巨影を知らない都市   作:ギガンティック芦沢博士

20 / 77
一週間おきの投稿なので、今回からあらすじ付けてみます



前回までのあらすじ

 モスラとウルトラマンコスモスの協力により、“小美人”ことコスモス姉妹を救出することに成功した主人公とユーコ。しかし叔父であり巨影を追うジャーナリストである大塚秀靖が、北方都市に咲いたレギオンの草体の爆発に巻き込まれ安否不明となる。


stage7:その影は大勢であるがゆえに ①

 モスラの背に乗って陸地へと戻る途中、コスモス姉妹にこれまで見てきた巨影や、叔父や中将さんのような()()()の話を聞かせた。途中までは笑顔で、興味深そうに聞き入っていた姉妹だったが、叔父の現況を聞くと一転して表情を曇らせた。

 不思議には思ったがその場では言及せず、やがて陸地にたどり着くと、モスラは人目につかない山間部に着陸した。その毛並みを惜しみつつも地上に降り立ち人心地ついていると、姉妹は目を瞑り、とある方角に面してじっと佇んでいた。声をかけようとしたが、その方角がおおよそ北方であることに気付き、息を飲んで彼女たちのアクションを待った。

 やがて彼女たちは「やはり……」と呟き、俺を見据えた。

『カメさん、どうか落ち着いて聞いてください』

 全身を駆ける悪寒に、唾を飲み込んだ。

「まさか……」

『ここより北の地で、レギオンの草体が……爆発しました』

 虫の知らせ、というものは、どうにも実現しやすいらしい。

 

 突然姿を消したことの釈明をしようと中将さんに連絡をしたところ、所属不明機と二体のアンノウン反応が観測されたことが軍事マニア間でもっぱらの噂であると聞かされ、俺は戦闘機での移動を控えることにした。次こそ撃墜されかねないし、そもそもこれまでが出来すぎだった。コスモスやモスラの助けが無ければいつ死んでいてもおかしくなかったのだ。故に、俺は陸路にて叔父の元へ――北方都市へと向かっていた。

 高速道路のサービスエリア。トラックの間にスポーツカーを停め、人目を確認してから変身を解除してもらい、休憩施設へと向かう。そこで道路状況の確認をしようとモニターを探すが、深夜帯にしてはなぜかモニター前が混みあっていた。最後列の男性に声をかけてみる。

「すいません、どうしたんですか?」

「ああ? いや、この先通行止めになってんだよ」

「ええ、またなんでこんな時に……事故ですかね?」

「それがどうも、崩落って話でさ」

 その時、フードコート内がにわかにざわめき始める。見渡せば、皆が一様に見上げる先のテレビにその原因はあった。それは上空の報道ヘリからの生中継で、北方都市へ繋がる高架橋が長大な範囲に渡って倒壊している様を映し出していた。

『見えますでしょうか、支柱にして十本分ほどの区間が崩落しています! これは移動中の大型レギオンによる影響と思われ、予想進路からは少し逸れた場所を通過し……』

 画面上にワイプが現れ、台風の予想進路図のような予報円が、北方から一路首都へと向かっている様が示されている。しかし台風の目(レギオン)は予想の進路を逸れ、軌道は僅かな曲線を描くものへと変更された。

 次に画面が切り替わると、町明かり無き瓦礫の爆心地で、死したように鎮座するガメラの様子が映し出された。巨大な甲羅から四肢と尾、そして頭部が飛び出している、なんとも形容し難い不可思議な姿であるが、この奇怪な怪獣が――少なくとも現時点では――人類に与する存在であると俺だけは知っている。

 コスモス姉妹から聞かされたところによると、ガメラは地球を守護する存在であり、故に地球環境に多大な影響を与えうる草体、ひいてはレギオンに敵対しているらしい。五年前にもレギオンの草体を破壊した点からもそれは明らかだったが、しかし……

『大型レギオンと交戦した後、草体の爆発に巻き込まれたガメラに未だ動きはありません。一帯にはガメラが人類の味方であると信じる方、特に無事を祈る子ども達の姿が多く見受けられます』

 細かい経緯は分からないが、ガメラはレギオンに敗れた。死んでいないにせよレギオンの侵攻を防げるような状態ではないことは明らかだ。

 レポーターが同じ内容の反復を始めたところで休憩施設を飛び出し、バイク専用の駐車場にて物色を始める。

「カメさん、何を?」

「ここから先はバイクになってくれ。レギオンの進路上へ行くにも交通規制があるはず。そうなると、潜り抜けるには小回りが利いた方がいい。……よし、これだ。こいつになってくれ」

