巨影を知らない都市   作:ギガンティック芦沢博士

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前回までのあらすじ

エントリープラグと同化したユーコは、ダミーシステムから主導権を取り戻した。
初号機はウルトラマンと協力し、バルディエルに支配された参号機からパイロットを救出する。
そして参号機ごとバルディエルを完全に殲滅し、事態は収束を迎えた。
しかし主人公はそこで限界を迎え倒れてしまった。


stage10:英知の光に差した影 ①

 白い天井と、U字に俺を囲う白いカーテン。それが目を開いた時に見た物の全てだった。

「カメさん、お目覚めですか!」

 次に視界を覆ったのは安堵した様子のユーコだった。

「……病院か」

「はい。目的地の、北方都市の病院です」

 病院特有の香りが鼻を突く。消毒薬と病煩(やみわずら)いが混ざり合った、嗅ぐだけで気怠さを覚える独特な匂い。それで思い出したように、全身が痛みを訴え始めた。腕を上げてみるとどちらも包帯に巻かれ、被覆材も随所に張られている。いざ治療が行われてみると、こんなに怪我していたんだなとようやく自覚する。

「あの後、どうした。どうやって俺はここまで?」

「カメさんが倒れて、私、急いで車に変身して、なんとか乗せてここまで走ってきたんです」

「じゃあ運転はキミが?」

「ええ、まあ」

 少し視線を外したユーコの様子が気にかかるが、それはこの際どうでもいい。

「ありがとう。よく運転できたな」

「頑張りましたよ、本当に! 他の車が全然走ってなかったので、まだ良かったですけど。何度か迷っちゃいましたし」

「いいよいいよ、充分。おかげで助かった」

「いえ、そんな……」

 なぜだかやたらと謙遜するユーコに首を傾げながら、目覚めたことをナースコールで告げる。

 間もなく、カーテンを開けて若い女性の看護師が顔を見せた。そこから差し込んだ陽光によって夜が明けていることを知る。

「あぁ、良かったです目が覚めて。お体の方、あと意識とかどうです? 何か気持ち悪いー、とか」

「いえ何も……何もじゃないか、全身痛いですけど、頭の方は特に」

 てきぱきとベッド周りを弄る彼女からの質問に答えていく。

「でもほんと、よくここまで来れましたよねー。車から救出されたとき、もう意識無かったですから」

「……救出?」

「はい、救出。覚えてないですか?」

 首肯を返しながらユーコを見やれば、いっそ清々しいまでに顔ごと逸らしている。

「びっくりしましたよぉ、夜中に突然ドカーンって。見に行ったら、駐車場の花壇に車突っ込んで横転してるですもん」

 なぜかいつの間にか車が消えててー、と緩く話す彼女には目もくれず、表情を隠すユーコを穴が開くほど見つめる。視線に熱があればその後頭部から煙が上がったことだろう。

「でも何があったんです? こんなに怪我だらけで」

「ああ、いや実は……」

 地方都市にて巨人から逃れてきた経緯を、所々隠しながら掻い摘んで説明する。エヴァへの言及はその秘匿性から避けておいたが、怪我の原因と言えば間違いなく巨人の方であるので齟齬は生じなかった。

「あー、あの巨人騒動から! ほんよによく来れましたね。私も見ましたよ、あの巨影サイトの」

「ああそれは、ご視聴どうも」

「え?」

「あれ俺です。撮ったの」

 そう告げると彼女は大げさに驚いてみせた。テンションの上がった彼女が巨影について怒涛の如く質問を投げかけてくるが、騒ぎを聞きつけた患者や看護師が病室の前に集まってきて、最終的にキツイ顔つきをした先輩看護師に彼女はしょっ引かれていった。

 

 ほどなくして、俺も検査を受けるため病院の方々をたらい回しにされた。車椅子にて移動する際、その移送係には先ほどの看護師が付き、巨影に関してこと細かに質問してきた。彼女との騒ぎが原因で俺の噂が広がったのか、入院患者らもわざわざ話を聞こうと集まり、最終的に妙なキャラバンができあがった。皆の興味関心が高いことは素直に嬉しかったが、同じような話の繰り返しに少々気疲れもした。

