巨影を知らない都市   作:ギガンティック芦沢博士

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前回までのあらすじ

巨人の手を逃れ、北方都市に向かう主人公たち。
道中、エヴァンゲリオン参号機が現れるが、様子がおかしい。
参号機はパイロットを乗せたまま、使徒バルディエルに乗っ取られていた。
エヴァ初号機がその行く手に立ちはだかるが、初号機パイロットは攻撃をためらってしまう。
バルディエルは初号機を敵と認識し、咆哮を響かせた。


stage9:夕影に問う命の選択 ②

 バルディエルは獣のように伏せ、四肢を使って大きく跳躍した。小山ほどもある巨体が、その倍を超える高さまで至り、そして重力を伴ってエヴァ初号機へと降りかかる。初号機は構えていたサブマシンガンで咄嗟に身を守ろうとしたが、全荷重を乗せた飛び蹴りは銃身を砕き、更に初号機を吹き飛ばした。

 その衝撃の凄まじいこと、数瞬の間を挟み押し寄せた衝撃波が全てを物語っていた。初号機が仰向けに倒れ、バルディエルが四足で着地し、その激しい地鳴りが木々を揺らすと、カラスの群れが森から飛び立っていく。

 家屋を崩壊させ倒れ込んだ初号機が立ち上がる。水田に着地したバルディエルが右手で地を掻き、反動をつけると、その右腕がゴムのように伸び、初号機の首に掴みかかった。

「なっ、なんだあれ!?」

 更に左手も同様に首へ伸び、おおよそ三倍ほどに伸長した両腕が初号機を締め上げる。

「あれは参号機の機能か!?」

「いえ、使徒によるものです!」

 その時、初号機がたたらを踏むように押され、その背中がこちらに迫ってきた。幸いにして少し離れた山肌に初号機は叩き付けられたが、激しい衝撃に足を取られた俺は、しゃがみ込んでガードレールに寄りかかった。激しい砂埃が巻き上がり、視界を濁らせる。

 見上げれば、バルディエルは覆い被さるように初号機の頸部を締め続けていた。煙の中、赤い瞳が殺意を籠めて光る。

 しかし初号機も抵抗を見せ、バルディエルの両腕を掴み、満身の力で引き剥がしていく。このまま力で圧せるか、と俺が思うや否や、バルディエルの肩の装甲が弾け飛び、そこから新たに二本の長い腕が発生した。

「あ、あれも使徒の能力です!」

 装甲に覆われているエヴァ従来のものとは違い、より人間らしい肉感・質感のそれは、再び初号機の首を絞め付けた。更には初号機の両腕も元の腕で押さえつけ、動きを封じた上でその頸部に体重をかけていく。バルディエルの低い唸り声が響いた。

「やばい、このままじゃ!」

 あの少年が死んでしまう。しかし、初号機にそれ以上の抵抗の意思が見られない。足で蹴りつけることはできるだろうが、それもしない。

「やっぱり、できないんしょうか」

 ユーコの声に憐憫が混じる。自分が殺されかけているというのに、抵抗を止めたあの少年の気持ちを思うだけで、居た堪れない。前回のように力を与えられるならそうしたいが、与えたところで戦意が無ければ意味が無い。

「ああくそ、何か手は……!」

 そう口に出した瞬間、初号機の全身から力が抜けた。まさか、と一瞬血の気が引くが、ユーコの困惑した様子がそれを否定する。

「“変わっ、た”……?」

 変わったって、何が。そう疑問を口に出そうとした瞬間――俺は、その変化をまざまざと見せつけられた。

 バギン、という破砕音で初号機の口が開き、深紅に染まった歯が剥き出しになる。地の底を這うような唸り声を発しながら、バルディエルに押さえつけられていた腕を徐々に持ち上げる。

 そしてバルディエルの腕を一気に振り払って身を起こすと、その首を逆に絞め上げた。新たに肩口から生えた手によって初号機自身まだ首を絞められているが、それを意にも解さぬ凄まじい様相で、両腕には全霊の力が込められている。

「な、なんだいったい……何が起こってる!?」

「エヴァの中、いえ、プラグに()()がいます! パイロットの指示じゃありません!」

 その“何か”によって、初号機に乗る彼は一先ず助かったのかもしれないが。

「まずい、参号機のパイロットが!」

 エヴァとのシンクロを続けている状態なら、初号機の彼と同様、あの狭く寒々しいエントリープラグ内で今頃……

「ユーコ、立体軌道装置に!」

「で、でも!」

「もうやるしかない! これ以上見てられるか!」

 有効な策など思いつかないが、しかしこれ以上彼らのような子どもが傷つく様を見ていられなかった。

 ユーコが立体軌道装置に姿を変え、その重みが体にかかると同時に、初号機の赤く染まった瞳が、まるで舌なめずりをするように細められた。ぞくりと総毛立ち、思わず叫ぶ。

「やめろ! それ以上は……!」

 叫んで初めて分かる、俺の声の何と小さいことか。巨影同士の衝突の中にあっては、人間の存在など吹けば飛ぶようなものなのだと、無残にも今このとき思い知らされる。

 初号機が唸り、バルディエルが苦しげに初号機の腕を掴む。しかし両者の力関係が微塵も変わらない。初号機に持ち上げられた参号機の頸部から、鈍く骨の軋む音が鳴り始めた。

 その時、上空で何かが光った。それは流星のようにも、あるいは雲間に射した日差しのようにも感じられた。目を細めそれを見上げると、光を背負った巨大な影が、夕空を裂いて急降下してきた。

