな」

『貴様ぁ! この期に及んで抵抗するかぁ!』

「俺はどこも触っちゃいないぞ、こいつの暴走だ」

 その時、慌てふためくユーコの声が聞こえた。

「カメさん、何してるんです!?」

「何って、俺は何も。むしろキミが躱してくれたのかと思ったが」

「いいえ、私は止めようと必死で……」

 ユーコが言い終わらないうちにタイラントが歩み出で、立ち上がったイングラムを正面にして、腕を大きく振り上げた。

『なにぃっ!?』

「え、ちょ、おい!」

 イングラムは鉄槌のようなその一撃を退いて躱すが、振り下ろされた両腕は、既に半壊状態の家屋を見る影もなく全壊へと至らしめた。タイラントは前進し、そのままイングラムと組み合って相撲のように押しやっていく。

「こいつ! なんで急に、攻撃的に!」

『な、なんだぁ!? やろうってのかこいつ!!』

 対する隊員も火が付いたのか、がっぷり四つに組んでこれに対抗した。対応としてそれはどうなのだろう。

 しかしさすがは土木用レイバーといったところか、馬力には横綱と小結程度の差がありそうで、押し込まれたイングラムが家屋を次々と破壊していく。

「ああーっ! もしかして!」

「なんだ、知ってるのかユーコ!」

「ほら、私の気分って機体に影響を与えるんですよ!」

 そう、たしか湖に向かう際、自動車に変身していた彼女が意気込んだことによって、エンジンが吹き上がった。

「ああ、たしかにあったな、それで?」

「仮説ですけど、私がカメさんの体に同居している上で、このレイバーと一体化しているので……ほら、カメさんの感情って、私にもなんとなく伝わってくるんです」

「……原因、もしかして俺?」

 つまり、俺の怒りがユーコを通してタイラントに伝わっているのか?

 そうこう論議しているうちにタイラントはさらに攻勢を強め、器用にもイングラムを足払いの要領で投げ飛ばした。

『ぬおぉぉぉぉっ!?』

 石を投げれば民家に当たる住宅密集地であるからして、イングラムは三軒ほど巻き込んで派手に転倒した。

「カメさん、早く怒りを鎮めて!」

「そんな急に言われても、たしかに今ちょっとスッキリしちゃったし!」

「言ってる場合ですか!」

 深呼吸などしてみるが、いまだに怒りを抱えているのか自分自身、自覚が無い。そもそも日頃溜まった潜在的なフラストレーションにまで反応しているとしたら、打つ手など無いのでは?

『このヤロォ! 銃さえ使えれば貴様などおぉぉ!』

「……なんだろう、なんか、収まる気が」

「カメさん!」

 諫められてしまったが、ここでふと気づく。

「そもそも、キミが一体化を解除したらどうだ?」

 しばし無言の間が流れた。やがてふとユーコが姿を現すと、タイラントも元の歩くだけの状態へ穏やかに移行した。彼女は決して俺と目を合わせようとはしなかった。無言の運転席に機械の歩調だけが響いている。

『逃がさんぞぉ!』

 気まずい空気を取り払ったのは、やはり()の隊員の怒号だった。復帰したイングラムは再び背後からタイラントにしがみ付き、その進行を止めようとするが、二機の間には如何ともし難い馬力の差があった。

 イングラムを引きずったまま前進を続け、やがてタイラントは一つの空地へと抜け出した。そこでは肩に“1”と印されたイングラムが待ち構えていた。

 背後の狼藉者のイングラムも、元よりここへ追い込む腹積もりだったらしく、タイラントを羽交い締めにして固定した。

『おぉい、早く乗員をなんとかしろ! この野郎クソ力出しやがってからにぃ!』

 それに応じて1号機が進み出て、俺の搭乗する運転席へ手を伸ばしてくる。巨大な掌が迫り来る様に体が緊張する。

 運転席の屋根から前部までを覆うパーツが無理矢理に引き剥がされると、操縦桿や足場までもが付随し、俺自身も機外へ引きずり出される形になる。気付けばそのパーツごと1号機の手に収まっていた。

 これで俺の脱出は成ったわけだが、振り向いてみれば、2号機が左腕のシールドの裏から特殊警棒のような武器を取り出す瞬間だった。その際、拘束を緩めたことにより、タイラントが再び前進を始める。

「まだ動くのか、こいつ」

 外から見て改めて分かるが、背部も前部も大きく破損しているにも関わらず、歩調に淀みのようなものは感じられない。やはり土木用レイバーだけあって耐久性に優れるようだ。

 2号機がそのタイラントと少し距離をとって警棒を伸長させると、電流の迸る音がした。恐らくスタンバトンのような武器なのだろう、それを脇に構え、2号機は背後からタイラントに迫った。

