巨影を知らない都市 作:ギガンティック芦沢博士
遂に衝突したガメラとレギオン。宙へと逃れたガメラを追い詰めるため、大型レギオンは小型レギオンの群れを生み出す。主人公とユーコは携帯を使い小型レギオンを誘引するも、前後を挟まれ危機に陥る。そこに突如現れた光の正体を、主人公は知っていた。
俺とユーコを守るように広がった光が、巨大な人の形へと収束していく。見上げればそこには、最初に遭遇した巨影、正体不明の光の巨人が現れていた。片膝をつき、俺たちを庇うように覆い被さっている彼の顔を見上げ、思わず笑みが零れる。
「白い巨人……生きていたのか」
「あ、あの時の! あの、ありがとうございました!」
頭を下げたユーコに、彼が頷く。その眼差しは――ひと際光る一対の楕円でしかないのだが――俺には、温かいものに感じられた。
白い巨人の出現にレギオンの群れは後退していたが、耳障りの悪い鳴き声を発し、再び距離を詰め始めた。狭まるレギオンの波を巨人は見渡し、巨大な腕を真っ直ぐに掲げた。その前腕に光が収束するのを見て俺が伏せると、次の瞬間振り下ろされた腕により、左右のレギオンが激しい爆発に呑み込まれた。
「す、すごい……」
ユーコの驚く声に反応して顔を上げると、レギオンたちはその膨大な群れを半数以下に減らされていた。一定以上離れていたレギオンだけがかろうじて逃れ、それ以外は爆発跡を残し消え失せていた。
「これが、キミの力か。助かったよ」
立ち見上げながら言うと、彼は一瞬俺と視線を合わせた後、おもむろに立ち上がった。ふと見れば、ここまで被害を受けたというのに、小型レギオンの群れは未だ退く様子を見せず、それどころか遥かに勝る体格の巨人を見上げて、威嚇するように足を蠢かせている。
白い巨人は音も無く静かに宙に浮き、徐々に高度を上げていく。それを追うようにレギオンの残党が昆虫のような羽を広げ、次々に飛び立っていった。白い巨人はそれを見ると上昇の速度を上げ、レギオンを引き連れるようにして夜空へと昇っていく。
「どうやら、また彼に助けられちゃいましたね」
「ああ……あっ、カメラカメラ!」
道路に置いたそれを拾い上げ、慌てて上空の二者を撮影するが、既に遥か上空に達した彼らの姿はまるで捉えられず、舌打ちを漏らす。
「しかし、なんでレギオンは俺たちを襲ったんだ?
「分かりませんね……今は白い巨人を追っていますし、単に生命体に反応したのでは?」
ユーコの意見も最もだが、奇妙な違和感が残る。生命体に反応するならば、なぜガメラではなく俺なんかに標的を移したんだ? とは言え、相手は未知の外来生物だ。深く考えても答えなど出ないだろう。
それよりも気になるのは
「ユーコ、キミの巨影知識で何か分からないか? あの白い巨人」
「いえ、彼も巨影ではあると思うんですが……何も分かりません。普通の巨影とは少し違うようです」
「そうか……少なくとも味方ではあると思うんだが」
ふと、流星のように夜空を飛ぶ彼の姿が、ある巨影たちを想起させた。
「ウルトラマン……?」
その彼が飛びながら後方へ振り返り、右腕を縦、左腕を横に組む形で光線を発射した。列になって追従していたレギオンは殆どの個体がその光線に接触し、爆発や炎上を伴って撃滅されていく。
「やっぱり! あの構え、ウルトラマンと同じだ!」
バルタン星人を打倒した銀と赤の巨人、ウルトラマン。彼の放った光線の特徴と合致する技だった。
「彼はウルトラマンの仲間なのかな」
「そうかもしれませんね。背丈も近いですし」
俺たちが軽く議論していると、大型レギオンの放った光線が突如として白い巨人を襲った。彼は身を翻し一時は凌ぐが、執拗に狙う光線から逃れきれず、バリアのようなものを張って踏みとどまった。
