巨影を知らない都市   作:ギガンティック芦沢博士

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前回までのあらすじ

主人公が深夜に目覚めると、既に何体もの巨影が病院内に蔓延っていた。
いつの間にか他の入院患者や看護師まで避難済みであり、混乱する主人公たち。
そんな彼を救出するため戻ってきた看護師の山根と脱出を試みる。
間もなく現れた特殊部隊員に二人は保護されるが、突如現れたデストロイア幼体が彼らに襲いかかった。
その間に逃げ出す二人。しかし挟み撃ちにあい逃げ場を失うと、主人公は自らを囮とする。
今にも襲われようというその時、イングラム二号機のリボルバーが、まさに()()()()()()


stage10:英知の光に差した影 ③

 咄嗟にATフィールドを展開し、俺とベッドの下の山根さんを覆う。

『往生せいやあぁぁぁぁぁっ!!』

 怒号と共に引き金が引かれ、閃光と爆音、衝撃波が一挙に押し寄せる。ATフィールドを張ってこれなのだから、生身であればどうなっていたかは想像に難くない。

 病室に蔓延した煙が、二号機の開けた大穴と窓枠だけになった窓から流れ出ると、そこには惨憺たる光景が広がっていた。俺の守ったベッド周辺だけが無事に残り、他のベッドや機材等はことごとく爆風と衝撃に吹き飛ばされ、まるでおもちゃの家をひっくり返したような有様だった。

 出入口付近の壁は崩壊し、もはや病室と廊下の境は無い。その奥でデストロイア、だったはずの肉塊が瓦礫に埋もれている。二体のデストロイアは原型すら留めておらず、そこかしこに赤い肉片が飛び散っていた。

『バカ! 要救助者がいるなか撃つ奴があるか!』

『例の怪獣が迫っていたんだ、仕方なかろう!』

 外を見れば、病院前のロータリーに乗り付けた特殊な警察車両のスピーカーから、二号機パイロットに対して罵声が飛ばされていた。

 恐る恐るといった様子で、山根さんがベッドの下から這い出てくる。

「ど、どうなったんですか今」

「その、助かりはしたんですがね」

 助けられたとは言いたくなかった。

『ほら見ろ、無事だろうが』

「おかげさまで!」

 二号機パイロットの嬉しそうな声に、皮肉を込めて叫ぶ。

 全く皮肉に応じないパイロットは、拳銃を右下腿に収納し、右腕を室内へ突き入れた。

『ようし、早く乗れ』

「よかった、行きましょう」

 山根さんに腰を支えられながら、巨大な右腕へと歩む。彼女が手首付近に膝をつき、俺を引き上げようとしたその時、上方でガラスの割れる音がした。ふと表に目を向けると、ちょうどデストロイアが二号機の顔に降りかかる瞬間だった。

『どわっ!?』

 イングラムが大きく体勢を崩し右腕を引く。その衝撃で掌に倒れた山根さんは脱出できたが、俺は病室へと倒れ、取り残される形となってしまった。

 しかし脱出と言えるかどうか。クモのように顔に張り付くデストロイアを引き剥がそうと、二号機は残った左腕で掴みかかっていた。

『なんだなんだ! おい、離れやがれこのヤロォ!』

 片手が塞がり四苦八苦している二号機に、見知らぬレイバーが駆け寄ってきた。深い緑色の機体で、右前腕に砲身の長い機関砲を装着している。

『動くな!』

 凛とした女性の声に反応して、二号機が動きを止める。その一瞬の内にデストロイアを砲口に引っ掛け、二号機から引き剥がした緑のレイバーは、そのまま砲を発射してデストロイアをバラバラの肉片にした。

