巨影を知らない都市 作:ギガンティック芦沢博士
イングラム二号機、陸自のヘルダイバーによって難を逃れた主人公は、脱出のため地下駐車場へと向かう。
しかしそこにもデストロイアは侵入しており、紙一重で躱しながら地上へ向け車を駆る。
デストロイアをルーフに乗せたまま出口から飛び出すと、待ち受けていたイングラム一号機のワイヤートラップによって、デストロイアは息絶える。
しかしデストロイアの残党とレイバーの戦いはまだ終わっていない。
主人公はいち早く戦場から逃れた。
ユーコの変身したキャンピングカーの中で目覚め、ぐっと体を伸ばす。それと同時に体に走った痛みに脳が活性化される。
「おはようございます」
「いつつ、おはようユーコ。どうだ、巨人とかデストロイアとか」
「影も形も。たまに車が通りすぎるだけです」
「そうか。まあ結構走ったからな」
病院脱出後もずっと走り続け、安全を確信できたところで仮眠をとったのだ。そうでなくては困る。
戸を開け、周囲を見やる。ここに着いた時には真夜中だったので気づけなかったが、朝日に煌めく水平線が防風林の向こうから覗いている。今いる高台から見渡す風景は実に気持ちがいいもので、夜明けの清涼な空気に混じる潮の匂いを嗅ぎながら、ゆっくり深呼吸する。
「はあ、生きてるなぁ」
「ええ、生きてます。本当によかったです」
「最近死にかけるようなことばっかりだからな……こんな時間こそ、どこか感動的だ」
「まあ、半分は自分から危険に突っ込んでるんですけどね!」
「……ごめんって」
この地球外生命体、だんだんプレッシャーのかけ方に鋭さが出てきた気がする。それが心配からくるものだからありがたいけど、このまま高度な皮肉なんか覚えられたらメンタルが持たない。
「けどほら、そのおかげでいい写真が……あ、叔父さん」
自らの言葉でようやく思い出した叔父の安否確認のため、壁に手をつきながら携帯まで移動する。テーブルに放り投げていたそれは、案の定と言うか、不在着信を示すランプが点灯していた。
「あー、やっちゃったな」
「早くご連絡さしあげないと」
「……メールじゃ駄目かな」
「ダメです!」
母のように叱責するユーコに圧される形で、嫌な予感を覚えながら電話をかける。3コール目の中ほどで怒鳴り声が鼓膜を揺らした。
『遅え!』
「もう少し甥の心配をしたらどうだい」
気付けなかった俺にも非はあるかもしれないが、第一声がこれでは……
『まだまだやってもらうことがあるんだ。こんなところで死なないだろ』
「巨影に聞いてくれ。俺の生殺与奪は奴らが握ってる」
『いい言葉だな。巨影を追うに相応しいぜ』
「どうも。で、そっちはどうしたの。無事に逃げられた?」
『ああ。ついでに騒ぎにかこつけて早期退院してやった』
「いや何やってんの」
叔父の滅茶苦茶ぶりに嘆息する。
『そのおかげでデストロイアとパトレイバー、あと空挺のヘルダイバーだったか。奴らの大迫力の戦闘が隠し撮りできたんだ。そう目くじら立てるな』
「いけしゃあしゃあと……もうサイトに上げた?」
「カメさん……」
ユーコが明らかに呆れているが、仕方ないだろう。逃げるのに必死であまり見られなかったんだから。
「しかし、よく動けたね。重症だったんでしょ?」
『ああ。病院抜けてからは同志と合流して、そいつに手伝わせてる。いてっ、傷に触るな!』
「いい気味だな」
傲慢な物言いに同志が反撃したらしい。もっとやるべきだ。
『まあそんなわけで、今後はこいつの拠点から指示を出す。なかなかすげえ設備だぜ。各所から情報が集まってきやがる』
「はあ、凄い人もいたもんだな」
同志の規模や主要メンバーはいくらか把握していたが、まだまだ隠れた人材がいるらしい。巨影の名の下に叔父が作り上げたコミュニティの、底知れなさを感じる。
「あ、そうだ。叔父さんのカメラ預かってるよ」
『ん、ああ、カメラ! なんだ、火事場泥棒ってか?』
冗談めかした口調に笑って返す。
「ああ、給金代わりに頂戴した。……実際のとこ珍しいじゃないか、あんたがカメラ置いてくなんて」
『仕方ねえだろ。病院中パニックの上、こちとら怪我人だ。身一つでやっとだよ』