 はい、と返事してユーコは俺の示したバイクを観察し、そして変身した。それはスーパースポーツと呼ばれる、いかにも俊敏な外観をしたフルカウルのバイクであった。ありがたいことに、ミラーに被せられていたヘルメットまで再現してくれている。

 ありがとう、と告げながら跨り、エンジンの鼓動を感じる。深く息を吸って、タンクに寄りかかった。

「叔父さんの安否は、もちろん気にかかる。でも生きているにせよ……違うにせよ、叔父さんは『撮ってこい』と言うだろう」

 これだけは確信があった。彼の巨影に対する飽くなき執念は、他人はもちろん、時には自身までをも蔑ろにすることさえあった。

「俺はそうしようと思う。付き合ってくれるか?」

 また、わざわざ危険に飛び込もうというのだから一応尋ねる。分かってはいたが、そしてそれに甘えてもいたが、彼女は俺の選択を肯定してくれた。

「もちろん! カメさんの行くところに私あり、です!」

 まあどちらにせよ離れられないんですけど、と小粋な寄生体ジョークも挟み、気を紛らわせてくれる。笑えるかは微妙なラインだったが、その気遣いを受けてしっかり笑っておいた。

 

 高速道路から降り深夜の一般道を駆ける。時間の割に、反対車線は避難民で混みあっていた。

「ガメラもレギオンに勝てないとなると。泣き言は言いたくないけど、やっぱりモスラがいてくれたらと思うな。それかウルトラマン」

「モスラはともかく、ウルトラマンたちもいつ現れてくれるのか分かりませんからね」

 そう、残念ながらモスラは動けない。本当なら爆発のあった北方の都市まで送り届けたい、とコスモス姉妹は言ってくれたが、モスラは幼虫時に軍の攻撃を受け、繭に炎を浴び、それでも姉妹のために孵化を早めたらしい。無理が祟ってしばらくは羽を休めなければならないらしく、恩返しは後に持ち越し、ということになった。

 彼女たち、そして心なしかモスラも申し訳なさそうにしていたから、俺はそんなこと気にするなと豪放磊落に言い放ったが、内心ではその甚大な力による援助を喉から手が出るほど欲していた。もちろん()()()にも出していないが……

 閑話休題、交通規制を行っている検問所の付近でバイクを停め、警備の目を潜り抜けて規制線の内側へと浸入する。そこは電力の供給が止められているのか深い闇夜に包まれ、かろうじて薄い月明かりが中規模程度の住宅街を照らしていた。異様な静寂と闇に包まれた町は不気味に思えて、不安を払拭するようにアクセルを捻った。

 

 一筋のヘッドライトが照らす道を往けば、周囲には田畑が目立ち始め、水の張りつめた田んぼに月が揺らめく。幻想的で静謐な光景の中、次第に自身の中から警戒心が薄れていくのを感じていたが、その度に軽く頭を振って気を引き締めなおす。

 心の片隅で、このままレギオンと遭遇しなければいいのに、との声がしないでもなかったが、ユーコの巨影を察知する力はそんな弱気に影響されなかった。

「なあ、本当にこっちでいいのか?」

「はい、そのはずです。気配を感じますし……あ、あ! 来ます!」

 そう彼女が叫んだ刹那、地震のような振動が閑静な田舎町を揺さぶり始めた。間もなく、斜め正面に見える小ぶりな山体が、裂けるように崩壊していく。バイクを停めカメラを構えると、巻き上がる土煙から姿を見せたのは、規格外なまでに巨大な巨影だった。

 白い外殻は刺々しく、正面に突き出した刃のような頭部と、昆虫を彷彿とさせる無機質な青い目に友好性など微塵も感じられない。甲殻から生える五対十本の肋骨のような鉤爪が蠢き、腹部に赤い粒がひしめく様はザクロのようだ。総じて地球上のあらゆる生物と比較しても形容し難い特徴を持つが、そのフォルムから見て攻撃性の高い生命体であることに疑いの余地は無かった。