 肝心の検査結果であるが、最も重い怪我が左足首に入ったひびだというのだから、なかなかの悪運だ。もっとも、全身に満遍なく擦り傷や打撲があるものだから、程度の割に痛々しい姿にはなったが。

 全ての検査と治療を終えた頃には、既に日も暮れ始めていた。

 

 額に巻かれた包帯を撫で、六人部屋の病室から夕陽を眺める。温かみのある暖色の太陽が、廃墟の影に沈んでいく。

 爆発したレギオンの草体は北方都市に致命的な痛手を食らわせた。中心部のクレーターは完全に焦土と化し、近辺は数キロに渡り瓦礫の山となり果て、現在も捜索活動は続いている。この病院は運よく爆発からは逃れたが、未だに方々のガラスが割れたまま、段ボールなどで覆われている。

「住民は避難済みで殆ど大丈夫だったんですけどねー、自衛隊さんとか、あと無理やり取材してた記者さんたちが担ぎ込まれてきて、直後は大変でしたよ」

「……ご迷惑おかけして」

 他人事では無いので、車椅子を押してくれた看護師の彼女――山根さんに軽く頭を下げる。というか、俺の恥ずべき親戚が長の世話になるかもしれないので、謝意もひとしおだ。

「いえいえ。でも大塚さんも面白い人ですよね。最初は怪我が辛いの静かにしてたんですけど、ガメラが動き出した途端に跳ね上がって! よく動けますよ、あんな怪我で」

「はは、まあそういう人ですから。あの巨影バカは」

「あ、大塚さんから伝言預かってますよ。『よくここまで来た、と言いたいが、怪我で動けねえんじゃ話にならねえ。今はお互い療養しようや』って」

「ちょっとは怪我人らしく、しおらしくなれって伝えてください」

 お互い笑い合う。

 とは言えあの叔父も結構な重症で、ベッドから下手に動けない状態らしい。しかし何度か脱走を企てたそうで、病院側も監視の目を強めているそうだ。つくづくはた迷惑な男だ。

 今日はもう休み、彼には松葉杖の練習も兼ねて明日会いに行く予定でいる。

「あ、そうそう知ってます? エヴァのこと」

「……えっ!?」

 完全に不意を突かれ、思わず大声を出してしまう。

「な、なんで知ってるんですか?」

「さっきニュースで公表されたんですよ。それでみんなが思い出したんです。五年前にもいたんですよねー、あのおっきいロボット」

 厳密にはロボットじゃないけど、とは言えないので心の内に留める。

 しかし、そうか、公表したのか。考えれば納得のいく話だ。あのバルディエルに対しエヴァを出撃させたのだから、長距離の移動もあっただろう。その最中、あるいは作戦行動をとる中で、もはや隠し立てができないと判断したのだろう。俺のような輩に下手に情報を流されるよりは、さっさと自ら明かした方が世論を御しやすいというところか。

「山根さんっ!」

「はいぃ! 今行きます! それじゃ、お大事に」

「はい、どうも」

 また先輩看護師に怒鳴られ、彼女はナースステーションへと戻っていった。緩々とした雰囲気の人だが、看護師という激務が務まるのだろうか。

 それはさておき、俺はベッドに戻ってカーテンを閉め、小さなテレビにカードを差し込む。ニュース番組ではちょうどエヴァについて報じており、全身像が明かされていた。が、その写真の構図にどこか覚えがあった。

「これ、俺の写真じゃないか?」

「え? ……あ、確かにそれっぽいですね」

 遠目からズームで撮影したエヴァの写真は、解像度的に情報を読み取られづらいと判断したのだろうか。人のカメラを奪取しておいてなんてことを、と思う傍ら、自分の撮影した写真がテレビ放送されていることがちょっと嬉しい。