まあそうか、と頷く。
『いいさ、預けといてやる。そのかわり撮れ。バシバシ撮りまくれ』
「言われなくても」
怪我の功名というやつだ。まあこの場合、より酷い怪我をしているのは叔父なのだが。
『よし、早速だが使ってもらうぜ。気になる情報があってな、今どこにいる?』
叔父に届いた情報によれば、ほど近い港町において金色のUFOが目撃された、らしい。
スポーツカーを運転しながら、快晴の空を見上げる。
「UFOねぇ……」
正直言って眉唾物というか。巨影なんていう非化学の塊を追っていながら吐く感想ではないが……
「信じてないんですか?」
「そりゃあ……いや、信じるより他ないか。少なくとも俺は」
「私は信じてますよ。というか何度か見ましたし」
「今度じっくり聞かせてくれ。ほんとに、絶対」
そういえば身近にいたな、地球外生命体。彼女の文化に馴染む速度が尋常じゃなかったから意識から外れていた。
くねる山道を軽快に駆け抜け、下りに差し掛かると、眼下には件の港町が広がった。それなりに発展した街並みで、港湾には大型の貨物船が停泊している。道路脇の駐車スペースで降車し、ボンネットに座って、あまりに平穏なその町を見下ろす。
「UFO。ははっ、どこに?」
小鳥のさえずりを聞きながら金色のUFOを探す自分があまりに馬鹿らしくなって、笑いながらボンネットに転がる。日光による熱が背中をじんわりと焼く。
「それらしい気配も無いですねぇ。情報が間違ってたんでしょうか」
「巨影が出現する前はずっとこんなもんだったよ。何度叔父さんと無駄なドライブに出かけたか」
往きはイキイキ、帰りはキリキリしているものだから、車内の空気が悪くて仕方なかった。今思えばあれも結構楽しかったな。
などと空を見上げながらぼんやり思い返していると、下り車線を猛スピードで駆け抜けていく車が一台。車高が低く、クラシックな車体が山道を攻めている違和感に目を瞬かせる。
「変な奴がいるなあ、あんな車で」
クラシカル、という点ではユーコの変身するスポーツタイプもそうだが、峠を攻めるタイプの車でもないだろうに。
そう思っていると、突然大きな影が俺たちを飲み込み、陽光を遮断する。それは一瞬のことだったが、あまりのことに顔を跳ね上げると、そこに浮かんでいたのは間違いなく……
「え、いるの?」
金色のUFOそのものだった。しかも一機だけではない。
「カ、カメさん! これ、巨影です!」
「なに!?」
総計四機のUFO――改め巨影は、町の方へと飛んでいく。
「追うぞユーコ!」
「はい!」
慌てて飛び乗り、発車しながらシートベルトを締める。
前方を確認しながらも、ゆったりと浮遊する巨影たちを横目に見る。
「あれはキングジョー、堅牢な体と強靭な腕力を持つロボットです」
「腕力? え、なにか、じゃああれから合体したりするのか」
「というより今が分離状態です。ここから合体して人型になります」
「見てぇー!」
俺の中の九歳児が暴れ出す。合体ロボ。この響きの何とロマン溢れることか。
「撮影だ! ユーコ、道なりに運転できるか。ゆっくりでいい」
「わ、分かりました。やってみます」
「花壇に突っ込まないでくれよ?」
「もう!」
彼女が病院まで運転してくれた際に犯したミスを弄る。これで緊張がほぐれてくれるといいが。
カメラを構えシャッターを切る。陽光に輝く金色のボディにズームすると、さすがの高性能で、これまで使ったどのカメラよりも鮮明にこれを捉えた。
「しかし、これが人型に?」
四機はそれぞれ形が異なり、共通点と言えばアンテナが生えていることくらいだ。一機はまともにUFOらしい形だが、他はどれも――程度の違いはあれ――奇抜で、合体し人型になる様がうまく思い描けない。
特に中央部分が空洞になっているデルタ型のUFOはかなり斬新なスタイルだ。よくよく観れば、手を合わせ合掌しているように見えなくもない。
「あれが腕あたりかな……ん?」
そのデルタ型UFOだけがなぜか停止し、他の三機が町へ降りる中、こちらへと引き返してきた。接近する巨大な影に体が強張る。
「なんだ、どういうつもりだ」