「あれは……!」

 影は二体の間に割って入り、初号機の手がバルディエルの首から弾かれる。地に足を付けたバルディエルは素早く飛び退き、距離を置いて昆虫のように六本足で着地した。

 突如飛来した銀と赤の巨影が、片膝をついた姿勢から立ち上がる。

「ウルトラマン!」

 バルタン星人から俺たちを救ってくれた時と同様に、全く変わらない頼もしさで、絶望の淵に降り立った光の巨人。夕日を浴びて胸を張る彼の姿に、俺とユーコは歓声を上げた。

 対照的に、ウルトラマンを新たな敵と認識したのか、バルディエルは敵意に満ちた咆哮を上げて襲い掛かる。俺は慌ててウルトラマンに叫んだ。

「あの中には子どもが!」

 ウルトラマンは冷静だった。腰を落とした姿勢から素早く懐に入り込み、突進の勢いを利用する形で鮮やかに投げ飛ばす。まるで合気道の演武のように、背中から水田に転がされたバルディエルだったが、あまりに綺麗に決まった技は殆ど痛手にはならなかったようで、すぐに立ち上がる。

「よかった、聞こえたみたいだ」

「でも、このままじゃ次の手が……」

「それなら……ウルトラマン!」

 俺の声に反応するように、ウルトラマンが少し顔をこちらに向ける。

「うなじの粘膜の下、白い筒の中にパイロットがいる! なんとか助けてくれ!」

 ウルトラマンはこくりと、確かに頷いた。届かないと思っていた声を聞き届けてくれる、ウルトラマンという強大な存在が何よりも有難く、嬉しかった。

 しかし、胸に沸いた熱い感情も、初号機の発したおどろおどろしい咆哮によって掻き消される。その声に振り返ったウルトラマンを押し退け、バルディエルに詰め寄る初号機。惑いの無い歩調が眼前の使途を滅ぼすためだけに刻まれていく。

 ウルトラマンが後方から初号機に組み付き、二体の衝突を未然に防ぐ。しかしバルディエルはその隙を突くように駆け寄り、右側の二本の腕を大上段から振り下ろした。咄嗟に初号機を突き飛ばし、庇うようにしてその打撃を背に受けたウルトラマンが、痛々しげな声を上げて水田の中に突っ伏した。

「ウルトラマン!」

 ユーコの悲鳴が轟音の中に消える。バルディエルは更に攻撃を重ねるべく足を上げたが、横合いから突っ込んできた初号機のタックルを受け、二体はもつれ合い土を巻き上げて転がる。

 激しい地鳴りと立ち上がる砂煙、敵味方が存在しない混沌とした状況の中、ウルトラマンが水を滴らせて立ち上がる。二体を傷付けず、尚且つ暴走する初号機を制しながら参号機のパイロットを救う。さしものウルトラマンとはいえ、これだけのことを同時に行うのは難しいか。

 俺は一つ息を吐き、覚悟を決めてウルトラマンに叫ぶ。

「ウルトラマン! 初号機の動きを止められないか!」

 こちらに視線を向けたウルトラマンに、続けざまに語る。

「止めてくれたら、俺たちが何とかする! その間バルディエルを、あの黒い方を頼む!」

 ウルトラマンは立ち上がろうとするエヴァたちに視線を配ると、再び俺に向かって頷いた。

 俺も頷いて返事をし、走り出す……が、足首に走った鋭い痛みで歩調が乱れる。

「ユーコ、バイクに! 近寄ったらまた立体軌道だ!」

「は、はい!」

 立体軌道装置がバイクへと姿を変え、流れるようにそれに飛び乗り、アクセルを強く捻る。一瞬浮いた前輪を路面に押し戻し、田畑の道を初号機へ向けて走駆する。

「すまんユーコ、またキミ頼みの作戦だ。付き合ってくれ」

「……本当は無茶してほしくないです。けど、私もこれ以上見ていられません! 任せてください!」

 勇ましく、頼もしい彼女の返事に笑みが漏れる。

 既に初号機とバルディエルは距離を置いて向かい合い、いつどちらが仕掛けてもおかしくない、ピンと張りつめた緊張感が漂っていた。

 ふとミラーで後方を覗くと、砂埃を巻き上げ、高速回転するウルトラマンの姿がそこには映されていた。

「ん、ん!?」

 前方不注意も甚だしく振り返ってしまったが、無理からぬことと思う。何してるのこれ!? と、心中では大パニック状態だった。この謎の回転運動がどうして足止めと繋がろうか。結局それは早合点だったが。

 回転するウルトラマンを囲うように、金色に明滅する鎖の輪のようなものが発生する。それがウルトラマンを抜けて浮かび上がり、俺の頭上を通過していった。そして二体のエヴァの直上から輪投げのように降り注ぎ、細身の体を絞め上げていく。二体は抵抗を見せるものの、その両腕、あるいは四本の腕は徐々に光の鎖に縛められ、間もなく完全に拘束された。

「この技は!?」

「キャッチリング、という拘束技です!」

 奇抜な発生方法に少々面食らったが、何にせよこれで初号機ともどもエヴァの動きは封じられた。

 間もなく接近し、夕焼けにそびえる巨大な初号機を見上げる。電線の向こうで呻きを上げるその表情はまるで悪鬼のようで、目はバルディエルと同様に朱色に染まっていた。その迫力に唾を飲み込む。

「ユーコ、行くぞ!」

「はい!」

 




身長
ウルトラマン:40メートル(諸説あり)
エヴァンゲリオン:40~200メートル(諸説あり)

共演させるにあたってサイズ感合わないのではと思い調べましたが、エヴァは絵作りのために都度サイズが変わるらしいですね。
まあ特撮も明らかにサイズ感違う時がままありますので、あまり気にしなくてよさそうです。
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