『こちら自衛隊空挺師団、ただいまより作戦に参加する』

『あ、ありがとうござます!』

 あの傍若無人を絵に描いたような二号機パイロットが敬語を使っている。それだけ位が高い相手なのだろうか。

 その緑色のレイバーが、右腕の機関砲を地に落とし、腰に携えていたコンバットナイフに持ち替えた。

『的が小さいな。巡査は女性の避難を急げ』

『りょ、了解!』

『来るぞ!』

 女性が叫ぶと同時に、数体のデストロイアが病院の上階から降り注ぐ。一体は切り結ばれたが、ロータリーに着地したデストロイアがレイバーたちの足元を動き回る。

『聞こえるか、三階の!』

 先ほど二号機と喧嘩していた特殊車両の声に反応し、そちらを見下ろす。

「はい!」

『この状況じゃ一階からは脱出できん! 地下駐車場に部隊の乗り入れた車両がある、使え!』

「分かった!」

 特殊車両はデストロイアの間を掻い潜り、二号機に接近していく。その二号機の右手の中で必死に指を掴んでいる山根さんの姿を見て、大きく叫ぶ。

「その人を頼むぞ!」

『任せておけい!』

 気風の良い返答をした二号機が、足元のデストロイアを蹴り飛ばす。

「行きましょうカメさん!」

「ああ」

 振り返り際、山根さんが俺に何か叫んでいることに気付く。しかし戦闘の騒音で聞き取れず、俺は笑顔を作って大きく手を振った。

「カメさん、大塚さんのベッドの下に」

「ん? ……あの不良オヤジ」

 見れば、恐らく移動が禁止されていただろうに、あの叔父は松葉杖を隠していた。きっと無理やりにでも動いていたのだろう。一本だけしかないのは、先ほどの衝撃でどこかへ飛ばされたからか、一本しか入手できなかったからか。

「でも助かった。行こう」

 松葉杖を右脇に構え、左足を庇いながら廊下へと出る。瓦礫だらけで歩きづらいことこの上なかったが、命の危機に瀕して泣き言を言っている場合ではない。

 

 幸いにして……ではないか。デストロイアたちはロータリーのレイバーを敵と見なしたのか、院内にその姿は見受けられなかった。

 外で繰り広げられる戦闘音を遠くに聞きながら、階段を下り地下へと向かう。

 重い鉄製の扉を開くと、警察車両と思わしき重厚なクルーザーが、青い回転灯もそのままに通路の真ん中に停められていた。やはり停電しているのか、非常灯と回転灯だけが光源である地下駐車場は、薄暗く不気味な雰囲気に満ちている。

 クルーザーに乗り込み、ハンドル周りの装備を確認する中、ふと頭上のバックミラーを覗く。通路の奥からデストロイアが姿を現す、まさにその瞬間だった。非常口の緑色の明かりに照らされ、闇に浮かび上がる鋭い影の恐怖たるや、血液を瞬時に冷やし心臓を締め上げるようだった。突然の事態に、身を屈めた姿勢で硬直する。

「なんで、巨影の気配は無かったのに……!」

 ユーコが戸惑っている。彼女の巨影察知能力に疑いは無いが、唐突に巨影が出現する現象は、あの巨人たちを彷彿とさせた。それと同時に、地球に変化が起こっていると告げるコスモス姉妹のことも思い出す。

 息を潜めていると、足音は徐々にこちらへと近づいてきた。

「来てます、もう十メートルも……」

 十メートルも無い。アクションを起こすなら今しかない。このまま車内で息を潜め続けるか、一か八か発進するか。

 俺は――後者を選んだ。素早くキーを回し、エンジンを始動させる。ギアを切り替えてアクセルを踏む、その直前だった。俺の眼前に細いデッドゾーンが出現し、慌てて身を引いてシートに背を押し付ける。

 助手席横のガラスが粉々に砕け、牙の付いたヒルのような、細長い器官がデッドゾーンを通過した。それはデストロイアの口腔から伸びたもので、すぐに収縮して口腔内に戻る。デストロイアは黄色い眼を細め、そして再びデッドゾーンが俺の顔を貫通する。

「いつの間に!」

 今度は身を屈めてそれを回避する。服の襟を噛み千切られたが、紙一重で肌には触れていない。器官の収縮の後に現れた次のデッドゾーンは、シートを倒すことによって回避した。眼前を鋭い牙が通過していく。

 三度の回避に成功したが、これ以上はジリ貧だ。慌てて運転席のドアを開いて転がり落ちる。助手席側のデストロイアは痺れを切らしたように鋭い脚を車に突き立て、凄まじい力をそこに込めていく。俺が這う這うの体で逃げ出すと同時に、クルーザーが真っ二つに引きちぎられた。

「なんて奴!」

 驚異的な膂力だ。接近されてはひとたまりもない。

「ATフィールド!」

 突然現れた赤紫のバリアに行く手を阻まれたデストロイアは、戸惑うと同時に苛立ちを募らせたようで、脚で滅多打ちに叩き始める。

「カメさん!」

「今のうちに、変身してくれ!」

 ユーコが瞬時にスポーツカーに姿を変え、エンジンを始動させる。じりじりと後退し近づくと、ユーコはドアを開けてくれた。その間にもATフィールドは攻撃に曝され続ける。疲労感が徐々に体を覆っていくが、以前より強度そのものが上がっている気がした。