「気をつけてください、友好的とも限りません……」
「ああ、そんなのばっかりだよな」
散々命の危機に瀕してきたのだ、警戒心を抱かずにいられようものか。カメラを下ろし再びハンドルを握る。
果たしてそれは正解だった。前方に現れた円形のデッドゾーンに反応し、急ハンドルでそれを躱す。ほぼ同時に巨影から稲妻のような光線が発射され、車体斜め後方の道路に直撃し、コンクリートを爆ぜさせた。
「くそっ、やっぱりか!」
愚痴を零しながらカーブにむけ減速を始めると、そのカーブの中ほどにもデッドゾーンが出現した。一旦停止するか、とブレーキに足をかけた瞬間、後方からデッドゾーンの壁が迫っていることをバックミラー越しに認識する。
「止まったら死ぬってわけかい!」
アクセルを踏んだままカーブへと差し掛かり、大きくハンドルを切る。
「曲げますよぉー!」
ユーコからの働きかけによって、テールがスライドしてドリフトターンになり、タイヤが声高に鳴く。
「アクセル!」
ユーコの声に従いアクセルを踏み込み、加速しながらカーブを抜ける。それと同時に後方で道路が爆ぜた。
「って、おい!」
これまで車一台通っていなかったというのに、ここで先ほどのクラシックカーに追いついてしまった。前方を塞がれるうえ、彼らを巻き込んでしまうかもしれない。
せっつくようにクラクションを鳴らす。それと同時にデッドゾーンが出現したが、それはこれまでより遥か前方に現れ、俺たちを対象とした攻撃でないことは明らかだった。つまりは前方を走る彼らこそが次の標的だった。
クラクションに拳を叩きつけ、長く長く鳴らす。
「おい、避けろ!」
そんな声が届くはずもなく、一定の速度で彼は走り続ける。このままでは直撃だ。
「ユーコ、加速だ!」
「えっ、ぶつかっちゃいます!」
「そうだ! 思いっきりカマ掘ってやれ!」
「か、かま? はい!」
勢いで下品な表現を放ってしまったが、従ってくれた彼女が車を急加速させる。首に負担がかかり、シートに背中が圧し付けられる。それでも真っ直ぐ迫り続け、彼我のバンパー同士を激しく衝突させた。
後方からの突き上げを食らったクラシックカーは車体一台分加速し、俺はハンドルを切りながらブレーキを踏む。
彼がデッドゾーンを抜けた瞬間、その後輪付近で路面が爆ぜ、クラシックカーは衝撃で弾き飛ばされ横転した。火花を散らしながらも慣性に乗って進み、道路脇のガードレールにルーフが擦れ、徐々に勢いが落ちていく。
そして奇跡的に元の姿勢に戻り停車したが、無数の傷と破損だらけの姿には見る影もない。
俺は急いで車を寄せ、中の様子を窺う。運転席と後部座席に一人ずつ、二人の男が血を流してぐったりと項垂れていた。
しかし無事を確認している暇は無い。車を降り、後方から迫りくるデッドゾーンを睨みつつ、ATフィールドの準備をする。一発だけでもキングジョーの光線を防げれば可能性も見えてくるが、これは賭けだった。
ぐっと腰を落とし、金色の飛翔体を見上げる。車のヘッドライトのように光る部分が、一際眩く光った。
その時、視界の外から飛来した巨大な刃が、硬質な音を上げてキングジョーに衝突した。弾き飛ばされたキングジョーはそのままフワリと上昇し、先行したパーツを追うように港町へと向かっていく。
怪我をした左足に、軽い地響きが伝播する。振り返ると、木々の向こうに巨大な赤い影が立ち上がるところだった。ユーコが喜色を浮かべ叫ぶ。
「ウルトラ、セブン!」
「セブン? セブン……セブン! そうだ、知ってるぞ!」
五年前にも現れたウルトラの戦士の一人。真っ赤な体、西洋の鎧を彷彿とさせる肩のプロテクターと、頭部のスラッガー。
輝く瞳が俺を見据える。大きな安堵を持って手を振ると彼は頷き、勢いをつけて飛び立っていく。その先には町へと迫るキングジョーがいる。
彼が頭上を通過すると、その勇壮さを乗せた風が吹き抜け、木々を揺らした。
今回の選択肢
「おい、避けろ!」
そんな声が届くはずもなく ~ このままでは直撃だ。
①加速だ!→本編通り
②減速だ!→見捨てる。この後難易度が上がる
③後輪付近に当てろ!→スピンさせる。彼らは吐く