巨影を知らない都市 作:ギガンティック芦沢博士
距離をとっていたモスラは再接近し、後方からの突撃を図っているようだった。コスモスは俺たちを背に庇うように後ろ向きで飛行し、腕を突き出して構えた。
「待ってくれコスモス! モスラはコスモス姉妹を、ええいややこしい! 大事な人たちを取り返したいだけだ!」
攻撃をやめるよう呼びかけると、コスモスは横目に俺を捉え、“分かっている”というように頷いた。
それを隙と見たかモスラが一挙に加速し迫りくる。コスモスは右腕を引き絞ると、拳を振りかぶるわけではなく、掌を見せるようにゆっくりとモスラへ伸ばした。そこから放たれたのは青い放射状の光線……いや、光線というと語弊がある。まるで泡沫が水面へ浮かび上がるような様相で、モスラへと清浄の光が放たれた。
それに中てられた瞬間のモスラは、何の変化も無いように見えた。しかしコスモスに衝突するという寸前のところで、軌道を上昇に変え自ら攻撃を中断した。
頭上を通過するモスラを見上げているとユーコが解説を挟む。
「あれはフルムーンレクトという技です。攻撃的なものではなく、相手の感情を鎮める効果があります」
「なるほど、興奮状態の今のモスラにはこの上なく有効だな」
モスラは一度大きく旋回した後、コスモスと並んで俺たちを追従し始めた。何か意図を持って甲高い鳴き声を上げているようだが、なぜだかその内容を少し理解できるように感じた。
「なんだろう、“勘違いは分かったけど、腹の虫が収まらねえ!”って感じだな」
「そう、ですね。そんな様子に見えますね」
幾分か落ち着きを取り戻したようだが、羽ばたき方や声音を勘案するに未だ姉妹の奪還に燃えているようだ。この状態のモスラをクラークソンのもとへ向かわせれば、飛行機ごと落としかねないように思える。クラークソンたちは正直諦めがつくが、コスモス姉妹も無事では済まないのではないか、というのが最大の懸念だ。
「どうしますカメさん、モスラをお二方のもとへ案内しますか」
「……そうするしかないだろ。でもモスラには攻撃せずに待ってもらう」
「じゃあ、やはり私たちが?」
「ああ、なんとかしてみよう」
内心で溜め息をつきながら覚悟を決めると、コスモスへ語り掛ける。
「コスモス! 俺たちはこれから姉妹の所へ行く! モスラも連れてこられるか!」
やはりウルトラマンは人間の言葉を解しているようで、深く頷いて返事をくれた。しかしどういうつもりか、両手をこちらに伸ばして機体を掴んだ。
「な、なんだなんだ、どういうつもりだ?」
「あ、なるほど。カメさん大丈夫です。一回変身を解除しますよ」
「は? 待て待て大丈夫じゃないよ俺、人間だよ? ここ高度何メートルだと、うわぁ!」
理解が追い付かないなりの必死の抗議は無視され、淡い光と共に戦闘機の姿がかき消えた。その瞬間襲い来る鋭利な刃物のような暴風に目を瞑る……が、しかし俺に届く風は、若干風の強い日に浴びるそれと大差なかった。
理解が及ばず恐る恐る目を開いて見ると、俺が足場としていたのは巨大な人の手――ウルトラマンの掌の上だった。胸のランプ越しにコスモスが俺を覗き込んでいる。
「うわぁ、うわぁ! 凄い!」
年甲斐も無く子どものようにはしゃいでしまうが、それも仕方ないだろう。ウルトラマンの、手の中に居る! この体験がどれだけ心揺さぶるものか!