「おおぉ、凄い、けど……!」
「破られそうです!」
白い巨人はまるで宙に足場があるように踏ん張っているが、見るからに苦しげだ。バリアを張る両手が押し込まれ始めた、その時。
俺の頭上をガメラが通過し、飛行しながら火球を二つ続けて放った。この急襲にレギオンは攻撃の手を止めざるを得ず、干渉波クローによる防御に徹し身を守った。
その隙を見逃さず、白い巨人は先ほどのように両前腕へ光を集めると、まるで三日月のような光の刃を放った。高速で切迫したそれをレギオンは躱しきれず、片側のクローが全て切断された。悲鳴にも似たレギオンの鳴き声が轟き、光の刃が地面を穿つ。
『やった!』
俺とユーコの声が重なる。
ガメラが更に火球を放つと、レギオンは残ったクローで不完全な干渉波を発生させる。しかし火球は消滅に至らず爆発し、飛び散った火炎がレギオンの角や爪を焼いた。ガメラはレギオンに衝突せんばかりの突進を見せていたが、寸前で腕と頭を甲羅へと収め、手足の穴からの噴射により激しく回転し、軌道を変え横合いからレギオン頭部の角へ激突した。激しい火花が飛び散った次の瞬間、分離式の角が二本まとめてへし折れ宙を舞い、無人の町へと突き刺さった。
レギオンの甲高い鳴き声が響く中、まるで縦になったネズミ花火のように地を転がったガメラが、手足と頭部を伸ばし接地。そのまま軽く横滑りした後、静止した。その双眸は角を失ったレギオンに鋭く向けられており、達人の残心の如く油断なく構える。
静まり返る空気の中、レギオンの巨体がふらりと揺らめき、傾き――地に伏した。その振動が伝わると、俺に押し寄せたものは歓喜だった。
「やっ、た……!」
すると前方に白い巨人が降下し、力が入らない様子で膝をついた。
「ずいぶん疲弊してるな……でも、その甲斐も――」
「……まだです! レギオンはまだ!」
ユーコの声を遮るように、レギオンの怒号が鳴り響く。起き上がったその容姿は異様で、青だった瞳は赤く変色し、角の奥に隠されていた発光器官も同様に深紅に染まっている。光線はそこから放たれていたこともあって、俺の中の警戒が一気に引き上がる。
その時、デッドゾーンが俺の首を、まるでギロチンの刃のように両断した。反射的に、次に起こることを想像する前に這いつくばる。
レギオンの発光器官から赤い触手が何本も飛び出し、しなりを効かせて街を襲った。あまりに早いそれは目で追うことすらできず、赤い残像だけを残し町が切り刻まれていく。民家が、ビルが、信号機が、あらゆるものを切断する触手が俺の頭上を通過すると、鋭い風切り音と衝撃波が身を打つ。自分の首がまだ繋がっていることを確認もできず目を瞑っていると、不意に鞭のような音が止み、代わりに苦悶の声が聞こえてきた。
頭を上げると、白い巨人が間に割って入り、身を挺して俺とユーコを庇ってくれていた。膝をつき、両手を広げる彼に幾筋もの鞭が襲い掛かり、全身を打ち、貫いている。
「や、やめてください! 死んじゃいますよ!」
「ユーコ、変身だ! ここから遠ざかろう!」
しかしその暇もなく、ガメラが横合いからレギオンに火球を放つ。白い巨人を襲っていた触手が素早くそれを迎え撃ち、なんと火球までをも弾き散らしてしまった。散った炎が町へ落ち、あちこちで火の手が上がる。
白い巨人が振り返り、無事な俺たちを捉え頷くと、青い粒子となってその姿を消してしまった。
「ユーコ……彼は死んでしまったのか?」
「分かりません、けど、気配はもう……」
悲壮に俯くユーコと、苦々しい気持ちで手を握り締める俺。しかし事態は動き続けている。