『とりゃあぁぁ!』

 破損により露出した背部機関に警棒を突き入れると、スパーク音と共にタイラントの活動が停止し、脱力するように肩を落とした。

「やった!」

「ふう、ようやく止まりましたか」

 俺とユーコが思わず安堵の声を漏らす。それは2号機の彼も同じようだった。

『よーし終わった。帰って飯にしようぜ!』

 しかし、結果から言えばそれは早計だった。くずおれたタイラントが再びモーター音を発すると、次の瞬間には全身をガクガクと震わせながら身を起こした。

「なにぃ!?」

 タイラントがバランスを崩したようにたたらを踏み、2号機を巻き込みながら後退する。

『んなっ、おい!? なんだなんだなんだなんだ!?』

 突然の事態に対処もできず、2号機とタイラントは家屋を破壊しながら、住宅地に流れる水路へ水没した。レイバー一台分ほどの幅しかない水路だったため、川沿いに建つ家屋に高波が打ち付けて、煌めく飛沫が高く舞い上がる。

「いったいどうなってるんだ……あいつ、また動き出したぞ」

 俺が疑問を口に出していると、やがて二機は少し距離を置いて浮上してきた。しかし……大量の水を滴らせる2号機が異様なまでに静かだったことに、悪寒を感じずにはいられなかった。

 それは的中し、2号機は無言のまま右ふくらはぎの側面にあたる部分を展開し、レイバーサイズのリボルバーを抜き出した。

 俺の後方、イングラム1号機の喉元から2号機を制止せんとする女性の声が聞こえた。1号機のパイロットは女性なのだなと、こんな状況ながらにそう思った。

『往生せいやあぁぁぁぁぁっ!!』

 怒号と共にリボルバーが連続で発射される。一発一発が鼓膜に響く轟音を発し、その銃弾が川面に当たると、レイバーの背を超える水柱が高々と吹き上がった。

 一発がとうとうタイラントに直撃するが、着弾した箇所から白い煙のようなものが漏れ出し、見る見るうちに機体が凍結していく。それは対面する2号機にまで及び、足元から順に霜にまみれ、最後は頭部のアンテナの先端まで完全に凍結した。

 下町を流れる水路のど真ん中で、射撃姿勢をとったまま氷像のように固まるイングラムは非常にシュールな光景を生んだ。

「れ、冷媒を撃ち抜いたのか……」

 甚大な被害を生んだレイバーの暴走事故は、こうして何とも言えない収束を迎えた。上空を往くヘリのプロペラ音がようやく聞こえてきた。

 

 さて、九死に一生を得た俺はその後、無事に地上に降ろされると……途端に拘束された。容疑はレイバーを用いた器物破損だというが、警官諸氏の対応を見るにテロリストとして扱われているようだった。

 警察署まで連行され、取り調べを受ける羽目になった。ここ最近こんなことばっかりだと辟易しているところに、理解の無い聴取が行われ火が付く。

「あのなぁ、精密機械たるレイバーがひとりでに動き出すわけないだろ」

「この事実以外に話すことは無い! 絶対OSかどこかに不具合があるはずだ!」

「そーだそーだー!」

 一人では心細い思いをしたかもしれないが、ユーコがエールを送ってくれるおかげで自分を強く持てた。もっとも、それで事態が好転することは無かったが。

「バカ言え、あのタイラントに乗ってたのは篠原の最新OS、“HOS(ホス)”だぜ。不具合なんてあるわけ」

「HOS? 篠原重工……」

 それを口走った警官は、上役と思わしき者にどやされて退出と相成った。俺が目を白黒させていると、今度は恰幅の良い……というよりは太り気味な、ワイシャツ姿の男が対面に座した。

「さっきは悪かったね。俺にもちょっと話聞かせてもらっていいかな」

 彼は俺の話を真摯に聞き、時おり手帳に何やら書き込んでは喉を唸らせていた。少なくとも俺の話を信じているようで、最後にはしっかりと頷いて話を終わらせた。

「分かった、ありがとう。この話の通りならすぐにでも釈放になるだろう。けどむやみな吹聴はやめてくれよ?」

 俺の職業を理解した上でそう笑いながら牽制する彼は、なかなか好印象だった。

「しませんよ、俺が追っているのは巨影だけなんでね」

「そうそう、おたくのサイト俺も見てるよ!」

 その後しばらく巨影の話で盛り上がっていると、彼の携帯に着信がある。

「ああっと、そうだな、もう聞きたいことも聞いたし、ここらで失礼するよ」

 そう言って電話口に出ながら、彼は扉へ向かった。

「ああ後藤さん、やっぱりそうだよ。こりゃ決まりかな」

 彼が退室して間もなく、俺も釈放と相成った。

 

 どうやらおやっさんが俺のアリバイを証明してくれたようで、感謝してもしきれない。迎えに来てくれたおやっさんと共に警察署を出ると、空は赤く色づいていた。網戸越しに見たいつかの茜空を想起させ、もはや帰れない思い出の住まいが妙に恋しい。

「ああ、これが埴生の宿ってやつか……いたっ」

 誰の家が埴生だコラ、とおやっさんに殴られた。




今回の選択肢

『やってくれるじゃねえか!』
①「勝手にやられたんだろ!」
②「いいから止めてくれ!」
③「す、すいませんでした」
④「うるせえ、かかってこい!」

①②③→『ええい問答無用ぉ!』
④→銃撃され大破、ミッション失敗
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