「レギオン、外宇宙より飛来したケイ素生物。草体の爆発によって宇宙へと種子を飛ばし、繁殖を繰り返します。その影響で繁殖地の星は生態系が大きく崩れてしまうんです」

「そうか、ガメラはそれを食い止めようと……けど、草体はもう」

「いえ、きっと種子の発射には至らなかったんですよ。ガメラはそれだけは防いだんです。だからこうして次の標的を定めて動いているんです」

 レギオンは南方へと進路を定め、昆虫のような多脚を蠢かしその巨体を運んでいく。俺たちの立つ農道からは離れた場所を横切りそうだが、接近するにつれ背筋を逸らさなくてはならなかった。遥かに仰ぎ見る体高はあのゴジラさえ軽々と上回るだろう。

「次の標的っていうのは、発表の通り首都か。確か、電磁波を発するものを敵として認識するって」

「はい、首都はその最たるものです」

 ユーコの能力によって人類の見立ては確証を得たが、果たしてそれを阻む手立てはあるのだろうか。その結果を見届けるためにも、俺は再びアクセルを捻りレギオンを追走した。

 

 闇夜に高々とそびえるレギオンの巨体を追うと、不意に体の芯まで響き渡る轟音が鼓膜を揺らした。それはレギオンの前方に展開された戦車隊による砲撃らしく、レギオンの前面で爆ぜる砲弾が絶え間なく炎と黒煙を生じさせる。

 しかしレギオンは鬱陶しそうに頭を振るうだけで、効果があるようには見えない。やがて砲撃の間隙を突くように、レギオン頭部の刃のような突起が横に裂け、その合間に青い電流のようなものが迸る。

「うおぉ、くるぞくるぞ……!」

 バイクを停めカメラを構える。そして放たれた青い光線は横一閃に地を穿ち、闇夜を一瞬昼間に戻すような大爆発を引き起こした。雲まで達するような炎の壁がファインダーを埋め尽くし、その迫力に息を飲んでいると、熱を伴う衝撃波が体を打つ。

「これ、は……これまでの中でも、とびっきりヤバいな」

「こ、こんなのどうやって止めるんですか……!?」

 戦車隊は壊滅したかその後砲撃は無く、焦土と化した町をレギオンは悠々と進む。追跡のためカメラを懐に収めたとき、いつの間にか携帯にメッセージが届いていることに気付いた。ふと見れば二度の衝撃が俺を襲う。

「叔父さん!? 無事だったのか!」

まず、差出人が安否不明の大塚秀靖(おじ)であったこと。もう一つはその内容について。

「ガメラ復活、南方へ飛び去った……!?」

「つまり、ここを目指して?」

 着信時間は十分前。ガメラがどれほどの速力を誇るか分からないが、あれだけの巨体を宙へ浮かすとなれば生半可な推力ではないはずだ。となると時間が無い。間もなく二体は再び邂逅し、今度こそ雌雄を決するだろう。それまでに最適な撮影ポジションを確保しなくては……

 暫し考えた後、レギオンの斜め後方、近すぎず遠すぎずといった位置へバイクを走らせる。

「そこでいいんですか?」

「ああ。近ければ迫力はあるだろうけど危険だし、遠すぎればその逆だ。もし危なくなったらすぐ逃げるよ」

 心配そうな声音を滲ませるユーコにそう返し、予定していた距離にまでレギオンに接近する。付近は背の低い住宅や広々とした駐車場が多く、視界は良好だ。移動するレギオンの後ろ姿もよく見える。

 バイクを停めてカメラを構え、闇夜に浮かぶ白い外殻を数枚収めていると、突如レギオンが身を捩りこちらへと振り返った。息を呑むが、一対の碧眼は地ではなく空へと向けられている。その視線の先へ俺も振り向くと、夜空の低い位置に濛々とした雲が一筋たなびいていた。それはミサイルが発射されたかと見紛う光景だったが、接近するにつれ正体のシルエットが見えてくる。

 巨大な甲羅。腕は飛行機のような、あるいは水生哺乳類のようなヒレと化し、足の生えていた位置からはジェット噴射による雲がなびく。

「ガメラ!」

 空気を燃焼する轟音と暴風を残し、俺の頭上を通過したその影は、姿形こそ怪獣と言えるものであっても、ウルトラマンと同じく“ヒーロー”の存在を思わせた。

 




今回の選択肢

最適な撮影ポジションを確保しなくては……
①斜め後方→作中通り
②遥か後方→安全ではあるが、迫力に欠ける
③横合いにピッタリ→迫力のある進行が撮れる
④正面に出る→迫力満点だが攻撃される。死にイベ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。