次の獲物にガメラを選んだ触手がうねり、次々に襲い掛かる。打つように動く物もあれば貫くものもある。その切れ味、貫通力は並ではなく、あのガメラの硬質な甲羅でさえ刺し貫いてしまった。痛々しいガメラの声が夜空に響く。
「ユーコ、あの技はなんだ?」
「あれは……レギオンビュート、あるいは赤熱鞭と呼ばれる武器です。自在に動く高熱の鞭で、その威力は見ての通りです」
そう語られたレギオンビュートは、エヴァと戦ったシャムシエルの光鞭を彷彿とさせる。しかし、イソギンチャクか、あるいはクラゲの触手のように見えるこれの本数は十本近く、射程も長い。遥かに厄介な代物に思える。
「こんな手を隠し持っていたとは……どうすればいいんだ、ガメラは……」
撮影を続けながら、つくづく思う。火球を消され、接近することもままならず、このままではガメラは嬲り殺しだ。
全身を貫かれたガメラから触手が抜けると、脱力して膝をついた。さしものガメラも限界が近いようだった。
「今からでも、ガメラに力を与えるしかないか。エヴァにやったみたいに」
「でも、あんなに鞭の飛ぶ中に近づけませんよ!」
「でもやらなきゃ! ガメラが死んで、レギオンは首都へ行く。都合よくウルトラマンが助けてくれるかも分からない。ダメ元でも……!」
その時、町を燃やしていた火の手が
「これは、いったい……?」
「ガメラは炎を取り込むことで、力に変換できます。けど、それだけではレギオンは……」
ユーコの息を呑む様子に、どうしたと振り向けば、彼女は夜空を見上げていた。その彼女の瞳に黄金の輝きが映る。
ふと見上げれば、そこにあったのは巨大な黄金の波だった。オーロラのようなそれが空の彼方より押し寄せ、輪となってガメラの直上へと集う。レギオンすら攻撃を忘れそれを見上げていた。
「な、なんだ、これは……!?」
「これは……マナ。地球上のマナがここに集まっています」
「マナ? 超自然的なエネルギー、っていうやつか」
「概ねそういうものです。ガメラはそれを取り入れて、決着をつけようとしています……!」
「そんなことが……」
ガメラの能力に驚くのもほどほどに、俺はカメラを構えなおした。これから訪れる決着の瞬間、願わくは、ガメラの勝利の瞬間を捉えようと。
降り注ぐ黄金のマナに、吠えるガメラ。そして彼の腹甲が開き……夜が、昼へと変わる。
強烈な光の奔流と衝撃波。ガメラの腹部から放たれた、火球とも熱線とも言い難い、ひたすらに激しいエネルギーの放出は、レギオンを真正面から飲み込んだ。驚異的にも数秒間、形を留めていたレギオンも、やがて後ずさりを始めるが、もはや逃げられない。
爆発も、炎上すらも伴わない、完全なる
エネルギーの放出が終わると、その射線には半円筒形の巨大なクレーターが出現していた。そこに立っている影はただ一つ。傷つき、倒れ、しかし遂には敵手を打倒した、勇者の姿。彼の背後から朝日が昇り、そのシルエットを黎明の空に描き出した。
「……ガメラ」
俺の呟きに応えるように、ガメラがこちらを向き、喉を唸らせる。
先ほどまでの死闘が嘘のように、安穏に沈殿する静寂の中、ガメラが両腕を広げ、藍色の空を仰ぐ。甲羅の足の部分から煙が噴射され、ガメラの姿を覆い隠したと思うと、彼は腕を変形させた飛行形態で、打ち上げロケットのように上昇して飛び去っていった。
朝日に目を細め、冷えた空気を肺いっぱいに取り込む。焦げ臭く、崩れ落ちた町の中にあって、俺は奇妙なほどに清々しい気分で空を仰いだ。ガメラの残していった煙の柱が、風に薄れていく。
予告
その日人類は思い出した。巨大な影が襲い来る恐怖を。日常が塗りつぶされる絶望を。
次回「進撃する影の群れ」