 しかし、それならばこちらももう遠慮はしない。

「これでお墨付きだ。上げてやるぞ、エヴァとバルディエル、そしてウルトラマンの戦い!」

 早速携帯とカメラを接続し、巨影サイトに先日の激闘を激写した動画及び画像をアップロードする。アクセス数の伸びは顕著で、サイトに若干のラグまで発生する。こういうのもなんだが、承認欲求というか、そういうせこい心が満たされていくのを感じる。

 しかし叔父からのメールがすぐに届き、なぜこれを上げずに検査なんか受けていた、と鬼畜生のような暴言が飛び出した。返信は中指を突き立てた絵文字だけにしておいた。

 

 しばらくぼんやりと、テレビを流し見る時間を過ごしていた。

「そういえばユーコ、ウルトラマンいたけど大丈夫だったの?」

「大丈夫とは?」

 心底不思議そうな顔で彼女は聞き返した。

「何って、最初にウルトラマン見たとき言ってなかったか? 何か嫌な感じがするって」

 ユーコは首を傾げた。

「全然、そんなことないですよねぇ。なんでそんなこと言ったんでしょう私」

「ほんとだよ、あんなにかっこいいのに」

「ですよね」

 のんべんだらりとそんな実の無い会話をしていると、不意に足元から声がかけられた。

『カメさん、ユーコさん』

 その聞き覚えがあるユニゾンした声の元に向くと、ベッドの足側の端に、煌びやかな衣装のコスモス姉妹が立っていた。その像は半透明で、彼女たちがここにいるわけではないとすぐに理解できた。

「お二人とも!」

「やあ、こんな格好で悪いね」

『お気になさらず。お二人がご無事で何よりです』

「モスラはどうだい、あの後」

『徐々に回復しつつあります。間もなく飛べるようになるでしょう』

 暫し再開を喜び合った俺たちだったが、コスモス姉妹の表情はどこかに陰りがあった。

「……それで、二人は何か用があるんだろ?」

『……はい。これは懸念と、警告です』

「懸念、警告?」

 ユーコが首を傾げる。

『かつてこの地でガメラが復活し、レギオンを打ち倒しました』

「ああ、間近で見てたよ。最後に凄い技を撃ったな。たしか、ええと」

「ウルティメイトプラズマ、ですよ。地球のマナを集めて放つ必殺技です」

 ユーコが技名と概要をもう一度説明してくれる。

 ガメラの頭上に光の輪が集い、それを取り込んだガメラの腹部から放たれる、凄まじい威力の技だ。

「それによって確かにレギオンは倒されましたが、それは別の重大な問題をもたらしました」

「それは?」

「地球上のマナの枯渇です」

 マナの枯渇、と言われてもピンとこない。俺とユーコは揃って首を傾げた。

「えっと、そのマナが枯渇するとどうなるんだい」

「一言で表せば、変化です」

「目覚めるはずのない者の目覚め。起こるはずのない事象の発生。それは巨影に対しても言えるかもしれません」

「巨影に?」

 ユーコの疑問に姉妹が頷く。

 そもそもが理解の埒外である巨影という存在に変化が、と言われてもイメージしづらいが、ふと脳裏に大口を開けた巨人たちの姿がよぎる。

「……まさかとは思うけど、あの巨人は」

『可能性はゼロとは言えません。既に変化は起こりつつあります』

 しん、と一瞬静寂が満ちる。各々その中で何を思っているのか。コスモス姉妹は祈るように手を組んだ。

『どうかお気をつけて。モスラはまだ戦えません。私たちにはどうしようもないのです』

「……いや、ありがとう。教えてくれて」

「ええ。これまで以上に気をつけます。お二人はどうぞモスラの傍に」

 コスモス姉妹は柔和な笑顔を見せた。

『ありがとうございます。どうかご無事で、友人たちよ』

 そうして俺たちは手を振り合って別れた。

 姉妹が空気に溶けるように消えるのを見届けると、息を吐いて枕に身を預ける。

「ユーコ、どう思う?」

「気をつけるのは当然です。けど……やっぱり怖いですよね。見えないところで、何かが起こっているというのは」

 夜が更けていく。その宵闇の中、何かが蠢いている。そんな気がして、ふと寒気を覚え身を震わせた。

 

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