 その甲斐あって、無事に運転席に滑り込めた。ATフィールドを展開したままでは運転できないため、瞬時に解除しハンドルを握る。それと同時に車体に大きな衝撃が走った。

「くそっ!」

「上に!」

 突然、窓ガラスに鋭い脚が突き立てられた。激しい音が鼓膜を揺らすが、ユーコが変身する車は通常のそれよりも頑丈なのか、ガラスには若干の痕が残るだけだった。しかし緊迫するユーコの声が、余裕が無いことを示した。

「このままじゃ、破られます!」

 その時、出入口方向から大きな声が響いた。

『こっち来て! 早く!』

 そのスピーカー越しの声の主を俺は覚えていた。イングラム一号機のパイロットである、若い女性だ。地下に響き渡った彼女の指示に従い、俺はアクセルを踏み込んで出入口へと発進する。急加速にもデストロイアは耐え抜き、鋭い爪は窓枠に引っ掛かって頑として動かない。

 さしてブレーキも踏まず、駐車場の角を曲がる。デストロイアの重量のせいでかなり横に滑り、曲がり切れず壁に接触した。

「すまん!」

「平気です!」

 地下から地上へ抜ける坂道が正面に見えた。デストロイアが天井に頭でもぶつければと思っていたが、車高と体高を鑑みてどうやらそれは叶いそうになかった。となれば期待するのは脱出後の一号機の対応である。

『全速力ー!』

 ゆえに彼女の言葉を信じ、アクセルを踏みぬいた。加速に体が圧され、腕が強張る。ヒビが入っている左足も緊張していたが、もはや痛みは感じていなかった。

 自動精算機のゲートをへし折り、坂道に差し掛かって車体が傾く。片膝を突いた体勢のイングラムが視界の端に一瞬映る。同時に、前方の少し高い位置にロープのようなものが張られているのも見えた。

 その下を潜った瞬間、車体に食い込んでいた爪に大きな力が掛かり、一瞬の浮遊感を覚えたが、すぐに着地して走り抜ける。

「あ、やった!」

 ユーコの喜色溢れる声を合図にブレーキを踏み、ハンドルを切って横滑りしながら道路上で停止する。そこは病院の側面にある出入り口だった。一号機を見ると、彼女はワイヤーをピンと張って待ち構えていたらしい。デストロイアの首がそれに深く食い込み、千切れかかってもがいていた。

 一号機はワイヤーを左手で引いたまま、右下腿から右手でリボルバーを取り出し、ゆっくりと照準を合わせる。わずかな間を置いて引かれた引き金で、デストロイアの体は爆散した。

 一号機は立ち上がり、こちらを見下ろした。

『早く非難して! なるべく遠くに!』

 窓を開けながら叫ぶ。

「ありがとう!」

「ありがとうございましたー!」

 ユーコも届かないながらに感謝を叫んでいたが、車が連動して()()()ものだから、まるで暴走族のような謝意になってしまった。

 急いでその場を離脱しようとハンドルを握り直した時、上方で窓ガラスの割れる音がする。思わず見ると、デストロイアが病院上階から一号機に降りかかっているところだった。

『出たぁ~!』

 嫌悪感丸出しの彼女の声に心配になるが、イングラムは素早くデストロイアを両手で受け止めた。

『だ、大丈夫だから、早く!』

 これ以上留まっても邪魔になるだけだと、アクセルを強く踏みその場から避難する。サイドミラーで覗き見ると、彼女がデストロイアを振り払って警棒を抜き出すところだった。

「ほんとに大丈夫ですかね……」

「信じよう。大丈夫だよ、あの人らなら」

 彼ら第二小隊について何を知っているわけでもないが、日ごろ取り沙汰されている騒動を見る限りの印象としては、“とにかく元気な、あっかるい人びと”だ。揶揄もされるが、何と言うか、バイタリティはひしひしと感じる。どんな環境でも、平気で生き延びていそうな……

 窓を閉めようとしてふと見上げると、窓枠の上辺あたりにまだ引っ掛かっているデストロイアの爪を見つけ、ぐいと引っ張って道路上に投げ捨てた。

 嫌悪感から思わず捨ててしまったが、撮影しておけばよかったなと後で少し後悔した。

 




今回の選択肢

このまま車内で息を潜め続けるか、一か八か発進するか。
①車内で息を潜める→黄色いデッドゾーンを躱すアクション。見つかると②に。
②発進する→本編通り。映画と同じような展開に。
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