「彼の方が早く飛べるそうなので、一気に連れて行ってくれるそうです。イメージで伝わってきました」
「早く言ってくれよもぉ!」
文句を垂れる口はふやけたように緩んでいるため、発音もそれに伴ってだらしないものになっていた。
「でも、寒さも風もあまり感じないのはなんだ? コスモスの力なのか」
そう疑問を呟いてみると彼は頷いた。
「すっごいな、ウルトラマンってやつは! よし、頼んだ!」
彼の巨大な指に手をかけながら言うと、彼はまた頷いて前を向き、数段回ギアを上げたように超高速での飛行を始めた。流れる雲の速度は戦闘機から見下ろしていたものとは比較にならない。
「凄い! 最高だなこれ……あっ、モスラは?」
遅れていないか後方を確認すると、全く変わらない間隔で追従していた。
「は~、モスラも凄いなぁ。いくら逃げようとしても振り切れなかったわけだ。なあユーコ……ユーコ?」
見れば、コスモスの掌の端でぶっすりとした表情で正座していた。
「そーですね、私なんかじゃ到底かないっこありませんね。あー楽ちん楽ちん」
どうやらお株を奪われた気分らしく不貞腐れているようだ。はしゃぎ過ぎたと慌てて身振り手振りを交えフォローする。
「いやいや、キミがいなくちゃここまで来れなかったしさ! 今後も色々頼ることが――」
その時俺は――いや、俺の体は思い出した。先ほどの背面飛行を。いくら軽減されていたとはいえ、高速アクロバット飛行に伴う負荷と……それに曝されていた臓腑を。
「……カメさん? どうしたんですかそんな端っこに寄って……カメさん!? だだ、大丈夫ですか!? 何か出てますよ!?」
かくして俺は、恐らくは世界で初、ウルトラマンの掌で粗相をやらかした男となった。ウルトラマンも焦ればこんな声が出るのだなと、心中で謝罪しながらそう思った。
その後飛び続けること数分、だろうか。ぐったり横たわっていたので時間の感覚も定かではないが、テレパシーによる探索に戻っていたユーコがついに見つけ出した。
「あ、あ! 見つけましたよ! 前方の上空からお二人の気配が!」
「なに!」
その声に反応してコスモスが軌道を上げる。そうして見えた先の青空に目を凝らすと、遥か遠方の紺碧の空に、米粒の欠片のような白い点を発見した。
「よし、追い付いたか! コスモス、モスラ、あれだ! 後ろから近付いてくれ!」
返事とばかりに二体は声を上げ、あっという間に上昇し距離を縮めていく。高度が上がればそれに伴う環境の変化で何か症状が出そうなものだが、コスモスのおかげでその兆しは一向に表れない。
『カメさん、ユーコさん』
足元の声に視線を落とせば、そこにはコスモス姉妹の像が再び現れていた。
「二人とも、ご無事でしたか!」
『はい、なんともありません』
「そうか、よかった。俺はちょっと無事じゃなかったけど」
ちょっとした悟りに至ったような俺の表情に彼女たちは首を傾げたが、後方を飛ぶモスラを捉えると目を見開いた。
『モスラ……』
「ああ、立派に羽化したよ。それにウルトラマンの方のコスモスも一緒だ」
二人揃ってコスモスを見上げ、息を飲んでいるようだった。
「これから俺たちが助けに行くよ。モスラには少し我慢してもらうけど」
『……ありがとうございます。本当に、心から感謝します』
手を合わせてそう告げる彼女たちに笑いかける。
「その前に一つ聞きたいんだけど……キミたち、酸素無くても平気?」
旅客機は基本的に高度約一万メートル付近を航行する。それは遥か眼下に雲海、頭上には宇宙を感じさせる紺碧の天蓋が広がる世界。極限の世界へ生身で至った感動はあるが、目標の姿が近づくにつれ緊張感が高まる。
クラークソンのプライベートジェットの形が分かるまでに接近すると、そこにある飛翔体が三つであることにようやく気が付いた。中央に大型機、それを挟むように小型機が二機、並び飛んでいる。
「カメさん、あれはなんでしょう?」
「まさか、とは思うけど……護衛の戦闘機じゃないか」
そう当たりを付けるや否や、小型の二機は大きく旋回して左右に散った。そのフォルムは間違いなく戦闘用のそれで、こちらを正面に見据えて迫った。
「クラークソンめ、よっぽどモスラが怖かったと見える! コスモス、なんとか回避を――」
言い終わらぬうちにモスラが後方から俺たちを抜き去り先んじた。
「モスラ、殺しちゃダメだ! なるべく被害を出さないでくれ!」
これ以上の損害を与えることは、人間側の恐怖を引き起こすことにも繋がるだろう。そうなればコスモス姉妹の思いも、本来のモスラの在り方も淡く立ち消えてしまいそうだった。
戦闘機はモスラを挟撃せんと機銃を掃射したが、モスラは急上昇、コスモスは急降下によってそれを回避した。急な浮遊感に体内のあらゆる臓器が浮かび上がる感覚に襲われる。
「うへぇ……!」
コスモスの指に掴まりながら情けない声が漏れる。戦闘機はモスラを優先対象としているのかコスモスに追撃はせず、縦横無尽に逃げ回るモスラを追い回していた。サイズ感からして、さながら蝶を追い回す蜂だ。
「落とされなきゃいいけど……」
「飛行機の方ですよね」
「もちろん。モスラがあんなカトンボに負けるもんか」
加速から減速、捻りまで自由自在に操り追撃を躱すモスラを、二機の戦闘機は捉えきれずにいる。今のところモスラから攻撃する気配はないが、落とそうと思えばいつでも可能だろう。
「モスラの虫の居所次第だが、いつまで持つか分からんな。コスモス、頼む!」
彼はウルトラマン特有の独特な声で返事をすると、これまで以上の加速でジェット機に急接近し、あっと言う間に垂直尾翼の上方に着けた。
見下ろすそれは小市民の俺が想像するプライベートジェットとはかけ離れた規模で、通常の旅客機と大差無い巨体を誇った。
「さすがに速いなコスモス、このまま近づけてくれ」
コスモスが俺を乗せている手を伸ばせば、機体に飛び移れそうな距離にまで接近した。間違いなく半径五メートル以内にまで接近できただろう。
「よしユーコ、コスモス姉妹なら大丈夫だ。打ち合わせ通りに頼む!」
「はい!」
ユーコが機体へと飛び込み姿を消す。脅しをかける、あるいはコントロールを完全に奪って最寄りの空港へ着陸させる手もあったが、モスラの状態と護衛機の存在によってそれらの作戦は実行できなくなった。故にユーコがまず成すは、機内の急減圧だ。
すぐに変化は訪れた。機体は急降下を始め、ユーコの工作の成功を如実に物語った。
「よし! コスモス、この距離のまま付いていってくれ」
ジェット機に寄り添うようにコスモスも降下を始める。これが当初より取り決めていた強襲作戦の第一段階だった。
旅客機というものは内部の気圧を地上に近いものに保っているが、それが下がる……つまり急減圧が起こると、まず酸欠を防ぐために酸素マスクが降り、そしてパイロットは気圧差を解消するため高度三千メートル付近まで機体を急降下させる。ユーコによって強制的に機器トラブルを引き起こすことで、その状態に陥れたのだ。
遠ざかっていく上空に舞う三つの影を見やる。こちらの異常に気付き離脱しようとする戦闘機をモスラが押し留めているようにも見える。いや、恐らくそうしているのだ。姉妹たちの救出の邪魔はさせまいと……つまり、俺たちを信頼してくれているのだ。
「無理はするなよ」とポツリと呟き、降下していくジェット機に再び視線を返す。これが降下しきった時が作戦の第二段階だ。
こんな巨影が見たかった③
・「パシフィックリム」よりイェーガーとKAIJU
巨大な怪獣とロボットの殴り合い。これに興奮しない子どもがいるのだろうか。
エルボーロケット(ロケットパーンチ!)、タンカーバット、謎の振り子、どれもこれも堪らないギミックである。
動力が旧式の原子力だから電磁パルス攻撃にも耐えられるというのはジャイアントロボみたいでクソかっこいい展開。でもそれならチェルノアルファにも活躍の機会があったっていいんじゃないですかね……
好きな機体はもちろんチェルノアルファ。第一世代って堪らん。